ポルクスは、そこに居ない。 (c24) 2021/10/22(Fri) 22:24:35 |
ポルクスは、どこにも。誰の目にも届かない。 (c25) 2021/10/22(Fri) 22:24:57 |
【墓】 逃亡者 ポルクスポルクスは目を覚ました。 泡沫の夢のよう。 宙に漂いながら俺は見た。 ――被害者の顔をして泣く少女。 可哀想だ、ごめんねと思う。 ――夢の中でも何かを探しさまよう夜の少女。 ありがとう、その温もりを手放さないでと思う。 神隠しの顛末にしては陳腐だろうか。 俺の身体は一線を画するこの空間にすら降り立てないらしい。 (+10) 2021/10/23(Sat) 0:54:44 |
【墓】 逃亡者 ポルクス――人はポルクスを称賛した。 心優しい王子様だと。 ――人はポルクスを称賛した。 見目麗しく天才だと。 ――人はポルクスを称賛した。 神の血を受け継いだ特別な子供だと。 そんなものは嘘だ。 俺は優しくはないし、努力をしただけで天才などではない。 ましてや神の子だなんてありえるわけがない。 俺はただの王の子であり、人間である。 全て特別な力を持って生まれた兄が受けるべき称賛だったはず。 兄が受けるべき寵愛だったはず。 死者に干渉する力というだけで忌み嫌った者たちが自分にはわからない。 我が半身は、力を持った特別な人間だったというのに。 (+17) 2021/10/23(Sat) 8:47:37 |
【墓】 逃亡者 ポルクスようやく俺は地に足が着いた。 そこは館の外の中庭の、あまり人目につかない外れの方。 兄の残り香が……強い。 本来のそこにはないものが、この空間には確かに残されている。 薄紅色の花びらが舞う大輪の桜の木。 そして残されたおびただしい――――――血の跡が。 (+20) 2021/10/23(Sat) 12:50:53 |
【墓】 逃亡者 ポルクス「これは兄さんのものではないな」 では何故だろうか。 血の跡を一瞥し、桜を見上げると、 ひらりと舞う桜が一枚、鼻の上に止まった。 ――――――あ。 「これだ……」 桜の花びらから確かに漂う残り香と、兄の気配。 木に背を預けて目を閉じると、不思議と知るはずもない成長した兄の姿が映し出された。 やはり兄は、この館に来ていた。 「――――――ずるいよ、兄さん」 何に対してそう形容したのだろうか。 ただわかるのはカストルという双子の青年は、必要としあえる相手と出会ったということ。 そしてポルクスという双子の青年は、ひとり残されたということだけだった。 (+21) 2021/10/23(Sat) 12:52:06 |
【墓】 逃亡者 ポルクス>>+28 チャンドラ 「俺達は死んだのかな。 神隠しに遭った者が帰ってくることはあるようだから、生きてるのかな。 これが死後の世界だというのなら、悪くない」 痛みも苦しみもなく死ねたというのなら、これ以上の死に方はきっとないだろう。 「けど……俺だけじゃなくて君もここにいるというのは良くないね。 思い出してもらえたのは嬉しいけど……君は、もっと生きるべきだ」 底冷えする寒さがあるわけではないが、今、自分には一欠片の ぬくもり も存在していはいない。自分の魂は兄のものだけど、 ぬくもり だけはあなたに遺して行こうと思ったことは後悔もしていない。そこに取引も駆け引きも欲望も、ひとつもありはしない。 ただただ一方通行の感情でしかなかった。 (+29) 2021/10/23(Sat) 19:40:22 |
【墓】 逃亡者 ポルクス>>+32 >>+33 チャンドラ 「ここに来ることが俺の到達点だったとしたら、何も悔いなんてありはしないんだ」 兄と分かれた魂を一つにしようと思ったことも、君にぬくもりを遺したことも。 「ここが通過点だったとしても、 自分がやった事に悔いはないけど。 だけど……俺は兄さんと違って、何も見つけてやしない」 半身を捨てて、手にできるものは何もない。 俺の中に空いた穴が大きすぎて、それは塞ぎようもない傷痕。 兄に返そうとしたもの全てが、きっと今の兄には一つも必要がないものだ。 「……そうだね、これから生きる時間があるのなら…… 生きる理由を探すために生きてみるのは悪くないかもしれない」 (+34) 2021/10/23(Sat) 20:53:23 |
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