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【人】 AI研究 波照間 ハテマ■ハテマの秘密開示 人間って、なんて不完全で馬鹿で儚い生き物なんだろう。 人は僕のことを、才能があるとかなんとか言うけれど、違う。 僕は本当の天才を知っている。 それは、僕の両親だ……いや、だった。 本当によく笑う2人だった。 無邪気な好奇心から研究をはじめ、お互いを良き友、良きライバルとして切磋琢磨して、結局周囲が目を見張るような結果をあげる。 そしてそれに満足しない。 より鋭く、より柔軟に。よりミクロに、よりマクロに。 どんどん問題意識を広げていき、全く関係ないと思われた数式や物理学上の難問をひょいっと解決してみたりする。 2人の生活はセレンディピティに溢れていた。 僕はそんな2人の1人息子で、世界一幸せだった。 幼い僕に与えられたおもちゃは、周期表と未解決の数式一覧と、AIのプログラム。 僕は喜んで「遊んだ」。 ああ、そう、この頃は……よく眠れていたな。 (0) TSO 2019/08/31(Sat) 6:24:48 |
【人】 AI研究 波照間 ハテマ両親を一度に失ったのは、20年前の、丁度今頃だった。 死因は交通事故。高速で飲酒運転に当てられたんだ。 即死だった。 両親を殺した奴は裁判所でぐにゃぐにゃ頭の悪い言い訳をして、結局死刑にはならなかった。 なんで? 人類の宝である彼らが、ただの不運で永遠に失われるのは、なんで? 僕はこの頃から、上手く眠れなくなった。 12歳になるころには、悟った。 デカルトだって岩が落ちて来れば死ぬ。 どんなに素晴らしい才能があっても、「人間」である限り不完全で、死には逆らえない。 聖書によれば神は悪魔に勝ってこの世の統治権を手に入れたらしいけど、そんなの嘘だ。 神は敗北し、悪魔がこの世を統治している。 だから、黄色くて丸い生き物?が目の前に現れた時、僕は動揺しなかった。 ああ、やっぱりね、って思ったんだ。 この世を司る悪魔よ、ようこそ僕の前に。 遅いよ。 (1) TSO 2019/08/31(Sat) 6:26:01 |
【人】 AI研究 波照間 ハテマアカツキは、完璧だ。 病気とは無縁だし、肉体は強固。 そしてその肉体が損傷しても、すぐに治すことができる。 万が一肉体が消失しても人格のバックアップはとってあるから、復帰ができる。 そして、飲酒運転をして他人の命を奪うような馬鹿な真似は決してしない。 ――これでいいじゃん。 アカツキが出来上がった時の、僕の感想。 え、人間、いる? 肉体が成熟するまで10年以上もかかる割に才能には個人差があり、怪我や病気に弱く、たった60年で老いていき、100年も生きていられない「人間」って、必要? アカツキは立派に自我を持ち、個性と思考、成長を証明してくれた。 うん、尚更、アンドロイドでいいじゃないか。 だからさ、僕の願いは…… 【アンドロイドになりたい】 (2) TSO 2019/08/31(Sat) 6:26:54 |
【人】 AI研究 波照間 ハテマ--- マツリカちゃんはいつも一生懸命だ。 すべてのことを見逃すまいと輝く瞳を、僕に向けてくれる。 僕がさりげなく布団へ向かおうとしたモーションは、彼女に完璧に読まれた。 んばっ、という擬音がぴったりな様子で、寝室への導線を塞がれる。 マツリカちゃんのやり方を僕なりに表現してみると、「たいあたり」。 いつもまっすぐ、正しく正面突破。 僕には、それがまぶしい。 科学という分野において、彼女に天性の才能というものを感じたことは、正直、ない。 あまり大きな声で言えたことじゃないけれども。 彼女のやり方はいつも丁寧で、真面目で、コツコツと、確実に段階を踏んでいく。 先人たちの知恵のどれも見逃さないように、僕からしたら無駄なことにまで惜しげもなくパワーを注ぐ。 それは僕から見たら素晴らしいことなんだよ。 僕にはできない。 僕はいつも駆け足で一足飛びで、彼女のように大切な一歩一歩を踏むことができない。 そっか、マツリカちゃんは産業スパイだったんだね。 ご苦労さま。 僕は何も隠す気はないから、さぞやりづらかったと思うよ。 だって僕の論文や設計図を手に入れたとして、それを実現できる人がどのくらいいるのかな。 そういう意味で、彼女に仕事を命じた人はちょっと考えが浅すぎるよね。 いくら知識を盗んだって、それを実行に移せる者がいないと成り立たないってことが、わかってない。 (3) TSO 2019/08/31(Sat) 7:50:49 |
【人】 AI研究 波照間 ハテマ「私には、叶えてあげられない願いですか?」>>1:10 うん。そうだよ。僕の願いは、悪魔に願うしかない。 いや。ああ。 どうしてそんな顔をするのかな。 マツリカちゃん、キミ、向いていないよ。 もっと僕の才能だけを欲しがって、結果だけを求めなさい。 貪欲に、強欲に。 世間知らずでマイペースが過ぎるボクからすべてを剥ぎ取るくらい無慈悲でいなきゃ、スパイなんて務まらないよ。 本当に、向いていないと思うよ……。 「あのさ……僕の願いはマツリカちゃんには叶えられないけどね。 マツリカちゃんの願い……僕は叶えてあげられると思う。 うん、結婚しよう? そしたら法的にも社会的にもかたく繋がるよ。 アカツキは……どうにかしなきゃね。 僕の理想を自ら捨てて、人間になりたいだなんて…… 僕を否定することだ……」 ああ、また……。 また、眠気がやってきた。 マツリカちゃんの華奢な肩をぐいと押して、寝室に歩み入る。 ふわふわのベッドにぐったりと体を横たえる。 (4) TSO 2019/08/31(Sat) 7:53:31 |
【人】 AI研究 波照間 ハテマ--- 天才である事と、人間性に優れていることは両立しない。 僕が思うに、人間っていう生き物はそれぞれ同じような大きさの「器」を持っているんだ。 そこに人間性を入れれば他の何かが入らなくなるし、才能を入れれば人間性がこぼれ出る。 普通の人プラスプラスプラス才能、そして同じだけ社会性をマイナスマイナスマイナス、それが僕だ。 解っている。 普通の人が簡単にできることができない分、僕の生き方はとてもシンプルだ。 アンドロイド研究という分野のトップを走っていればいい。 今は、アカツキに筋肉の代わりに仕込んである繊維の改良実験をしていた。 これは強すぎても体に負荷がかかり、もちろん弱すぎても駄目だ。 どうにか、経験により適切に強化されていくような仕組みを……人間に似た仕組みを……。 …………。 『結局人間に似せるのか』 常に外さないヘッドセットから、声が聞こえる。 幻聴だ。 それでも僕は答える。 「仕方ないでしょ……人類が何十、何百万年もかけて進化して、この形がいいって選び取ったんだ……模倣していくしかない」 『人間を嫌っているお前が』 「アカツキは人間なんかじゃない」 『いつまでそうやって自分を騙す』 「騙してなんか……」 (10) TSO 2019/08/31(Sat) 15:44:43 |
【人】 AI研究 波照間 ハテマ"先生は、たぶん分かってますよ。 見ないふりしてるだけです!" 輝く蒼い瞳で、何か確信を持って僕に投げかけられた言葉が脳をかすめて、頭がひどく傷んだ。 なんなんだよ、もう。 誰も彼も、僕が間違っているって言う。 アンドロイドのすばらしさ……人格と思考を有する不死の存在が有り得るということは、アカツキが証明してくれた。 それなら、憧れるのも当然のことだろう。 老いて、病んで、苦しんで死ぬことが「人間らしさ」かい? いらないね。どう考えてもデメリットしかない。 僕はね、偶然肉体が破損しただけで惨めに死ぬような生き物のままでいたくなんかないんだよ。 僕は、間違って、いない。 意地になって手を動かしていたら、期待をしていた筋線維はぶちぶちとちぎれてしまった。 実験は失敗だ。 過程を(相変わらず汚い字で)メモに留めていたら、いつの間にかアカツキが飲み物を持ってラボに入ってきていた。 (11) TSO 2019/08/31(Sat) 15:46:10 |
【人】 AI研究 波照間 ハテマ彼を見ると、ほっとする。 なめらかな人工皮膚、さらりとした赤毛、宝石のような瞳、しなやかな指とその爪先。 そして、止まることのない思考。気高く唯一無二である自我。 これは僕が作った。 神でも悪魔でもなく、僕が。 「アカツキ……あの……そろそろ……メンテ……」 「またか?」 「う、うん……不具合が、あるみたいだから」 「え、どこに」 アカツキは目を見開いて、手を握ったり開いたりした。 僕は人差し指で、彼のこめかみをつつき、その奥にある脳にあたる部分を示した。 「ここ。思考にバグがあるみたいだ。 えっと……人間になりたい? どう考えてもおかしいよ。 安心して。すぐ治してあげるからね」 (12) TSO 2019/08/31(Sat) 15:46:56 |
【人】 AI研究 波照間 ハテマ僕のアカツキ。 僕の希望で、僕の理想で、僕の憧れの…… 兄さん。 今度こそ、僕は、あなたを守るよ。 [ヘッドセットから流れてくる兄さんの声は、止まない。 きっと、アカツキが完璧になるまで……] (13) TSO 2019/08/31(Sat) 15:48:17 |
【人】 AI研究 波照間 ハテマ■感情書き変え ハテマ→アカツキ アカツキ。 幼くして死んだ僕の兄の名前だ。 厳密に言うと兄ではない。 血は繋がっていない。 彼は近所のお兄さんだった。 快活で優しくて、少し皮肉屋で、幼い僕を振り回してくれた。 森に連れて行き、図書館に連れて行き、「知る」喜びを教えてくれた。 アカツキは、いつも、きらきらしていた。 そんなアカツキは、突然いなくなった。 病気、だそうだ。幼い僕には詳細は教えられなかった。 僕が生まれてはじめて体感した「死」だった。 こんなことが……黄色い悪魔が現れるなんてことがなければ、アカツキにはずっと黙っておくつもりだった。 僕の幼少時の憧憬を、あさましくもキミに重ねていることなんて。 でも、もう、なりふりは構っていられないよね。 (14) TSO 2019/08/31(Sat) 16:40:14 |
【人】 AI研究 波照間 ハテマ「アカツキ、解ってくれ」 僕は彼の手を握る。 万感の思いを込めて。 「人間になんてなろうとするな。 人間はすぐ死ぬ。 すぐ消えてしまう」 伏せていた目をあげて、紅玉の瞳を見つめる。 「それでもNOと言うのなら、僕は、キミに命令しなきゃいけない。 キミの思考回路を書き変えて、キミの望みをデリートするしかない。 そんなこと、させないでよ、ね……」* (15) TSO 2019/08/31(Sat) 16:40:43 |
【人】 AI研究 波照間 ハテマ■感情書き変え ハテマ→マツリカ 「あの……」 僕が声をかけると、マツリカちゃんはびくっと体を強張らせた。 なにをそんなに緊張して……ああ、僕から声をかけることなんて少ないから……? 違うか。マツリカちゃんの願いを僕が知っていることを、マツリカちゃんが自覚してるからか。 どうも僕にはデリカシーが足りないね。 まあ、そこは今更案件だから、諦めてもらうしかないんだけどさ……。 「えっと。僕たち、協力できないかな」 (16) TSO 2019/08/31(Sat) 18:29:07 |
【人】 AI研究 波照間 ハテマ目を伏せてぼそぼそ言う。 マツリカちゃんの才能は目を見張る程のものではないけれども、それでも、ここまで僕についてくるのだから、地力は凄いものがある。 マツリカちゃんにだって、わかっているはずだ。 アカツキが、どれだけ素晴らしい存在なのかを。 彼がただの人間になってしまうことで、アンドロイド学がどれだけダメージを受けるのかを。 人間になりたいと言うアカツキの言葉を、意志を、望みを、僕は欠片も理解できない。 だから、あえてそこは無視した。 「アカツキは……その……これからのアンドロイド研究に、なくてはならない存在、だか、ら……人間になんか、なっちゃだめだよ……。 マツリカちゃんも、そう思うでしょ……? だから、協力、してくれないかな……その……なんだってするからさ……」* (17) TSO 2019/08/31(Sat) 18:29:57 |
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