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【人】 旅人 J[互いに流れる血の半分は同じと。 聞かされた夜は娼婦のように兄の上に載ったが その後は自分から求めることはしなかった。 最初の一度で見事に孕んだ女の薄い腹は どんどん大きくなっていった。 期待もされていないだろうが 商いの手伝いなどは自分の頭では無理だ。 料理や掃除や洗濯など マリエルに聞き覚えながら身の回りの世話をした。 そんなことしか、出来ない。] (0) 2022/03/25(Fri) 22:41:28 |
【人】 旅人 J[衣食住に困ったことがなければ 肉親の手で目を潰されたこともない。 自分は、間違いなく果報者だった。 その間も兄は独りで苦労をしていたと思うと 胸がぎゅうぅ……っと締め付けられた。 食卓には故郷の味を良く並べた。 あったかも知れない兄妹としての時間を 取り戻せたなら良いと願いそうするのは 自己満足に過ぎなかっただろうが。] (1) 2022/03/25(Fri) 22:41:53 |
【人】 旅人 J[もし、彼が体調を崩し高熱を出すことがあったなら、 何度も額のタオルを絞って替え、身体の汗を拭き、 はちみつを落とし温めたワインを飲ませた。] ジュダス様……兄さん…… 元気になって下さいまし…… [自分なら人が沢山居ても 心細くて堪らなかっただろうこんな時も 彼は独りで耐えてきたのだと思うと いつもよりは熱いかも知れない手のひらを握り ぽたぽたと涙をこぼした。] いまは……、いまだけは、私が傍におります [拒まれない限り献身した。 そうして時は過ぎ、膨らみ切った腹は小さくなり──…*] (2) 2022/03/25(Fri) 22:43:54 |
【人】 旅人 J[彼が財力で雇った兵士達の士気は充分だ。 そういうのを見つけるのも心を掴むのも上手いのだ。 術で操られる敵の兵士らは彼と自分の瞳の力で打ち消し 方法によってはこちらの味方に取り込むことも叶うだろう。 そうして巨大な勢力となりながら侵攻すれば アンペールの領地を取り戻すばかりか 永き時をかけて拡げてきたあの男の支配の地すべて 奪うことも、きっと叶うだろう。] (3) 2022/03/26(Sat) 10:18:30 |
【人】 旅人 J[達すれば、いよいよ女の存在は無用の長物となる。 それを理解しながら、女は協力を惜しまない。 身を守る為に覚えた剣で他人の生命を散らし 真白な髪も肌も赤黒く染めながら事を成すまでは止まらない。] (4) 2022/03/26(Sat) 10:18:36 |
【人】 旅人 J[貴方の奥さんになりたい願いが聞き入れられた後。 優しくされなくて、よかった。 もしも騙されていたと気付く前のように 優しくされていたなら私は 馬鹿で救いようのない世間知らずの私は 貴方の想いを手に入れたと勘違いしてしまったと思うから。 偽りの愛の言葉もない獣のようなまぐわいで 少しも想われていないと 何度も何度も身体に教えて貰えたのはよかった。 それもWうれしいWことだった。] (5) 2022/03/26(Sat) 10:19:17 |
【人】 旅人 J[大義名分を与えるつとめを果たしたあと 女は子を連れて彼のもとを去る。 妻である誓いを、破ってはいないと思う。 ただ家出をして戻らないだけ。 近くにいて出来るのは家事くらいのもので 代わりはいくらでもいる。 貴方以外の男を知ることも 知ろうとすることもなく貞淑を貫く。 貴方も自由にひとをすきになるべきだわ。 私が、そうさせて貰ったように。 愛する貴方の近くに居させてくれてありがとう。 間違いなく私は。幸せだったから。 貴方にもそうして欲しい。] (6) 2022/03/26(Sat) 10:20:17 |
【人】 旅人 J[大陸は横断した。 外に出てみるのがいいかしら。 船には乗ったことがない。 近しい血の交わりで 苦労をするだろう我が子と 色々な世界を見て回ろう。] (7) 2022/03/26(Sat) 10:22:01 |
【人】 旅人 J[妻という肩書きだけの 何者でもない私は 貴方にとって何者にもなれなかった。 だけど遠く離れても 夫であり兄である貴方の幸せを 命ある限り願っている。**] (8) 2022/03/26(Sat) 10:22:23 |
【人】 商人 J[ 男が現れたのはアンペールの街を出る門だった。 兵士も護衛もなくただひとり、手を後ろで組んで、いつものように佇み、だがその顔に薄笑みはない。] 私を裏切るのですか? [ 本来男が手にするはずだった地も民も取り戻した。だが、男はアンペールの名を名乗ることはなかった。 別に欲しくはなかったのだ。 ただ、自分のものであるなら、誰にも渡したくはなかった、それだけだ。] 私のものを手に出して、ただで済むと? [ 男の眼≠ヘ女と赤子を見ていた。] (9) 2022/03/26(Sat) 19:01:09 |
【人】 商人 J[ 男は女を愛さなかった。 子が生まれてもそれは変わらなかった。 生まれた子さえ愛さなかった。 その身を抱いても愛を囁くことはなかった。 戦いになれば女の力を存分に使ったが、労う言葉ひとつなかった。 ただ、女を他の誰かに触れさせることもなかった。 それだけだった。] (10) 2022/03/26(Sat) 19:01:30 |
【人】 商人 J[ 男は愛というものを知らない。 真似をすることはできても、知らないものは本当のところはやりようがない。 あるのは執着だけ。] 私のものは誰にも渡さない。 [ それは明確な怒りだった。 オークションでブルーノに向けたものと同じだった。]* (11) 2022/03/26(Sat) 19:01:53 |
【人】 旅人 J[門に差し掛かるとき立ち止まり 前に抱える赤子をぎゅっと引き寄せた。 使用人すら起き出す前の時間を狙ったのに 全て筒抜けのように彼はそこに居た。] 裏切ってないわ [困ったように目を細めて、 しかしはっきりと否定した。] (12) 2022/03/26(Sat) 19:51:02 |
【人】 旅人 J[愛しているという言葉が 彼の心を冷やすのならもう使わなかった。 その代わりに用意する温かい食事や 夜寝る時にシーツを肩までかけてあげること 辛そうなとき近くで付き添うこと 身体を乱暴に掴む手を優しく握り返すこと 強く吸われる唇を甘く重ねること そんな日々の行動で愛を伝えてきたつもりだ。 妻としての愛。妹としての愛。 一年以上経っても、彼はどちらも受け取らなかった。 受け取り方がわからないようでもあり 知ることを拒んでいるようでもあった。 問題があるとすれば自分なのだろう。 与えるのが自分ではダメなのだ。] (13) 2022/03/26(Sat) 19:52:25 |
【人】 旅人 J私もこの子もこの先ずっと貴方のものです それはどこに居ても変わりません 貴方は……貴方自身が 大切だと思えるひとを見つけるべきだわ 私とこの子が近くにいると邪魔にしかならない 私もこの子も貴方にとって 特別な存在にはなれなかった 力不足で……、……御免、なさい…… [謝罪を伝える声は震えた。 愛を返してくれぬ男への愛は冷めるどころか 月日を重ねるごとに増していた。 彼に愛を教えてくれるひとは必ず居るだろう。 だけどどうして自分はそれになれないのだろう。*] (14) 2022/03/26(Sat) 20:02:51 |
【人】 商人 J[ 男は首を横に振る。] 駄目だ。 私の許しなく出ていくことはならない。 [ 不可視の糸が波を打つように地面を弾けさせる。 男と、そして女を囲うように。] それでも勝手を通すなら ……ここで、殺す。 [ 手にしたものを失うぐらいなら。 この手の中にあるものを奪われるぐらいなら、それをこの世から無くしてしまおう。] (15) 2022/03/26(Sat) 21:29:27 |
【人】 商人 J[ 男は本気だった。 愛を知らず、求めることを知らず、あるのは執着だけの男。] お前は、私に…… 妻と妹と子を殺させるのだな? [ 歪んでいようとも、それこそが男に取っての愛だった。]* (16) 2022/03/26(Sat) 21:29:51 |
【人】 旅人 J[女は決して弱くない。 魔女の力に目覚め元々の俊敏さは増し怪力を得て 実力で降るとすれば其処な男くらいのもの。 赤子と二人生きていくにしても 誰かに侵されることなどない。 だが彼は、出ていくことを許さないと言った。 糸が地面を弾き砂塵が舞いドレスの裾と長い髪が揺れる。] (17) 2022/03/26(Sat) 22:14:39 |
【人】 旅人 J[哀しげに顔を歪める。 殺すと言われたのが辛いのではない。 少しも大切ではないのに近くには置きたい、 そして近くに置けないなら壊す、 その不器用過ぎる選択肢が切なかった。] ……目の届くところにないと不安なの? [彼はまるで初めて手に入れた玩具の 握り方が分からずに壊してしまう子供のようだ。] (18) 2022/03/26(Sat) 22:15:23 |
【人】 旅人 J[女にとっては、どちらも同じことだった。 彼の視界に入らぬ所で生きるのも、ここで死ぬのも。 土地や金や民などよりもっと得て欲しいものを 彼に与えてやれぬ自分に価値はなく 捧げられるのはその機会だけ。] ……いいわ。 [目を閉じて息を深く吸い、吐いて。 また目を開ければ首を縦に振った。 即決できなかったのは母としての自分がいたから。] (19) 2022/03/26(Sat) 22:15:52 |
【人】 商人 J[ 男と女が本気で戦えば、勝つのは女だっただろう。 男が勝つには一瞬で両目を潰すしかなく、力を増した女に対してそれは無理な話であった。女が本気を出せればの話だが。] ……お前もか…… [ 不可視だった鋼糸が地面に落ちる。] 好きにしろ。 [ 男は女の横を通り過ぎ去る。] (21) 2022/03/26(Sat) 22:52:20 |
【人】 旅人 J[彼の母が彼にしたのと 同じことをしろと言うのは酷だっただろうか。 無防備に両目が潰されるのを待ったが 覚悟したものは訪れなかった。] ………………。 [彼が通り過ぎていけば 子が泣き出し、よしよしとあやした。] (23) 2022/03/26(Sat) 23:26:29 |
【人】 旅人 J[去る彼に言われた言葉を思い出す。 貴方を捨てていない。 裏切っていない。 この先も裏切ることはない。 彼に愛されていない妻は操と 彼に愛されていない子を守り続ける。 互いの愛の形が異なり過ぎて 受容しあえなかったように 裏切りの形も違って理解し合えないのだろう。 半分は同じ血が流れてるのにね。] (24) 2022/03/26(Sat) 23:26:49 |
【人】 旅人 J[風が吹く。 真白な髪が揺れる。 男と逆方向に歩き出し、距離は離れていくばかり。 引き留めることが愛だった男。 離れることが愛の女。 もう、逢うことは────────…。*] (25) 2022/03/26(Sat) 23:27:31 |
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