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【人】 ははうさぎ 理恵[満身の力を込めていた拳が、すっかり白く強張っていた。同じようにフウタの手も。 フウタは今までになく酷い顔をしていた。フウタを呼ぶ声はがらがらとかすれた。 彼の手も真っ白に血が通っておらず、出血の痕さえあった。 握力の無い自分が、万力でフウタの手を握り潰し、爪を食い込ませて傷つけていたことに、初めて気づいた。 フウタは、傷める腹を持たずして、共に出産していたのだと知った。] 撫でてやれ……お主の子じゃ。 [まだ感覚も無いだろう手を、小さな命へと導いた。 胸にあたたかいものがこみ上げるのを感じながら、大きな手が我が子に触れるのを、見つめていた。] (55) 2021/01/10(Sun) 9:25:20 |
【人】 ははうさぎ 理恵[いつか、フウタに話す日が来るだろうか。 まだ、ときを知るずっと前に、子供に忘れ形見としての役割を期待していたことを。 自分が、おばあちゃんが、フウタよりもずっと先に死んでしまっても、フウタの孤独を癒してくれる希望として、子供を望んでいたことを。 だけど、胸の中の小さな命が教えてくれた。 この子はそんなことのために産まれたんじゃない。 孤独を癒す力も持っているかもしれないが、そんなものはただのおまけだ。 理恵が、フウタが、そのほかの全ての命がそうであるように、ただ愛されるためだけに産まれてきたのだと。]* (56) 2021/01/10(Sun) 9:25:53 |
【人】 因幡 フウタ[理恵の腹に命が宿っていると知った時から今までの月日より、 病院に着いてからの時間の方がずっと長かった様に感じる。 我が子の顔を見たいという気持ちより、 理恵の苦痛をはやく終わりにしてほしいという気持ちが正直大きかっただろう。 けれどどんな気持ちであったって、 理恵の為にできる事は増えはしない。 分娩台に上がってからも理恵に寄り添って、 もう俺の名を呼ぶ事もなくなってしまった理恵の手を握り、名前を呼び、弱い言葉で励ますだけ。 助産師が「大丈夫ですよ」と俺にも声を掛けてくれるが、理恵がいなくなってしまう想像は常につきまとった。 理恵の身体に次々と起こっている変化は、俺にはわからない。 医師たちが連携を取ったり理恵に教える為に状況を説明して、 俺はそれを聞いて理解をするだけ。 これまで何度も気持ちが通じ合う感覚を経験したのに。 幸せを分かち合ってきたのに、痛みを分けてもらえない事が酷くもどかしい。 理恵の涙が溢れては流れ、溢れては流れ…… このままじゃ干からびてしまう、と間抜けな心配をした時、 ふと、 水が沢山あった、あの竜宮城が脳裏によぎった。 こんな時に何を、と思う間もなく色んな景色を瞼の裏に見て…… あの日の、あの光と見紛う光が差し込む部屋の中で、 聴いた事のない声を耳にした。>>53] (57) 2021/01/11(Mon) 3:09:44 |
【人】 因幡 フウタ[ぼうっとしている間に、 医師たちによって様々な処置が施されたか。 じんわりと泣き声が耳でこだましていて、 「おめでとう」とか言われている声が届かない。 理恵に乗せられた物体を見て…… 理解していくと共に、徐々にこの目が見開かれた] 理恵ッ…… [あぁ、産まれたんだ、本当に。 本当に腹の中にいた、という理恵>>54の気持ちに共感しながら「ありがとう」と涙声で伝えたり、「平気か?平気じゃないよな」とかおろおろ挙動不審になったりした。 理恵の方が痛くて苦しくて大変だったろうに落ち着いて……否、疲れ切っているんだろうけれど、赤ん坊を見つめ、支え、早速乳をやる姿に驚き、感服した。 支える手は白く変色してなお、優しく赤ん坊に添えられている。 理恵が神々しい存在に思えてならなくて、薄らと目を細めた。 自分では気持ちは少し落ち着いたと思っていたが、今鏡に自分の顔を映したら自分で驚くくらい、まともな顔ではなかった様だ。 理恵も突っ込むほど余裕がなかったろうから、 教えてくれる人はいなかっただろうが] (58) 2021/01/11(Mon) 3:10:43 |
【人】 因幡 フウタ[伸ばした手は、理恵の頭に触れる] ありがとう、理恵。 本当に……ありがとう。 [そうしてもう片方の手を、ときの頭に。 手の感覚はなかなか戻って来ない。 けれどお構いなしに、長い間二人の頭を撫でていた。 両の指先に、両掌に彼女たちの体温が戻ってくれば、 両手にいっぱい幸せをもらった気になって、小さく俯いた。 どんな言葉をもってしてもこの気持ちは言い表せられないんじゃないかとも思うが、もし何事かと聞かれれば、「……嬉しいんじゃ」と、小さく震えただろう] (60) 2021/01/11(Mon) 3:12:37 |
【人】 うさぎとかめの子 因幡 とき― 数年後、もしくは夢の未来 ― [見知らぬ人間が突然あらわれた。 おばあちゃんが招き入れた。 明るい髪色はきれいだったけれど、 知らない人は怖い。いや、怖くないけど。 サッと理恵の後ろに隠れる。 でも何だか心許無くて、ササッとフウタの後ろに移動する。 見知らぬ人間が、自分の事を話している。名前を名乗る。 「み?」とおそるおそる聞き返せば、もう一度名乗ってくれる] みおん……? [そう、と見知らぬ人間は頷いた。 「あなたは?」と、みおんが言った] そ、…… そこの りえ と、こっちの ふーた のむすめ。 (61) 2021/01/11(Mon) 3:17:31 |
【人】 うさぎとかめの子 因幡 とき― それからまた数年後、もしくは以下略― [使い古された黒い人力車の横に、一回り小さく、又、お洒落な花の柄が彫ってある人力車が到着した。 運転しているのは、小柄な少女だった] ありがとーございました、 お菓子、ゆっくり見ていくといいぞ。 [駄菓子屋の前に自分より大きな女性と子供を降ろして、 それから、向こうにまた別の女と男の姿を見付けるか] (63) 2021/01/11(Mon) 3:22:51 |
【人】 うさぎとかめの子 因幡 とき二人でおでかけか? 山のふもとまで送ってやるぞ。 ……いや、 やっぱりとーちゃんは重いからやめじゃ。 かーちゃん、乗っていいぞ。 お話しながらのんびり行こう。 [ふふっと笑いながら同じく小柄な母親の手を取って、花の柄に囲まれた座席へ案内した。 花の名は、アルテルナンテラ。 年中ここ、この座席に咲いて、人力車の浮くような独特の乗り心地と、そこから見える特別な景色を共にお客さんに魅せる。 母親に似て小柄ではあったが、 父親に似て力持ちな少女は、 「人力車を操る姿はまるで変身したみたいだ」と、 お客さんから愛されただろう] (64) 2021/01/11(Mon) 3:23:45 |
【人】 因幡 フウタやれやれ…… [本当に置いていかれて肩をすくめる。 と、駄菓子屋の入り口からひょい、と覗く顔が見えた。 やり取りを聞いてはいたものの、ばあちゃんの手伝いをして接客中だったんだろうか。そんな顔をしている] 一緒に行くか? ふもとまでかけっこでもするか? [手招きすれば、目を輝かせてこちらに向かって来た。 よしよし、と頭を撫でれば、頬を染めて嬉しそうだ] 男は男同士で、ってやつじゃな。 [ふっと笑って少年の背を押してから、共に山を駆ける。 ふわりと、深緑色の年季の入ったマフラーが舞った。 山道の途中で、ときの人力車の背中を見付ける。 遠くて、遠ざかっていく理恵の背中を追い掛け走って…… ガシッと車の後方にしがみついたら、「わっ」とときが声を上げて足を止める。ぶーぶーと子供達二人から文句を言われながらも、横から身を乗り出し、理恵を抱き締めた] (65) 2021/01/11(Mon) 3:27:58 |
【人】 因幡 理恵[除夜の鐘を聞いたって煩悩まみれなのは変わらない。 御簾でごろごろしながらの問いかけに、フウタの喉がこくり、と鳴る。>>41 触れ回る熱い手が、いやだったことなど無い。 ワンピースの裾から手を差し入れられて、畳の上に組み敷かれれば、今度、こく、と喉を鳴らしたのはこちら。 ──という時を過ごしたのちに初詣に向かう。 千円以上あるたのもしい亭主とともにあちこちぶらぶらし、昆虫標本みたいに背中に棒がぶっ刺さった亀の像を撫でては「冬眠中の亀は触っちゃいかんのか、なおさらお主冬眠するなよ」と一本線で隠された感情>>43に気づかずに大真面目に釘を刺したり。 フウタの絵馬が見れなくてぶぅと唇を鳴らしたが、せっくすの意味を教わって「つまり、理恵たちが昨日とさっきしたやつもせっくすじゃの?」とそれなりにデカい声で納得した。集める視線が一気に増えた。「あぁ一昨日も」その辺にしておいた。 マフラーを交換してお互いの匂いを嗅ぎ合って、賽銭箱に小銭を投げ込んで、腹の中の存在に気づくか。] (66) 2021/01/11(Mon) 7:21:07 |
【人】 母ちゃん兎 理恵[フウタが何か言ってきたが>>45、腹に気を取られて全く頭に入ってこない。 やがて自分の体に起きた変化に気づいて、フウタに伝える。 やっぱり腹に気を取られて、意味が分からぬ様子のフウタを、しばし置いてきぼりにするような形になってしまったが。それすら少し可笑しくて。 けれど、フウタの瞳から流れる雫>>46に、言葉を失った。 大粒の涙は頬を伝い、日の光を集めて落ちる。 何か言葉を言う前に、中年女性に注意されたか。ちわげんかの意味は分からなかったが、フウタに手を引かれて離れた。 少し離れたところは、夏祭りの日に初めて結ばれた場所とよく似ていた。 じっと見下ろすフウタの手を、ずっと握っていた。 片手はフウタと握ったまま、もう片方の手は腹に当てたまま、フウタの言葉を待つ。 いつもよりもずっと長いこと言葉を探した後に、出てきた言葉>>47に。 ぽろ、と呼応するように涙があふれた。] なら……何で泣いたんじゃ、 おかしな亀じゃのぅ…… [頬を流れる雫が、フウタの冷たい手を伝う。 ぽろぽろと涙をこぼしながら、同時に満面の笑みを浮かべて、ずいぶん長いこと見つめ合っていた。]* (67) 2021/01/11(Mon) 7:22:04 |
【人】 母ちゃん兎 理恵[理恵、と呼ばれて>>60、ぼうっとフウタを見上げる。 痛みで半狂乱になって、ずいぶんとやつあたりして、途中からは返事も認識もできなくなった。それでも一緒に居てずっと手を握ってくれていたのだと、やっと気づく。 腕の中の子は女の子だ。この子もいつか自分と同じような痛みを味わうのだろうか。 そうであれば、フウタのような存在が、隣にいてくれればいいと願った。 大きな手が、理恵の、ときの頭を撫でる。 あぁ、と、そのぬくもりに、すっぽりと収まる小さな頭に、思いを寄せる。 やっと二人のことを伝えられた、と。 彼は気づいていただろうか。 ふたりを撫でるその表情が、どうしようも無いほどに、父親の顔になっていたことに。] (68) 2021/01/11(Mon) 7:38:25 |
【人】 母ちゃん兎 理恵[そうして、花咲く座席に乗りながら、話にも花を咲かせただろう。 こんなに小さな体で、父親譲りの運転をする娘に運ばれていても、 あっという間に自分よりも力持ちになって、すばしこく駆け回るたくましさを見てもなお、目をつむると、今でも小さな赤ん坊の姿が蘇ることを。 寝返りを打っただけで喜んで、立ち上がれば驚いて。 そんな健やかな成長を思い起こせば、いつもフウタも映り込む。 ずっと、一緒に居たから。] (71) 2021/01/11(Mon) 7:58:07 |
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