人狼物語 三日月国


179 【突発R18】向日葵の花枯れる頃【ソロ可】

情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新

視点:


【人】 高山 智恵

 これは今日より、少しだけ前の日の話。
 今年のハロウィーン限定メニューの提供を始めてからの話なので、まあそこまで前の話って訳でもないかな。
 その時に、あのお客様が再びうちのカフェのドアベルを鳴らしたんだ>>2:54


「いらっしゃいませ! ―――… 」


 そう、夏の頃に二人連れで来店してきたお客様方の片方だ。
 お客様の顔は比較的覚えているほうかなという自覚はあったのだけれど、あの二人組の初来店時にあった出来事が実に印象的だったものだから、彼らの顔についてはより印象深く覚えていた。
(9) 2022/10/21(Fri) 9:12:16

【人】 高山 智恵


 ( ナンパ野郎のほうはいないんだ。
良かった〜
 )


 ……なんて第一感想は口にできないどころか、顔にすら出しちゃダメだろう。客に対して(それも、良識あるほうの客に対して)流石に失礼すぎる。

 念のために付け加えておくと、件の「ナンパ野郎」はこのカフェの出禁リストには入っていない。あの夏の初来店時だって、こちらの注意に従わず迷惑行為を再三繰り返した訳ではなかったからね。
 とはいえあれはお連れ様の制止と監視あってこそだった可能性もあるので、仮にナンパ男のほうがお一人様で来店してきた場合は要注意対象ではあったんだけれども……。
(10) 2022/10/21(Fri) 9:12:43

【人】 高山 智恵

 そうそう、改めてになるけれど、迷惑行為を再三繰り返す客には
カフェ出禁
措置が取られる>>1:66
 しつこいナンパの件はさっきも話した通り>>1:65だけれど、ナンパの形を取らない性的な嫌がらせについても同様だ(言うまでもないよね)。このような行為>>2:L1を再三繰り返す客は当然出禁の対象になる。
 あ、「再三繰り返す」の定義については、敢えて非公開にしているのでよろしくね。あとうちの店内にも防犯カメラは当然のようにあるので、その心算で。


 この措置は従業員を守るためであるのと同時に、他のお客様を、そしてこのカフェ自体を守るためでもある。
 うちのカフェは、ご飯を求める学生たちの拠り所であり、近隣住民――お年寄りも含めた人々の憩いの場であり、通りがかりの人がふらっと身を落ち着けられる場所であり、駆け込める居場所でもある。
 そんな店が迷惑行為をまかり通らせるような場所になってしまえば、店長たちが20年以上守ってきた在り方が台無しになっちゃうって。憩いに来てまで誰かの嫌がらせの声を(傍からでも)聞きたい客なんてのもまず、いないだろうし。

 え? ハロパやクリパで学生諸君が店でバカ騒ぎするのはいいのかって?
 出禁事項に該当しない限りは、別に。
該当しない限りはね。
(11) 2022/10/21(Fri) 9:15:03

【人】 高山 智恵

 っと、話を戻そう。
 休日は大学の講義も全然(あるいはそんなに)ないこともあって、講義の合間を縫う学生の姿はほぼ無いと言っていい。
 下宿生などで休日も近隣で暮らしている(そして遊びなどの予定もない)子か、或いは元々の住民かが客層の中心になる。結果として平日よりも空きやすい。それでもランチタイムはなかなかに混むけれどね!

 そんなこの日のピークタイム過ぎに、たった一人で訪れたそのお客様。
 この時ちょうど入口近くにいた同僚が彼を案内する。他のテーブル席にも空きはあったけれど、「お一人様である」ということがはっきりしているなら、促す先はカウンター席だ>>2:55

 私の方はといえばこの時テーブル席のお年寄り方や学生たちを担当していたから、時折カウンター内やキッチン内へ戻る際にこのお一人様の様子をちらと見遣る程度だったのだけれど、彼の前に「あの」パンプキンタルトが届けられた>>2:57のは見えていた。
 前に来た時も季節のフルーツのデザートを注文していたこのお客様だったけれど、今回のオーダーも季節限定のスイーツ。それもハロウィーンらしくかつ、一番素朴なもの。
 多分この人、店長と食の話が合う気がする(もしかしたら、店長拘りの品>>2:*1と知った上で注文したのかもね)。
(12) 2022/10/21(Fri) 9:18:38

【人】 高山 智恵

 ややあってから、彼がうちの同僚を呼んで、追加で“ 黒猫のホットココア ”>>2:60を注文する声が聞こえた。
……自分が考案したメニューだからいちいち反応するとか嬉しくなるとかそんな訳じゃないってば! 断じてそんなメニュー初採用して貰った新人みたいなこと……
いやそりゃ嬉しいんだけれど……

 とはいえタルトもまだ半分残っているところからすると、これを食後の一杯に、という訳ではないっぽい。
 ううん、もしかして実はタルトは口に合わなくて残した? あるいは――…


「はい! ただいまお伺いします」


 ふっと挟まった思考は、私を呼ぶおじいさんの声によって遮られた。
(13) 2022/10/21(Fri) 9:20:00

【人】 高山 智恵

 結局その日、私が件のお一人様と何かしら話したりすることはなかった。あの黒猫のココアの感想をちょっくら聞きに行くという時間的余裕も無かった、けれども。

 以前の来店時はナンパ男の件で謝罪してくれたり、そのナンパ男を鋭く睨んだり(元々目つきが鋭い印象はあったけれど)
チョップしたり
といった言動ばかりがつい印象に残っていたのだけれど――。
 そのナンパ男……相方共々、パスタやデザートのシェアを楽しんでいた姿だって、そういえば確かにあの時はあったのだ。直接感想の言葉を伝えられずとも、その様子は伝わってきていた。
 それに対して、たったひとりだけで来たこの日は、どうだったか。


( タルトが口に合わなかったんじゃなくて――
  食べきれなくなるくらいに塞いでた、か。
  あるいは、一人じゃ食が進まない、か。 )


 業務中はそこまで回らなかった思考を、仕事上がりのバックヤードで思う。
 振り返ってみれば、あのお客様、入店した時からなんだか俯きがちだったし。顔にまで何か出ているような感じ……は、分からなかったけれど>>2:56
 何が彼を俯かせていたのかは分からない。職場絡みのことかもしれないし、家族の事情かもしれない。或いはそれこそ、マブダチナンパ野郎と仲違いするようなことでもあったのかもしれない。
 この件について、あの時彼に応対していた同僚につい尋ねもしたのだけれど、「流石にそこまで判るわけないやん」とのことだった。そりゃそうか。
(14) 2022/10/21(Fri) 9:21:07

【人】 高山 智恵

 まあ、パンプキンタルト自体がケチつけられるようなものじゃなかったっていうのは店として安心できることなのだけれど。
 実際、あの後タルトは全部食べ切ったみたいだし>>2:63――。
 あの温かいココアのお陰で食欲戻った塞ぐ気持ちが落ち着いたのかなー、と思うのはちょっと自意識過剰だったかもしれない。
 

( ……私だって、なあ )


 ことあるごとに塞ぐままじゃ居られないでしょ、とこの頃の嫌気>>0:7を抱えながら思う。
 けれども、なんとかしなきゃってぱっと思ったところで、すぐさまに吹っ切れる訳がない。
 それこそあのココアを呑んだお客様だって、その場しのぎみたいな感じで食欲戻っただけなのかも――とも思い直しながら。
 ……いや、彼が本当にあれ一杯で気持ちの切り替えとか踏ん切りとかついたって言うなら、発案者としては鼻高々なんだけれどさ。
(15) 2022/10/21(Fri) 9:21:50

【人】 高山 智恵

 さて、うちのカフェのメニューは凡そ、店長と初期の仲間スタッフが考案したレシピが土台になっている(パンプキンタルトはまさにその一つだ)。中には創業当時から全くレシピを変えていないものもある(エビピラフとか)。
 その一方で、新たに入ったシェフやパティシエがレシピを考案し(時には既存のそれを改良し!)、退店してからもレシピだけは店に置いていった、というものもある。

 この“ 黒猫のホットココア ”のレシピのベースは、あのの残していったレシピ>>2:106
 常設メニューの中にあるホットココアもガトーショコラも、彼女が書き残したレシピそのまま。現在うちで出しているBランチやロコモコ丼のハンバーグの配合も、彼女が改良したものだ。

 私はわざわざ・・・・、彼女が残したものをベースにした新メニューを今年のハロウィーンメニューに推薦した。
 そんな“ 黒猫のホットココア ”が今、冷えてくる季節に向かう中、カフェを訪れるお客様を温めている。
(16) 2022/10/21(Fri) 9:22:30

【人】 高山 智恵

 猫は気まぐれで、薄情に見えて、特に凶暴なようでいて――それでもちゃんと体温のある生き物だ。


 ――私は嬉しいのはきっと、彼女が残したものが
   ちゃんと認められていると感じたから。
   そして、その彼女は今――



 …………変に考えるのはここまでにしておいた。
 明日も明後日もお客様を迎えるだけ。そう、内心でひとりごちる。

 そして、はっきりと意識したんだ。
 私たちのカフェは、愉快なお二人様にも、ひとりきりのお客様にも、居ていい場所として開かれているんだと。
 ほっと一息つけるココアだって、そうしたお客様のためのものなのだと。**
(17) 2022/10/21(Fri) 9:22:53

【人】 高山 智恵

 カズ君から呼び止められ、私は振り向いた>>18
 追加のオーダー……という訳ではなさそうだ。だってここは彼に案内したテーブル席じゃなくカウンターだ。それに――


「ああ、うん。――さんでしょ?
 今日は特にうちには……、……」


 カズ君と二人で来店していた時に聞き拾っていた名前を口にしながら「来てなかったなー」と言い掛けて、口を止めた。
 ――あれ? 本当に今日は来てなかった?
 ぼんやりとした引っかかりが、頭の中でぱっと線を結ぶ。


「いや、来てた来てた!
 ランチタイムに来てデミオム食べてったよ」


 今日の昼のことを度忘れしていたのは、当然のように店員にとって目まぐるしく忙しい時間帯だったからであり。
 彼女も“ いつも通り ”ワンコインランチをオーダーしていたからであり。
 そして、その彼女から何かしらの話を聞いた覚えがなかったからだ。
(33) 2022/10/22(Sat) 10:48:34

【人】 高山 智恵

 ――そう、“ いつもなら話してくれる ”感想>>2:79の一つすらも、聞いた覚えがない。


「……なんだか今日はちょっと、
 あの子、元気なさそうだったかも」


 実際のところ、本当に元気なかったのか否か、までは未だに判らなかったけれども――。
 あの時どうして、うちによく通ってきてくれている彼女に「どうかしたの?」の他愛ない一言すら掛けられなかったか。
 ピークタイムの多忙の所為にしてしまえばそれまでだが、今の状況とも合わせて考えるとどうしても悔やむものが抱かれる。
 ――いや、まだ「まさか」の話>>21だって決まった訳じゃない。けれども。
(34) 2022/10/22(Sat) 10:48:58

【人】 高山 智恵

 私の返答を聞くなり、カズ君はすぐに、その場に代金を置いて店を出て行った>>19


「ってあっ、ちょっとカズ君――お客様!」


 はっと呼び止める声が口をついて出てきたけれど、多分もう彼の背には届いていないだろう。
 カウンターに置かれたお金はぱっと見50円くらい多かったのだけれど、まあその件は今は本当にどうでもいい。
(海外の飲食店みたいなチップ制とかはうちには特にないので、不正会計疑いとか起きないように一応差額は控えておくことにした)

 脳裏を過ったのは、もっと別のこと――彼が無理してまで一人であの子を探し回ったりしないか、だ。
 ホットココアの代金(よりも少し多いお金)をひとまずレジにぶち込んでから、私は一度バックヤードへと走った。
(35) 2022/10/22(Sat) 10:49:18

【人】 高山 智恵

 この時は丁度、ダンサーのあの子が出勤してくる時間帯だ。
 タイムカードを押しに来た彼を見つけられたので、ちょっくら捕まえて声を掛けた。


「あのさ、いきなりで悪いんだけれど……。
 ――君、カズ君とはラインとか何かやってる?」


『えっ智恵さ――高山さん、どうしたんですかいきなり』


 本当は私から直にメッセージしたいところだったけれど、生憎カズ君とは、少なくとも個人的にはSNS等での繋がりがない。
店のアカウントからメッセージ送信を試みることは流石に考えなかった。

 同じチーム所属なら兎も角、ライバルチームのメンバー同士がどの程度SNSで繋がっているかはよくわからない。バンド同士やアーティスト同士の横の繋がりであれば話に聞くけれど……。
 ただ少なくとも彼はカズ君とは知り合いらしいので、好敵手なら好敵手なりに、何かしら個人的な繋がりがあってもおかしくはないと思ったんだ。
(36) 2022/10/22(Sat) 10:50:12

【人】 高山 智恵


「もし今すぐ連絡できるようなら、言っといて。
 『あの子のことで、もしものことがありそうなら
  大人でも警察でも頼れ』って。
 私の名前付きで言っておけばカズ君も聞くでしょ」


 向こうの返答を待たずに用件を続けてしまったのは、私も多分にちょっと焦っていたからかもしれない。他のお客様の応対のこともあったものだからね。
 私の心配がカズ君に伝わってるなら、私からの伝言としてこの言葉を“ 好敵手 ”が伝えてきても、そこまで不審には捉えられない筈だ。
(37) 2022/10/22(Sat) 10:51:41

【人】 高山 智恵

 ただ一つ明確に問題があるとすれば、私の名前を出させることで、この子に「このカフェでバイトしていることを自ら好敵手にバラす」ことを強要させかねなくなる、くらいか。
 うん、カズ君自身はこの子がうちの店にいることに全然気づいていないみたいだったので……。何せ以前、他のお客様のテーブルまで行き来する際にカズ君たちのすぐ横を通り過ぎた時にすら、カズ君のほうからは全く反応がなかったくらいだったから>>2:82。普段の印象って本当に大きいなあ……。


『……、……わかりました。
 なんとか、やってみます』


 この返答通りにこの子が「好敵手のアイツ」に連絡するかは分からないし(そもそも連絡できるかも不明だし)、もし何もしなかったとしても、私から怒る心算はなかった(そもそもこれ、業務外要望なので)。
 普通に上司から部下への無茶ぶりっていうのもあったけれど、若い子たち(ばかりとは勿論限らないけれど)の中には警察に対しての後ろめたさや不信感を抱えている子たちもいるのだから>>1:111
(38) 2022/10/22(Sat) 10:52:09

【人】 高山 智恵

 もっとも、姿の見えないあの子に関しては、これまでの話を聞く限りだと下宿生ではなく、実家で親御さんと同居しているらしい>>21(ついでに言えばカズ君も実家暮らしっぽい>>1:59)。
 その親が過度の放任主義か、電話すらもできない状態か、或いは子供の外泊予定とかを予め伝えられてたりしていない限りは、娘の帰りが異常に遅い時には親御さんから警察への電話を考えるだろう。

 けれどももし万が一、親御さんすらも動かなかったら? カズ君ひとりしか、あの子を探しに行かなかったら?
 事の経緯の一端に触れている大人として―― 一端だけ、とは言っても――もしこれが最悪の事態に繋がってしまったら、気が重いなんてもんじゃない。


( あの子も――それにカズ君にも、
  何もないといいんだけれど…… )
(39) 2022/10/22(Sat) 10:54:03

【人】 高山 智恵

 さて、今のこの状況で、私自身にできることといえば。 
 変わらずこのカフェでお客様をお迎えする、ということだ。

 昼に一度うちの店を訪れ、その後のカズ君との待ち合わせには来なかったあの子だけれど、何かの拍子にまたうちのドアベルを鳴らさない、とも限らない。
 だからもし彼女が来てくれた時のために、私はここにいる。勤務時間の件とかを置いといても、だ。
 その時には、「カズ君は一度うちに来てから、あなたあの子を探しに出て行った」ということも知らせないといけないからね。**
(40) 2022/10/22(Sat) 10:56:03
高山 智恵は、メモを貼った。
(a0) 2022/10/22(Sat) 11:34:22

高山 智恵は、メモを貼った。
(a1) 2022/10/22(Sat) 11:35:03

高山 智恵は、メモを貼った。
(a2) 2022/10/22(Sat) 11:37:08

【人】 高山 智恵

 いつも通り慌ただしかったり、いつもよりも気掛かりが絶えなかったり――これは、そんな今日の営業が終わってからの話。
 ……うん、いくら顔なじみのカズ君相手とはいえ“ お客様 ”相手にガチのタメ口で話していた辺り>>33、本気で無自覚の疲労だとか心労だとかが重なっていたらしい。帰ったらきちんと休もう……明日が丁度私の休みで良かった……。

 さて、もうすぐ帰れるという頃にバックヤードで見かけたのは、布を掛けられた大きな円錐形――クリスマスツリー。今日霧ヶ峰さんが奥の倉庫から出してきてくれたものだろう。
 電球などの飾りも含めたチェックもちゃんとこなしてくれたらしく、近くのゴミ入れの中に捨てられた飾りが光を弾くのが見えた。
 霧ヶ峰さんが地味な細かい作業だけじゃなくて力仕事まできっちり確実にこなしてくれる>>2:L1のは、率直に言って、店としては非常に助かる。地味ながらも大切な戦力、と言っていい。
(41) 2022/10/22(Sat) 17:14:06

【人】 高山 智恵

 ……のだけれど、微妙に違和感を覚えて、ゴミ入れの中を覗き込んだ。


「これ、まだ全然使えなくない?」


 思わず声に出してしまった――うん、そうつい言ってしまうくらい、捨てられていたそのツリー飾りは綺麗だった>>2:75。ベタつき汚れもカビも、極度の変色もなかった。
 ――あの霧ヶ峰さんに限ってこんな適当な仕事する?
 そう訝しみながらよく目を凝らしてみると、その綺麗な飾りと似たような飾りが他にも捨てられているのが見えた(どこがどう似ていたのか、は一旦置いて)。そちらも摘まみ上げてみればやはり、特別汚れや損傷が見られるものではなくて――。


( あー、そういうことか )


 これらの飾りがゴミ入れに放り込まれていた理由にひとつ心当たりを得ながら、それでも普通に「捨てるには惜しい」状態のものだと思えたそれらを、そっと回収しておいた。
 このツリー一式とか飾りとか、一応、お店の予算内で購入しているものだからね!
(42) 2022/10/22(Sat) 17:15:59

【人】 高山 智恵

 ただ、回収したとはいっても、即座に黙って布の下のツリーにこれらの飾りを付け直す訳ではない。
 今日のところはとりあえず、例の飾りは私のロッカーに入れておくことにした。後のことは後日店長と相談しよう。


( 霧ヶ峰さん、やっぱ大分堪えてたんだな…… )


 捨てられていた飾り付けのデザインに共通していたのは、「あの俳優さん」の役柄を想起させるモチーフ、だ。
 思い出した。これを私にさらっと教えてきたのは、アートやってるバイトの子だ>>2:98
 そして霧ヶ峰さん自身が、自分の口で自分の「推し」について話したことは、そういえば、なかった。
 ……教えられた当時は「そうなんだ」くらいに聞いていたけれど、今思えばあの子、
他者の個人情報晒す心算のない趣味を広めてた
んだな。もうすぐギャラリーで学生展だって言ってたから、学生展が終わってからさりげなく注意しておかないと(去年の話だから、本当、さりげなくね)。
 え? あの子霧ヶ峰さん普通にどう見たって態度で誰推しかバレバレな子じゃんって? いくらバレバレに見えたって、それでも秘密を他人に広めるもんじゃないよ……。
(43) 2022/10/22(Sat) 17:16:29

【人】 高山 智恵

 件の飾りをわざわざ戻したりしなかった――霧ヶ峰さんの目の届くところから一旦隠したのは、(おそらく)傷心していた人への配慮といえば配慮だったのだけれど、店側にとっては(金額的にはささやかな)損失ともいえる。
 けれどもこの出来事は少し、ほんの少しだけ、ちょっとだけ安心できるものだった。

 だってこれ、見たくないものを見続けるという「無理」をしない、という選択を霧ヶ峰さんが採れたということなのだから。
(44) 2022/10/22(Sat) 17:18:14

【人】 高山 智恵

 店長からの共有事項でも、実際に見聞きした霧ヶ峰さんの勤務態度でも把握していること。
 彼女は客からの嫌がらせを「平気な顔で」スルーする>>2:L1
 そしてちゃんと上層部に報告してくれるし、助けもちゃんと求めるし、他の子が受けた嫌がらせについても同様に対応して助けてくれてる>>2:L2
 彼女は勤務上の悩みを一人で抱え込んでいるようには見えないし、新人研修で指導したことをきちんと生かせる、それでいて他の子の状況にまで気を配ることもできる、いわば「デキる」従業員に見える。

 見えるん、だけれど。
 それってイコール「精神ずぶとい系」って訳じゃないよね、と私は思ってる。
 「平気な顔で」って言うけれど、営業スマイルって、ただでさえ素顔を隠す仮面と似たようなものだ。あの子の場合はそのスマイルがそれこそ貼り付いて固定されているように見えるものだから、余計に仮面めいた印象がある。
 つまり彼女の「平気な顔」は、必ずしも本当に平気とは限らない、ってこと。
 セクハラに関していえば、霧ヶ峰さんが受けたのは本当に「たまに」程度のようだけれど……それでも、ね。
(45) 2022/10/22(Sat) 17:19:46

【人】 高山 智恵

 他の従業員たちがあからさまにギョっとするような汚れ仕事や力仕事だって、文句の一つも言わずにやり遂げる霧ヶ峰さんだ。
 だからって、文句言わないんだから仕事押し付け続けていいって訳でもない>>41
 いつも通りに笑ってみせてる顔の裏で彼女がどんな「無理」をおしているか、判らないのだから。


 そんなあの子が「無理なもの」をちゃんと回避したんだ、と内心ひとり思いながら、私は家路に就いた。
 多分、苦笑いしてたんだろうなあ、この時の私――
(46) 2022/10/22(Sat) 17:20:24

【人】 高山 智恵


 ――私は無理してない?
   自分の気持ち、無理して殺そうとしてない?


 ――あのだって、今、ひとりきりで・・・・・・無理してない?
   あの娘の側には今、誰がいる? 誰が助けてくれている?




 ……ああ、今日はもうさっさと、うち帰ろう。**
(47) 2022/10/22(Sat) 17:31:30
高山 智恵は、メモを貼った。
(a3) 2022/10/22(Sat) 17:36:51

【人】 高山 智恵

 結局あの日業務外要望を押し付けてしまったバイトの子からは、その日のうちに、ちゃんとカズ君と連絡が取れたとの報告があった。そのカズ君から私宛に「ありがとうございます」の伝言を受けた、とも。
 ……バレたくないバイトの件が結局バレたか否か>>52>>53は不明のまま、だけれど(あの子の顔色を見る限りだと、気恥ずかしさとか、そういうのは無かったっぽい)。

 手短に報告されたのはそれだけで、あの子が他に何かカズ君から聞いたり話したりしたか>>54>>55>>57>>58というのは聞かなかったけれども。ちゃんとカズ君にこちらからの伝言が届いたというのは判ったから、それだけでも胸が幾らか楽になった。
 これでカズ君が一人で突っ走ってしまう心配はなくなったし、いざという時には頼みにできる大人たちが動くだろう。
 あとは、昼に来たっきりのあの子亜由美が無事であればいい。さらに望むならば――あの子やカズ君が多分抱えてるんだろう浮かなさが、ちゃんと晴れてくれればいい。


 そうして日も暮れてから店を閉じるまでの間に、また何かあったかどうか――それについてはまた別の話に。
(83) 2022/10/23(Sun) 16:08:37

【人】 高山 智恵

 さて、まだ一つ話していなかったことがある。
 “ 彼女 ”が去年カフェを辞めた、そのいきさつだ。

 ……といっても、特別衝撃的な出来事があった訳じゃない。
 単に独立の準備をするからというだけの、いわば円満退職だ。店長も、彼女の新たな航海を後押しする形で、笑って送り出した。
 尤もこの時、キッチンスタッフの穴を埋める人材引き継ぎの件で色々あったんだけれど……まあそれはいいや(色々あった程度には、彼女はシェフ兼パティシエとして優秀だった、ってことだ)。

 それ以降、彼女はこの街に戻ってきていない。
 別の街でカフェの開業を始めるためにあちこち奔走しながら、所々で見つけた“ 素敵なもの ”の写真を私に送ってきているんだろうと、私は思っていた。
(84) 2022/10/23(Sun) 16:12:04

【人】 高山 智恵

 物理的に遠く離れても結局途切れることのない、この一方的な気持ちは、思えば本当にずるずると長く続いていた。

 告白してみる勇気も勢いも持てなかったうちに、「彼女はあのひとを見ているんだ」と知った日>>2:106
 それからも何年も何年も、「あり得ない」期待ばかり考えながら彼女の隣で働いていた。
 どこかであの男に幻滅してくれないかな、なんていう捻くれた期待すら、抱いていた。結局、正直な彼女の口からは、そんな幻滅が零れることなんてなかったんだけれどね――。

 ……こんなこと考えるだけで、大分、自己嫌悪ってひどくなってくる。
 打ち明ける勇気も持てなければ断ち切る勇気も出せない私なりに、どうすれば、と今夜も考えるんだな――…
(85) 2022/10/23(Sun) 16:13:15

【人】 高山 智恵

( いっそさ、ちゃんとあのに告白して嫌われてみる? )

 多分これ、何度も何度も考えてる。
 けれどもそれは、できない。

 ――だってあの娘が私を嫌って離れたら、
   他に誰が側にいるの?
   あの男ですら、あの娘の側にいる訳じゃないんだよ?
   あの子みたいに、探してくれるカズ君
   気遣ってくれる子が他にいる保証なんてない。
(86) 2022/10/23(Sun) 16:16:29

【人】 高山 智恵


 ……結局、彼女に嫌われること、拒絶されることを、私は恐れ続けている。
 そんな恐れだって、無理してでも超えなくちゃ、片想いを自分から絶ち切るなんて芸当はできやしないんだろう。

 ――私がそういう無理なんてしてたら、
   他の若い子たちに「無理しない」なんて
   言える顔もないでしょ?

 
(87) 2022/10/23(Sun) 16:18:33

【人】 高山 智恵

 こんな夜に限って、スマホアプリのプレイリストのランダム再生で掛かってくるのは、“ あなたはあなたのままでいい ”なんてメッセージを乗せた柔らかなヴォーカルだ。


( 私は私のままで――、か )


 私を、“ 私の想い ”を自分で殺してしまうことなく、それでいて想いを薄れさせ、手放すには――。


( あの男こそ、絶対あの娘に相応しいって
  ……そう認められるようになったら、いいのかな )
 
(88) 2022/10/23(Sun) 16:19:36

【人】 高山 智恵

――明くる日の休日――


 その日、私は電車と地下鉄とを乗り継いで、都心の中の少し閑静な地区にあるチョコレート専門店を訪れた。
 ここは、彼女の“ 素敵なあのひと>>2:106が構える店だ。

 シンプルな一粒からデコラティブな一品まで、精緻な細工品とでも呼ぶべきチョコレートがショーケースに並ぶ。
 この店でもハロウィーンらしい季節限定の新商品は出されていたけれど、専門店としての基本的な部分――この店ならではのカラーは伝わるようにしているのが、ちゃんと判る。
 そして小さいながらもカフェスペースも併設されており、私が来た時にも、何人かのお客様がチョコレート手元に話に花を咲かせていた。
 そうした混みがちな時間帯だったからか、シェフである“ あの男 ”も、店頭で接客に当たっているところだった。
(89) 2022/10/23(Sun) 16:20:43

【人】 高山 智恵


『いらっしゃいませ。
 ああ、お客様、もしかして―――の』


「え? あの、覚えてくださってたんですか?」


 うちのカフェの店名を挙げながら爽やかに笑うショコラティエに、私は面食らって目を丸くした。
 彼はうちの店には客として一度来ただけで、私ともその一度しか顔を合わせたことがない。しかもその時の私はただのバイトの一人だった。
 お客様をお迎えする側の私はともかく、彼の方からもこちらの店員の顔を覚えてくれていたとは!

 これは彼がお客様としてうちに来た時もそうだったのだけれど、彼はただ物腰が柔らかいというだけでなく、自分の立場に驕ることなく、細やかな気配りができる人、という印象だった。それは彼の作品チョコレートの造りの繊細さにも表れているようだった。
(90) 2022/10/23(Sun) 16:21:37

【人】 高山 智恵


( ショコラティエとしても、人間としてもデキる男。
  そうだな。そりゃ。
  あの娘が惚れこんじゃうのも道理かあ――… )


 きっとあの娘は最初に出会った時から彼の人間性にも惹きつけられたんだろうな、とひとり納得しながら、プラリネチョコレート6粒の箱を注文した。
 そしてカウンター越しに、彼から商品の箱を受け取った――。
(91) 2022/10/23(Sun) 16:22:05

【人】 高山 智恵


 …………………………。




 彼の左手の薬指に、キラリと銀色に輝くものが嵌っていた。
 
(92) 2022/10/23(Sun) 16:22:47

【人】 高山 智恵


 ……えーっとこれ、前にうちに来た時は着けてたっけこの人?
 顔と態度は覚えていても、指輪の有無までははっきりと記憶に残っていない……いや、過去のことは問題じゃない。今のことが問題なんだよ。なんだけれど。


「……、……ありがとうございます。
 あ、あの。失礼ですが……ご結婚されてるんですか?」


 いや、これ本当に失礼なやつだよ。仕事に全く関係ないところで他人の既婚未婚を聞き出そうとか。そういう他人のプライベートをどうしてわざわざ人は詮索したがるのかなあ??
 ……自分で言ってて情けなくなってきたよ……。

 解ってはいた、解ってはいたんだ。でもつい訊かずにはいられなかった。
 彼は嫌な顔一つせず(忙しいってのもあるだろうだから、嫌な顔していいところなんだけれど)「そうなんですよ」とさらっと答えた。妻には経営面で支えられてるとか、そういう短い話も笑って添えて。
 私は辛うじて内心の動揺を抑えて、プラリネの箱を受け取ってから、もう一度「ありがとうございます」を笑って口にした。

 そのままそそくさと店を後にする己の背に、周囲の視線が刺さった気がした。
 多分これ、傍から見たら「あの人シェフ狙いで来てたんだ〜」みたいに見えるんだろうな……。そういうの期待していた皆々様には大変残念だけれど、これ、私自身の問題じゃないんだよ。
(93) 2022/10/23(Sun) 16:25:34

【人】 高山 智恵


( ナナ!
   あんたがランスロット卿他人の連れと不倫する奴になってどうすんの!! )



 かのランスロット卿がそれだけの役柄って訳じゃないことは知ってるよ、知ってるってば! っていうのは置いといて。
 この件については、ナナに直に問い質さないといけない。出先での通話は、流石に傍目に見聞きされるとヤバそうな気がしたので、努めて抑えて。
 ふつふつと湧きあがるあれやこれや――ちょっと自分でも形容しがたい類の焦燥感を抱きながら、私は真っすぐに自宅へと引き返していった――。


 ……っと、そうだった。言い忘れてたけれど。
 「ナナ」っていうのが“ あの ”の名前だ。**
(94) 2022/10/23(Sun) 16:26:16

【人】 高山 智恵

 あのチョコレート店から引き返して自宅に着くや否や、SNSの画面を開く。そしてナナに先にチャットを送ることもせず、いきなり通話機能で電話を掛けた。
 1秒、2秒、3秒、……(39)10n60秒。
 彼女のぼんやりとした声が、スピーカー越しに響いてきた。


『もしもし。高山さん、どうしましたか』


 スピーカー越しとはいえ久々にきちんと聞いた彼女の声は、本当に去年までと変わらず、歳の割にどことなく幼くのんびりとした響き。それでいてあの頃よりも、少しぼんやりとしているような声だった。


「ナナ――黒江さん、あのさ、あんた。
 あの男……ショコラティエの――さんのこと、
 好きだとか言ってたっしょ」


『はい。あのひとのことは今でも好きです』
 
(95) 2022/10/24(Mon) 12:33:02

【人】 高山 智恵

 今日私が知ってしまったことが事だった所為か。
 ナナの声の緊張感のなさを耳にして、焦燥感の中にちょっとした怒りの火が点いた。


「その男、既婚者だよ!! マズいっての!!
 まさかと思うけど最初から知ってて好きだとか
 そういうんじゃないよね黒江さん!?」


『いいえ、そういうんじゃないです高山さん。
 知らなかったです。今初めて知りました』


 ナナは相変わらずのほほんとした調子で、淡々と答えた。
 ――最初っから不倫する気満々だったとか、そういう訳じゃないみたい、か。
 私がそうほっとしたのも、束の間。
(96) 2022/10/24(Mon) 12:33:35

【人】 高山 智恵


『でも、どうして既婚者だとマズいんですか?』

「マズいでしょ!!!!」



 あまりの返答に、私は思いっきり怒鳴って即答していた。やっちゃった……と内心思いながら、それでも私は声量を抑えて言葉を続けた。
 カフェと料理といきものには強い興味があって、けれどその他は大して眼中にない――元々かなり浮世離れしているところのあった“ 天使 ”だったけれど、まさかここまで世間知らずの常識知らずだったとは……という呆れが、この時の私にはあった。


「あのさ、この前ニュースでやってたでしょ――いや、やってたんだけどさ。
 浮気がバレて離婚した俳優がいたって」


 それから私は、一連の報道内容に基づいたその俳優の状況>>0:15を簡潔に説明した。
(97) 2022/10/24(Mon) 12:35:08

【人】 高山 智恵


「――既婚者と付き合うって、さ、
 そういうヤバいトラブル招くってことだよ。
 芸能人みたいに炎上したり追い回されたりは無くても、
 相手の奥さんに多額の慰謝料請求されたりとかさ」


 社会通念的にどうだとか相手側の気持ちがどうだとか、いつぞや話したアーサー王とグィネヴィアとランスロットが結果としてどんな運命を辿ったかとか、そういうことは言わなかった。彼女にはそれよりも実利的なことを話したほうが効く。そう思いながら、こう説いたのだけれど。


『はい。でも、高山さん』


 この期に及んでまだ「でも」が来るのか……と頭を抱えたところで、彼女はこう、続けたんだ。
(98) 2022/10/24(Mon) 12:35:33

【人】 高山 智恵


『どうして私があのひとと不倫することになってるんですか?
 私は、あの男と恋愛したいとは思っていません』
 
(99) 2022/10/24(Mon) 12:36:02

【人】 高山 智恵


「……… ………は?」


 ナナが一体何を言っているのか、全く理解できなかった。
 その一瞬、思考自体が完全に停止していたんだと思う。
 私が「は?」の一声の後、暫く何の返答もできないでいた時に、彼女はさらに話を続けた。


『あの。私は――さんあの男が好きですが、恋してはいません。
 ショコラティエとしての一生懸命さが素敵で、好きです。
 でも、恋愛や結婚をしたい人、というのとは違います』


 漸く、彼女の言葉が飲み込めてきた。
 つまり、好きは好きでも、「好ましいlike」であって「愛してるlove」ではないってこと? そうなの??
(100) 2022/10/24(Mon) 12:36:45

【人】 高山 智恵



「そ、そう、なんだ?
 じゃ、じゃあ『振り向いてもらいたい』ってのは……」


『振り向いて? 私そんなこと言いましたか――、
 思い出した。そういえば私、言ってました。
 あの男から見ても本格的だって認められるような、
 そんなチョコレートを作りたいって思って、
 振り向いて、って言ってました』


 ……それこそまるで、掛けられていた魔法がさっと解けていくかのように。
 通話越しにナナが伝える真相と真意を前に、全身が脱力していくのが判った。
(101) 2022/10/24(Mon) 12:37:23

【人】 高山 智恵



「そ、そっか……。
 じゃあ別に、恋愛対象として
 振り向いてほしいとか、じゃなくて」


『違います。
 どうして高山さんはそう考えたんですか?
 高山さんは、やっぱり
です』


 いや普通はそう考えちゃうよ!!!!
……と言いたかったけれど、確かに愛だとか恋だとかの言葉をナナの口から聞いた覚えはない。つまり私が一人で勘違いして、何年もそう思い込んだまま今の今まで過ごしていた、ということだ。
 私もこればかりは、ナナから「変」の烙印を押されるしかない。
(102) 2022/10/24(Mon) 12:37:51

【人】 高山 智恵

 そう、ナナは最初から、あのショコラティエに想いを寄せてなんていなかった。
 私があのから離れないといけない絶対の理由は、もう存在しないんだ。

 ……でもそれと、彼女が私に振り向くか否かはまた別の問題。
 彼女は私に興味なんてないかもしれない――否、そもそも恋愛自体に何の関心もなくたっておかしくない。今までのあの“ 天使 ”の言動を鑑みれば、そんな風にすら自然と考えられる。
(103) 2022/10/24(Mon) 12:38:50

【人】 高山 智恵

 ふっとこみ上げてきた期待を私は抑えて、努めて平静を保って言葉を続けた。


「……そう、だね。変だったよ私。
 なんっていうか、その、ごめん。
 変に勘違いしてこんな電話しちゃったりして」


『電話のことは気にしないでください。
 私も最近、高山さんに電話したほうが
 いいかどうか考えてました』


「え?」


 この後にナナが続けた話は、不倫疑惑の件やその真相解明とは別の意味で、少しばかり衝撃的だった。
(104) 2022/10/24(Mon) 12:39:01

【人】 高山 智恵

 曰く、ナナは去年の退職後、確かにカフェの開業を目指して本格的に動き出していた。店舗の場所探し、資金集め、食材の仕入れ先の確保などなど……勿論、オリジナルのメニューの開発も。
 こうしたことにひとりきりで・・・・・・取り組み始めた結果、半年ほど前に、文字通り、倒れたのだという。
 そういえば確かに一時期、チャットで写真が来なかった時があったけれど……結局1週間くらいでまた写真が届き始めたから、単に忙しくなってたのかなくらいにしか思ってなかったんだ。
 結局この件で実家の親御さんまで病院にやってくる始末となり、それ以降は実家に戻って(戻されて)暮らしているとのこと。カフェの新規開業の計画も、一旦白紙に戻すことになったらしい。
(そう、彼女にはちゃんと、いざという時に頼みにできる親御さんがいるんだ)

 で、暫くは仕事のことは考えずに静養しなさい……と親からも医者からも言われていたんだけれど、それでも、カフェをやる、という“ 使命 ”は彼女の中で消えないままで。
 親御さんとも相談した結果、まずは文字通り手を貸してくれる仲間を集めてからにしなさい、ということになったんだって。

 ……なんとなく、彼女ならこうなりそうな気はしていたんだ。
 だからこの話から受けた衝撃も、「少しばかり」程度のものになってしまった。
(105) 2022/10/24(Mon) 12:41:16

【人】 高山 智恵


「そっか、黒江さん。そうだったんだ。
 ……いや、めちゃくちゃ大変だったんだね」


 それ、私にくらいその時に話してくれて良かったのに――と言いそうになった口を噤む。
 ちゃんと頼れる親御さんがいる彼女に対し、ただの元同僚の私なんかに言えることじゃないでしょって。
 ――助けてあげたい。
 そう思ったって、助けてほしい相手は私って訳じゃないでしょって、私はひとり思い直したんだ。
 ――わざわざナナが私に電話しようとしていたことの意味も考えずに、ね。
(106) 2022/10/24(Mon) 12:42:02

【人】 高山 智恵


『はい、大変でした。なので、
 私よりもマネジメントが得意な高山さんに
 オープニングスタッフになって貰いたいです』


 …………あの、ナナ、あなた今なんて言った??
 とっさには何も彼女に返せず、「えー」だの「あー」だのといったしどろもどろな声ばかりが喉からこぼれ出る。
 っていうかオープニングスタッフって言うけれど、カフェ開業計画は一旦白紙に戻してそれっきりなんだよね? 今はもうちょっと先にやることない?? いやそれとも単に計画とか準備とかを一緒に手伝ってほしいってだけの意味合い?
 正直、私自身かなり混乱していて、この時きちんと筋道立てて考えられていたのか自信がない。


「あ。うん、だから私に電話しようとしてたんだ……。
 うん、そう言って貰えるのは嬉しいん、だけれど。
 ちょっとこっちの勤務とかのこともあるから
 すぐさまスタッフに〜っていうのは難しいかな……」


 実際今の私は正社員の身分だ。それは彼女も当然把握している。
 本気でナナの店に移るとなれば、うちのカフェでもそれ相応の引き継ぎをきちんと行わなければならない。私も将来独立を考えてるってことは店長も聞いてるから>>2:105、そこまで強硬に引き止められる……ってことはないと思う、けれど。
 というかこれ、古巣からの人材引き抜きってやつじゃ……。ナナ本当に堂々とこういうこと言うよね……。
(107) 2022/10/24(Mon) 12:42:57

【人】 高山 智恵


『難しい、ということは、ダメってことですか?』


「あ、ううん、そうじゃなくて――
 いや、うん。本当にダメかも。
 流石にうちの店を無責任に出て行くのはできないから
 もしそっちのオープン時に引き継ぎ間に合いそうなら
 スタッフになる、くらいに考えといて」


 「分かりました」と答えたナナの声色があからさまにしょぼんとしていたので、誤解を避けるためにもう少しだけ付け加える。


「でもさ、資金集めとか仕入れ先のこととか、
 そういう事前準備で今からでもやれることあったら
 今の私にできる範囲で、ちゃんと力になるから。
 そういうのは本当遠慮なく伝えてよ」


 これに続いての「分かりました」は、明らかに先ほどと異なる声の弾み方だった。
 ……彼女、本当に私のことをアテにしていたってことらしい。
(108) 2022/10/24(Mon) 12:45:06

【人】 高山 智恵


「あと親御さんとかにも言われてるかもだけれど、
 協力者は多ければ多いに越したことないから、
 私の他にもちゃんと仲間見つけておくんだよ」


『分かってます』


 あ、この「分かってます」はちょっとイラッとしているやつだ。こういうところがこのは……。
 尤もこうは言ったものの、私の方でもちょっと人材は見つけておいた方がいいかな、とは考えている。
 いや流石にうちのバイトの子を大量に引き抜くとかそういうことはしないけれど。そもそも勤務地遠くて無理とか出てくるだろうし。立地どうなるかにもよるけれど。



「じゃあ、何かあったら連絡して。
 こっちでも何かあったらまた電話するから」


『はい。分かりました。それでは――』


 いやいや、まさか不倫疑惑からこんな話に発展するとは……。
 そう思いながら通話を終えようとして――ふっと、零していた。
(109) 2022/10/24(Mon) 12:45:42

【人】 高山 智恵


「それと、だけれど」

『……どうしましたか?』


 幸い、ナナはすぐさまに通話を切ってしまう前に、私が零したことに気づいてくれた……いや、「幸い」って言うべきなのかな、これ。
 「ううん、何でもない」の一言で誤魔化しちゃおうかとも考えたけれど、変に含みを残したまま話を打ち切ってしまうのもどうかと思い直して話を続けることにした。彼女、こういうことがあると、けろっと忘れてることもあれば執拗に覚えていることもあるので……。


「それが、その」

『はい』

「えっと、さあ……」


 話を続けることにはしたものの、肝心のその先が見つからない。私のそんな躊躇いにも、ナナが通話を打ち切ることはなかった。
 辛抱強さを表すような沈黙を前に、私は言葉を迷っていた。
(110) 2022/10/24(Mon) 12:46:30

【人】 高山 智恵



 ――私、本当はあなたを愛しています。
   そんな私でも、あなたと一緒に居てもいいですか?



 これは、この時率直に思っていたこと。
 言いそうになってしまったのは、そんな言葉。
 けれどもこんなこと、言えない。言えるわけない。

 大分、大分迷った先に、出てきたのはこんな問いだった。
(111) 2022/10/24(Mon) 12:46:53

【人】 高山 智恵


「私、これからも――ううん、ずっと、ナナの側にいてもいい?
 あ、『側に』って言っても今は離れてるけれど、
 そういうことじゃなくて、心理的に?って意味――
 勿論物理的にでも、会える時は会いたいし……」


 取りようにとっては事実上の愛の告白だけれど、ナナはそこまで行間を読み取らない。多分、この言葉を額面通りに受け取るだけだ。
 かといって、真意を察しないナナ相手だからこんな姑息な言い回しを平気で言えた――という訳でもない。言ってしまって良かったのか、という自問は尽きない。
 もしもあの娘が、それでもこの言葉の意味を解ってしまったら? ううん、それよりも――言葉の意味も解らないままYesを返してしまったら? それは私が彼女を騙した、ということになるんじゃない?


『高山さん』


 幾らか間を置いてから、ナナの淡々とした返答が響く。
 その幾らかの間も、続きを待つまでの数秒も、ひどく、ひどく長い時間に思えた。
(112) 2022/10/24(Mon) 12:48:29

【人】 高山 智恵


『いいに決まっています。
 物理的にも心理的にも、側にいてほしいと
 思える人だったから高山さんと電話しています。
 わざわざそんなことを訊いてくるなんて、
 やっぱり高山さんは
すぎる人です』


 ……だよね。やっぱり普通にそう受け取るよね。
 額面通りに受け取ったナナからの真っ当な指摘が、色々な意味で胸に刺さる。
 確かに彼女の言う通り、言葉通りの意味において、私の問いには本当に何の意味もない。
 そして、真意に気づかないナナの側に居続ける私は、彼女に嘘を吐き通したまま、ずっと・・・側にいるなんてことができる?


「そっか、……そうだよね、うん、私、変だ。
 とにかく、ありがとね、黒江さん。
 それじゃ、また――」


 “ 私は私のままでいい ”――。
 そんなメッセージも遠くなってしまうような自己嫌悪は、努めて声に滲まないように取り繕って。
 こんなことならいっそ直接的に告白してしまえば良かった。彼女への助力を反故にして裏切ることになっても、今この場ではっきり言ってしまえば良かった。
 でも、あの娘と離れたくない、力になりたいっていうのも、私の本音で――。
(113) 2022/10/24(Mon) 12:49:12

【人】 高山 智恵

 今度はナナの方が「高山さん」と、通話を切ろうとする私を引き止めた。
 そして彼女は、私のように逡巡を挟むことなく、スピーカー越しにはっきりと告げてきた。


『なんなら私、高山さんと結婚してもいい・・・・・・・と思っています。
 そのくらい、高山さんが側にいてくれると、
 助かりますし嬉しいです。
 だから私、31日にそちらのカフェに来ます。
 私は店長から貰った黒猫マントを着ようと思うので、
 高山さんは一昨年の魔術師マーリンの仮装で来てください』


 え? と思った矢先に矢継ぎ早に告げられたのは、何かとんでもない無茶振りだった。
(114) 2022/10/24(Mon) 12:51:01

【人】 高山 智恵

 確かにハロウィーン前日と当日は学生諸君客のハロパに合わせる形で、接客担当は何かしらの仮装をしてくるのが通例になっている。
(なので、基本裏方に徹していたナナは仮装をしなかった。彼女が貰った「黒猫マント」というのは、バイトのホールスタッフからイベント後に返品されたものが彼女に回ってきた形だ)
 仮装の度合いもカチューシャ一つから全身コスプレまで業務に支障を及ぼさない範囲で様々だが、大学時代のことが切欠で決定された私のマーリンはその中でも結構なコスプレだった。
 衣装の詳細は皆々様のご想像にお任せしておこう。



「う、うん……分かった。
 じゃ、来てくれるの、待ってる」

『はい。それでは失礼します』


 こうして今度こそ、通話は打ち切られた。
(115) 2022/10/24(Mon) 12:51:40

【人】 高山 智恵

 はあ、と狭いリビングのカーペットの上で溜息をつき、仰向けに寝転がった。……なんか何時かの写真のだるだるなカナブンの幼虫みたいだな私、なんてぽつりと思う。

 ………………。

 ちょっと色々なことがありすぎた挙句、最後の仮装の無茶振りに全部持っていかれて呆然とするばかりで――。
 どうでもいいけれどこのアーサー王伝説のマーリン、相当な
ナンパ男
だったっていう伝説もあるんだよね……。多分ナナはそこまで深く考えてはいないだろうけれど。

 そう、魔術師マーリンの再来の件のインパクトで、一瞬、記憶から抜け落ちていたのだけれど。

 基本的に、ナナは嘘を吐けない>>2:107。嘘を言っていたとしたら、それは彼女自身が真実だと誤認したことだ。
 そしてこれまた基本的に、彼女はわりと物言いが直接的だ。含みを持たせた言い方だとか比喩だとかは、皆無という訳ではなかった気もするけれど、あまり言わない方だ。

 そしてそんな彼女は確かにさっき、あんなこと・・・・・>>114を口にしていた。
 それも、わざわざこちらを引き止めて言い置く形で、だ。
(116) 2022/10/24(Mon) 12:52:46

【人】 高山 智恵



 「 ……そういう、こと、なの ? 」


 「もしかして」、という期待自体は確かにあった。けれどそれは全部、ただの自分に都合の良い妄想だと思っていた。
 だから――この状況に対して、全く現実味が追い付いてきていない。
 どうする。どうすればいいの私。本当どうすればいいの??
 もう一回電話掛け直して問い質す? いやいやこんな調子で問い質しに行って私ちゃんと喋れる??
 大人しくじっと塀の上で佇んでいた野良猫にいきなり襲撃された時でも、こんなに動揺したことはなかった。

 ――とりあえず落ち着こう。落ち着こう……。
 買ってきたばかりのプラリネの箱を開け、シンプルに徹したくちどけと甘味に意識を一旦向ける。
 本当は彼女の恋路を応援する心算で買ってきたこのチョコレートだった、けれど……その恋路の先が本当にどこに繋がっているのか、すぐさまにはちょっと予想図が描けない。
(117) 2022/10/24(Mon) 12:53:25

【人】 高山 智恵

 ああ全く、本当に、本当に。
 猫は気まぐれで、薄情に見えて、時に凶暴なようでいて――それでもちゃんと体温のある生き物で。
 そんな一見気まぐれにも受け取られかねない正直な一言に、こんなにも揺り動かされている。
 ――ううん、これは猫の一言じゃない。人間であり、ナナという人だ。


 本当の意味で、私はあのナナから離れられなくなった。離れようがなくなった。
 ナナの言葉の真意は、それでも未だはっきり自信を持って確かめられたわけじゃない。けれど。ううん、だからこそ。
 せめてハロウィーンの当日には、ちゃんと彼女の思いに向き合って――私の想いも、今度こそ伝えよう。
(118) 2022/10/24(Mon) 12:54:47

【人】 高山 智恵


 枯らそうと思っていた幾年もの想いは、けれども――。
 今年の冬をもまた、越していこうとしているよ。**
 
(119) 2022/10/24(Mon) 12:55:26
 




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