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【人】 卯月 侑紗 ー 数ヶ月後 ー …………あのまま終わっていたら ハッピーエンドだったのかな。 [数ヶ月───── シャツとニットとタンクトップだけじゃ さすがに肌寒くなるような時期になって 私はまた、この宿を再訪していました。 黒いニットのセーターに 膝丈の花柄のスカート。 宿泊の予定は無いから、 小さなハンドルの手提がひとつ。] まだ、いらっしゃるんですかね…… [ぽつり、と呟いて笑みを浮かべた頬には 大きな絆創膏がひとつ。 さて、足を運んだラウンジに 目的の人の姿はあるかどうか。]* (10) 2020/08/17(Mon) 14:24:09 |
【人】 卯月 侑紗 ー 数ヶ月後 ー [あの時と変わらない様子のラウンジには 朝酒の一杯を求めた宿泊客らで 賑わっていたことでしょうか。 出発の準備を整えた旅装の群れの中、 白いシャツとニットの彼を見つけたなら>>13] あーきふーみさーん! [私は足早にそちらへ向かいました。 手を振った時、ニットの下、黄色と紫に 歪に色付く肌が覗いたかもしれませんし 近くに寄れば、笑みを浮かべた左頬に大きく 絆創膏が貼っているのが見えるでしょうか。 でも、そんな痛々しげな風体とは裏腹に あはは!と歯を見せて笑いましょう。 何せ、全部やっと吹っ切れましたので。] (35) 2020/08/17(Mon) 20:53:50 |
【人】 卯月 侑紗あんなこと言っといて来るとか、 ほんと、なんか、みっともないですが…… 結局、私、フラれちゃいましたっ! [とりあえず、カウンターに一席頂戴しましたら あの日の白ワインよりほんのり渋い キールをお願いしようかしら。] (36) 2020/08/17(Mon) 20:55:29 |
【人】 卯月 侑紗 ー わたしと、先輩・結 ー [あの後宿を後にした私は すぐさま先輩に告白しました。 ……この宿でのことは 何一つ口にはしませんでしたが。 そしたら!なんと! OKがいただけたんです! たった5人のスタッフしかいないバイト先には 絶対内密に、というお約束付きで。 憧れの先輩とお付き合いできるなら なんのその、とその条件を飲んで 晴れて私は先輩の「特別」の座を 手に入れたのでした。 いつものバイトの間、人目を忍んで口付けしたり お店を閉めたら二人で手を繋いで帰ったり。 そんな密やかな日々を手に入れることが出来て ─────私、心底嬉しかった。 努力が全部報われて、 やっと幸せになれたんだって。] (41) 2020/08/17(Mon) 21:07:29 |
【人】 卯月 侑紗[そうして、ある日。 先輩のアパートにお邪魔することになって…… たった二人の空間で、抱き合った。 それだけじゃ足りなくて、 舌を絡めて口付けて、 身体を隔てる服も全部脱ぎ去って。 そして 見てしまったんです。 先輩のパンツの中から ぴょこん と現れたワインコルクほどの大きさの、何かを。] (42) 2020/08/17(Mon) 21:08:39 |
【人】 卯月 侑紗[人の身体は人それぞれ、とは言いますが あの夜見たものとは一線を画した その斬新なコンパクトさと、 張り出した傘もなく、 噛んだガムをくっ付けたような 伸びた皮に包まれたビジュアル。 ……いや、それでも愛しい先輩だったので その全てを受け入れようと思って 私は、最大限、知恵を振り絞りまして] ……先輩、もしかして、 事故か、何かで……? [にょん、と上を向いたそれを直視したまま 真剣な顔で、聞いてしまったのです。 結果、この一言の方が大事故だったわけで。] (43) 2020/08/17(Mon) 21:09:43 |
【人】 卯月 侑紗[思い返せば私が100%悪かったのですが。 でもあの時はすごく必死で 怒り狂う先輩に追いすがって謝りました。 なのに、結局、口論になってしまって。 そして、先輩に思い切り頬を張られ ── ぷっつん ── 気が付けば、手元にあるものを投げ合う 大喧嘩になってしまって。 先輩のワインコルクに六法全書が直撃した隙に 家を出て……私たちの関係は、それっきり。 頑張って、何もかも捧げて手に入れた恋は そんなくだらない終わり方をしました。 処女も非処女も、セックスの手管も関係ない、 ただただお互いに張った見栄の下から しょうもない本性が現れてしまったような。] (44) 2020/08/17(Mon) 21:10:33 |
【人】 卯月 侑紗 ー 数ヶ月後・ラウンジ ー あー、違うんです。違うんです。 今日はよしよしされに来た訳じゃなくて! [散々笑って、それからまた 頭を撫でてくれようとした手を 私は押しとどめるでしょう。] 友達に話すと皆同じこと言うんです。 「そんなやつ別れて当然だよ」とか 「女の子殴るなんてサイテー」とか 「そんな目に遭って可哀想」とか。 でも、一緒にこうやって笑ってくれる人が 欲しかったんですよね、私。 私の馬鹿な決心も、馬鹿な別れ方も 全部、全部ひっくるめて。 [適任でしょう?とキールを一口。 カシスの渋みが喉に心地よい。] (80) 2020/08/18(Tue) 6:43:07 |
【人】 卯月 侑紗まあ、恋の努力は報われなかったわけですし、 バイトも気まずくて顔出せないし、 ぜーんぶ、頑張り損なんですけれど…… でも、大丈夫です! [暎史さんの手が、さっき撫でてくれた 絆創膏の上をするりとなぞって、笑うの。 痕なんか、二三日で消えるって あなたが教えてくれたことでしょう?] この痕も、痛みも、じきに消えます。 そしたら、次に頑張れるものを 探しに行こうと思うので。 [だから今こそ、次の一歩を踏み出すために 辛い気持ちを全部笑い飛ばしたいのです。] (81) 2020/08/18(Tue) 6:50:55 |
【人】 卯月 侑紗 ー 数ヶ月後・ラウンジ ー ええ、あなたなら。 [だって他の誰よりも、このコメディを かぶりつきでご覧になれるのは 暎史さんただおひとりなのですから。 なんたって登場人物のおひとりですし。 カウンターの上で頬杖ついた暎史さんの真似して 私もその正面で同じポーズをとって 唇をきゅっとあげてみるの。] えへ……暎史さんに言われると ホントに私、やれる気になるんです。 こう、謎の説得力っていうか! [可愛い、なんて一言で 耳まで熱くなってしまうのだから 言葉の力って不思議です。 傷がついた顔じゃあ、まだ自分では 胸を張れませんが、癒えれば、きっと。] (95) 2020/08/18(Tue) 17:55:02 |
【人】 卯月 侑紗[グラスの底に溜まった カシスの澱まで飲み干したなら 私は席を立ちましょう。 あまり長居してもお仕事のお邪魔でしょうし。] あははは……うん。 本当に辛くなったなら今度はちゃんと よしよしして、って甘えますね。 [そう言ってスカートの裾を翻したなら 振り返らずに、ホテルを後にするでしょう。] (96) 2020/08/18(Tue) 17:55:53 |
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