［　囁かれた言葉の真贋の見分けがつくような
　　そんな聡明さは持ち合わせていない。

　　彼がどうして抱きしめてくれるのかも。



　　　　　　　］
　

──────


［　用意した水を飲んでもらえたのを見れば
　　少しだけ、ほっとする。



　　お酒は頼みたいけれど、彼に喜んでほしいけれど
　　でも、彼の身体を考えると…と
　　矛盾したことを考えてしまうくらいに、
　　わたしは王子様が好きで、　］
　　

［　予想外の言葉だった。
　　
　　そう思っていなければ、きっと

　　“普通の愛”を探していたはずだから。
　　店に通ったりなんてしてなかったはずだから。

　　
　　

　　ケーキを食べたいと言われたら持ってくるつもりで
　　一度離れようとして、手渡されたそれを見て
　　目を丸くした。家の鍵が、私の手の中に。　］
　　

［　手作りのショートケーキと、飲み物を用意して。
　　二人きりのお祝いを。

　　拒むなんて考えなかった。
　　

　　引っ越しってことだよね、と
　　花が咲いたように笑って、早く準備しないと
　　なんて呟けば、眠気なんてどこかへ去っていた。　］*
　　

［　麻央くん、って
　　何度も呼んで、幾度も愛を伝えて、
　　“麻央くん”から言葉が返ってくる。


　　麻央くんが嘘なんてつくはずない。
　　わたしは、そう信じてるの。


　　

　　

──────


［　わたしが惹かれているのは
　　結局、わたしをお姫様って言ってくれる麻央くん。



　　どっちも、彼であることに変わりないから。
　　それなのに、知ろうとしないのは

　　　　　　
　　

　　
　

［　貰えなかった分の愛をすべて受け取ろうと
　　彼にぴったり寄り添って。

　　引っ越しの日程はすぐに決まったし
　　そこから先の生活は……幸せだった。

　　
　

　　　　　　え、なんで……？


［　来なくていいと、その一言があった時、
　　私はきっと目を丸くしてしまう。

　　私にはまだ、幸せは来ない。　］