【人】 封じ手 鬼一 百継慣れぬ酒を寝屋にしこたま運ばせ、独りで呑んだ。 儂は、酒を美味いと思うたことはなかった。 むしろ、周囲は何故こんなものを好むのか、ほとほと理解し難いと思っておった。 しかし、今宵、理解した。 ひとは、忘れたいから酒を飲むのだ。 耐えられぬから、飲むのだ。 もう戦えぬ、そう思うとき、飲むのだ。 酒に頭が浮かされる。 ぷかぷかする。 ――百継様、それ以上はお体に触ります。 くすくすと嗜める徽子の声が記憶から忍び寄る。 五月蠅い、煩い。 ぐいと杯を煽る。 儂が心を寄せた甘やかな存在は、総てうそ、赤子を騙す空言であった。 容易く懐柔された自分に、何よりも腹が立つ。 何が、仲間じゃ。 何が、強くなった、と。 何が、幸せだ。 勘違いに勘違いを重ねた砂上の楼閣の上で、儂は愚かに笑っておったのだ。 (9) TSO 2021/04/23(Fri) 0:30:40 |
【人】 封じ手 鬼一 百継儂は、何をしておったのだ。 人生を捧げ、尽力したつもりであった。 鬼一最後のひとりとして…… ぼたぼたと涙が落ちる。 これも酒のせいにしておけるとあらば、酒とはなんと便利なものか。 離れていく。かき消えていく。 やっと抱いたと思った、拙いながらに掴んだと感じた、9年間の重み。 親愛、友情、自信とやらが、いま、脆く儚く消えていく。 ……杯を重ねる。 酒とはまこと、便利なものだ。 ももしろよ 絶えなば絶えね つたわれば かいなき名こそ 恥としるらむ (百代継いだ名など、いっそここで絶えてしまえ。のちの世に"甲斐が無かった一族の名"として、恥をのこすくらいならば。) [**] (10) TSO 2021/04/23(Fri) 0:33:22 |
【人】 封じ手 鬼一 百継これ見よがしに退魔の香を焚きしめた邸内にあって、一葉は姿勢を崩さなかった。 ――私…………は。屍肉を啜る妖です 知らん。 知りたくもない。 一葉は、儂がよくよく懇意にしていた京職の筆頭だ。 彼の正体を知った今も彼を此処に置くのは、ひとえに、他幾多の官人たちの混乱を避ける為。 百鬼夜行を前にして、突然一葉の任を解くには、彼は京職という組織の重要な筆頭になりすぎていた。 頑なに目を逸らす儂に、一葉は辛抱強く語りかけた。 儂がいっとう好む、あの低く穏やかな声の調べで。 一葉にはじめて出会った時に抱いた感想は、「京職らしくない男」だった。 よう口が回り、飄々と人を揶揄うこともあり、しかして不思議と憎まれぬ。 一方、付き合いを重ねる中で、その内にこの上なく"京職らしい"厳格さを秘めていることも知れた。 不思議な男。 儂は一葉に興味を引かれ、それが好意に変わるまで、そう時間はかからなかった。 一葉も、慈しみをもって儂を尊重し、成長を支えてくれた。 それが……。 (25) TSO 2021/04/23(Fri) 16:07:49 |
【人】 封じ手 鬼一 百継(何のつもりじゃ) 一葉が、人知れず立ち去ってくれることを期待していた。 徽子の件から、この更なる転落に、心は激しく乱れており、とても平静では居られない。 ひとたび一葉を視界に入れれば、頭は焼け、臓腑の底から黒い感情が湧き出ずる。 耳を塞いで大声で、今直ぐ消えろと喚きたてたい。 木の枝で心ゆくまで打ち据え、苦痛を与える為だけに獰猛に振舞いたい。 父は、母は、姉は。継置の、氐宿の家族も、都の民たちも、皆お前のせいで。 お前たちのせいで。 騙しておったな。裏切り者め。 もう沢山じゃ。 もう……。 (26) TSO 2021/04/23(Fri) 16:10:07 |
【人】 封じ手 鬼一 百継一葉が淡々と語るは、身の上に起こったことすべて。 かつての姿、不思議な娘との出会い、今の姿になったこと、百鬼夜行に対する考え。 言わずにおけば良いことまですべて、つまびらかに、丁寧に、儂の前に開いて見せた。 ――私……は、百継様の憎しみの対象でございますか……? 一葉。 美しきを愛で、花を歓ぶこの男が、自らの正体を醜いと称するとは、どれほどの恥辱を感じているのだろう。 ずっと、儂の傍に居って儂を守り、常に誠実であろうと心を砕いていた一葉にとって、秘密を抱えて過ごす日々は、息も詰まる心地であったに違いない。 儂があやかしへの憎しみを口にする度、身を焼かれるような思いがしていたのだろう。 知っておるよ、一葉。 そう、儂は知っておるのだ。 (27) TSO 2021/04/23(Fri) 16:12:52 |
【人】 封じ手 鬼一 百継狂おしい程の憤怒と、一葉への変わらぬ穏やかな想いで、身が引き裂かれそうだ。 本当に、本当に、如何とすれば良いのか皆目見当もつかぬ。 何故、今、儂に語りかける。儂は望んではおらん。その目的は何なのだ。 ――この一葉、百継様に一度たりとも嘘は申しておりませぬ 「言わぬことがあっただけ、と? そんな言葉遊びなぞ、聞きとうない」 かすれた声が出た。 一葉の「目的」が解ったから。 つまり、一葉は、今までと変わらず儂に誠実であり、決して嘘はつかぬ。 儂に不安や不信を与えぬ、その為の語りかけだった。 考えるより先に腑に落ちてしまい、しかし、やはり、素直にその手を取るには至らない。 ――沈黙が落ちた。 どのくらい、そうしていただろう。 不意に、一葉の身体がぐらりと傾いだ。 (28) TSO 2021/04/23(Fri) 16:15:41 |
【人】 封じ手 鬼一 百継(!?) 失念しておった。あやかしに対しては毒となる、協力な退魔の香。 一葉はその中でずっと背筋を伸ばし、語っておったのだ。 「一葉!」 此処は当然人払いをしており、彼を支えられる者は儂しかおらぬ。 自然と体が動いた。 駆け寄り、肩を抱き、そっと肘置きにもたれさせる。 香を消し、襖を開け放ち、風を入れる。 「一葉……あぁ、儂は」 「どうか……」 「もう喋るな、すぐ、休める場所へ」 「……どうか百鬼夜行を御封じ下さい。百継、さま」 「…………!」 心を激しく支配していた抵抗が、まっさら消えたかと言われると嘘になる。 相変らず、あやかしへの拒絶は根深い。 しかしもう、認めざるを得なかった。 儂には、これ以上一葉を苦しめること能わぬと。 儂は今でも、一葉を慕い、彼を信じたいと願っているということを。 「ああ。必ずや。 だから、一葉……どうか、傍で、儂の力になってくれ」 [**] (29) TSO 2021/04/23(Fri) 16:17:54 |
【人】 封じ手 鬼一 百継■サービスシーン @:状況(3)1d6 A:解決(2)1d4 相手:氐宿 アイテム:(6)1d6 テラーダイス取得判定:(5)(4)2d6 (38) TSO 2021/04/23(Fri) 18:42:23 |
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