【人】 ]Y『 塔 』 プロセラきっと、 誰より早く 誰より正しく 終わりの兆候を理解していた。 過不足なく満たされたから、崩れただけだ。 なにかが間違いだったからでもなく 何処かが狂ってしまったからでもなく 完成したから、終わっただけ。 ただそれだけのことだった。 (301) 2022/12/12(Mon) 13:56:53 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラつまり、これがあなたとわたしの完成。 これっぽっちも望まないかたち それがわたしとあなたにとっての過不足の無い関係だった。 あとは崩れ落ちるだけ ならば せめて望むかたちで散りたいと願ったわたしを あなたは、如何思っただろう ―――― (302) 2022/12/12(Mon) 13:58:35 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ喜びでも 信頼でも 恐れでも 驚きでも 悲しみでも 嫌悪でも 怒りでも 期待でも なんだってよかった 罪悪感でも 好奇心でも 絶望でも 憤慨でも 悲憤でも 皮肉でも 自尊心でも 運命でなくても あなたにとってのいちばんになれるのなら なんだって。 (303) 2022/12/12(Mon) 13:59:38 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ不安も 感動も 感傷も 恥辱も 憎悪も 悲観も 優越も 不健全も すべてあなただけから与えられたかった 楽観でも 服従でも 畏怖でも 失望でも 後悔でも 軽蔑でも 死さえも あなたが与えてくれるならなんだって 望んで呑み干してみせるから あなたが決してわたしをわすれられないように とびっきりの微笑みを湛えて (304) 2022/12/12(Mon) 14:00:23 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラどうか その魂に刻みつけて あなたの平穏な終わりを幸福な終焉を 祈れなかった醜いわたしを どうか、決して赦さないで わたしだけを愛してと 最期まで素直に縋れなかった 臆病で身勝手なわたしを。 たったそれだけの為に何もかもを 滅茶苦茶にした愚かなわたしを どうか どうか、 わすれないでいて あなただけはおぼえていて わたしがこの咎をわすれてしまっても (305) 2022/12/12(Mon) 14:06:56 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラなんて。 ねぇ神様 願ったって、祈ったって どうせ叶えてはくれないのでしょう? ほんとうはちゃんとわかっていた。 破綻でしかないわたしから解放されることは あなたの愛し子にとって救済でしかないのでしょうから。 或いは 等しくあなたの愛し子であるわたしにとっても これは救済なのでしょうか? だとしたら、ほしくなかった救済なんて。 祈ったって、願ったって、何が在ろうと ねぇ神様、 どうせ叶えてはくれないのでしょう (306) 2022/12/12(Mon) 14:08:02 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ この世に生れ落ちたせいで随分人が死んだのだと思う。 少しくらい申し訳なく思った方が良いのかもしれないけれど 申し訳無い けれど、未だに何も感じない。どうだっていい。 ] (308) 2022/12/12(Mon) 14:12:13 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ―― 洋館・中庭 ―― [ 空を見上げるのが好きだと思われて 天気の良い日はよく外に連れ出された。 なにをするわけでもない。 木陰にその為に設置された椅子に座り込んで ぼんやり空を見上げるだけ。 時々飲食を促されて 排泄に連れて行かれて 風が冷たくなる前に戻される。 死なないように管理されている。 それがこの国の決まりだから。 物心ついたころからずっと眺めていた 煤けた嵌め殺し窓の向こうの うすぼんやりとした空の色は ぼくの世界のただひとつの光だったから 明るいものに引き寄せられる羽虫みたいに 視線を奪われて あの頃よりもずっと澄んだ視界 遮るものの無くなった空を こうして変わらず眺めているのも その頃の習慣が残っているだけだ。 好きか嫌いかなんてわからない。 けれどぼくは空を見るのがすきなんだと周りは言う。 それならそれでべつにいい。なんでもいい。 ] (309) 2022/12/12(Mon) 14:20:28 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ 風の運ぶ草の匂い、肌を擽る温度 何処かで鳴る葉擦れの音と虫か鳥か何かの声 話し声、ひとの気配、笑い声 日陰の向こう側に広がる視界いっぱいの明るい空 ここはいつでも随分と騒がしい。 好きか嫌いかなんてわからない。 これを『騒がしい』だと認識するだけだ。 ] (310) 2022/12/12(Mon) 14:21:22 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ 先王の王弟の第二妃の元に生まれた第一子 それが、最初に与えられ一瞬で剥奪された身分だった。 痣持ちが生まれた事実を隠蔽したいだけならば そのまま殺せばよかった 出産の際に命を落とす赤子なんか珍しくもない。 死産だったことにして。 簡単なことだ 産声を上げたその口を、少し塞ぐだけで良い 殺さずとも何処かへ捨てたって良かった。 それがもし女児だったのなら。 けれど生まれた赤子は男児だった。 証持ちだと言う事実さえ隠蔽出来たのなら 或いは王座にすら手の届く身分たり得る、王子だった。 ] (311) 2022/12/12(Mon) 14:35:36 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ 産声を聞いた人間は皆口を封じられたのだろう。 だからなかなか発覚しなかった。 身代わりに用意されたそれらしい特徴の赤子は それこそ口を塞がれたか。 殆ど同じ時期に死産した赤子の中 似た特徴を持つ子を見つけ出す奇跡を起こすより易い。 王座に近い身分の王子は、 その身に宿る呪わしい咎の痕の為に 王子とは認められず、存在を隠された侭 それでも、 政治の為にと生かされた。 ] (312) 2022/12/12(Mon) 14:39:55 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ 存在してはならない誰も名を呼ぶことを赦されない 王にすらなり得るが今は王子ではない子供は 名前すら持たないまま、閉じ込められた。 王子にはなり得ない子供を王子にするための 実験と治療は定期的に行われた。 寝台の上に抑え付けられて 何度も何度も繰り返し、死なない程度に丁寧に 皮膚を剥ぎ焼鏝を押し付け熱湯を浴びせ薬品で焼け爛れさせ 痣を消すか或いは、消せずとも 傷痕で隠す為の試行錯誤は繰り返された。 身体の端なら切り落とせば済んだのに 背中一面の痣ではそうはいかない。 それでも、それなりに丁重に飼育された。 第二妃が崩御の間際、 王弟に真実を告白するまでは。 ] (313) 2022/12/12(Mon) 14:41:40 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ 切り離す事の出来ない魂に刻まれた咎を持つ子供は その時漸く父である王弟にその存在を知られ そして、そのままもう一度、 死産だったことにされた王子は死産だった王子のまま 痣しか持たない子供は何者でも無いまま なにもかもをすべて隠匿されて、 再び幽閉されることになった。 『皇帝』の痣ならばそこからは改めて 王子として育てられることもあっただろう。 『皇帝』ならば、王の血筋に生まれたとて、 その不幸を嘆かれこそすれど 王家への不信が高まることも無い。 けれどそうではなかったから。 世間ではもう死んだことになっている子供だ ただ隠蔽する為だけなら 今度こそ殺したってよかった筈だ。 それでも生かされた理由なんかきっと 最初と同じ、まだ使い道があったからだろう。 赤子から、少し育った幼子は 先王が受け継ぎ、先王弟は受け継げなかった 王族の中でも尊ばれる インペリアルレッドの瞳をしていたから。 ] (314) 2022/12/12(Mon) 14:48:03 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ なんて。 そんなことぼくはしらない。 ほんとうでもうそでも 当事者であっても なんせまるできょうみがない。 世間はなんとなくそんな話を信じがちだった。 それだけ。 ] (315) 2022/12/12(Mon) 14:48:37 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ ここにくるまでは 高い塔の上、薄暗い部屋のなか 嵌め込みの小さな窓の向こうの空の色を ぼんやり眺めて、息をするだけ それが生活のすべてだった。 それだけでよかった。 餓えることがないだけの食事を与えられ 凍えることもない住処を与えられて いつ居場所を追われかもしれない恐怖もなく 暴言を浴びせられる事も 暴力を振るわれる事もなく 迫害を受ける程関わる人間は存在しなかった。 平和で、平穏だった。 痣を消そうと試みることはぼくを生かすために 必要で安全な命の保証された医療行為で 息さえしていればそれ以外は皆、無関心で これといって虐げられる事もなく とても恵まれた環境で生きて来たと思う。 充分過ぎる程。 ここにはもっとずっと酷い目に遭った子供なんか 幾らでも居る筈なのに。 ] (316) 2022/12/12(Mon) 15:01:03 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ それなのに何故だか不思議と 辛い境遇に置かれていたと思い込まれ あの頃からの変化を未だ大袈裟に持て囃される。 多分そうするのが好きなんだろうとすきにさせている。 どうでもいいから。 洋館に迎え入れられた当初は 痩せ細り足腰は衰え、立ち上がることは愚か 支えなしに座っている事すら儘ならない なにひとつ声を上げず、他人の声にも反応しない、 生きているのが不思議なくらいに生気の抜けた 虚ろな目をした少年だったと何度も聞かされたけれど。 傍目にそう見えたとて実際は 割と恵まれてるし別にどうでもいいとしか思って居なかった。 幸も不幸も他と比べるものではなく 心の持ち様だと説くその口で ぼくを不幸に当て嵌め憐れむ矛盾はそこかしこに存在して 歪な場所だと思うけれど。 言葉を理解させてくれたことと 前より適切な飼育管理が気に入っているから 今日も『騒がしい』を感じながら空を見ている。 ] (317) 2022/12/12(Mon) 15:11:37 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ 出迎えの言葉は一応聞こえていたけれど覚えていない あの頃はそもそも言葉を知らなかったから。 意思疎通も、その概念ごと。 ねぇ君はなんて言ったんだっけ? 思い出せない事だけは少しだけ惜しく憶う。* ] (318) 2022/12/12(Mon) 15:11:59 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ ぼくに関する噂話>>311を 洋館に持ち込んだのは誰だったか。 ある程度理解出来る様になった頃に聞いて 前の方がよかったなと、少しだけ思ってしまった。 ぼくはもう世界中の誰にとっても もう必要が無くなってしまったから 此処にいるのだと理解出来たから。 誰かに必要とされたかった訳でもないけれど 必要と「されなくなった」事実は 落胆……そう、ぼくの心を幾らか『落胆』させた。 ] (466) 2022/12/13(Tue) 1:15:55 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ 『太陽』を迎えに行くことが決まったのはそんな頃だった。 本当は別の誰かが迎えに行く筈だったと思う。 なんせ当時のぼくは誰にとっても、 耳は聞こえているが口が利けない 辛うじて歩く事がやっとの まるっきり世間知らずという認識だった筈だ。 まともな神経なら洋館の外に出そうとは思うまい。 だから勝手に行った。 何故だったかはわからない。 そうしなければいけない気がして。 洋館の敷地内ですらろくに、 自主的な移動をすることすらなかったぼくが、 はじめて洋館を抜け出して ぼくの管理が仕事のひとたちは 少しくらいは探したのかもしれない。 ] (467) 2022/12/13(Tue) 1:16:53 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ 無論自力で辿りつけるはずもなく わりとすぐに保護されて、連れ戻された。 気紛れに散歩をする気になった事を喜ばれて これといって閉じ込められなかったから その日の夜に、もう一度。 翌日の昼には付添いつきで散歩の時間が設けられたので その時間にも、もう一度。 今迄一度だって拒んだことのない そろそろ帰ると促す声を無視してみたけれど 結局連れ戻されて、また明日もう一度、そう思っていた。 元より何を話し掛けられてもあまり反応をしなかったから ぼくに声を掛けているようでいて 頭の上を通り抜けて行く世話役のひとりの話し声が 何処へ行こうとしてるんでしょうね、と微笑ましく笑って もう一人が冗談みたいな声で 『太陽』を迎えに行こうとしているのかしらと 正解を言い当てたから その声に振返って、頷いて見せて。 それで漸くひとの手を借りて迎えに行くことが出来た。 ] (468) 2022/12/13(Tue) 1:17:06 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ 辿り着いた知らない場所に、しらないにんげんが、確か三人。 もしかしたら見物はもう少しいたかもしれない 興味が無かったのでおぼえていない。 何を聞かされずとも彼女だと判ったから 何の説明も無しに少女の手首を掴んで引いて そのまま連れ去ろうとした。 はっきりいって不審者でしかなかっただろう。 けれど見送るふたりのにんげんは引き留めなかったし きっと付添いの誰かがきちんと話をしたことだろう。 振返りもせず強引に引っ張るぼくに >>190少女の声が問いかける。 ] (469) 2022/12/13(Tue) 1:17:20 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ 少しだけ、そう、ぼくにとってはすこしだけのつもりで 考えてみたけれどなにがほんとうか 彼女の望む真実か、ぼくにはわからなかったから ] 『どっちがいい?』 [ 足を止め拘束を解いて、少しだけかんがえてみたつもりで、 けれどきっと彼女が返答を諦めてしまうだけの間を開けて 付添いのにんげんが追い付いてきたころに。 長年声を出さな過ぎたせいか酷くざらついたおとで それでも辛うじて聞き取れただろう言葉で、 いたほうが良いか、否か、短く訊ね返した。 『喋った!?』と、そりゃあもう大いに騒がれた。 そりゃあ必要ならば喋るさ。 けどいままで、誰も、だれひとり、 べつに必要無かっただろう? ] (470) 2022/12/13(Tue) 1:18:00 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ 彼女にはぼくが必要だっただろうか。 必要でなかったとしても 何故だか、ぼくには必要だった気がしたから きみが望んでも、望まなくても、これしか選べなくても きみの意思に関係なく 『太陽』を人々から攫う嵐になろうと 『プロセラ』を名乗ったのは、その頃から。 発音に若干の難があったらしく 多分誰にも意味は通じていないけど きみにとって『塔』ではない者になろうと決めた ぼくの誓いは、ぼくにだけ判って居れば、それでいい。* ] (471) 2022/12/13(Tue) 1:18:24 |
(a69) 2022/12/13(Tue) 1:37:06 |
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