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【墓】 二年生 早乙女 菜月[幸いなことに、図書室はあれからも 私たちを繋いでくれた。 友君の文字をなぞる。 本当、映画みたい。 2020年とんでもないなって、 改めて思う。 今の状況だって十分映画みたいだけど。] (+0) 2020/10/05(Mon) 22:31:35 |
【墓】 二年生 早乙女 菜月[続く優しい言葉を、何度も読み返す。] ……ありがとう [ぽつん、と落とした言葉は届かない。 他にももっと言葉があるはずなのに、 どれだけ友君の言葉が沁みてるか、 声が、表情が届けば、もっと伝えられるはずなのに。 私にできることは、ただ友君の言葉を指でなぞるだけで。 友君の文字がかすれなくたって、 滲んだ視界では見えにくかった。] (+1) 2020/10/05(Mon) 22:32:04 |
【墓】 二年生 早乙女 菜月[私は友君に何でも話した。 チアの魅力、息がぴったり合って、 会場の観客と一緒に演技を作り上げていく達成感。 だけど、去年は銅賞になってしまったこと。 リベンジしたくて必死に練習したのに、 すべてのイベントが消えてしまって。] (+2) 2020/10/05(Mon) 22:32:28 |
【墓】 二年生 早乙女 菜月[空気を乱さないか、興ざめじゃないか、 そう怯えて飲み込んでいた柔らかい心も、 友君なら受け入れてくれる気がして、 優しさに甘えて、話してしまう。 だけど、どれだけ心を寄せても、 私たちの距離は遠い。]* (+4) 2020/10/05(Mon) 22:38:53 |
【墓】 二年生 早乙女 菜月……とも、くん [友君の影が、私に近づく。手が伸ばされて、耳を撫でた。 耳にかけてくれた髪は、一本だって動かない。 いくら筋肉をつけたって、輪郭までは女のままだ。 その丸い胸と腰を、友君がなぞる。] (+5) 2020/10/06(Tue) 6:26:27 |
【墓】 二年生 早乙女 菜月[友君の声も、顔も見えないのに、 気遣うような声が、表情を、感じる気がした。 嫌じゃなかった。 ただ、なんの感覚も無い愛撫が悲しかった。] ……ふ、 [影に口づけられると、じんと唇が痺れた。 無いはずの感触に戸惑って、 ほんの少しの期待を込めて友君を見上げる。 だけど、鼻先に指先をかざされると、 触れられなくても痒くなることを思い出して、 そうだよね、これ以上の奇跡は起きないよね…… なんて、すぐに落胆した。 友君はそうやって甘い痺れをもたらして、 私の緊張をほぐしていく。 だけどやっぱり足りない、 友君に触れたい。 友君に触れてほしい。] (+6) 2020/10/06(Tue) 6:27:06 |
【墓】 二年生 早乙女 菜月[私は友君の手を取る。 その手は、空を掴む。 そのまま、カーディガンのボタンに導いた。 ハート形の可愛いボタンを、 私の、 友君の 指が、一つずつ外していく。] ……ともくん、見て。 私をもっと、みて。 [衣擦れの音が図書室に響く。 私の影は、布の厚み分、小さくなった。 友君に知ってほしい。 早鐘のように鳴る鼓動も、 乱れた息遣いも、 夕焼けの色に染まった頬も、 何一つ触れられなくたって。 そのほんの欠片だけでも伝えたくて、 友君の手を、裸の心に導いた。] (+7) 2020/10/06(Tue) 6:27:36 |
【墓】 二年生 早乙女 菜月[窓から吹き込む強い風が、カーテンを引いた。 風は、ヒュー、ヒュー、と 音を立てて吹いていました。 うっすらと開いた隙間から、月光が矢のように刺さる。 いつのまにか、満月が近い。 月明かりに照らされた私たちは、 確かに繋がっていた。]** (+8) 2020/10/06(Tue) 6:29:35 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[家に帰ってからも、私たちはやりとりを続けた。 スマートフォンと違って、通知も一切なかったけど、 時々、友君が書いている瞬間に立ち会えた。 そういう時は、椅子とコップをもう一つずつ。 一人用の勉強机に二人分並べて、 頬杖をついて便箋を眺めた。] (26) 2020/10/07(Wed) 6:16:23 |
【墓】 二年生 早乙女 菜月[あはは、ごめんね。 お客さんに上の子見てもらうために頑張ってたのに。 ちょっとすねすねモードはいってた。 そんなことを、返事に書こうかな。] (+9) 2020/10/07(Wed) 6:17:14 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[青インクと黒炭の染み込んだ便箋に、 赤いハートが浮かび上がる。>>22 可愛いの。見ちゃった。 すぐに消そうとするのも可笑しくて、 くすっと笑いが漏れる。 自分のもろさをさらけ出す私に、 友君はたくさん寄り添ってくれる。 友君との会話が楽しすぎて、永遠に続いてほしくて。 だから便箋はぼろぼろで、 いつか破れてしまうことは分かっていたのに、 目を逸らし続けてしまった。] (27) 2020/10/07(Wed) 6:17:42 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[世界の破ける音がした。] ……あ!? [友君、破っちゃったのか。 便箋、薄くなってるもんね。 分かっていても、大きな裂け目がメッセージを破くのは、 ショックな光景だ。 ちぎれた断面を合わせると、 もう一度、びり、と破けた。] え、うそうそ、 やだ、 [びり、びり、紙がひとりでに破けていく。 便箋を押さえつけると、手と机の間から、 一羽の蝶が飛び立った。 青いはねを一心に動かして、 透き通った美しい翅脈が見えるほど近くを通り過ぎる。] (29) 2020/10/07(Wed) 6:20:42 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[もう一羽。もう一羽。 するり、するりと手のひらの下から、 蝶の群れがあふれ出す。 友君と私の言葉を含んだ蝶は、 青い翅をきらめかせ、 銀の鱗粉を振りまきながら、 窓から空へを昇っていく。 月が二つに分かれた。違う、涙でぼやけているだけだ。 ねえ、待って。 もう一度だけ時間が欲しい。 だって私まだ、好きってことさえ言えてない。 そう蝶に訴えても、一羽だって振り向いてくれなくて、 私達は、ちゃんとお別れさえできなかった。]** (30) 2020/10/07(Wed) 6:21:25 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[ 「せーの!」「あ、い、う、え、お!」「せーの!」「か、き、く、け、こ!」…… [グラウンドに響く声は大きい。 ちなみに体育館では発声練習禁止です。つば飛んじゃうから屋内はちょっと。 肺一杯に空気を詰め込んで、おなかの底から声を出していると、頭がぼうっとかすんでくる。華やかさとは裏腹に、チアは地味な反復練習が多い。頭で考えなくても動けるように、ひたすら体に覚え込ませる。何十分も同じ動きをしていると、頭が白く溶けていく。 そういう時間が、今の私には必要だった。] 「菜月、笑顔! みんなを元気にするのがチアなんだから!」 [指摘されて、にっと口角を上げる。 笑ったんじゃなくて、口角を、上げた。 皆を元気に、なんて、私にできるはずがない。 友君に勇気づけられてばっかりだったんだから。 細くなった筋肉に、必要以上に負荷をかける。 生まれたての小鹿みたいに、歩くたびに膝が折れる。] (41) 2020/10/08(Thu) 5:58:07 |
【人】 二年生 早乙女 菜月「ナツキ……戻ってきたのは良いけど、正直、怖いよ。 前はもっと、休憩時間も騒いでたのに。 今のナツキは、練習だけしに来てるみたい」 [ 心配してくれるのはわかるけど……ってこと 俺もよくあるよ。 友君の言葉がいつも、頭をよぎる。 なにそれー私すんごい熱心じゃん! なんてはやし立てる。 笑い飛ばして、無かったことにしようとする。] 「ろくに食べてないよね。 いくらトレーニングしても、食べなきゃ意味ないでしょう。本当にやる気あるの?」 [そう言ってきた先輩もいた。さすが上級生、よく見ている。 ウス、先輩ご馳走してくれるんスか? ありがとうございます、なんてへらへら笑ったら、もっと怒られた。 あーあ、失敗しちゃった。] (42) 2020/10/08(Thu) 6:00:17 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[柔軟体操をしていると、アキナと目が合った。 アキナは一瞬、なんとも言えない表情を浮かべると、何かを言いかける。 けど、その言葉が出てくる前に、他の部員に話しかけて、結局何も話さなかった。 復帰しても結局、こんな感じだ。 あれからうまく話せていない。 ペアも外されてしまった。 もしかしたら自分の中に 汚い気持ちがあるかもしれない、って 菜月は言うけれどもさ 少なくとも「今」の菜月は そんなことしないだろ。 「今」の私はどうだろう。 優しい老夫婦が人魚を売ったように、表と裏はくるくる変わる。 きっと私もたやすく、良くも悪くも転ぶ。 チアリーディングはスポーツだ。 グラウンドの外の花じゃない。技を競う真剣勝負。 勝利の証は、会場に溢れる笑顔。 誰かを応援するために、競い、高め合う。 だから、応援したい人を失ったら、強くなれないのは当然のことで。] (43) 2020/10/08(Thu) 6:01:13 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[そんなことは分かっていても、私は必死にチアに打ち込む。 そうしていないと、友君のことを思い出してしまうから。 線路や、紅葉や、月や。 何気ない風景を見るたびに、友君の言葉が思い浮かぶ。 俺も、絵があるのも好き。 けど、この本は写実的っていうか…… 読んでるうちに頭の中に風景が浮かぶんだ。 そうだね、友君。 世界にはこんなにも、友君と拾い集めた風景が散らばっていて。 何もしないでいると、空を眺めるだけで泣いてしまう。 自分の体を苛め抜いて、泥のように眠る。 だけど夢の中では、いつもあの図書室にいて。 目を覚ませば、友君ともう会えないことを思い出して、べそべそと泣いた。] (44) 2020/10/08(Thu) 6:02:06 |
【人】 二年生 早乙女 菜月「また延長ですか」 [司書の先生が呆れたように言う。 あれから、図書室と友君の世界は断ち切れてしまった。それでも二週間に一度は足を運ぶ。 小川未明童話集、「赤いろうそくと人魚」。私が唯一借りた本を、何度も延長する。 「何か月借りるつもりですか」「卒業する時に買います」「これ備品だから高いよ。アマゾンの本が安いですよ」「この本が良いんです」「もう読み飽きたでしょう」「まだ読み終わってません」 そう、まだ私はこの本を読み終えていない。 友君と一緒に読もうと思っていたから。 きっと、この本を読み終えることは、無い。]** (45) 2020/10/08(Thu) 6:03:03 |
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