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【墓】 二年生 小林 友[「めいっぱいおしゃれ」したアキナを 瞼の裏に思い描いて、 その日は珍しくシャツにアイロンかけて 学校に行ったんだ。 口を開けて、閉めて。 ちゃんと目の前でも喋れるように。 少し明るい色の髪をセットした青柳を見て 「あー、ワックス、買ったことないや」なんて 色んなことを考えてたり。 でもアキナに会ったら、まず謝らないと。 俺はバスケ部じゃないし 生まれた年齢=彼女いない歴。 もしかして彼女の頭の中に 俺が明るく陽気な人間として描かれているなら それはすごく、大きな間違いで。] (+0) 2020/10/03(Sat) 14:38:11 |
【墓】 二年生 小林 友[影と俺と、二人きりの図書館を 静かに風が吹き抜ける。] アキナ。 [俺は彷徨わせた視線を上げて 明確に、影へと呼びかける。] ……俺、ユウだけど。 [ああ、そうか、通じないかもしれないのか。 書架の片隅、いつもの席に腰掛けると 隣の席に座るように、椅子を引いて促そう。 カバンから取り出したのは いつも持ち歩いてる『赤いろうそくと人魚』。 やり取りの長さの文だけ皺のよった便箋に いつもの青いインクを走らせて アキナに宛てたメッセージを書き始めた。] (+2) 2020/10/03(Sat) 14:39:27 |
【墓】 二年生 小林 友[はらり、頁をめくって、ダサい便箋を 『とうげの茶屋』と『金の輪』の間に挟む。 続きの話は、『金の輪』の後にしよう、と。]* (+3) 2020/10/03(Sat) 14:54:13 |
【墓】 二年生 小林 友[遠くにひぐらしの声を聞きながら 影と二人、席に着く。 お互い実体があったら二人並んで 放課後の自習……みたいな感じだったのかな。 耳に息を吹き込まれたり、話し掛けられたり そんなことされてるなんて夢にも思わず 俺はペンを走らせていく。 さりさり、ペン先の回る音は一つだけ。 なのに、書きたてのインクが、 触れても無いのに すっとあらぬ方向へ尾を引いた。 相手の呼吸音すら聞こえない距離で 俺は静かにアキナに語り掛けるだろう。] (+12) 2020/10/03(Sat) 23:02:34 |
【墓】 二年生 小林 友[そう、この童話集にはハッピーエンドのが いっそ珍しい部類で。 意匠を凝らした絵本の1ページみたいな 綺麗な風景……人ならざる純粋な生き物が 人の醜さ、強欲に飲み込まれて 失意のまま物語が幕を閉じるのが多い。 人は醜い、汚い。 その世界に没入して、被害者の側に 自分を投影することで、 自分自身の汚さからは目を逸らす。 そんな楽しみ方、作者が聞いたら怒りそう。 ─────ともかく、『金の輪』も ハッピーエンドとは言い難い話。] (+13) 2020/10/03(Sat) 23:04:02 |
【墓】 二年生 小林 友[もちろんそんなことはしないけど。 「世界の違う」天国とやらに辿り着いては 全く意味が無いんだ……そこに菜月がいないなら。 自分でも、会ったことの無い人間に ここまで入れ込むなんて滑稽だと思う。 隣の影を覗き込むようにしても 結局その表情は計り知れないし 俺の目頭がじんと熱いのも、 きっと、菜月は知らない。 ─────ああ、夜が来る。]* (+14) 2020/10/03(Sat) 23:35:47 |
【墓】 二年生 小林 友[卵60個食べて筋骨隆々になったのは 確か町一番の変わり者に恋した力持ちだっけ? 本ばかり読む変わり者には ぴったりかもしれないけれど、それはさておき。 滑るペン先を見つめる瞳が じっと紙に注がれているのを感じながら 俺はくるりとペンを回す。] 嘘なのかよ。 [聞こえてないだろうけどノリツッコミ。] (+22) 2020/10/04(Sun) 15:21:20 |
【墓】 二年生 小林 友[でも、ほら。 俺なりのプロポーズに 隣の影が大仰に驚いてみせて。 (そういう反応が女の子なんだよ) 心の中で語り掛ける。 しばらく待っていると、 震える黒炭の筆跡が、ゆっくり、ゆっくり 菜月の気持ちを表してくれる。 強くて、背が高くて、女子っぽくない菜月の やわらかくて、繊細な心の中を。] (+23) 2020/10/04(Sun) 15:21:46 |
【墓】 二年生 小林 友[窓の外が暗くなっていく。 星も見えない真っ暗闇が、 図書館の中を満たしていく。 紙が、もう見えない。 シャーペンの軌跡も、ブルーのボールペンも ダサい天使の描かれたピンクの便箋も 全部全部、黒一色に染め上げられて。] (+24) 2020/10/04(Sun) 15:24:08 |
【墓】 二年生 小林 友[その一瞬、隣に座る影の手に 俺は自分の手を重ねた。 結局その手は何にも触れないまま すとん、と木の机に受け止められたけど 心做しか、辺りを包む暗闇は とくり、脈打つような温かさだった。]* (+25) 2020/10/04(Sun) 15:24:27 |
【人】 二年生 小林 友[気がついた時には暮れなずむ図書館に 一人っきりで机に突っ伏していた。 暖かな影は、もう何処にもなくて 冷たい秋の風がふんわり、頬を撫でていく。 幸せな夢から醒めたら、 色褪せた現実が横たわっている。 ……今ならマッチ売りの少女の気持ちが分かる。 何度も何度も、マッチを擦っては 同じ夢を見たがるの。 残された本と、ボロボロの便箋。 便箋には、菜月からのメッセージが しっかり残されていた。]* (27) 2020/10/04(Sun) 18:25:07 |
【墓】 二年生 小林 友[「大事にね。」の文字が掠れた。 黒や赤より使わないから、と選んだ青いインクが もうすぐ無くなりそうになっている。 別に違う色のインクを使っても 菜月は何も言わないだろうけれど ─────何となく。] (+27) 2020/10/04(Sun) 18:28:18 |
【人】 二年生 小林 友「……ともちゃん、変わったね」 [ある日、図書館に行こうとした俺に 青柳はそう言った。 振り向くと、青柳はその端正な顔をそっと あらぬ方向へ向けて、笑う。] 「なんか、彼女出来たのかなって。 ……それは喜ばしいことだけど ともちゃん、なんか消えそうで、怖い」 [それぞれが部活や委員会に向かおうとする 騒がしい教室内に、消え入りそうな声を出す。 俺は青柳のそんな顔、初めて見た。 もっと明るく何も考えない奴だと思ってた。 “陽キャ”ってそんな生き物だって。 俺はそんな青柳にそっと笑いかけて 肩を叩いて、言った。] (28) 2020/10/04(Sun) 18:36:15 |
【人】 二年生 小林 友……なんだよ、それ。 別な世界に飛んでいきそうって? そんな方法、どこにも無いよ。 [何処にもない。 影に触れて、体温を分かつ方法も。 俺は知らない。 そう笑うと、俺は踵を返して 図書館へと向かうだろう。 大好きなあの子に逢いに行くために。]* (29) 2020/10/04(Sun) 18:39:17 |
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