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【人】 子天狗 茅[茅は元来、取り立てて特別なこともない、どこにでもいるような、ありきたりの存在だ どこにいたって目立ちもしないが忌避もされないような けれど寂しがり屋で、誰かと共にありたいと言うのは意識していなくても根源的な願望として持っている だから、情をかければ、大切にすれば、同じだけの、いやそれ以上の情を返したものだろう 利用せずとも茅は、きっとお嬢さんの身代わりを買って出たし、天狗さまの抱えた寂しさに気づけば共にあることを選んだかもしれない けれど、全てはたらればだ。 実際は、そうはならなかった。 だから、状況次第では守護神たり得た素質があっても、茅の行き着く末は………] (12) 2021/06/29(Tue) 21:49:25 |
【人】 子天狗 茅 ぅ、 [気づけば身を清められていた。 その気になれば子天狗は、その妖力で自身を清めることくらい、造作もない けれどこの子天狗、天狗さまに甘やかされ、世話されることにすっかり味を占めてしまいそうだった。 今度はきっと、俺が天狗さまの身を清めてあげよう。 目覚めて早々、両腕を差し伸ばし、天狗さまに口付けを強請る。 愛されている、愛しまれている、なんて、実感を得るためだけの、些細な我儘だ。 撫でる掌が好きだって、伝えたら、また撫でてくれるかな。 ぐいぐいと額を押し付けるようにして、甘える。 顔を上げれば視線が出会って、茅はふわと笑った。] (13) 2021/06/29(Tue) 21:49:45 |
【人】 子天狗 茅[子天狗になって、ヒトの営みのほとんどは不要であることを、誰に教えられずとも知った きっと、天狗さまだって、必要ない けれど茅はまだ、その意味に気づかない きっと、この天狗さまの住処のあらゆる設備は究極、“嗜好品”だ ]食事にしろ、入浴にしろ、それらが“娯楽”たり得るのであれば きっと、天狗さまは元々…… けれどまだ、茅はそのことに気づかない 気づけない だからこそ…… 天狗さま、 ………いこう? [無邪気に、何の憂いもなく、 かつてヒトを捨てたであろうひとの過去に思い馳せることもなく、 ただただ純粋に、 “共に何かを為す”ことに楽しみを見出して、 強請るように、誘うのだ**] (14) 2021/06/29(Tue) 21:50:32 |
【人】 鬼 紅鉄坊[ 今は他人のようにしか思えない自分を見つけたとして、 何を思うのは鬼には未だ分からない。 それでも、千の想いが喜ばしかった。 この子がいれば何かが悪いように傾くとは、思えなかった。 ──だが。 眉を寄せ、少し遠くを見るように考え込んで。 再び口を開けば、重くなった声で語る。 ] とはいえ、今更その手段など…… [ ありはしないだろうがな、と。 ]* (16) 2021/06/29(Tue) 22:55:22 |
【人】 天狗[住処について、とりあえず身を清めてさっぱりした方がよかろうと風呂に行き まだ動くのもおぼつかない茅の体をきれいに流す。 何しろ 動けなくしたのは天狗だから して、甘えているのがわかれば尚のこと慣れてきて体力が追い付くころには尻に敷かれているかもしれないがそれはそれ そうして、暫しの眠りののちに目を開ければ確かにまだそこに茅がいて>>13 強請られるままに唇を重ね、慈しむように背を撫でる じゃれつく様子は無邪気なままで、それもまた天狗を嬉しくさせるのだ] 普通にいろいろあって驚いたか? 今までの嫁には必要なもんじゃった、ワシには真似事でしかないがの [人の営みそのまま持ち込んだ住処の理由をそう告げる だがしかし、眷属となり同じく必要なくなった茅とあっても、きっと「真似事」を娯楽と楽しむのだ 天狗は知らない、本当の己が望み、何故「ヒトの営みを真似るのか」 ]得られなかった「ヒト」としての…… だが、それは知る必要もないことだ 天狗は、ヒトではないのだから (17) 2021/06/29(Tue) 23:56:24 |
【人】 天狗 ああ、そうじゃな、行くとするか [無邪気に、これからすることが楽しみであるかのように茅が誘う>>14 かつて、天狗が生まれた村を潰したように そうしてヒトを捨てたように 茅もまた、育った村を捨てるのだが、天狗がそれを憂うことはない きっと茅は、それでも純粋なままでいるだろう 無垢で無邪気なものほど、実は恐ろしいのだが] きっと驚くぞ、茅 ほれ、飛んでいくからしっかり掴まっとけ [手を差し出せば、きっと茅は腕の中に納まるだろう 何しろ茅の翼は飛ぶには小さい 育つ可能性は、あるかもしれんが そうして、愉しげに翼を広げ麓の村まで飛んでいく 村では今何が行われているか知らぬが、その村の集落の中心に降り立って] (18) 2021/06/29(Tue) 23:59:09 |
【人】 天狗 此度の件で天狗が礼を言いに来たぞ ほんに、此度の嫁はいい嫁じゃった のう、 茅 よ[腕の中の「嫁」にそう声を掛ける 礼といいながら気配が穏やかではないのを村人はどう思うか] お前からも礼を言うとええ [言いながらそっと茅をおろし、囁くのだ] (19) 2021/06/30(Wed) 0:00:22 |
【人】 鬼の花嫁 千─ それから ─ [今までより少し担うものが増えた暮らしの中、合間を見つけては寺の中のあちこちを探る。 しかし可能性は目に見えて低く、成果は生まれない。 見つかる殆どが千の輿入れが決まってから、或いは暮らし始めた後に運び込まれた真新しい品ばかりだったからだ。 抱えられ、初めて連れて来られた時 人ならざる者らしい場所だと、鬼に人間らしい塒など必要もないのだと感じたものだが 改めて見ると何とも空虚なことだろうか。 かつては眠る為、喰らう為にだけ使われる場所だった。そう思えてならない。] (20) 2021/06/30(Wed) 1:37:11 |
【人】 鬼の花嫁 千[心亡い鬼子を迎えた、心在る鬼。 知恵を授け生き方を教えたのが山の主の如き妖怪ならば、では誰が心を育てたというのだろう。 怨嗟を抱き血肉を欲する同胞の犇めく山で、己が選んだ道とはいえ、贄を送る責務を長年独りで務め。 何処で鬼子とその母親に優しく接し、思い遣るだけの心が生じたというのだろう。 塗り潰された喜ばしい思い出、大切なものの残香がそうしたのなら ──それが千にとっての紅鉄坊との出会いと等しいならば 断片だけでも見つけてやりたいと、千は諦めることなく手足と頭を毎日動かし続けた。] (21) 2021/06/30(Wed) 1:37:28 |
【人】 鬼の花嫁 千[しかし、やはり実りは生まれない。 寂れ朽ちた敷地にも何かの手掛かりなどありはしなかった。 まさか自分を襲った者達を山の暗がりから見つけ出すわけにもいかず、知っていたとして嫌う同胞の為に語るとも思えず。 やはり鬼の語った道理、知る手段はありはしないというのか。 過る思考が現実的と考えても、見つけられずとも変わらず二人で暮らしていけると知っていても、諦められなかった。] (22) 2021/06/30(Wed) 1:38:08 |
【人】 鬼の花嫁 千─ →紅鉄坊の部屋 ─ [翌朝、話があると早々に鬼の元へと訪れた。 言葉少なく、相手の足の間に座るような形で共に文机に向かう。 二人が共に置かれた書物を読むには、多分それが一番楽だ。] 紅鉄様は、これをさとが忘れて行ったと言ったな 俺は……違うと思う きっとわざと置いて行ったんだ あんたが望むのなら、知ることが出来るように [常の饒舌もついに見つけた誇らしさもそこには無い。 緊張が、目的の記述を探す手を鈍らせた。] (23) 2021/06/30(Wed) 1:39:35 |
【人】 鬼の花嫁 千この名前に、覚えがあるんじゃないか [見せたのはその全てではなく、火傷の跡がある流れ者の男が山の僧侶に拾われ、共に贄に選ばれてしまったという記述。 余所者であり村から離れて暮らした男についてはあまり書かれていない、ただ長年寺で過ごしていたらしい僧の名前がそこにはあった。 許可を貰いこの部屋を調べた時、見つけた石版から読み書きが出来ることは知っている。 それでももし難しい様子なら、声に出して読み聞かせるが。**] (24) 2021/06/30(Wed) 1:40:12 |
【人】 鬼 紅鉄坊……これは、 [ やがて、示された文字の連なりは凄惨な過去を綴る>>24 大きな流れの中に点在した、小さな村の陰の歴史。 ある僧侶と流れ者が辿った末路。 理解出来る筈の言葉が、思うように頭に入らない。 やがて千が声とした名を、子供のように追い掛け繰り返し。 ある一瞬で、隻眼を見開き身体を強張らせる。 ] ああ、そうだ。そうだった…… 私は、この僧に命を助けられた……そして、共に殺された [ 夢を見ているような朧な声が、取り戻したものを告げた。 意識の外で震え、小さくなっていく。 それでも抱えた花嫁の耳には、全てが届くだろう。 ] (27) 2021/06/30(Wed) 19:22:26 |
【人】 追憶 紅鉄坊とても寛大で慈しみ深い方だった いつ死んだって構わない、そう思う程絶望していた私を 老いた身で懸命に看病し、励ましてくれた 山の鬼のことを、恐れるのではなく憂い 危険な場所から離れず、彼らが救われることを祈り続けていた 数多の恩を受けたというのに 守れなかった……私はいつでも、無力だった [ 取り戻さなかった──千が見せることを選ばなかった記述の中 そこにいる親代わりのような誰かのことも 僧に宿っていた面影が、曖昧に輪郭を形作る。 湧き上がるのは温かさと、それを奪われた喪失感。 ] (28) 2021/06/30(Wed) 19:22:49 |
【人】 鬼 紅鉄坊よく見つけてくれた、礼を言う これで充分だ……充分過ぎる程、取り戻せたよ 千のお陰で思い出し、受け止めることが出来た [ 悲しみも憎悪も、その声には宿らない。 鬼がかつての生の全てを思い出すことは無かった。 それでも、喪ってしまった大切なものの記憶は蘇った。 心を落ち着ける時間を、千の体温を感じたままに暫く得てから 再び口を開き、切り出そう。 ] (29) 2021/06/30(Wed) 19:23:32 |
【人】 鬼 紅鉄坊千、お前に伝えたいことがある だが、それはとても大きな話で 私たちだけではなく、山にも村にも影響が出てしまう 長い間変わらなかった二つの関係が、大きく揺らぐのだ だから、待っていてほしい 私の心が決まるまで、重い選択をする覚悟が出来るまで [ 触れた手をそのままにしてくれていたのなら、 そっと握り込んでから離し、言葉を続けるだろう。 ] (30) 2021/06/30(Wed) 19:23:55 |
【人】 鬼 紅鉄坊冬が明けたら、きっと告げよう あの花が──梔子が咲く前に …………必ず全て、話すから [ 背中から抱く腕の力は、人間の身には少し痛い程に。 今だけは緩めることが出来そうにない。 ]* (31) 2021/06/30(Wed) 19:24:11 |
【人】 将軍 かんぅ―祝言― [どんどこどーん はあえいさ、えいさあ。よよいのよーい。いや何処の祭りだ。かんぅの心は今燃えに燃えていた。滝の中なので実際に燃える事はできないが、心は今有頂天。そのうち、叫び声をあげて山に飛び出しかねない。なぜそんな事になっているかというと、今日が祝言だからである。 すでに婚姻はすませた身 (かんぅ視点)] (32) 2021/06/30(Wed) 22:05:04 |
【人】 将軍 かんぅ[だが、式はまだだった。 つまりかんぅと婿殿はあれほど愛し愛されあっていたのに事実婚の間柄だったのである。(かんぅ視点)というわけで、結婚式はじめました。纏うは白い花嫁衣裳。 背負うは青龍偃月刀。祝いの席の周りにお集まりの皆様は婿殿使用人たちであり、用意されたお酒を前に 正座する姿は服装が服装じゃなきゃ 様になっただろうに 隣に座るはずの婿殿の魂は抜けてないだろうか。 昨日もかんぅったら頑張り(はっする)すぎちゃったから ――ちなみ、下は履いていない*] (33) 2021/06/30(Wed) 22:05:57 |
【人】 鬼の花嫁 千…………まるで紅鉄様みたいな人だな [全てを漏らすことなく聞き遂げて、小さく息を吐いて口を開く。 死を望む者を立ち直らせる真っ直ぐな心、 己を犠牲にするかのように誰かの為に独り生きる様。 やはり鬼の心はかつて大切だった者達が創り上げたもの。 変えられない過去を嘆いたり、人間であった頃の鬼の無力さを否定するよりも きっと大切だったのだろうその記憶を分かち合うことを、千は選んだ。] 俺は少しばかり埃塗れになっただけだぜ 頑張ったのはあんただ、そうだろう ──なあ、よく戻ってきてくれたな [余所者の妖怪との戦いで怪我をしたあの日に似た台詞。 鬼の身体は今はずっと傍にあった。だが、心は過去を視た。 その上で常のように呼び掛けてくれる鬼のままで在るのが、とても喜ばしかったのだ。] (35) 2021/06/30(Wed) 23:40:35 |
【人】 鬼の花嫁 千……なんだい、随分先の話だなァ そんなことを先に言われると、気になっちまうよ どうせ俺があんたの言うことを拒むわけがないんだから、 そこは安心して、他の問題について考えな [暫くの沈黙の後に、握り、離れてゆく手。切り出された話。 取り戻した記憶が鬼に何かを決意させたのだと千にも分かった。 少しの間を空け首だけが軽く見上げるようにして振り返り、態と茶化すように軽く応え口角を上げる。 本当はその重みを分けてくれと、出来ることは無いのかと言いたかった。 それでも、たかが二十年と少しを生きた人間には背負えぬものだと察して、想いは押し留める。 きっと互いに受け取れない荷と受け取れる荷があるのだ。鬼には握り飯を作るのが難儀だったように。 ならば只、巡る季節の先で来る時を待つだけだろう。] (36) 2021/06/30(Wed) 23:40:50 |
【人】 鬼の花嫁 千なあ旦那様。今日も朝から寒いなァ だからまだ……このままでいようぜ [痛い程の力は、しかし抱えた人の子を潰すものではない。 かつて人であり今は鬼である男の、不安や決意、自分への想いが込められた強さ。 だから千は咎める代わりに、もう少し紅鉄坊の時間を奪うことを選んだのだ。*] (37) 2021/06/30(Wed) 23:41:04 |
【人】 子天狗 茅[差し出された手>>18に収まらんと、寄せられた茅の身体をまた、するすると黒い糸が這い、宵闇に似た色の着物がその身を包み込む。 その意匠はまるで、山伏のようなそれで、ついでとばかりに額を滑った黒が、頭襟を形作った。 足元には、高下駄。 背中には、小さいながらも明らかな、漆黒の翼を可視化させ。 そうして子天狗は、天狗さまの腕の中に収まって笑う。 子天狗には、村の様子が聞こえていた。 だから当然知っていた。 今、村は『村長さんの娘夫婦』の『披露宴』の真っ最中。 だからきっと、『天狗の嫁』の『披露』にも、丁度良い。] ふふ。 とっても驚くと思うよ。 [おめでたい話じゃあないか! なんて。 子天狗は腕を伸ばして、天狗さまの首元に抱き着く。] (38) 2021/07/01(Thu) 0:06:53 |
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