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【墓】 宵闇 迅 ―とある少年のXX― [学校指定のランドセルなんてものは、 たしか、年齢が二桁に届いた頃にはもう、 背負うのをやめて、部屋の飾りにしてしまっていた気がする。 珍しく仕事を早退したらしい父に連れられて、 病棟の廊下を歩く。どこかの病室から、泣き声が響いていた。 難産だった、と聞いたのは、このときだったか、 それとも父方の祖母からだったか、はっきりしない。 ただ、母子ともに危険な状態、というワードだけが、 鮮明に記憶に残っている。 死にかけて、命を懸けて、こどもを産んだ。 生も死も、頭では理解している年齢だった。 だから、こどもなりに、大変だったんだな、と慮る。 ベッドの上の母は、点滴の管を繋いだまま、 やさしく、赤子に語りかけていた。] (+0) 2020/12/28(Mon) 23:19:51 |
【墓】 宵闇 迅「迅、ほら、妹ちゃんよ」 [招かれるまま、母の腕の中の子を見下ろす。 ドキュメンタリーかドラマかで見た生まれたての赤ちゃんは、 しわしわでまっかっかだったけど、 母に抱かれた妹は、家族と同じ肌の色をしていた。 言われるままに母の腹に触れたり、声をかけたりしたけど。 そこからこれが出てきたのだ、と言われても、 すぐにはピンと来なくて、じっと見下ろす。 両親に促されて、そっと指を伸ばしてみる。 筆箱の中の消しゴムと大差ないくらい小さなてのひらに、 きゅ、と指先を握り込まれて、慌てて引っ込める。 微笑ましげに笑い合う両親とは裏腹に―― そのちいささが、おそろしい、と思った。] (+1) 2020/12/28(Mon) 23:20:21 |
【墓】 宵闇 迅[妹と母が家に帰って来てからも、 この頃は、積極的に世話をするなんて考えはなかった。 触れたら壊れてしまいそうで、 人形じゃなくてニンゲンなんだから、それは即ち死で、 かあさんが目を離している間に、そっと顔を覗き込む。 息をしている。動いている。……生きている。 それだけを、確かめるように眺める毎日だった。 母の薄くなった腹と赤ん坊を見比べては、 あの中にどうやって入っていたのだろう、と不思議に思って、 余計にこわくなった。 ニンゲンの身体の中にニンゲンが居る。 生命の神秘、と今なら一括りにしてしまうそれが、 小学校卒業を目前に控えた身分では、 どうにも得体のしれない何かという印象が拭えなくて。 ひとりで座るようになる頃には、 自分の膝の下までしかないこの子を、 うっかり蹴ろうものなら死なせてしまうのだと、 その事実がひたすらにおそろしかった。] (+2) 2020/12/28(Mon) 23:20:38 |
【墓】 宵闇 迅[赤ちゃん言葉で話しかける父や母を、 どこか冷めた目で見ていたし、 自分から妹になど、ろくに声をかけた記憶もない。 ちょっとしたことですぐ泣く赤ん坊という生き物が、 鬱陶しいとまではいわずとも、 自分の世界に組み込むまでもない存在だったことは確かだ。 部屋にこもって、ヘッドフォンをMDプレイヤーに繋ぐ。 音楽をかければ、一人の世界は簡単に出来上がった。 そうやって一切を遮断して自分を切り離していたように思う] (+3) 2020/12/28(Mon) 23:21:01 |
【墓】 宵闇 迅[その意識が変わったのはいつだっただろう。 自分ひとりで歩き始めた妹は、 父でも母でもなく、よく兄を追いかけるようになった。 なんでもないカーペットの段差で転んで、 まあるく驚きを示した目と、視線が合う。 この頃にもなれば、ああ、泣くな、と 此方も赤ん坊の相手に慣れてきている頃だった。 腹が減っては泣き、眠くても泣き、何もなくても泣く。 ――けれど予想に反して、すっくと立ち上がった妹は、 必死で泣くのをこらえながら、ひしと足にしがみついてきた。 泣いている間に、兄が泣き声を避けて二階にあがることを 学習したのか、はたまた偶然だったのか。 思春期と反抗期とで気が立っている兄に、 そうとは知らずにしがみついて、 にぱ、と笑ったのだ。 目に、大粒の涙を浮かべたままで。] (+4) 2020/12/28(Mon) 23:21:20 |
【墓】 宵闇 迅[転んでも抱き起こしもせず、 近寄りもせず、ただじっと見ていただけの兄が、 そこに居てくれたことが嬉しいのだと言わんばかりに。] (+5) 2020/12/28(Mon) 23:21:51 |
【墓】 宵闇 迅マリ、……真里花、 えらいね。 泣かなかったね。 [そっと、頭を撫でた。 はじめて自分から抱え上げた妹は、ずっしりと重く、 ――とても、あたたかかったことを、覚えている。] (+6) 2020/12/28(Mon) 23:22:09 |
【人】 宵闇 迅あんまり。 ……おまえは成長期ですから。 [食への執着は薄い方であるという自覚がある。 ただ、それはそれとして成人男性として量は入る、と思う。 多分。家ではインスタントだし、外でも一人飯だしで、 比較対象があんまり思いつかないけれど] ……正直得体のしれない場所で飲み食いするのは まったく気が進まねぇんですが、まあ、 ――背に腹は代えられませんからね。 [ぱ。と妹の頬から手を離して、立ち上がる。 宿内を歩き回るためのスリッパのひとつぐらいあるだろう。 ジーンズのケツポケットに、 いくらか持ち合わせもあることだし不自由はすまい*] (66) 2020/12/30(Wed) 18:42:16 |
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