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【人】 六鹿 稀 [ 彼の呟いた一言は、 とてつもないものだった。 それはプロポーズととっても、 過言ではない。 流石に、彼女も口をパクパクと 動かして、彼が何を言ったのか、 頭の中で理解するまでに 時間が少しかかった。 故に、彼の頬をむにむにとしてしまった。 彼が、老舗旅館の跡取りだということを 話してくれたことで、 彼の言っていたことがよくわかった ] そ、そうよね。…… びっくり、した………… [ プロポーズな訳がなかった。 彼女は少し彼の腕の中で眉尻を下げて あからさまにしょげていることがわかる。 プロポーズされるに値しないと、 心のどこかで思っていたからだろう。 ぎゅうっと、彼に体を任せて抱きしめさせる。 彼が欲しいとき、こうするようになった、 ]* (1) 2020/09/02(Wed) 0:02:37 |
【人】 六鹿 稀 [ 稀の特殊性癖といえば、ひとつ。 他人の行為を見たり、 自分の行為を見られたりすると、 この上なく興奮する。 もちろん、 自分の好きなプレイではないものには、 一切興味を示さないが、 好きなプレイであれば、 最初から最後まで、見たいと思っている ] ふふ、賢斗さんが…私のため、だなんて。 ……激しく弾け合う肌の音。 それを聴きながら、男女の…… いえ、人同士の営みを見られるなんて、 素敵だわ………… [ 頬を少し赤らめながら、 彼女は更に呟くのだった。 そして、彼女は思い出す。 今日、彼女の夫は街の方に 出向く用事があることを。 ] お出かけ前に、謝っておかなきゃ。 [ ゆっくりを腰をあげて、 彼女は彼がいるであろう室内へ 歩みをすすめることにした。 ]* (3) 2020/09/02(Wed) 0:45:57 |
【人】 六鹿 稀賢斗さん、さっきは声を荒げて…… ごめんなさい。ダメよね、こんな若女将。 [ 事務室でひとり作業をしていた夫に 近づいて頭を下げた。 彼はいつも、謝ることじゃないと言って すぐに許してくれる。 今回も、相違はなかった。 優しい瞳が彼女に向けられれば、 出かける前の彼に、 虫除けをつけたくなってしまう。 椅子に座っている背広姿の彼の 背後に回れば、そっと抱きついて、 首元に強めの口づけを、落とすだろう。 私のもの、と言わんばかりの赤い花を 彼に添えてしまった。 ]* (4) 2020/09/02(Wed) 0:50:16 |
【人】 六鹿 稀 [ 彼との結婚生活を考えたことがなかったわけじゃない。 でも、彼はどことなく住む世界が違う人だと、 彼女は常日頃思っていた。 和装で会っても嫌味のひとつも言わないし、 歩幅が狭い彼女に合わせるようにあるいてくれる。 それはつまり、身近にそういう人物がいるということ。 だから、なんとなく諦めていた。 しかし、彼が老舗旅館の跡取りであることが分かれば、 彼の母親が和装だったのだろうと、 容易に想像が出来た。心のどこかでホッとした。 そして、彼は今、結婚しようか、と 彼女に問いかけた。彼女は顔を上げて、 彼の顔をまじまじと見つめる。 プロポーズだ。 本当に、プロポーズされるとは思っていなかった。 だから、嬉しくて、 でもどこかまだ頭の中は混乱して。 ] (7) 2020/09/02(Wed) 10:06:02 |
【人】 六鹿 稀賢斗さんに、悪い虫がつくのはダメだから。 ……いい子にしています。 だから、…… [ 簡単に強請れるものならば、強請っている。 でも、ねだり過ぎては彼の負担にもなり得る。 だから、痕をつけることで 彼女はおねだりを示す。 早めに、帰ってきてほしい。 しかし、今日は帰ってこないだろう。 街の方でお酒を飲むことになっているから。 ] 帰ってきたら、沢山可愛がって……? [ そう言った後、彼女ははっとして、 ごめんなさい、と呟いた。 彼のネクタイを締め直して、 彼女はそのままその場を去ろうとする。 彼のビジネスバッグを持ってくるために ]* (8) 2020/09/02(Wed) 10:15:07 |
【人】 六鹿 稀 [ 彼を見送る少し前、 彼女のうなじに赤い花が咲いた。 ひとつではなく、ふたつ。 彼女は蕩けそうな気持ちを律して、 仲居たちと共に彼を見送った。 御贔屓をはじめとする今夜の客が チェックインを済ませるのを 見届ければ、彼女の仕事は 次の朝までない。 ] 賢斗さんがいない夜は、…寂しい…… [ 彼女は小さく呟きながら、 誰もいない露天風呂で空を眺める。 前に一度だけ、誰もいないことをいいことに、 彼と2人で露天風呂に入った。 その時も、激しく、優しく、 彼の人間味溢れる愛情に、 彼女は溺れていた。 それから、混浴を作りたいと 彼の口から聞いた時、 彼女は小さな声ではあるが、 すぐに同意をした。 ] 混浴の露天風呂…… 水着を着用の上とは言っても、 とてもハレンチね…………ふふっ。 (13) 2020/09/02(Wed) 13:38:08 |
【人】 六鹿 稀 −過去の話− [ 六鹿 稀。 旧姓は唐草。 実家は都内23区内にある老舗呉服店。 彼女の父親で10代目くらいだっただろうか。 周りには、同じく老舗の和菓子店などの 跡継ぎが多くいた。 しかし彼女は、その跡継ぎの1人ではなかった。 ふたつ下の弟が、家業を継ぐことになっていたから。 彼女は嫁ぐ側の人間として、 両親の選ぶ人に添い遂げなければいけない。 そう思って弟が生まれたあとの 1日1日を過ごしていた。 彼女の人生に自由などないようなもの。 だから、大学だけはせめて 1人で暮らしてみたいとお願いをして、 彼女は熱海へと越してきた。 ] (19) 2020/09/03(Thu) 23:13:55 |
【人】 六鹿 稀[ そこでの彼との出会いは、 諦めと共に生きていた彼女を奮いおこした。 初めて、稀を求めた男性。 六鹿 賢斗。 彼との時間は、甘く、とても儚かった。 彼が、大学2年の終わりのあの日、 彼の家の話をした時、 『あぁ、この人の家柄ならば、 両親も心変わりをするかも知れない』 そう思っていたことは、 結婚した後に、話をした。 彼も、それを聞いたときは驚いたけれど、 その時だけは出生に感謝していた。 ] (20) 2020/09/03(Thu) 23:14:44 |
【人】 六鹿 稀 [ 彼と2人で、春休みを使って 都内の実家に挨拶に行った時のこと。 両親は洋装をしていた彼を品定めした。 彼女は、血の繋がった両親ながら、 古すぎると心の中で思っていた。 しかし、彼の家柄を聞けば、 その態度は徐々に変わっていったのを 彼女はいまだに覚えている。 ] 「それで、君のご両親は何のお仕事を?」 『熱海で旅館経営をしています』 「あら……どれくらいの歴史が?」 『300年ほどですね。 なので、行く行くは稀さんにうちの旅館で女将に なっていただきたいんです。』 け、賢斗さん……! (21) 2020/09/03(Thu) 23:24:54 |
【人】 六鹿 稀 [ 改めてそう言われると、彼女は恥ずかしくなった。 嬉しいけれど、まだ彼の両親が認めたわけではない。 しかし、彼の清潔感だったり、 家柄だったり、人柄だったりで、 彼女の両親は、 彼女の嫁ぎ先 新たな繋がり として彼を認めた。 また、彼のご両親と対面して、 結婚の許しが出たら、 顔合わせの機会を作ることまでを 彼女は両親と話して、 居心地の悪さから実家を後にした。 その日、彼女はいつも以上に彼を求めた。 実家の近くの五つ星ホテルの1室で、 彼に赤い花を求めてしまっていた。 ] (22) 2020/09/03(Thu) 23:28:55 |
【人】 六鹿 稀 [ 彼女は、唯一の心残りとして 弟に会えなかったことがあった。 弟は、彼女にいつも 『お願いだから、幸せになって』 と、物心ついた時から言ってくれていたから。 挨拶に行った時には、会うことができなかった。 連絡をとっていたけれど、 どこで会うのかまでは、話がつかなかった。 数日後、個人的に彼を連れて弟と会うことが 出来て、とっても良かった。 彼と弟は同じ跡取り息子として、 共有できるものがあったらしく、 すぐに仲良くなってくれたから。 ]* (23) 2020/09/03(Thu) 23:33:52 |
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