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【人】 corposant ロメオ>>50 フィオレ ちらとバックミラー越しに目を合わせた。 滅入った顔にかつての焔火の面影はない。 片眉を上げる。どうしたものか。 「フィーオレ……引き金は引かれたんだ」 「ケジメ付けに来たんだろ。 あんまり落ち込んでちゃ撃った相手に失礼だぞ」 呼ばれた名前に振り返り、ああ、と意図に気付いて。 ドアを開けて後部座席に回れば、 「ほい」と優しく抱き締めようとした。 「泣きたきゃ泣きな〜」 「落ち着くまでこーしてていいから」 ぽんぽん、と背を穏やかに叩いては擦って、 安心させるために、いつもよりも落ち着いた声のトーンで。 自分が焚き付けたものだから、ちとばつが悪いのだ。 #BlackAndWhiteMovie (51) 2023/09/28(Thu) 10:31:31 |
【人】 口に金貨を ルチアーノ>>49 ニーノ 「ヴィトー、……そうか。あいつが」 本当に、嫌な予感が当たってしまった。 だけど今ここに死体はない、周りが騒いでいる様子もない。 つまり彼はまだ生きていて、彼女は殺し損ねたか何かを仕込んだか。 少なくとも――その引き金を引いたのは確かなのだろう。 「……すまんなあ、ニーノ。止められんかった」 また男はあなたに謝った。 悪くもないのに、ただ謝った方が楽になれる気がして。 それは起こるのがわかっていたかのような表情で、諦めたような、それでも物悲しそうなものであった。 「旦那のことは諦めるんだなあ。 あの音で撃たれて騒ぎがないってことは もう何処かに逃げてるか、誰かに匿われてる。 行き場所は分からんが、……俺たちが探すから心配するなあ。 無事なら病院に直ぐ運ばれるだろうよ」 「それよりもなあ、ニーノ。今お前は誰に何を言ってやりたい。 ちゃんと決めんとならんだろ、俺はそれの手助けをしてやる」 「また一人で泣いてお家に引きこもるつもりか?」 #BlackAndWhiteMovie (52) 2023/09/28(Thu) 11:06:12 |
黒眼鏡は、行方を晦ませた。 #AlisonCampanello (a13) 2023/09/28(Thu) 11:39:29 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ>>52 ルチアーノ なぜ貴方が謝るのか分からなかった。 以前のようにその理由を問い質す余裕はなかったけれど。 それでも語り掛けてくれる言葉を拾い上げていれば頭の芯が徐々に冷えていく。 誰に、何を。 言葉にせず胸で繰り返した直後、最後の一言にははっと目を瞠り。 「…………ううん」 幾らか落ち着きを取り戻した表情で、首を横に振った。 目を塞がないと決めた、己を責めて泣くこともまた。 此処はもう何もできない牢の内ではないだろう。 ……誰に、何を。 もう一度、繰り返したところで解は不明瞭だ。 だが、そうなってしまう理由だけは明らかだったから。 [1/2] #BlackAndWhiteMovie (53) 2023/09/28(Thu) 18:09:30 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ>>52 ルチアーノ 「ごめんなさい、情けないところ見せて……」 「……あはは、ルチアーノさんさ。 面倒見いいね、ほんとに。 あの、手助け……というか、また、甘えていい?」 「いま、ひとつだけ」 少し遠くで見慣れたひとが自分を探す姿が見えた。 家からの迎えで、ならどうしても帰らなくてはいけなかった。 その先でないと、どれほど貴方の手を借りたところで解は得られないと分かっている。 だから今は、ただ貴方を見上げて乞う。 強く在りたいと願う。 されど気を抜けば目を塞いでしまいそうになる。 その弱さを見抜いてくれた、貴方にだからこそ。 「───"大丈夫だ"、って言って」 「……今のオレ、全然そんな風に見えなくても。 それだけ、……言ってほしいんだ」 「おまじない、欲しくて」 「……だめかなあ」 [2/2] #BlackAndWhiteMovie (54) 2023/09/28(Thu) 18:11:27 |
【人】 路地の花 フィオレ>>51 ロメオ 「泣かない、泣くわけないわ」 「……ありがとう、ロメオ」 一人だったら、きっとどうにもできなかった。 感情のやり場も、それを発散することも。 大丈夫、これは前を向くための儀式だ。 共犯者と言ってもいい関係のあなたと、背負ったものを分け合うような気持ちで。 これからも、私は間違っていなかったんだと思えるように。 「あなたがいてくれて、よかった」 胸を借りて、優しい声でそうつぶやくのだ。 #BlackAndWhiteMovie (55) 2023/09/28(Thu) 20:24:32 |
【人】 corposant ロメオ>>55 フィオレ 「そ? ならいいや。 美人が泣くのは絵になるが心が痛む……」 またぽろぽろ泣き始めてしまうのかと思いきや、 どうやらそうではないらしかった。 ちゃんとマフィアらしいトコあるな、と再認識をする。 内心ほっとしたと同時に、── 全てに報いあれ と願った。この因果の先がどうなっていくのか、きっと自分の目にはすべて映るわけじゃあ無いんだろうけれど。 「いくらでもいるさ。なんでもするって言ったろ」 そういう約束なのだし、そういう役目だ。 頭に軽いキスを落として、また背中を擦る。 「落ち着いたら帰るか? 今他の皆はどうなってんだろ」 #BlackAndWhiteMovie (56) 2023/09/28(Thu) 20:44:47 |
リヴィオは、笑っている。 (a14) 2023/09/28(Thu) 20:57:19 |
【人】 口に金貨を ルチアーノ日常と言うにはまだ遠いが、それでも多少の落ち着きを取り戻してきた頃。 その日はなんてないただの雨予報の日だった。 灰色の空は水気を含んだ空気を纏って重く沈んだ色をしている。 こつん、わざとらしく靴先で石を蹴った音。 忘れるわけもない。気付いてしまった自分に嫌気がさした。 「Bonsoir.愛しの猫ちゃん。今日も可愛らしいね」 その声の正体が確信へと変わった瞬間、彼の体はただただ固まって、その顔を見る事しかできなくなっていた。 「なんだ、ご機嫌斜めだね。 色男になったのでも言われたかったかい?」 散歩でもするように歩いてきた者の名はファヴィオ・ビアンコ。 十年前にルチアーノの上司となり、五年前に行方不明になった男であった。 #ReFantasma (57) 2023/09/28(Thu) 21:55:13 |
【人】 口に金貨を ルチアーノ「見違えたね、随分大きくなって」 「……だんまりか、本当に拗ねているのかい。 甘えたがりのルーカスは何処に行ってしまったのかな」 「うるさい」 聞きたくない、嫌でもあの日を思い出させるから。 目の前の男に触れられ、愛されて満たされていた日々が蘇ってくる。 失いたくなど無かった、ずっと居なくなって欲しくなかったものだ。 「どうして今更此処にいるんだ」 焦がれて、愛して、忘れられるはずなんてなかった存在が目の前にいる。 男から彼に施していたのは五年間の"教育"だ。 彼が決して逆らわないように、男の前では従順で素直で、常に周りを疑い警戒をし、それこそ男が居なくなれば何もできなくなるような人間になるように。 彼に自覚させることもなく、それが正しいことなのだと教え込ませ続けていた。 それは確かにうまくいっていて、今でさえその事実を彼は自覚することはない。 しかしそれは――未完成に終わっている。 #ReFantasma (58) 2023/09/28(Thu) 21:58:17 |
【人】 口に金貨を ルチアーノ「仕事だよ、言わなかったかな? 『行ってきます』って。期間を言い忘れていたかもね」 「なんだ寂しかったのか、それなら君が怒るのも仕方ない。 私が居なくなってから昇進もしたようだし、 それはうんと働いて一生懸命に頑張ってきたんだろう」 五年前ファヴィオはオルランドに海外のマフィアへ諜報員として潜入する命を受けた。 極秘任務の為に完全に身分を隠さねばならず、同意の下行方不明扱いにされることになる。 そうして雨が降りしきるその日、何も言わずに男は彼の前から姿を消したのだ。 「それでも、漸くひと段落付いた。 時間はかかったけどボスにも許可は貰っていてね。 やっと君を連れて行けるようになったんだ」 ああ本当に自分勝手だな、年寄り共は。 俺のことを一体何だと思っているんだ。 初めからそうだった。 死体の前に血塗れで座る子供の俺を連れて行った今のボスも。 そんなガキを兄弟みたいに連れまわして面倒を見た黒眼鏡も。 十年前がらりと変わったファミリーで孤独を埋めてきた男も。 本当に、俺を何だと思って。 #ReFantasma (59) 2023/09/28(Thu) 21:59:29 |
【人】 口に金貨を ルチアーノ「おいで。また昔みたいにしてあげよう」 男は動きがない彼の目の前まで歩んでいけば、流れるような仕草で頭の上に手を置いて髪を梳く。 腰を抱き寄せつつ首元に見えた赤い痕におや、と呟けばくすくすと楽し気に笑って愛で続けた。 「何も考えなくてよくなるよ。沢山頑張って疲れただろう?」 「ファヴィオ、」 反射で男の名前を呼んでしまえばもう止まらない。 「俺は……」 揺れた声は艶を帯びていて、緩やかにそのシャツに手が伸びて。 縋るように服に皴を作れば、甘く誘うように口端が上げられる。 やっと、見つけた。 #ReFantasma (60) 2023/09/28(Thu) 22:00:59 |
【人】 口に金貨を ルチアーノ>>54 ニーノ 「お節介なところが誰かに似た。 なんだ甘えたいのか、どうした?」 視線を一瞬だけ他所にやって、また顔を見返した。 やはり大人だといっても心配されるような家に居るのだろう。 羨ましいような、そんな自分も想像もつかないというべきか。 「なんだそんなことか。 お安い御用だ、その言葉のチョイスの是非は置いといてな。 いったい誰に貰った教わったのやら」 「重要なのは言葉の意味じゃない、おまじないであることだ」 そう言いながら、貴方の頬に手を当て、こつんと額を合わせる。 「ニーノ、お前は"大丈夫だ"」 余計なことは添えずに男の目は正面から貴方を見つめている。 根拠もない言葉がどんな意味を持って貴方の中に生きるのか。 きっと多くに生かせる人間であると男は信じていた。 それだけに頼り切らないで歩いてくれると祈っていた。 だから、これだけでいい。 #BlackAndWhiteMovie (61) 2023/09/29(Fri) 1:23:25 |
【人】 Il Ritorno di Ulisse ペネロペ>>-142 ダヴィード 表通りからは離れた路地の一角、隠れ家のような入り口。 石の階段を下ると、落ち着いた色の木の扉がそこにある。 下げられたプレートには『OPEN』の文字だけ。 カランカラン 扉を開けばドアベルの音が店内に響く。 暖色の控えめな明かりの下、 カウンター席に着けば、さっそく注文を。 「マスター、シチューとパンを二人分お願いしますっ。 あと、コンクラーベも!」 注文するのは、あなたが以前話していたものと。 比較的沁みにくいだろうノンアルコールカクテルがふたりぶん。 具沢山のシチューと、ライ麦100%の食事パン。 注文したものがカウンターに並べば、 猫被りは休日の一従業員の顔をして表情を綻ばせた。 「どうですか?美味しそうでしょう! マスターの作るシチュー、 私も一度食べてみたかったんですっ」 #バー:アマラント (62) 2023/09/29(Fri) 1:27:58 |
リヴィオは、まだ、笑っている。 (a15) 2023/09/29(Fri) 2:32:39 |
【人】 Commedia ダヴィード>>62 ペネロペ 一人であれば少し気後れしそうな隠れ家だ。一緒に来てくれる先輩がいてよかった。 ……いや、自分達は隠れ家から歩いてきたのだから正しくは隠れ家「風」か。 とりとめのないことを思うし、いくらかは口から出てきたかもしれない。 促されるままに着席するが貴方の頼んでいるカクテルが何なのかもわからない。 大人しく椅子に座って店内を見回しているうちに提供された一皿は、一日以上何も食べていない人間にとって魅力的すぎた。 「本当に……めちゃくちゃ美味しそうですね。 え、これ、ねえもう食べていいですか?」 なので、我慢ができるはずもなく。 煮込まれても素材の食感を失わず、シチューの味をしっかり吸い込んだ具材たち。 ほどよくあたためられたパンを浸せば、しっとりと口の中の傷に障らない美味しさが口の中に広がる。 合間に口にしたカクテルはやさしい甘酸っぱさが特徴で、貴方がこれを選んでくれたのがじんわりと嬉しかった。 #バー:アマラント (63) 2023/09/29(Fri) 7:54:29 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ>>61 ルチアーノ その距離は普段なら恐れを抱くものであったのに。 声を望んだ今はどんなものより安堵を渡してくれた。 たったそれだけでよかった、一人で呟くよりもずっと。 見つめる真っ直ぐな眼差しが差し出してくれるのは、勇気と信頼。 それがいつかの夜と重なって喉奥が詰まる心地がして。 「……うん」 貴方の手に指先を重ねて、返す。 「オレは、"大丈夫"」 そうしてようやく、揺らめいていた水面が静寂を得た。 おまじないが無くても立てる強さが在れば本当はよかった。 だけど今はそれは叶わないから、あなたの手を借りさせて。 それでもいつかの先には自分がだれかに、それを与えられる人になれるように。 [1/2] #BlackAndWhiteMovie (64) 2023/09/29(Fri) 9:28:31 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ>>61 >>64 ルチアーノ 続いた沈黙は二呼吸分。 直に貴方の指先を離した男は、一歩後退ってやっと笑えた。 「……へへ。 ありがとう、ルチアーノさん」 「すっごく助かった、どうにかなっちゃいそうだったから。 オレさ、ちゃんと答えを見つけて……言いたいことを伝えられるようになるから」 姿に気づいてこちらに駆け寄ってくるのは年嵩の女性だ。 "坊ちゃん"と呼ぶ声にひらりと左手を振って、最後に貴方へと向き直る。 「──おまじない、大事にする!」 「今度はもっと落ち着いたところで話そうね。 ……ヴィトーさんのこと、よろしくおねがいします」 もう一度だけ『ありがとう』を繰り返せば、じゃあとそのまま女性の元へと歩いて行く。 親し気に彼女へと声を掛けた男の姿は道脇に止められていた車の助手席の中へと消えて、車体もまた遠ざかっていくことだろう。 すれば今度こそ残るのは人々の賑やかな声と、時折宙を舞う鮮やかなリボンと花だけ。 其処に在った凶行など誰も知らないまま、晴天の元を白い鳩が一羽横切って行った。 [2/2] #BlackAndWhiteMovie (65) 2023/09/29(Fri) 9:30:31 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ「──坊ちゃん。 ……旦那さまが夜、お帰りの後に話があると」 窓の外で流れ行く景色を見ている。 先程の光景は未だ瞼の裏に張り付いて離れはしなかったけれど。 心は、彼のお陰で幾分か落ち着きを取り戻している。 「……うん」 大丈夫……大丈夫だ。 沈黙が長く続いた車内で瞼を伏せ続ける。 口をようやく開いたのは信号待ちの時間。 ひとつを尋ねた、『かあさまはもう長くないの』。 声はない、それでも髪を優しく撫でる指先を感じた。 薄々勘付いていた現実の答えだ。 ならばこれは相応な時で、これ以上にない機なのだろう。 不思議と悲しさはなかった。 それよりも安堵が勝る。 その事実こそが何よりも苦しかった。 #SottoIlSole (66) 2023/09/29(Fri) 9:50:47 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ「夜までは身体を休めてくださいね。 食事も食べられそうになったら、いつでも」 変わらず優しい家政婦に声を掛けて、自室へと足を踏み入れる。 まず目に入ったのは扉近くの数箱の段ボール。 何が入っているのか一瞬思い出せなくて……でも、すぐに思い出した。 置きっぱなしだったからもうダメになってしまっているかもしれない、たくさんの果物。 ……ああ、そうだったな、そういえば。 怒りも憎しみもやはり湧かなかった。 あるとするなら上手く騙してくれたことへの感心と。 最後、取り繕えなかった綻びへの好意だろうか。 やさしいひとだって、今でも思っているんだ。 ……ぽすり。 誘われるように重たい身体を寝台に載せれば、毎夜目を通した本が其処に在った。 手に取り頁を捲れば幼い子供の字が書き綴られている。 うとうとと落ちていく瞼が最後読めたのは幾度も辿った一文。 『 おとなになったら、けいさつかんになる!!! 』#SottoIlSole (67) 2023/09/29(Fri) 9:53:24 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ──名を呼ばれて目を覚ます。 気付けば外はどっぷりと暮れて暗闇に満ちていた。 起こしてくれた家政婦の顔は晴れたものではなくて。 彼が帰ってきたことを知り、立ち上がる。 部屋を出て向かうのは居間。 普段通りの整ったスーツ姿で、その人はソファに腰掛けていた。 右手に巻かれた包帯に視線が寄せられたのは一瞬だけ。 後は、テーブルに載せた一枚の紙を見つめていて。 「……逮捕は誤認に近かったそうだが。 お前がマフィアと関わりを持っていたのは、事実だな」 固い声、感情の読めない色。 目を細め、「はい」とひとつだけを返す。 これほどの騒ぎとなり彼が知らない筈がなく、だから予感は当たったのだ。 「なら、言いたいことは分かるだろう」 この人にとってどうしたって許容できないもの。 そのラインをオレは知らず飛び越えていた。 ならばこれは、当然の帰結だ。 #SottoIlSole (68) 2023/09/29(Fri) 9:55:07 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ (69) 2023/09/29(Fri) 9:56:45 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ……拾い上げる。 訓練で幾度か触ったそれは、最後まで人に放つことは無かった。 先輩に幾度か教わった撃ち方を思い出しながら左手に持つ。 利き手じゃないからブレそうだな。 ねえさんはどんな気持ちで、これを握っていたのだろう。 見つめて、見つめて、見つめて──その銃口を。 目の前の彼へと、向けた。 「────」 感情の良く見えない横顔だった。 何を考えているのか知りたいのに、わからない。 それでも彼が眉を動かすこともなく、静かに瞼を伏せた現実を見て。 「…………あはは」 ……笑えてしまった。 ああもう、ずっとそうなんだ。 いつも、いつも。 #SottoIlSole (70) 2023/09/29(Fri) 9:58:47 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ「……恨んでほしいなら」 「もっと、うまくやれよなぁ」 手は落ちる。 懐へとその重みを仕舞う。 『ねえ、かあさまに会わせてよ』 『それでおしまいにするから』 オレは笑って伝えられただろうか。 返る声はなく、彼は小さく頷いただけだった。 #SottoIlSole (71) 2023/09/29(Fri) 9:59:32 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ寝台の上で眠る、随分とやせ細ったその人の頬を撫でて囁いた、「かあさま」。 薄らと開いた瞳はオレとよく似た色をしていて、この姿を視界に入れた途端にほらまた、花が咲く。 「……ニーノ、ずっといなかったきがするの」 「そんなことない、かあさまが寝てただけ」 嘘を吐くことに胸は痛まず、騙すことに罪悪感も無い。 「ニーノ、手はどうしたの」 「転んで怪我をしただけ、大袈裟だよね」 願うのはどうか、彼女がまた迷い路に落ちてしまいませんように。 「そう……、…………ねえ、ニーノ」 「……うん」 「…………ニーノ」 「なぁに」 ただ名を呼ぶだけで体力を消耗し、また落ちかける瞼に微笑んでみせた。 この世はきっと、残酷でやさしい嘘に満ちている。 信じるには時に辛く、眼を塞ぎたくなる現実が其処にある。 だとしてこの身に手渡された祈りに偽りはなかったんだろう。 ──オレが、この人の幸せを願うように。 閉じ切った瞳、冷えた額へと唇を寄せた。 #SottoIlSole (72) 2023/09/29(Fri) 10:03:01 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ「……良い夢を」 「愛してる」 ──彼女の前で一番の本当を告げ、寝顔をしばらく眺めた後に部屋を出る。 自室へと戻って、着替えて、荷物を纏めて、居間を覗く。 彼の姿はもう其処には無くて、最後の挨拶なんて一言もないまま。 ならばと出て行こうとする背を呼び止めたのは家政婦で、差し出されたのは一枚のカード。 全部がへたくそな人だなと、やっぱり笑ってしまった。 軽くなった身体で夜の道を歩いた。 ひとり、星空を眺めていれば先のない孤独を見たような気がした。 だから『大丈夫』をまた形にする、それだけで不安が溶けていく。 向かう場所はどこにしようか。 ……そうだな、今日はとりあえず。 #SottoIlSole (73) 2023/09/29(Fri) 10:03:59 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ──みゃぁ、白い子猫が鳴いて擦り寄った。 「……んぁ〜なあに。 新入りに挨拶しにきてくれた? そうだよお揃い、住所不定無職の名無し……ああいや、名前はあるな」 「今日はミルクはないぞ〜。 朝になったら買いに行ってもいいけどさ」 深夜、誰も居ない公園の原っぱに寝転んでいたらすりとちいさなぬくもりに擦り寄られる。 頬を左手で撫でてやりながら、あたたかな存在に知らず目が細まった。 「これからどうしようかな。 死人が歩いてちゃだめだよなあ、街は出ないと……」 それでもそうする前にやることはある。 解は見つかった、誰に、何を言いたいのかも。 けれどこの夜が明けるまではここで一人、空を見上げて居よう。 ようやくに訪れた彼の死を悼もう。 言葉を交わしたことのない、知らない誰か。 オレに今日までを与えてくれた、陽だまりの子ども。 #SottoIlSole (74) 2023/09/29(Fri) 10:05:07 |
【人】 夜明の先へ ニーノ「……おやすみ、ニーノ」 上手にらしくあれただろうか。 彼女が望むただ一つの太陽に。 陽は何れ落ちる。 夜は必ず訪れる。 されどまた、輝きは昇るだろうから。 その時は違い無く、己自身の光で誰かを照らせますように。 #SottoIlSole (75) 2023/09/29(Fri) 10:06:07 |
【人】 夜明の先へ ニーノ……ぼんやりと夜空を眺めて過ごした夜。 空が白んできた頃にようやく身体を起こした。 本当に仲間だと思ったのか懐かれてしまった子猫を、……悩んでとりあえず抱えて。 さて、しばらくはどうしようか。 『ニーノ』が死ぬとなればスマートフォンは置いてきてしまった。 手持ちにあるのは幾らかの現金と、少しの着替えと、それから入っている金額を聞いたときに耳を疑って笑ったキャッシュカードだけ。 他にはなんにもない、けれど小さなころよりはずっとましだ。 金があれば大体はなんとかなる、誰かも言ってた。 あまり顔を見られないようにとパーカーのフードを深く被り、ついでに黒いマスクもしておく。 不審者っぽいかな?合ってるからいいか……。 会いたい人にはこの足で。 場所がわからないなら連絡先だけメモをした紙はあるから。 「……行くか」 返事をしてくれるみたいに、子猫が腕の中でまた鳴いたのでひとり笑った。 (76) 2023/09/29(Fri) 10:50:22 |
【人】 路地の花 フィオレ>>56 ロメオ 「涙は安売りしてやらないんだから」 少しの間そうしていれば、調子も戻ってきたのか軽口も飛び出して。 あなたの胸から顔を離せば、笑みを浮かべるくらいの余裕もあるようだった。 「やってやったんだから。私」 「ね、何でもしてくれるなら」 「何か美味しいものでも買って帰りましょ、あの部屋でお疲れ様会したいわ」 みんなも早く落ち着いたらいいんだけどね。 解放されたばかりであれば、なかなかそうもいかないだろうけれど。 #BlackAndWhiteMovie (77) 2023/09/29(Fri) 14:13:14 |
カンターミネは、口にする。「エリー、」その名前を呼ぶ時は、いつだって。 (a16) 2023/09/29(Fri) 17:44:26 |
アリーチェは、両手を顔で覆ってもだもだした。 (a17) 2023/09/29(Fri) 18:14:37 |
【人】 corposant ロメオ>>77 フィオレ 「……ハハ。それでいい。女の涙は宝石と同じだからな」 下を向けば貴女と自然に目が合う。 口の端を吊り上げて、悪戯小僧みたいな笑い方をした。 「Ottimo lavoro!」 「美味しいもの? いーよ、何買う? つかなんでも買うか……せっかくなんだし奢ってやるよ」 運転席に戻れば、そろそろずらかるかとエンジンボタンを押す。端末には見張りの部下達の『問題無し』との報告が入っていた。そちらにも『お疲れさん』と返して、後部座席を振り返る。 「じゃあ行きますかぁ。問題無い?」 #BlackAndWhiteMovie (78) 2023/09/29(Fri) 18:46:00 |
【人】 Il Ritorno di Ulisse ペネロペ>>-172 >>63 ダヴィード 「Buon appetito! 冷めない内が食べ頃ですよっ」 食事前の挨拶をして、シチューをひとさじ。 具材の旨味と甘みがふわりと広がる優しい味。 しっかりとした食事パンの食べごたえも、夕食にちょうどよく。 「Buono! …そういえば、 実は近々マスターに料理を習おうと思うんです」 「最初に習うのは、このシチューで決まりですね」 なんて笑って、シチューをもうひとさじ。 いくらか食べ進めた頃に、カクテルのグラスを傾けた。 「それはそれとして。 来年来たら、今度は一緒にお酒を飲みましょうねっ。 成人祝いはここでさせてもらってもいいのかも」 来年。あなたが18歳になれば、 ノンアルコールでないカクテルで乾杯ができる。 そんなまだ先の未来の約束も勝手にしてしまって。 残暑も過ぎて、外は徐々に涼しくなっていく頃。 バー:アマラントは今日もいつも通り。 穏やかであたたかな時間が過ぎていく。 #バー:アマラント (79) 2023/09/29(Fri) 19:26:18 |
【人】 Commedia ダヴィード>>79 「へえ?ああ、じゃあ。 習ったらおれにも作ってくれませんか、ペネロペさん。 材料代も出すし片付けもしますから」 もくもくと食べ進めながら、貴方のそんな一言に反応した。 もとよりこの男は人の手がかかった料理が大好きで、外食にそこそこの給金を注ぎ込んでいる節がある。 それが貴方のお手製ならばもっと嬉しい。そんな単純さだ。 「いいなあ、それ。来年にもまたこうやって…… 俺に似合うお酒選んでくれますか?」 今回の選んでもらったカクテルは「傷に沁みないもの」という基準が大いに影響しているだろう。 それを抜きにして、18歳の自分に貴方が何を選んでくれるのかが気になった。 その時に貴方は別の顔をしているかもしれないけれど。 貴方のいつも通りに触れた、あたたかい時間。 子どもはなんだか、泣きたいくらいに嬉しかった。 (80) 2023/09/29(Fri) 21:01:15 |