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【人】 従業員 ルミ[ 過ぎ去った日々に特別を今更見出すことは叶わない。 そんな都合の良い魔法はないの。 片方の気持ちだけでは弱すぎるのなら。 忘れてしまえる程に脆いのなら。 あの時甘すぎて食べられなかったりんご飴みたいに、 飲み込めないくらいの傷をあげる。 ] (6) 2024/05/07(Tue) 12:50:07 |
【人】 従業員 ルミ[ 「さて、どうでしょう」と彼の言葉にまた笑った。>>3 釘を刺しているつもりは実際ない。 そのつもりが少しでもあるのならば、きっと、 彼は折衷案を出さず家に来てくれたはずだから。 ねえ、そうだよね? わたしだけの、お兄さん。 ] うん! 預かっておくね。 保冷剤、送ってもらうなら返せば良かったね。 ごめんね? [ そう言いながらプリンの箱を受け取り、冷蔵庫へ仕舞う。 保冷剤も一緒に冷やして、 中身が見えないように扉を閉めた。 一度だけ、同じ味を知りたいと思って飲んだ缶ビール。 苦くて舌が痛くなるような大人の味。 アイスを食べて笑った少年はもういないのに。 ] (7) 2024/05/07(Tue) 12:50:12 |
【人】 従業員 ルミ[ アイスかホットか好みを聞いて、コーヒーを淹れる。 紅茶やお茶も用意自体はあるのだけれど。 ──ああでも、この夜を飾るにはやっぱり、 味の濃いコーヒーがよく似合いそうだから。 ] ああ……そうだね。 初めてお兄さんと会った時は、小学生じゃなかったな。 五歳差。お兄さん、24でしょ? わたし19なの。 でも小学校は、三年生になるまで行ってないから。 [ だから結局同じところに通えなかったね、と笑う。 ──言ってから、しまった、と内心舌を打った。 彼が今何歳か知らない方が自然だったのに。 緊張しているのは此方も同じ。 気取られないようコーヒーを彼の前へ置いた。 ] (8) 2024/05/07(Tue) 12:50:17 |
【人】 従業員 ルミランドセルとか教科書、買ってくれなくて。 まあ友達いなかったり色々あったから、 結局その後もあんま通ってなかったんだけど…… あ、でも、高校はちゃんと卒業したよ! 通信制だけど、学費稼いで通い切ったんだ。 [ 幼い頃は無知ゆえに、彼を繋ぎとめる術を持たず 今はそもそも" 繋ぐ "糸すらあまりに薄い。 室内には年齢を考えれば不相応のブランド物が並ぶ。 売れば数百万は手元に入るだろう。 これで利用価値のある女だと思ってくれれば、 事は簡単に進むのに。 ] (9) 2024/05/07(Tue) 12:50:33 |
【人】 従業員 ルミ[ 無垢な少女とは掛け離れた打算の色。 人畜無害な顔して笑う絡新婦のように毒を纏って、 美しい色彩を帯びて咲く花々のように棘を隠して。 女はにこ、と絶えず笑う。 ] ……ううん! まず先に飲み物とか用意しちゃうね。 お兄さん、明日も用事あるんでしょ? 長引かせるのも申し訳ないからさ。 [ 暗に長く拘束する気はないという意図を手渡し、 獲物を捕らえるための糸を張る。 家の中に誘い込んでしまえばこちらのもの。 足なんて今更丁寧に怪我の虚飾を飾る必要もない。 熱すぎないよう温度へ気を配り、 ミルクと──" お砂糖 "を混ぜて差し出した。 悪意なんて微塵もない振る舞いと声音。 ] (17) 2024/05/07(Tue) 19:06:27 |
【人】 従業員 ルミ…あはは、お兄さん忘れちゃったの? 昔教えてくれたのに。 わたしのこと忘れちゃうなんてひどいなぁ。 [ ──勝手に解釈してくれて助かった。 植え付けられた偽りの記憶に乗っかって、 努めて明るく、冗談めかして拗ねてみせる。 わたしはお兄さんのことを忘れられなかったのに。 忘れようと思わずとも、記憶から消してしまえたのか。 ────分かってる。 所詮これは名前も無いNPCの馬鹿みたいな妄執。 頭と理性では分かってて、でも、引き下がれない。 だから今、二人はここにいるんだもの。 ] (18) 2024/05/07(Tue) 19:06:46 |
【人】 従業員 ルミ……他の大人とか、学校とか、どうでもいいよ。 " かわいそう "だから助けるんでしょう? 一緒にいてくれないなら、 途中で役目はおしまいって消えちゃうなら、 かわいそうじゃないわたしを見てくれないなら、 最初からそんなのいらない。 [ 水底の澱みの様にまっくらな声だった。 彼の言葉や感覚はきっと、社会人として真っ当で 絶対的な大人の意見だ。 欲しいのはそんな遠巻きな距離と温度じゃないのに。 ここにあって当然なのは、その関係でしかない。 会わずに重ねた何十回の夜が あの頃の楽しかった毎日を冷やしていく。 小さいまま、小さかった頃のまま大きくなりたかった。 胸になにかが込み上げてくる。 今すぐに痛みでこの感傷を流してしまいたいような、 ] (19) 2024/05/07(Tue) 19:07:05 |
【人】 従業員 ルミ────うん。 ルミ、頑張ったよ。お兄さん。 [ ああ、でも。 死にたくなるような痛みを与えるのが彼ならば、 生きたくなるような温度をくれるのも貴方なの。 ] (20) 2024/05/07(Tue) 19:07:12 |
【人】 従業員 ルミ[ 本題に入る彼がどれほど飲み進めたかを確認し、 警戒させないよう一人分の間をあけてソファへ座る。 画面越しではない、大人になった好きな人。 ──奇跡なんかで終わらせない。 ] あのね。 ……えっと、えへへ、ちょっと恥ずかしいな。 わたし──好きな人がいるんだけど。 [ 小さな頃は絶対に話題にも上らなかった恋の話。 お兄さんは──半年前が最後だもんね? SNSの内容を思い出しながら言葉を続ける。 ] (21) 2024/05/07(Tue) 19:07:45 |
【人】 従業員 ルミでも、わたし……今まで人と上手くいったことなくて。 その人もね、半年くらい前まで恋人がいたりしてたし " 今は "全然関わりもないくらいなんだけど。 ……けどね、その人以外好きになれないの。 ……わたし、友達もいなくて、親も頼れないから 将来どうしようって……一人の家が心細かったの。 こんな格好だと余計に、人の目も厳しいし……。 [ これは全部嘘じゃない。 実際問題、わたしは人と関わるのが下手だから。 他の店に行った痕跡を見るたび裏切ったと思い込んで、 いつもと違う匂いがすれば他の女だと怒りだして。 愛される錯覚を得るために営業を頑張れば 同じ店の女の子から距離を置かれるばかり。 夜の女だと馬鹿にされたことだってある。 傷が増えるたびに、彼との時間だけを思い出して、 二度とあんな時間は来ないのかと不安になって。 ] (22) 2024/05/07(Tue) 19:08:14 |
【人】 従業員 ルミ────お兄さん、そろそろ効いてきた頃じゃない? [ 体内に取り込んだ毒は、あたたかな血に混じり巡る。 もう指先から力が抜けるくらいは起きたかな? 大丈夫、怖いお薬じゃないからさ。 少し思うように動けなくなってしまうだけ。 ] (23) 2024/05/07(Tue) 19:11:26 |
【人】 従業員 ルミ……ふふ。 仕方ないな、許してあげる。お兄さん。 [ ────この時だけは、ね。 懐かしさに緩む頬と、憎らしさが胸を打つ。 ちらりと上目でこちらを伺う様は わたしが絆されると信じて疑わないみたいだ。 そう、あんなに小さい頃の想い出に固執する方が きっとおかしくて、馬鹿だよね。 お兄さんにとっては家族との会話より些細で短くって ──すぐ忘れてしまえるものだったのに。 お祭りの光を見て、私を思い浮かべもしないんでしょう あの時甘すぎると言って渡してくれたりんご飴。 懐古の海に沈めることに躊躇いがない貴方。 ] (30) 2024/05/07(Tue) 22:28:02 |
【人】 従業員 ルミ[ どんな人だってずっと片時も離れず、なんて出来ない。 けれど、不可能でも" そうありたい "と思うのが、 それを出来る限り伝える努力をするのが愛じゃないの? 見知らぬ愛を探そうと思える人間なら良かった。 そうすれば貴方を傷付けることも無かったのに。 でも、一度味わった愛が欲しかった。 どうしても忘れられなくて、手離せなくて、 ──誰に何を言われたってこれは戀だった。 愛されないなら、二度と交わらないくらいなら わたしの恋はここで散って その先で死を迎えるの。 ] (31) 2024/05/07(Tue) 22:28:16 |
【人】 従業員 ルミ無理だよ。 [ わたしはひどく落ち着いた声音でそう返した。 何の確証があって、と言われるかもしれない。 ] ────そんな希望、とっくに捨ててる。 [ 力になろうとはしてくれているのだろう。 けれどその解決策は有効性を失って、 今や毒を巡らせる以外になくなってしまった。 間抜けな声を上げる彼に、思わず無邪気に笑う。 ] (32) 2024/05/07(Tue) 22:28:21 |
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