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【人】 世界の中心 アーサー[ 薔薇ばかりの咲き誇る、中庭。 外からは見えないし、滅多に邪魔の入らない、 男にとっては、第二の私室のようであった。 散りばめられたベンチにも、座るのなぞひとりくらいで 中央に座すガゼボには、ラタンの家具が詰め込まれ… “第一”の私室に比べて、だいぶごちゃごちゃしていた。 本棚のラインナップも、 随分と“大衆向け”に変わっていた。] (185) 2020/05/19(Tue) 21:43:20 |
【人】 世界の中心 アーサー( ほとんど客を通すことのない、 そういった部屋だ。 良く知る執事も、ホットミルクを置いて 直ぐ、何も言わずに消えている。 ) (186) 2020/05/19(Tue) 21:44:03 |
【人】 世界の中心 アーサーふふ、 彼らももう諦めているよ。 君を“連れ込む”のも、僕が外に出ないのも。 それとも、もっと好待遇が良いのかい? (187) 2020/05/19(Tue) 21:44:25 |
【人】 世界の中心 アーサー[ ──先ずはドレスを着るところからだな。 ソファに沈み込みながら、マグに口を付ける。 微かにブランデーの香り。 アルコールなんかとうに飛んでいるけれど、 温かさに解れた舌はさらりと 悪態を受け流していた。 見上げれば、まあるい月。 燭台の明かりなど、必要もないかもしれない。 すこぅしずつ、 頬にも色が差していた。] (188) 2020/05/19(Tue) 21:45:27 |
【人】 世界の中心 アーサー──香りが良いだろう? 特に紅はいい。 僕の色だ。 元々百合園だったのだがね、僕は好かなかったんだ。 息苦しいような気がして── (189) 2020/05/19(Tue) 21:45:49 |
【人】 世界の中心 アーサー[ “リドル”の家の証は、百合であった。 二十年前、前“リドル”が死んだ時まで、 薔薇の咲き誇る屋敷になったのは、つい最近のこと。 ──知らない、というのが、 心地良いときだって ある。 外に出ない以上、新しい景色を見ることもない そんな男にとって 目の前の彼女は、 ──確かに、目であるのだろう。 碧の、 未来以外を映す、 ] (190) 2020/05/19(Tue) 21:46:32 |
【人】 世界の中心 アーサーこの薔薇は食用だよ。 パンの代わりに薔薇を食べるのだって良い。 [ ──大して腹には貯まらないけれど。 そうわらいつつ。 窓を薄く開け、いくつか花弁を手折ったなら、 硝子と、マグにひとひらずつ、香りを足すように。] (191) 2020/05/19(Tue) 21:47:20 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 花弁を喰んだくちびるは、 薔薇色を塗るには向かないようだ。 ドレスも、 なにも。 服だけでなく靴だって不自由だというから、 拷問というのも強ち間違いではないのかも知れない。 ──嗚呼、それこそ、 黄薔薇が良いか。 白には紅が映えすぎる。] (260) 2020/05/20(Wed) 11:21:29 |
【人】 世界の中心 アーサー[ ぬるりとした陶器の白。 冷め始めた水面は薄く張った膜が波打っていた。 ──花弁は、乗っているだけに見える。 口をつけると乳膜が付いてくるから、 赤いばかりの舌が唇を這った。 薄く、色味のないくちびるだ。 これだって 滅多に彩られることないもの。] (261) 2020/05/20(Wed) 11:22:22 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 手渡された薔薇の背表紙は、童話集であった。 薔薇の話ばかりを詰めたものだと言うので、 古書を持ち込んだ行商より買い求めたもの。 実は、完全に“積み本”だ。 ──話は、そう難しくないが、 古書ならではの読みにくさがある。 数頁をめくった後、ひとつで手を止めた。] (263) 2020/05/20(Wed) 11:23:09 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 男は、低い声をしている。 こどもに聞かせるよな、優しい声ではなかったろう。 遠回しに読めと言い出した彼女にむけての、 届けるよな語りでもなく── まるで 己を語るかのような、] (265) 2020/05/20(Wed) 11:24:31 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 挿絵を向ける。 うつくしい庭園に、蝶々の絵。 今、満月に照らされたこの中庭に、 何処となく 似ている。] この話が一番好きなんだよ。 ──結末は童話らしい教訓なのだけどね。 “金で買えない大事なもの”っていう… 僕には今のところ、この話でしか身近でないけれど。 (266) 2020/05/20(Wed) 11:26:09 |
【人】 世界の中心 アーサー* [ そりゃあもう、不機嫌を貼り付けている。 “捕まってしまった”というバツの悪さなんてない。 だって此方は悪くないもの!] (307) 2020/05/20(Wed) 21:58:37 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 割合、屋敷の中であれば、男は温厚で、 怒ることだって、不機嫌を露わにすることだって ほとんどないのだ。 珍しいと言える。 貼り付けた笑みも、今回ばかりは剥がれ落ちている。 随分と“御行儀の良い”おひめさまだった。 ──折角おとうさまが直々に招待したのに! まあ、要約すればそう言った文脈だった。 知らん。 誠に遺憾である。 そんな態度を欠片も隠しもしない主人に、 物腰穏やかな執事も諦感を滲ませている。] (308) 2020/05/20(Wed) 21:59:24 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 部屋に戻ってきた頃には、脚がふらつく思いであった。 キィンとした耳鳴りが未だ抜けない。 耳が遠いような気もしている。 後ろ手にゆっくりと扉を閉め、 すぅ…と 音のするほど息を吸い、 ] (311) 2020/05/20(Wed) 22:01:15 |
【人】 世界の中心 アーサーこれだから“きぞくさま”は! [ …部屋に人がいるかも、全く確認せず、 扉を閉じた瞬間に恨み言だけを吐いた! 全てが忌々しいって顔だ。 鼻につく香水の匂いも、天気がいいことさえも! 曇った薔薇色が、 ようやっと私室を映した時、] (313) 2020/05/20(Wed) 22:01:59 |
【人】 世界の中心 アーサー──…おっと、 失礼。 全くうつくしすぎるのも問題だよ。 [ 執務机の卓上ミラーを覗き込み、表情の微調整。 すこぅし経てばいつも通り、 ──それでも何処か疲れたよな、 薄い笑み。] (316) 2020/05/20(Wed) 22:03:25 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 男にとって、この屋敷は自分好みに出来ている そりゃあ面倒くさい書類は有れど── いざやり始めれば仕事と割り切れる。 使用人も、 家具も、 花も何もかも、 すべて思い通りの箱庭。 だからこそ、だろうか。 イレギュラーな“好まないもの”にとても弱い。 “匂い”を持ち込まれるなど、以ての外であった。 薔薇と 紅茶、 時折ミルクがあれば良い。] (365) 2020/05/21(Thu) 0:33:11 |
【人】 世界の中心 アーサー( 通常、来客がないわけではないが、 必ず先に連絡があるし、此方も準備をしている。 ──礼儀知らずは嫌いだ。 今日の日記には罵詈雑言が並べられるに違いない。) (366) 2020/05/21(Thu) 0:34:12 |
【人】 世界の中心 アーサー[ これでも、見知った顔を切欠に、 怒りの優先度はだいぶ下がっちゃいたのだ。 それよりはずっと、疲れていた。 どうにも引きこもりなので、人と会うと体力を使う。 おんな相手だと尚更だ。 真白の上に足を揃えたその姿は、 どうやら“他人”とも、“おんな”とも 呼ばないものであるらしいが──……] (367) 2020/05/21(Thu) 0:34:51 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 見上げるよな、 伺う視線に、 男は心底不思議そうに、ぽつんと 呟いた。 卓上の鏡に映るのは、すこぅし白いくらいの、 “いつも”の 美貌──と 思っている。 自分の何が違うのか、よく分かっていない。 もにもにと頬を揉み回す動きさえ見せていた。] (370) 2020/05/21(Thu) 0:36:43 |
【人】 世界の中心 アーサー( ──己のことは、好きだ。 寧ろ、何よりも優先している。 …その 割に“微差”を察し難い節はあるが “何の”── “だれ” の せいか、 ) (371) 2020/05/21(Thu) 0:37:24 |
【人】 世界の中心 アーサー…またブランデーが必要かな… [ 特に否定はしなかった。 疲れていることは確かだし、 “においけし”が必要なのも、確かだ。 差された先、ソファに沈みつつ、 手近な窓を 薄く開けた。**] (372) 2020/05/21(Thu) 0:38:16 |
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