人狼物語 三日月国


149 【R18身内村】LOVE OR ALIVE

情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新

視点:


【人】 雨宮 瀬里

 

 その日はすぐにやってきただろう。
 宮々の家に行く車の中では、
 きっといつもよりも会話は少なかった。

 私ね。
 時折貴方を窺っては
 貴方を好きであることを確かめてた。

 貴方の気持ちがなくなったとしても、
 私の気持ちがなくなったとしても、
 一瞬一瞬のことを、思い出せるように、
 流れる景色の内側に、貴方の存在を確かめてた。

 
(0) 2022/05/26(Thu) 13:58:42

【人】 雨宮 瀬里

 

 私が知らなかったのは
 恋矢が抜かれると、恋心を失うだけではなくて
 貴方が記憶を失う可能性もあるということ

 私も貴方も知らなかったのは
 恋矢が抜かれると、
 その恋矢と繋がっていた相手の恋矢も消滅して
 相手の恋心や、記憶にも影響があるかもしれないこと

 恋をしていた間の私自身が、
 いなくなってしまう可能性もあるということ

 
(1) 2022/05/26(Thu) 13:59:12

【人】 雨宮 瀬里

 

 漠然とわかっていた。
 確かなことは、ひとつだけ。

 恋矢を抜くことで、
 私と貴方の今がなくなってしまうということ。


 
(2) 2022/05/26(Thu) 13:59:41

【人】 雨宮 瀬里

 

   宮々の家に着く。
   私たちを迎えてくれたのは誰だったか。
   貴方の隣で、私は薄紫の翼を揺らす。

   貴方の隣に居られるのは、
   どれくらいの間だったのだろう。

   僅かなひととき。私は貴方と手を繋ぐ。 *

 
(3) 2022/05/26(Thu) 13:59:54

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 もちろん、覚えてるよ。 」


 あの時のふたつの音。
 私たちを結び付けてくれた恋の矢は、
 確かに今もここにあって、
 おかげで、私たちは素敵な恋をすることができた。

 目を閉じれば今でも胸の中で響いている気がした
 澄んだ美しい歌声が。幸せを願って鳴らした指音が。

 
 「 忘れないよ 」


 私にとっての忘れない≠ヘ
 貴方にとってのそれとは重みが違ったけれど
 それでも、きっと、気持ちは同じ。

 
(7) 2022/05/26(Thu) 19:46:15

【人】 雨宮 瀬里

 

 武家屋敷のような平屋建てに、
 まったく驚かなかったかと言えば嘘になるけれど
 それでもなんとか澄ました顔は出来ていただろうか
 
こんな時に、作りものの顔が得意なのが役立つとは


 通された客間で、机を囲んで貴方と向かい合う
 二人きりになったときには、
 あれがお祖父さん?とでも聞いただろうか
 肯定が返ってきたら、優しそうね、とも。

 
 「 治療、怖い?
   ……病気、良くなるといいね 」


 恋天使の矢を除去する治療。
 どんなことをするのだろうか。
 想像すらつかない私は、そんなことしか言えなくて。
 
恋を失うことからは、目を背けた。
 *

 
(8) 2022/05/26(Thu) 19:47:10

【人】 雨宮 瀬里

 

 上手くいったら

 その言葉は、単に貴方の病が治ったら、
 という意味ではないことくらい、私にもわかる。

 何もかもがただの杞憂で終わったら。
 貴方と私が今のままで、在り続けられるなら。

 
 「 うーん、何かな… 」


 何をしたいか、なんて考えたことなかった。
 何処に行きたいか、なんて考えたことがなかった。

 貴方と一緒だったら、どこでもよかった。
 それが当たり前≠セったから。

 ……結果。私は一つの答えにたどり着く。

 
(11) 2022/05/27(Fri) 7:58:13

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 すぐには無理かもしれないけれど
   私ね。蓮司と一緒に暮らしたい。

   週末デートで突然音沙汰なくなって
   貴方の有事に駆けつけられないとか。
   そんなの、もう嫌だもの。 」


 お互いに生活の拠点を持っているから
 すぐに共に暮らすのは難しいかもしれない。
 だけど当たり前≠ェずっと続くように、
 私は、貴方の傍に在りたい。 *

 
(12) 2022/05/27(Fri) 7:58:33

【人】 雨宮 瀬里

 

 それは上手くいったら≠フ話。
 だけど、絶対に訪れないなんて仮定はせずに
 訪れるかもしれない未来を夢見た。

 
 「 うん、約束 」


 もちろん上手くいったって、
 そうするには山ほど課題はあるかもしれないけど
 それでも。夢を見ないよりかは、全然いい。

 
(16) 2022/05/27(Fri) 14:58:08

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 待ってるよ。
   行ってらっしゃい。 」


 あなたの右目を見つめてぎこちなく微笑んで。
 大丈夫だよ、と言うようにひとつ頷いた。

 貴方がそうやって微笑んでくれるなら
 私も、貴方を微笑んで送り出したい。

 貴方に最後に見せる顔は、
 やっぱり笑顔がいい。………なんて。
 そんな言葉が頭を過ぎったら、
 込み上げるものは、あったけれど。

 泣くのは、今じゃない。


 
(17) 2022/05/27(Fri) 14:58:30

【人】 雨宮 瀬里

 


 そうして私を残して扉は、閉じられた。


 
(18) 2022/05/27(Fri) 14:58:42

【人】 雨宮 瀬里

 

 きっとお祖父さんが、
 もしくはお手伝いの人が。

 治療が1日近く掛かることを私に伝えたのは
 それから間もなくのことだったし、
 きっと、私は不自由なく滞在させてもらえたのだろう

 食事も、寝床も、きちんと宛てがわれて
 私はそこで貴方を待つことになる

 
(19) 2022/05/27(Fri) 14:58:57

【人】 雨宮 瀬里

 

 1時間、2時間、
 経過する時間の中で、
 私は常に貴方のことを思い浮かべた。

 まだ、私は貴方のことを愛している。

 そんな言葉を反芻しながら、
涙を流しながら

 恋心を何度も確かめた。

 同時に、恋心を抱いているということは
 まだ、貴方の治療が終わっていないということだ。
 それは、私にもわかること。

 同時に、貴方のことを思い出せるということは
 まだ、貴方の治療が終わっていない可能性があるということ
 それは、私にはわからないこと。


 貴方への恋心を最後に確かに感じたのは、
 私が眠りにつく前のことだった。 *

 
(20) 2022/05/27(Fri) 14:59:50

【人】 雨宮 瀬里

 

 夢を見た。

 とても大切な人と手を繋いでどこかへと歩いている夢。
 顔には陰が掛かっていてそれが誰かはわからない。

 私は、誰かの名前を呼んでいるのに、
 それがどんな音なのかわからない。

 聞こえない。自分の声も、誰かの声も。

 
(25) 2022/05/27(Fri) 20:21:14

【人】 雨宮 瀬里

 

 目を覚ますと、私は知らない場所にいた。
 朝の陽ざしがとても眩しく、暑く。

 季節が夏に移り変わっていることを知る。

 
   知らない場所、というのも語弊があった
   私は確かにそこを知っていた。
   知っているはずなのに、思い出せないのだ。



 
(26) 2022/05/27(Fri) 20:21:34

【人】 雨宮 瀬里

 

 私は私のものであるらしい♀唐開ける

 私のものであることはわかっている
 だけど、そう、何かが違う。
 
 鞄の中を開ければそれは顕著で、
 詰められた服はどれもカジュアルなものばかり
 
 だけどそれも、
 どうしてか私のものであることはわかってる。
 ただ、それを着ていた記憶がないだけだ。

 
(27) 2022/05/27(Fri) 20:21:50

【人】 雨宮 瀬里

 

 恋矢を取り除いた貴方と
 それに伴って恋矢が消滅した私と
 その程度に差があったかどうかは神のみぞ知る話

 少なくとも私には
 あの春から今までの記憶が
 ぼんやりと、朧げにしか残っていなかった
 朧げに、残っていたことは、不幸中の幸いか。


 ……いや、思い出そうと思えば
 思い出せることもある
 
 例えば私が、学校を卒業して弟子入りをしたこと
 そういえば着る服が変わったということ
 そう、私は確かにあれから1年以上の歳月を
 雨宮瀬里として生きてきたのだ。

 季節が夏に移り変わっていたことも、
 次第に納得することは、できた。

 
(28) 2022/05/27(Fri) 20:22:27

【人】 雨宮 瀬里

 

 私がそれを見つけたのは、
 たくさんの違和感を抱えながら
 見知らぬ部屋を見まわしているときだ

 一通の手紙。>>1:L0

 瀬里へ、と書かれたそれを、手に取ると
 私はその封を開く。

 見慣れた文字。
 見知らぬ文字。


 「 瀬里へ 」


 小さな声でそれを呟く。
 誰かの声がそれに重なった気がしたけれどすぐに霧散した

 
(29) 2022/05/27(Fri) 20:22:44

【人】 雨宮 瀬里

 


        


        
宮々


        
蓮司


        


        
お見合い


        
記憶



 手紙に書かれた単語が、
 ただの単語として、意味も成さずに滑り落ちていく

 だけど、ここに書かれたことが本当だとすれば……
 私は、暫くその文字をずっと指で辿っていた。 *

 
(30) 2022/05/27(Fri) 20:23:18

【人】 雨宮 瀬里

 

 扉が3回叩かれる。
 そこに立っていたのは見知らぬ老人だった。
 ほんの少し、身構える。

 人のよさそうな顔つき、白い髪、刻まれた皺
 そして ────── 紅い瞳。


 「 ……あの、えっと。
   ここに来た理由…?
   いえ、覚えていません。 」


 不安げな表情を浮かべながら、
 私はその老人に答える

 紅い瞳が、どうにも心をざわつかせる。

 
(34) 2022/05/28(Sat) 0:40:45

【人】 雨宮 瀬里

 

 答えながら、私は老人にさらに問いかけるだろう
 手に持っていた封筒を見せながら。

 手紙を見せはしないが、
 いわゆるラブレターというやつに近い。
 他人に中身を見せるものでもないだろうから。


 封筒の表面には「瀬里へ」と書かれており、
 裏面には「蓮司」と書かれているはずだ。


 「 手紙は、蓮司、という人からのものでした
   私は、……ちょっと、わからなくて。
  
   あの、ここは、どこなんでしょうか。
   あと、この、宮々、というのは、その… 」


 言葉を紡げない。
 宮々が何を指すのかはわからないし、
 矢継ぎ早に聞いた質問の答えは、
 この目の前の老人が持っている、そんな気がした。

 答えを待つのが正解だ、と。

 
(35) 2022/05/28(Sat) 0:41:22

【人】 雨宮 瀬里

 


 私は、気づかなかった。
 
 その名前を、滞ることなく宮々いえみやと読めたことに。

 かつて冗談でもなんでもなく
 雨宮瀬里という人間は、その名前を初見の時に
 みやみやさん、と呼んだというのに。 *


 
(36) 2022/05/28(Sat) 0:41:51

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 ………手違い 」


 私はただその言葉を繰り返す。
 ちょっとした事故、恋矢をなかったことにする、
 その言葉を頭の中で繰り返した。

 
 「 そう。なんですね。でも、 」


 でも、の言葉の先を紡げない。
 この頭にこびりつくほんの少しの違和感はなんだろう。

 
(40) 2022/05/28(Sat) 10:06:13

【人】 雨宮 瀬里

 

 恋天使のお見合いのことは知っている。
 蓮司という人が手紙に書いていた、
 お見合い、というのはそのことだろう。

   恋天使のお見合いで
   手違いなどが起こるだろうか


 手紙が本当であるならば
 蓮司という人は、私を愛していてくれたらしい
 記憶を喪っても、取り戻したいと思うほどに。

   一番私が引っかかっているのは
   その感情を目にしても、
   何も嫌な気持ちが起こらないということ。
   私が恋に抱いていたはずの忌避感を
   なぜか抱いていないということ

 ── まさに、私は恋をしていたのだろう。
    そしてそれが、嫌な感情でなかったことだけは
    どうしてか、今も思い出せるのだ

 

 
(41) 2022/05/28(Sat) 10:06:42

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 ……あの。
   蓮司さん?に、会うことはできますか 」


 私はまっすぐに紅い瞳を見つめて問う。
 
やっぱりこの紅い瞳は私の心をざわつかせる。


 会ってもわからないかもしれない。
 会っても思い出せないかもしれない。
 思い出しても、何の意味もないのかもしれない

 だけど手紙のそのひとは、私に会いたいと望んでいた
 それが、そのひとと記憶にない私が望んだことならば
 せめて叶えるくらいは、……そう願って。 *

 
(42) 2022/05/28(Sat) 10:07:02

【人】 雨宮 瀬里

 

 広げられた大きな翼
同族の証
が畳まれる
 残ったのは紅い瞳のそのひとだけ。

 
 「 それは…… 」


 会ってどうする?の問いには言葉を詰まらせる
 話しがしたいという気持ちもないし
 会っても知らない人だろう、という想いは強い
 赤の他人になった、そう告げる老人の声は、
 まぎれもなく事実だった。

 それは今の私にとって≠サの通りの意味を持つ
 
だけど前までの私≠ノとっては?


 
(45) 2022/05/28(Sat) 11:32:10

【人】 雨宮 瀬里

 

 手紙が残っていたことと、
 手紙にお見合いと書かれていたこと
 恋に対する忌避感がないこと。

 それらは確かに私に恋人≠ェいたのだろう事実を
 浮かび上がらせる。

 老人や、この手紙の主が嘘を吐く理由もない…筈だ。
 老人が渋っているのもそれが真実だからだろう。

 そして老人にも、私が戸惑っている様子は
 そのまま伝わるに違いない。

 
(46) 2022/05/28(Sat) 11:32:22

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 ……だけど、
   会わないのは、後悔すると、思うから。
   多分記憶が混乱する前の私だったら、
   会いたい、って願うような、そんな気がするんです 」


 そのひとの気持ちはわからない。
 今の私の気持ちでもない。

 だけど今までの雨宮瀬里≠セったら。
 そうしたい、と望むだろうから。

 気の強い、私のことだから。
 20年以上この心で生きてきた。
 記憶がなくても、私のことくらいはわかる。


 朝食を食べろという声には頷いて、
 私は蓮司≠フ意向を、老人の答えを、待つことにする
 
(47) 2022/05/28(Sat) 11:33:31

【人】 雨宮 瀬里

 

 恋人だった人との記憶はないけれど
 私が確かに変わった、という事実だけは、
 私の中に薄ぼんやりと残っている

 以前のような洋服を着なくなったこと
 母親とはそれでも良好な関係を築いていること
 家を出て、陶芸の道に私が進んだこと

 それは蓮司≠ニ関係ない部分だから
 記憶の混乱が起きていないのだろうか

 それでもその変化≠キるきっかけは思い出せないから
 それをくれたのは、まぎれもない、その人なのだろう。 *


 
(48) 2022/05/28(Sat) 11:33:57

【人】 雨宮 瀬里

 

 昼よりも前のころ、
 空には高く陽が昇り、木々の緑を美しく照らす
 案内された庭には洋装の男性がひとり佇んでいる

 私は白のブラウスと赤紫のスカートを纏って
 その人のほうへ近寄っていく

     それはいつ手に入れたものなのか
     私は、憶えていない。
     そこにも貴方との記憶があるのだろう


 その人の背中を後ろから見たとき、
 会うのが怖い、と思ってしまった

     怖い、という感情が、
     いつかの感情に重なった気がしたけれど
     それはいつのことだったのかわからない


 
(51) 2022/05/28(Sat) 13:43:51

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 ………こんにちは、蓮司さん? 」


 名前を口にして、
 どこか違和感があったのは何故だろうか
 
     もしかしたら蓮司さん≠ネどと
     私は、呼んでいなかったのかもしれない


 
(52) 2022/05/28(Sat) 13:44:12

【人】 雨宮 瀬里

 

 その人がこちらを振り向く。
 二色の瞳がとてもきれいで、だけど、私は、


 「 ……?? 」


 何かが、とても違和感で。


 「 目、大丈夫、なんですか 」


 
陽の光の下
、美しく煌めく二色の瞳に、
 何が大丈夫じゃない≠アとがあるというのか
 それもわからないまま、私は本能的に、
 そんな言葉を、口にしていた。 *

 
(53) 2022/05/28(Sat) 13:44:53

【人】 雨宮 瀬里

 

 きっと私はその人に瀬里≠ニ呼ばれていたのだろう
 その呼び方はどこかしっくりときて私は縦に首を振る

 それと同時になにかデジャブのような違和感を感じて
 心の奥底がほんのわずかに軋む



 「 ……そうですね、かっこいいですよ 」


 ほらまただ。
 少し戯けて掛けられた言葉、
 何も文脈としておかしくはないのに、
 なにか、なにかが、ひっかかる。


 
(57) 2022/05/28(Sat) 16:01:41

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 うん。初めましてでは、ないみたい
   でも、憶えてないんです 」


 貴方もですよね、って確認するように。
 
 貴方の声も、顔も、憶えてはいないけれど
 それでも、どこか、穏やかな気持ちで話せたのは。
 やっぱり絆があったから、ということなのだろうか。


 その人に翼はない。
 だけど、手紙の中には「恋矢」が、と書いてあった
 同種であることを前提に、私は話をする。
 これで相手が恋天使じゃなかったら…ふと不安になって
 私は背中の羽を揺らしてみせて、貴方の視線の先を確かめた。

 …羽根が見えていなさそうなら、
 ほんの少し、不安な顔は見せただろう。

 
(58) 2022/05/28(Sat) 16:02:12

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 あの 」


 そうして私は貴方にあの封筒を差し出す。
 恐らく貴方の文字で、瀬里へと書かれた一通の封筒。


 「 貴方に返すのも、なんか違うと思うんですけど
   でも。貴方にも、読んでもらいたくて 」


 封筒には一度開けた跡があるから、
 私が読んだものだということはすぐに分かるだろう
 
 それから、もうすこしだけ、貴方に近づいて
 声を落として、小さくつぶやく

 
(59) 2022/05/28(Sat) 16:02:26

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 あのお爺さんが、
   手違いで、恋矢が刺さって、
   恋矢を抜いたのだと言っていました。

   ……でもここにはお見合い、ってあるし
   何より、これを書いた人の言葉が、
   手違いで恋矢が刺さってた人のものだって
   私、思えないんです。

  たぶん。蓮司さんの字、だと思うんですけど
  ……読んでみて、ください。 」


 手紙を読んでくれるのならば、その傍で。
 言いたいこと、ってなんだったんでしょうね、って
 私は困ったように笑いながら呟いた。 *

 
(60) 2022/05/28(Sat) 16:02:38

【人】 雨宮 瀬里

 

 これは俺≠ェ書いたものじゃない。
 その言葉にどこか落胆の気持ちを抱いてしまったのは
 別に恋心を取り戻したい、とかいう動機じゃない。

 じゃあ私を動かすものはなんだろう?って
 ふと考えたとき、一番に心に浮かんだのは

  私の中に知らない私がいること

 それが、どうしてももやもやするのだと気づいた。

 
(66) 2022/05/28(Sat) 18:21:36

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 いえ。
   恋心を抱いていたらしい、のは
   ここにいる私、ではないので。 」


 好きか?と聞かれて即答した。
 好き嫌い、という感情はどこにもない。

 昨日までの私たちはどこにもいない。
 貴方と過ごしたらしい日々の様々な瞬間が
 私の中からすっぽりと抜け落ちたまま、
 私は、いつかの私の続きを歩いている。

 
(67) 2022/05/28(Sat) 18:21:49

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 ありがとうございます。
   ……助かります。 」

 
 ここは一体どこなんだろう、とスマホを見る。
 位置情報から、大体の場所が分かるはずだ。
 ロックを外せば、私と貴方が並ぶ待ち受け画面が見えた。

 
(68) 2022/05/28(Sat) 18:22:01

【人】 雨宮 瀬里

 

 見覚えのない車。
 見たことのあるような車。

 躊躇することなく私の足は助手席へ向かい、
 慣れた手つきでその扉を開く。


 「 あの。
   何か、思い出したら。
   ううん、何も思い出さなくても。
   また、連絡してもいいですか。 」


 そう切り出したのは車が発進した後だったか。
 スマホには、ご丁寧に貴方の連絡先も、
 直前までのやり取りも、残っているようだった。

 
(69) 2022/05/28(Sat) 18:22:20

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 恋心があるとか、ないとか、じゃなくて
   ……記憶。ないのが。嫌だなって。 」


 貴方との記憶、じゃない。
 私自身の記憶がないことが、嫌だなって思ったんだって
 私は、貴方に伝えるだろう。


 「 ……自分のこと、
   なんでも自分で決めたいんです。
   だから、昨日までの私が分からないのがすごく嫌。

   おかしいな。
   昔私そういう人じゃなかった筈なんですけど。 」


 昔の私は、自分の意思を持たずに、
 家族に、他人に、自分の評価も意思も委ねていた。
 今の私は、すっかりそうでないと嫌だ、なんて

 …それが、変わった記憶はどこにもないのに。 *

 
(70) 2022/05/28(Sat) 18:23:12

【人】 雨宮 瀬里

 

 貴方の皮肉には素直に頷いた。
 きっと、昨日までの瀬里≠セって、喜ぶはずだから。

 恋をしたらどうなのか、と私は考えたりはしなかった
 知らない貴方に恋をするつもりもなかった。

 けれど、どうしてだろうか。

 恋をしてはいけない≠フだと、

 そんな気持ちが無くなっていることに、
 私は気づいてはいなかった。
 それは、ほんの少し貴方の状態とは違っていたのかも。


 
(74) 2022/05/28(Sat) 19:38:16

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 clarity?知ってる、というか、」


 そう。私は確かにclarityを知っている。
 知っているどころか、…と言葉を紡ごうとして
 その先に続く言葉が見当たらないのに気付く。
 多分私はスマホの履歴に「灯歌」という名前を見ても
 それが誰だかあまり思い出せなくなっているのだろう


 
(75) 2022/05/28(Sat) 19:38:37

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 ……ううん、なんでもない。
   知っている、はず、なんだけど、
   あんまり思い出せないの。
   これも、貴方との記憶が関係しているのかな 」  


 透明な歌声が車の中に響く。
 不安な人を励ますような、優しい歌声。
 大丈夫だよ、って背中を押してくれるような声。

 私は、その声を、確かに、どこかで、

 記憶を呼び起こそうとしても、靄がかかっている
 だけど、記憶を探るように、探すように、
 ぼんやりとした瞳で、私は貴方のことを見た。

     貴方は、どうしてこのひとを知っているの?
     そんなことを問いかけるように。 *

 
(76) 2022/05/28(Sat) 19:38:51

【人】 雨宮 瀬里

 

 ぱちん、ぱちん、と指が鳴る
 そのたびに、何か大切な景色が色づいていく

  『 私ね、変わろうと思って 』

 それは確かに私の声
 変わるための後押しをしてくれたのは…?
 
 透明な歌声、跳ねるような指の音、
 月明りが照らす暗がりの中で、
 明るい光が私の、  
私の……?


      
真っ赤
ななにかが、見えた気がした

 
(79) 2022/05/28(Sat) 20:21:27

【人】 雨宮 瀬里

 

 明るい光に目線を向けようとして、
 
           
       車が動く。
       思考は途切れる。



 「 何か、思い出せそうな気がしました 」

 それだけ言って小さく笑うと、
 私は手元のスマホに視線を落とす。
 車の中。会話などはほとんどないはず。

 
(80) 2022/05/28(Sat) 20:21:48

【人】 雨宮 瀬里

 

 スマホに残されたメールも写真も、
 どれも私の知らない雨宮瀬里だった。
 たくさんの景色や、たくさんの食事や、
 たくさんの笑顔が、そこには残されていた。


 「 楽しそう 」


 私はただの感想を呟く。
 他人事だけど、本当にそれは楽しそうだったから


 「 恋、してたんだなって、分かります
   恋をする人間と、同じ顔、してるもの。 」


 恋をしたい、だとか。
 同じ感情を取り戻したい。とかじゃないけれど。
 スマホに残った、二人の姿は、本当に楽しそうで

 ……だから、私は至極当然の質問を投げかける。

 
(81) 2022/05/28(Sat) 20:22:03

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 どうして、恋矢を抜いてしまったんでしょうね 」


 貴方は知っていること。
 私は覚えていないこと。

 ただの、話のきっかけにすぎない。 *

 
(82) 2022/05/28(Sat) 20:22:14

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 病?
   ………そう。だったんだ。 」


 病によって、恋矢を抜かざるを得なかった。
 そんな話は今、初めて聞いた。

 ううん、瀬里≠ヘ知っていたんだろう。
 知ったうえで、それを受け入れたとき
 私は、どう思ったんだろう。

 うらやましい、の声に私は小さく微笑んだ
 
 
 「 これほど楽しそうに過ごしていたのに
   恋心と記憶が消えてしまったのは……
   ……きっと、悔しかっただろうな。 」


 恋心が消えるときの感情なんてわからないけど
 でも大切にしていたものを喪わざるを得ないときの
 悔しさとかなら、分かる気がするから。

 
(86) 2022/05/28(Sat) 22:39:03

【人】 雨宮 瀬里

 

 駅前で車が止まる。
 私が全く知らない駅だったけれど
 きっと家までは帰ることはできるだろう。


 「 ……うん、 」


 貴方の視線がこちらへと向く
 
 ここで、私が車を降りればそれでおしまい。
 時々私から連絡をするかもしれない。
 だけどそれもいつ終わるかはわからない。
 だからと言って何もできないし、何かしようとも ──


      二つの色の違う瞳を
      私のスカートとお揃いの色の左目を
      私が…好きだったであろう、その瞳を、


 
(87) 2022/05/28(Sat) 22:39:48

【人】 雨宮 瀬里

 


 ねえ瀬里
 貴方はこんな終わり方も想定していたの?



 
(88) 2022/05/28(Sat) 22:40:16

【人】 雨宮 瀬里

 


 ──────── ちがうの。



 
(89) 2022/05/28(Sat) 22:40:41

【人】 雨宮 瀬里

 


      頬を流れる涙の意味を、私は知らない
      貴方が見たことのない涙を
      私はきっと、初めて流した。 *


 
(90) 2022/05/28(Sat) 22:41:44

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 …っ、ごめんなさい
   泣くつもりとか、なくて 」


 意に反して流れ出た涙を
 あたたかな指先が拭うなら、
 私は思わずそれを否定するけれど、
 涙は簡単には止まってはくれなかった。

 それでいて、もっと触れていたいと思ったのは
 昨日までの私?それとも今の私?

    それとも、全部、私なのだろうか。


 
(97) 2022/05/29(Sun) 8:44:32

【人】 雨宮 瀬里

 

 洋服の好みが変わっても
 恋矢が刺さって恋心を抱いても
 それがまた喪われて想いが消えてしまっても

 私に起きた変化はすべて、
 雨宮瀬里そのものなのだろうか。

 貴方に出会って、貴方が日常を満たして以降の
 私自身の記憶は喪われたままだというのに


 
(98) 2022/05/29(Sun) 8:45:06

【人】 雨宮 瀬里

 

 こんな終わり方は嫌だ。
 はっきりと音になって耳に届いたそれに
 私はこくりと頷いた。


 「 私も。こんな終わり方は嫌 」


 理由なんて私だってわからない。
 だけど、こんな終わり方は絶対に嫌だというだけ。

 
(99) 2022/05/29(Sun) 8:45:18

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 私ね、記憶を取り戻したい
   どうしたらいいか、わからないけど… 」


 恋をしていた私も、今の私も、私だというのなら
 恋をしていた時の私の記憶を、取り戻したい。
 オーディオからは相変わらず透明な歌声が響いている。 *

 
(100) 2022/05/29(Sun) 8:45:30

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 ……恋人に? 」


 私が浮かべるのは困惑の色。
 それでも頬に触れた手を避けることもしないまま
 貴方の両の瞳を見つめる。

 恋心とはどんなものだっただろうか
 思い出せぬままに、恋人の振りをするのは

 ──── ああ、それはかつての私。
 そんなことも忘れているくらいに、
 いつの間にか私は変えられていた。

 憶えていないから、きっと貴方のお陰。

 
(103) 2022/05/29(Sun) 11:12:42

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 ……うん、構わない。
   瀬里≠熈蓮司≠烽サれを望むもの。 」


 流れていた涙が止まったから、
 きっと、そうなのだろう。


 「 ……改めて、っていうのもなんだけど
   雨宮瀬里です。……よろしく……? 」


 きっと2回目の初めまして。
 はにかんだ笑顔は、営業スマイルなんかじゃない。
 
(104) 2022/05/29(Sun) 11:13:20

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 恋人はじめに、もう少し、
   ドライブデート、しませんか。
   歌も、聞いていたいし、
   もう少し、話がしてみたいから。 」


 例えばひとつ先の駅まで。
 例えば乗り換えのターミナル駅まで。
 家までは、少し気が引ける距離だけど。

 もしもドライブデートが叶うなら、
 きっと最初から、お互いを知っていこうかな。
 私が陶芸を生業にしていることとか
 貴方は珈琲を好むとか、きゅうりが嫌いだとか

 他愛のない話を、いくらでも。

 
時間制限はどこにもないから。
*
 
(105) 2022/05/29(Sun) 11:14:33

【人】 雨宮 瀬里

 

 記憶から抜け落ちてしまった欠片を拾い集める
 私たちにとっては初めて手に入れる欠片は
 新鮮味がなく、どこかすんなりと馴染んでいく

 隣の駅を越え、
 ターミナル駅を越え。

 記憶があいまいであっても
 私は正しく貴方に住所を伝えることが出来たはず

 だけどそんなことしなくたって
 ナビの履歴に残っていたかもしれないし
 ナビを見なくても……
 貴方は、問題なく車を走らせたかもしれない


 
(109) 2022/05/29(Sun) 20:03:23

【人】 雨宮 瀬里

 

 街灯の少ない小さな町。
 こうして夜の助手席に座っていることも
 なんだか、初めてではないような感覚に陥る
 事実、初めてではないはずだから当然だけど

 貴方の左隣に居ることが、
 なんだか、至極当たり前≠ナあるかのような感覚。

 オーディオからゆるやかに流れる音楽
 窓の外を流れる夕景 いくつもの標識
 低いエンジン音と 僅かな車の振動

 ああ、いつだってこうやって、


      離れがたい
      どこにも着きたくない
      そんな気持ちを重ねていたのは、

      ………誰、だっけ。


 
(110) 2022/05/29(Sun) 20:04:04

【人】 雨宮 瀬里

 

 気づけば、私の家へとたどり着く。
 記憶がはっきりしている実家ではなく、
 記憶が朧げだった一人暮らしの小さなアパート。

 だけど確かにここが私の家なのだ、と
 住所がそらで言えたように、知識として理解してる



 「 遠くまで、ありがとう 」


 すっかり辺りは昏くなってしまった
 途中お昼や休憩に立ち寄ったとはいえ
 随分と長いドライブデートをさせてしまって
 素直に…ほんの少し申し訳ない気分になったけど。

 
(111) 2022/05/29(Sun) 20:04:19

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 蓮司さん、……あの、 」


 言葉を投げかけて、詰まらせて。
 何か言うべき言葉があった気がして、
 それでもそれは何処にも見つからなくて。

 
(112) 2022/05/29(Sun) 20:04:31

【人】 雨宮 瀬里

 


 部屋のあちらこちらに貴方のものがあること
 気づいたのはもう少しだけ後の話。


 
(113) 2022/05/30(Mon) 13:09:32

【人】 雨宮 瀬里

 

 その日の夜か、翌朝か。
 貴方と別れてからというものの
 貴方のことがどうしたって頭を離れず
 どこか熱に浮かされたような心地は続く。
 
 溜まっていた写真や、メールのやり取りから
 どうやら週末だけ私たちは会っていたようだし
 彼のことを、蓮司、と呼び捨てにしていたようだ

 貴方が居ない部屋で「蓮司」と呼んでみて
 なんだか恥ずかしくなって顔を赤らめたのは
 貴方が知らない私だけの秘密。

 
 『 また週末、会ってくれますか 』


 貴方に一文メールを送るだけでも、心が跳ねた。

 
(114) 2022/05/30(Mon) 13:10:04

【人】 雨宮 瀬里

 


    貴方に再び恋をした今、
    記憶なんてなくてもいいと思う自分がいた

    だけど

    貴方に再び恋をしたからこそ、
    貴方との過去を取り戻したいと思う自分がいた
 
    お見合いで出会ったのだろう人々との
    縁を思い出したい、そんな気持ちもあった


    それに ──────

 
(115) 2022/05/30(Mon) 13:10:38

【人】 雨宮 瀬里

 


 貴方は、何を言おうとしてたんだろう。
 手紙の最後に書かれている文章を目で追う。

 それから何か ── 私たちは約束を交わしたような、


    ………そんな気がずっとしていたんだ。 *


 
(116) 2022/05/30(Mon) 13:10:56

【人】 雨宮 瀬里

 

 諦めなかった。
 記憶を喪ってしまったこと。
 恋心を喪ってしまったこと。

 わからなかったことが悔しかったんじゃない。
 忘れてしまったことが悔しかったんじゃない。

 1年経っているはずの私は随分と変わっていた。
 以前のはっきりした記憶の中の雨宮瀬里は、
 もう、私の要素のどこにもなかった。

 これだけ人を変えてしまうほどの恋を。
 これだけ私を変えてしまうほどの貴方を。

 忘れたまま、生きていくということが
 私にとって、望ましくない。

 私の理性はそう思った。


 
(123) 2022/05/30(Mon) 15:08:11

【人】 雨宮 瀬里

 

 それと同時に、理性じゃない部分が
 貴方を喪うことを、恐れていた。
 貴方と離れることを、強く拒んだ。

 涙を流した理由は、
 悲しみも悔しさでもなくて

 きっと貴方と離れることに対する恐怖だった


 
(124) 2022/05/30(Mon) 15:09:00

【人】 雨宮 瀬里

 

 貴方に恋をすることが、
 必然だったような、気がしていた。

 貴方との記憶を喪っても、なお。

 靄が晴れるきっかけは、
 まだ私には、訪れなくとも。
  
 週末のデートまでの日数を私は指折り数えている *

 
(125) 2022/05/30(Mon) 15:10:26

【人】 雨宮 瀬里

 

 私にとって初めての週末デートの日。
 その日私は家にいて、
 貴方が来ることを今か今かと待っていた

 
靄はまだ晴れていなかった

 貴方がすでに記憶を取り戻したことを私は知らない
 私が、いつ取り戻せるのかも、分からない


 だから、貴方を迎えたときに


 「 蓮司
さん


 
 と。私は呼んだ。

 
(128) 2022/05/30(Mon) 21:17:31

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 待ってた。遠いところまでありがとう。
   ……ご飯……かな?このあとどうする? 」


 週末デート。この後いつもどうしていたんだろう。
 私はこの町のこと、知っているようで何も知らない。
 きっと住み慣れた町、だったはずなのに。

 
(129) 2022/05/30(Mon) 21:17:47

【人】 雨宮 瀬里

 

 私の瞳に映る貴方は、
 もう一度私に恋をしてくれたひとのはずだった
 
 貴方の瞳には、
 上手くいったあとのお願い事も、
 貴方との日々も、忘れてしまった私が映る

 だけどきっと貴方が誰であっても。
 忘れてしまったころの貴方も、
 これから先の貴方のことも、全部知りたいと私は願う。 *

 
(130) 2022/05/30(Mon) 21:17:59

【人】 雨宮 瀬里

 

 貴方と過ごす時間なら、きっとどこだって楽しい。
 …こんな気持ちで、今までの雨宮瀬里は、
 貴方と一年も過ごしてきたのだろうか。

 それとも恋矢を受けた恋と、
 今の恋は、何かが違うのだろうか。

 恋をしたことがない≠ゥら
 これが恋なのかどうかも確かめられずに
 私は初めての週末デートを迎える。


 そういえば。と、私がきっと提案したのは
 この町にきて貴方と最初に行った店=B

 
 「 この間見かけて、気になっていたの 」


 と、きっと私は一年前と同じことを言う。
 それを私が気づいていないだけで。


 ふいに囁かれた言葉には、
 真っ赤になって、頷いた。
 
これを一年続けてきたというのか、私は。


 
(133) 2022/05/30(Mon) 23:19:05

【人】 雨宮 瀬里

 

 同じメニューを頼み、同じ感想をいう。

 お店の人が「ああ、」という顔をしていたから
 もしかしたら何度も訪れたことがあるのかも、と
 そう気づいてからは、貴方に向かって苦笑した。
 私たち、どうやら来たことがあるみたいね、って。

 貴方が思い出したなんて知らないもの


 それからまた少しだけ車を走らせて
 といっても都会ほど、夜景が美しいわけじゃないから
 きっと、それはそこそこに。

 
(134) 2022/05/30(Mon) 23:19:22

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 蓮司さん、 」


 それはそれからだいぶ時間が経った後。

 身体が幾度貴方を求めようと、
 まだ記憶を取り戻す前の私は、
 薄いタオルケットにくるまりながら
 薄暗い部屋の中、肌を貴方に寄せている
 

 「 あれから暫く、
   記憶を思いだそうと、頑張ったんだ 」


 どうだった?って聞かれたら
 首を横に振るだけだけど。ご存じの通り。
 
(135) 2022/05/30(Mon) 23:19:47

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 家にある服とか、
   随分、昔の私と、違うの。
   昔の私がどうだったか、っていうのは
   ……蓮司さんには、内緒。
   今と全然違って、びっくりしちゃうから 」


 知ってる、ってネタ晴らしされない限りは
 私はその話はしないつもりで。
 見てみたいとか言い出されても
 ほらまた、私は首を横に振るだけ。二回目。

 
(136) 2022/05/30(Mon) 23:20:02

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 でもきっと蓮司さんが変えてくれたんだなあって
   だって変わった記憶が、ないんだもの。

   つまらないことは案外覚えてるのよ。
   蓮司さんと関係ないこと。
   ここの町の人間関係だとか、
   私の師匠にあたる人のおでこ掻く癖とか。

   でも私の中から、蓮司さんとの記憶だけが
   すっぽりと抜け落ちちゃってるの。 」


 多分きっと、貴方もそうじゃない?って同意を求める
 ……その返事がね、どうであれ。
 私はそれ以上に、貴方に言いたいことがあったの。

 
(137) 2022/05/30(Mon) 23:20:16

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 でもひとつだけ完全にわからないものがあった

   私が、着けるはずのないものが、
   家に置いてあるの。 」

 
(138) 2022/05/30(Mon) 23:20:50

【人】 雨宮 瀬里

 

 体を起こしてちいさな棚へと手を伸ばす。
 一番上の引き出しを開けて、中から取り出したのは

    ── 見覚えのない、
いマニキュア。

 
(139) 2022/05/30(Mon) 23:21:10

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 陶芸をするときね。
   ネイルって基本だめなの。
   作品に爪が刺さったら台無しだし
   納得いく作品は絶対にネイルをしてたら作れない
   だから、私は、これ、使わないはずなの

   でも憶えてないってことは、
   貴方との記憶の何かに、関係するんだと思う

   ……って言われても困っちゃうか。

   見覚え、ないよね。
   あるはず、ないよね。 」


 私は記憶を喪っているはずの貴方≠ノ問いかけた *

 
(140) 2022/05/30(Mon) 23:21:24

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 これを? 」


 ベッドサイドにはちいさなランプが灯り
 赤いマニキュアを僅かな光の中で翳してみせる
 殆ど使っていないゆえなのかほとんど減っていない赤を
 そっと目の前で揺らして


 「 似合うかな… 」


 …などと。

 どちらにしろ週末が終わったら剝がさねばなるまい。
 一日、二日くらい指先が赤でも、
 なんとなく悪くはない気がした。

 
(144) 2022/05/31(Tue) 8:42:13

【人】 雨宮 瀬里

 

 一糸纏わずベッドに寝転がりながら。
 灯りは相変わらずあまりないまま
 私は爪に色をのせる

 
 「 不思議ね。
   前もなんだかこんなことがあった気がしたの
   暗い場所だとマニキュアが塗りにくい、って
   私、なんだか知ってる気がする 」


 大人になってからネイルなんてしたことないのに
 どうしてか、この感覚を私は知っている

 「 でも、普段指に色がついていないから
   なんだか不思議な感じ。
   まるで、別の私になるみたい。 」


 色づき艶めく左手の小指と薬指。
 二本塗って光に翳して、そうして私は首を傾げる

 
(145) 2022/05/31(Tue) 8:42:38

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 あれ?この赤、最近どこかで、 」


 薄れてしまった記憶の中とかじゃない。
 最近、どこかでこれと同じ色を私は見た気がする

 
(146) 2022/05/31(Tue) 8:42:58

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 蓮司さん、私…… 」


 戸惑いながら私は貴方を見る

 
         
ぱちん


         どこかで小さく音が弾ける


 
(147) 2022/05/31(Tue) 8:43:37

【人】 雨宮 瀬里

 


         ぱちん、ぱちん、ぱちん
         時計の秒針のように
         規則正しくリズムを刻む、

 
(148) 2022/05/31(Tue) 8:43:54

【人】 雨宮 瀬里

 


   ああ、そうだ、あの時だ >>79


 
(149) 2022/05/31(Tue) 8:44:09

【人】 雨宮 瀬里

 



     『 私ね、変わろうと思って 』


     それは確かに私の声。
     透明な歌声、跳ねるような指の音。
     ちいさな灯りが照らす暗がり。
     明るい光が私の手元を照らしていて
     私の指先が、ひとつひとつ色づいていく

 
(150) 2022/05/31(Tue) 8:44:37

【人】 雨宮 瀬里

 


  明るい光に目線を向ければ ──── 、

         思考は
途切れない
>>80
         考えるための猶予は幾らでもあって、


 
(151) 2022/05/31(Tue) 8:45:10

【人】 雨宮 瀬里

 


   ぱちん。
   催眠術師が眠りから観客を揺り起こすように
   ひときわ大きな音が、耳の中で鳴り響く

   世界に、色が



 
(152) 2022/05/31(Tue) 8:45:54

【人】 雨宮 瀬里

 


   赤く塗られた左手の小指と薬指

   見慣れた部屋と匂い いつもの週末
   肌で感じる貴方の体温

   隣には恋をしている相手がいて、
   私は、貴方に向かって


         「 蓮司? 」


        ……と。一言だけ呟いた。 *

 
(153) 2022/05/31(Tue) 8:46:26
 




情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新

視点:


トップページに戻る


←↓■□フィルタ

注目:瀬里 解除する

生存者 (2)

瀬里
32回 残----pt

ずっと蓮司の左隣

蓮司
14回 残----pt

ずっと瀬里の右隣

犠牲者 (1)

???(2d)
0回 残----pt

 

処刑者 (1)

──(3d)
0回 残----pt

 

突然死者 (0)

舞台 (0)

発言種別

通常発言
独り言
内緒話
囁き系
死者のうめき
舞台
置き手紙

一括操作




発言種別注目






















(0.15 CPUs)
運営 moonpupa
人狼物語 by あず/asbntby
人狼議事 by ななころび
トップバナー画像 by naomyplum
人狼物語画像 by Momoko Takatori
Schwarzwald(黒い森) by hagios
トロイカ TYPE:А / 哀愁のタタロチカ by かえるぴょこぴょこ/あさくら
ようちえんせんき かりんか / ハロリンカ / 凍れる水車 by かえるぴょこぴょこ/あさくら
霧雨降る街 / 少し大きな霧雨降る街 / 蒸気満ちる宴 by きりのれいん
メトロポリス / バビロン / ギルガメッシュ / Valhalla by すむろ水
ひなだん by hinaki
壱番街 / 壱番高校 by 壱猫[onecat]
外道大戦 by mtmt
都道府県キャラセット by kairi(企画代表)
繋<つなたま>魂 / 班帝家の一族 / H)SOCIUS(A by めいあ
もふぁんたじぃ / もふぉれすと by ほのゆる
Cathedral / 学園Cathedral / Grand Cathedral / 学園Grand Cathedral by Izuya
夜月町 by 夜月けい
南区 / 古今東西 by 南
IRO-COLORE(いろころる) by Izuya, 南
お茶会 / 演奏会 / 花見会 by ゆひろ
GNL / GNL+ by guiter-man
ジランドール / イルミネーション by may-co
シキメグリ by afinter
-汝人狼也-人物画 by 878, かんこ
closure / closure' by 閉
Emoricu / Cumorie / 黎明街 by milk_sugar
ワンダーズ言戯団 by pike
宝石箱《Jewel Box》 by 宝石箱制作委員会
文明開化 by sin
カティサーク by apricot with y_hyuga
月狼学園 / 人狼署 / 狼達の軍歌 by apricot
花一匁 / 桃酔郷 by さね
po!son / Girl's Talk by pure_g
madparty by シロクマ
rhizome by CH3COOH
曲芸会 / 曲芸会Hello! by otokasa
AtoZ by 築
瑞洋館 by ういろ
LastSunday / HeaVen by 志摩
かくりよ by plmi
桃色concerto by 桃昆布
狼兎 by クロマ
人狼ヶ谷学園の放課後 by 竜山明日佳
bAroQue / tradimento by souya
Bokuyume. by 卜部
FGOキャラセット by 有志一同
魔法少女は眠らない by 魔法少女チップ企画
Liberte by みぃな
噛志野医院 by manamiz
メギド人狼 by メギドチップ企画
absolventi by ぶんちゃん
歳時抄 by 小由流
文アルセット by 文アルセット企画
荘園パック by ARC(企画代表)
Friends by 真知
城下町の酒場 / 大神学園 by じっぷ
エッグ by 朧恩
ぐれすけ・ぷらす by 純
ニューホライズン by youden
バーバチカ / プトロレ by たべ
ユメツナギ by 天瀬春日
StarGazer / LittleStar by CONBE
御常紀学園 by HS_29
オハナシノクニ by オハナシノクニ制作委員会
Fragment of Jewels by 粉海月
花園女学院 / 他種族孤児院 by はこみ
xxxx組 by サイコ瓦
おりふし学園 by めんるい
Fairytale Syndrome by hTuT
Salute by むくっこ
Le parterre by イヌバラ
Troopers by 人類管理連合
お野菜キャラセット画像 by 無料素材倶楽部
Siuil a Run by 匈歌ハトリ
紫煙をくゆらせ by 空砂
RocketPencil by 山本羅刹
エトリエ / エトリエ・戦国 by とり
ボワボンボン by あとらそふと
古の迷宮 by とり夫
JEX Online by katarazu
煌夜の決闘 by ジュエルセイバーFREE
こだわりアイコン by fatcow
トランプ画像 by しろま空間
リンソン by moonpupa