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【人】 終焉の獣 リヴァイ(…………でも、 お前は?) [前よりもやや逞しくなった後ろ姿からでは 彼の表情なんかわかりやしないのだろうが、 彼が本当に心から笑っているのか自信が無くて、 やや俯いた表情を曇らせてしまった。 手元に残るは、引き裂くべき生命の運命。] (私が此処迄穢れる道を辿らなければ、 お前は唯、誰にも知られず孤独に燃え尽きたのか?) (17) 2020/12/11(Fri) 21:15:52 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[まるで帰りを悲しむ輝夜姫のようだ。 道行く月を見上げては意識を遠ざける日々が続いていた。 毎晩毎晩戒めるように刺し込む注射器の数は日々減っていき、その効力も定かなのかさえわからなくなってくる。 悪夢に苛まれる時間が増え、学生の頃よりも寝不足になっていたのかもしれない。 煌びやかな衣装は元々余り惹かれる性格でもなければ、刻限が迫る時の中で侍女と話して交友を深めようとも思えない。 削れていく自我を徐々に感じながら、残った意識を手繰り寄せるように食事だけは噛みしめていた。人間以外で湧き出る涎こそが自分を自分たらしめる証拠だとでもいうように。] [声を掛けられたのは、夢遊病のように部屋を彷徨っていた時だった。 少し瞬いた後二つ返事で向かった先はどの部屋よりも広々としており、彼の権威を思い知らされる。 権力を何より嫌っていた癖に、大人しく王宮に収まる自分の今の状況に心の中で苦笑しながら席に着く。 ────随分と昔、学び舎の一室で似たようなことをしたことを思い出していた。] (18) 2020/12/11(Fri) 21:15:55 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[日頃の彼の暴食っぷりを見ていれば、 糖質控えめのものでも少々眉を顰める要因にはなろう。 ……けれど、もう今は小言を言う気にもなれなかった。言えるような精神をしていない、と言うべきなのか。 つかの間に与えられた安らぎに浸るように言葉を紡ぎ、低体温症の身体に暖かな紅茶を流し込んでいく。 茶会の席で彼女が選んだドレスコードは、最初に与えられたものと同じ。黒を基調としたロング丈のワンピースの上に、男物の軍服。] お前と私じゃ価値観が違う。 生まれも育ちも違えば何れ突き当たる常識だな。 昔は全くもって理解出来やしなかったが、 今ならなんとなくわかる気がする。 私はお前では見ている景色が違いすぎるだけだ。 だけど……な。 (19) 2020/12/11(Fri) 21:15:58 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ(自分の決めた道を真っ向から突き放すような言葉を吐かれ、 思わず頭に血が上り、我を忘れて相手を貶したことを思い出す。 あの時は互いに守りたいものが異なっていただけだというのに 馬鹿の一つ覚えのように傷つけあって、おかしなことだ。 ……どちらも決めた道から逸れないのだと知っていたのに。) ────そう聞かれれば、そうなのかもしれないな。 私もどうしてなのかは全くもってわからないのだが もう二度と自分の目の前で、自分以外の誰かが 相手自身のためではないことに苦しむことが 見ていられなかっただけなんだろうさ。 (自分は守られたいだなんて思っちゃいなかったのに、 守護の代わりに命を捨てる誰かの姿を思い浮かべて目を細めた。 ……相手の中に渦巻く感情を理解できてもいないから、 平然とそんなことを言っていられた。) [死刑宣告のような重みのある言葉に隻眼を軽く向け、返事は瞬きを数回。……承諾なんて声に出さなくてもいい筈だ。 その呼び出しの意味を、どうしようもなく理解できていたから。] (20) 2020/12/11(Fri) 21:16:02 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[初めて触れる重い扉を押せば────案外呆気なく視界は開けた。 壁を飾るステンドグラス、眼前に聳え立つ階段の先に見える鉄の玉座はどこまでも冷たい温度を感じさせるようで。 未だに長い袖の下の手をぐ、と握りしめたのは、伝わる寒さに耐えようとしたのか。 凍土の色を抱く瞳で頂上の主を真っすぐ見つめる。その目は昔のように燃え盛るかの如く光っているのだろうか。 月は未だに雲間に隠れ、その正体を現していない。自分の病の発作が現れる予兆が無いのなら、少し位の言葉は交わせたのかもしれないが、] ………………どうやら、もう時間のようだな。 [最後の会話がどんなものであれ、満月の衣は何れは流れ去ってしまうから。 徐々に訪れる視界の揺らぎと、頭痛の初期症状を鈍いながらも感じれば、か細い声で非道な運命のカーテンコールを告げようか。*] (21) 2020/12/11(Fri) 21:16:14 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[────静寂だけが二人の繋がりを証明する手段のようだ。 投げかけられた微笑みとは対照的に、見上げる夜色の女は唇を噛みしめ顔を歪ませる。 (同じ場所へ至れるとまでは思っていない。 微かな願いは届くわけがないとさえ思っている。 今まで通り送り出すのみの略奪者の仮面を被り、 血に塗れた腕を伸ばすだけの未来を見ていた。) ────力尽きたようなさまを見開いて認めると同時、 この世の終わりのような痛みが脳を襲って頽れた。] (31) 2020/12/12(Sat) 1:07:05 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[噫! 頂点に聳え立つのは月をも喰らいつくさんとする百獣の王を模した幻影の如き虚な姿と (影と混ざり合う、まるでキメラのようなそれは、月光病さえも彷彿とさせるような…) そこに至る迄の試練の如く降り注ぐのは 灼熱地獄にも似て非なる───冷酷非道な怪物の命をかき消さんとする 随分と”洒落た”カーテンコール!!] (33) 2020/12/12(Sat) 1:10:36 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ────────……… ッ !! [温度が上がる。 裁きの炎が堕ちてくる。 ばらばらと崩れ落ちる硝子片たちを避けながら、 ステップを踏めば、遥か頂上の仇を睨み上げるのだ。 そうして口の中に仕舞い込んだ短剣を砕かぬように感触を確かめ──────、] (34) 2020/12/12(Sat) 1:10:42 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[────苦痛と共に硬い表皮に覆われた巨大な身体を大きく振るわせる。 燃え盛る火炎に呼応するように、ひとたび大きな咆哮を上げた。 鱗を舐める高音をものともせず、嘗て諸国を超えて彼の元へ辿り着いた四足歩行が空間ごと揺らす勢いで何段かもしれぬ階段を登り始める。 目指すは頂上一点のみ。その先に臨む宿敵を───神を欺く憎き悪魔から大切なものを奪い取るために。 数多の武器を跳ね返す鋼の如き身体でも、 あの日の銃弾が脇腹を抉ったように、弱点はある。 女が完璧な怪物になりきれぬ証のように。 ちりちりと焦げる熱が臓器まで浸そうとも、 この自我だけは……生命だけは、燃やさせない。 大昔の聖人が海を割った逸話を繰り返すわけではないが───目には目を。歯には歯を。炎には炎を。 ご お ぉ───…… と、鋭い牙の生え揃った顎を大きく開け、蒼く燃え盛る焔 (35) 2020/12/12(Sat) 1:11:52 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[怪物の吐息にも似たそれは、見た目に似合わず凍えそうな死の温度を纏っている。 試練に立ちふさがる灼熱の壁を溶かし、一本道の活路を切り開けたのかどうか。] [否、作れなくとも構わない。その壁を突破し、彼奴に届けばそれでいいのだ。 どこまでも彼に温もりを与え続けた怪物が最後に届けるのは終焉を知らせる冬の到来。 左手には闇を、左手には約束を。誰よりも憎み■したかった者たちを壊すために目覚めたのだから。 凍てつく波動じみた炎を、遥か上の相手へと叩きつけるように吐いた後、 切り開いた活路を───開かれないのであれば、腹を焦がしながら。重い身体を引きずらせ、只管に玉座を目指し続ける。 口内にしまい込んだ短剣を振りかぶる時を待ちわびながら、燃え盛る瞳は真っすぐに相手を打ち付けながら。]* (36) 2020/12/12(Sat) 1:14:16 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[修羅を貫く真っ赤な旅路の道中で、数多のものを投げ捨ててきた。 最後まで使うことの無かった、約束だけをこの手に残して。 必死につなぎ留めた意識を代償に、この身に降りかかる災厄を全て受け止める。罅割れかけた精神がこれ以上は限界であると叫ぼうと───この夜だけ保ってくれたらそれでよかった。 (その後は、どこへなりとでも燃え尽きればいいのだ。 理性を失い、数多の人を喰らい、正真正銘の野生へ変われ。 だが───今は。今だけは。 略奪者ではなく、救済者としてあってくれ。 この場で朽ち果てるわけにはいかないから。) 掻き消えた絶対零度が示す道を辿るように一直線に百段を駆け上がろうとすれば、大気圏に触れて温度を上げる小惑星じみた火炎が眼前に迫る。 咄嗟に吐き出した吹雪は勢いを弱めていたものの、石段を砕け落とす前に威力を弱めることはできた筈。 何層にも分かれた炎が頭蓋骨にぶつかれば、元来の頭痛が更に速度を上げて、鱗の隙間から血が垂れ流された。 苦痛を振り切るように轟く咆哮が空気を震わせれば、焦げ付く身体をくねらせて、数多の命を喰らった巨大な口を大きく開き───絶え間なく涎を垂れ流す。] (40) 2020/12/12(Sat) 2:52:31 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[断頭台の如き刃の一撃を、身を捩って躱しきる。 四肢の骨が焦げる音がしたが、知ったことではない。 床に勢いよくついた前足にスナップを効かせれば、尾が大きく上へと踊る。そのまま勢いよく振り下ろせば────空間を大きく揺らし、砂埃のような瓦礫の屑が一帯を覆うだろう。 目くらましのようなそれに目を奪われていれば、 きっと獣の行方も、変わった姿も、認める早さは遅くなる。 衝撃を利用して一瞬のうちに宙へと躍り出た──── 大口を開けた獣と言うよりは、鱗に覆われた女の姿。 たったひとつの約束を抱えて、悪魔に襲い掛かろうとする、運命でさえも抗うちっぽけな存在。 赤から戻ったアイスブルーと、錆びることなく澄み切った刃の輝きだけが、これから起こる未来のことを物語るように。] (41) 2020/12/12(Sat) 2:52:34 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[刹那────月が翳る。] ッ 、 う゛ あぁぁあぁぁ!!!!!!!![咆哮と叫びが混じりあっていく。 飛び掛かった獣の姿が剥がれていく。 雲間に隠れた月明かりがわずかに照らすのは、高く跳躍した人外の一部を残した女が空気に躍らせる、漆黒に輝く黒髪の艶やかさ。 未だに痛む身体中の火傷の残響が示しているのは、“元の姿に戻るのはこれが最後である”という証。 鋭利な牙が生えそろった顎が、何にも穢れぬ短剣を振りかぶった両腕に代わり────獲物に喰い掛かる代わりに、その左胸を貫き通そうとした。*] (42) 2020/12/12(Sat) 2:52:41 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[──────────びゅいッ と黒翼広げた暗殺者独り 冬空を切って星まで堕とさんとばかりの勢いで振りかぶる。 心の臓を着地点とした短剣がどうなったのか、悪魔学に疎い己はすぐに判断などできず貫けてしまったとして...これから起こることなど、分からない。 それでも、ふと我に帰れば狂気の離れた身体を 抱き止めてやりたくて、思わず腕を伸ばした。 (誰だって意識のある確実な死は寒いものだから、 大切なのだと認めた者の最後くらいは寄り添いたい。 ……自分自身が征服者として奪ったものを、 まだこの胸の中に残ったわずかな人間性で。) 息さえぴったりと合わされば、抱き合う形をとって、 ───それから。] (55) 2020/12/12(Sat) 8:08:00 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ………ッ !? ふ……ッん────ぅ、 [御伽噺の口づけなんかとは程遠い、貪り尽くすかのように覆い被さられたそれに大きく肩が跳ねた。 甘さの中に錆びた香りが混じりこんだそれは酸素の代わりに強制的に流し込まれて、脳みそを強過ぎる刺激が塗り替えていく。 その味の正体が、嘗て自分が渡した小瓶の中身だということにすんでのところで気づけない。 逃げることを許されない確実な死を運ぶ餌付けを享受しながら、ファーストキスにしては酷過ぎるそれまでもを受け入れようとする。 互いが最後に共有するのは終焉へと至る迄の過程だったのか。理解しようとしても時既に遅し。 小さな身体が唐突に受け止めるにはその激情は果てしなく重く、きつく蓋をされ続けてきただけのしかかるものの多さに圧倒される。 幾ら閉鎖的で鈍感な精神と思考を持っていても、 過去に抱いたことのある感情への名前の付け方を知っていれば……己に向けられるそれがなんなのかくらいわかる筈。 ……自惚れているのかと思われても仕方ないかもしれないが。] (56) 2020/12/12(Sat) 8:08:05 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[鼓膜を揺らすのは、遅すぎるくらいの愛の懇願。大きく見開かれた片目の澄み渡った凍土が激しく揺れ、隠し切れぬ動揺を明らかにしていた。 ……些か物騒な赤い糸を繋げた激しさに朦朧とした意識をなんとか奮い立たせようとしても、微笑まれた相手の視界には蕩けた表情を隠すことができない己の情けなさが映し込まれるのみ。] …………どうして、私なんか、 (怪物なんかいたところで、) [思わず零れ落ちるのは、純粋な疑問。 その答えを聞く前に、終わりに近づく身体は冷たい床の上に頽れていこうとするから───反射的に相手を抱きとめ、包み込んで。 ゆっくりと正座するように腰を下ろしたその膝へ、頭を降ろさせようとする。] (57) 2020/12/12(Sat) 8:08:09 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ(……ぽた ぽた と。 その頬に流れゆくのは、枯れたと思っていた涙。 冷ややかな頬を伝えば、温度を徐々に失う相手の顔に 水滴を立ててしまうから、絶えず指先で拭っていた。) [………今からずっと昔。 幼馴染を喰らった日からだった。 どんなに慕われようと、ひとの関わりは自然と薄れていった。 自身の友好関係など、信頼関係など、誰かの蜘蛛の巣から零れた糸を伝っていたものに過ぎなかったのだ。 ( ”弱い”自分の代わりに、”智慧”を身につけた。 身につけても、私は─── 弱虫で、臆病者だ。 全てを守れるだけの力も 救える力もなかった。 だから、 「選んで」 「棄てた」。 修羅を歩む孤独な道が正しいのだと信じて。 ) ────……大事なものなんて、選べるものじゃないのに。 その先は、何よりも恐れる孤独があるだけなのに。] (58) 2020/12/12(Sat) 8:08:29 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[力尽きたあの子を抱き上げてから気づいた。 私は呪いなんて要らなかった。 ただ、大切な誰かが苦しんでいるなら、 その悲惨な苦痛に苦しんでいるのなら。 ────…… 傍で寄り添い、支えたかっただけ。 互いにひとりぼっちになりたくなかっただけ。] ………傍に、いてくれるのか? これからも、ずっと……私の隣に。 [今も舌先に残り続ける甘ったるさの味の源を辿ろうとすれば、漸く彼の意図がわかった気がして───叶わなかったはずの自身の悲願が届いたような、不思議な暖かさが広がって。浮かべたのは泣き笑い。 指し示されるはずのなかった“自分を持ったままの終焉”を約束された安息感だけが、この心を静かに満たしていた。] (返事なんて必要なかった。 返される内容さえも察しがついてしまう問いだから。 もう孤独に震えることも、泣き叫ぶこともない。 死の向こう側に至ってもずっと、寂しくないという事実が 揺らぐことなく目の前に差し出されているだけ。) (59) 2020/12/12(Sat) 8:08:50 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[プロポーズにも似た短い言葉に、乙女のように応えることは自分らしくもないだろうから。 ほんの少しだけ……死の間際に、痛みを我慢してほしい。 全てを奪われたあの夜の仕返し。火傷だらけの身体には、彼の所有印が未だ色濃く全身に残っていたはずだから。] [相手に覆い被さって、その喉元を引き裂かぬ程度に食らい付く。 口づけのお返しとしては少々野蛮な噛み跡をひとつ、そこにくっきりと浮かばせて───それが懇願への返事の代わり。 此奴は永遠に自分の獲物だと言わんばかりのマーキング。] [遅効性の毒薬がその身を激しい苦痛の末路へと誘うまで────あと少し。 死に向かうには寒すぎる季節の訪れを告げるのは、割れてしまった窓から降り注ぐ雨から変化した───……*] (60) 2020/12/12(Sat) 8:15:17 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[私は自分勝手な復讐心で数多の敵と同胞を殺し、狂い果てるべき定めの“ひとでなし”だった。 (こんな私を怖がらない。 こんな私を拒まない。 あまつさえ、こんな私の願いを叶えようとした。 いつまでもばかで愚かだと思うが────……、) でも、お前が私に向ける気持ちを、漸く理解できた。 (2人寄り添い眠った夜が穏やかだった訳も、 餞別を渡す名残惜しそうなかんばせも、 甘く抱かれた夜に触れる優しい手つきも、 ……いまなら全部、納得がいく。) ────────……… だから、「噛んだ。」 (応えた。)] (61) 2020/12/12(Sat) 9:46:39 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ (『────……傍に居てくれ、リヴ。』) (「……何処にも行けぬと知っておろうに。」) [大切なものを傷つけてはならないと知っていたのに。 死に向かう痛みを増やすだけだというのに。 百獣の王には、その生き様に相応しいくちづけを。 (いつまでも自分から祝福を送れないまま、) その喉に自己主張の少々激しい其れを残してしまったのは、 地獄までの一本道で出会うための目印代わりと ─────指切りの代わりだったのかもしれない。] (62) 2020/12/12(Sat) 9:46:58 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[───手先の痙攣と共に、苦痛は不意にやってきた。] [体制を崩し、胸を押さえて倒れ伏した時。彼はもう逝った後だったろうか。 どちらであれ、冷たい床に投げ出してしまった事実に焦り、びたんびたんと暴れる腕を動かして、その手を繋ごうとする。 その行動が叶ったと同時、呼吸が大きく乱れてきつく痕ができるほどに握りしめてしまった。 同胞に飲ませたのは睡眠薬が入ったもの。 生命を奪う毒薬にしては長時間の苦痛を味わわせる配合にしたのは、敢えて自分のものだけ情け程度の眠りを与えなかったのは、……全てを見え透いていた過去の自分から非道な手段しか辿れない未来の怪物へ送る罰。 うまい呼吸の方法を忘れ、瞳孔が閉じるのを忘れ、急激に三途の川を渡り始める体はすでに限界だった。] (寒い。苦しい。……その筈なのに。 息絶えて既に体温が失われている此奴の手が温かいから、 何故だか笑みが溢れてくる。 涙でぐしゃぐしゃで、ひどい顔をしながら、笑った。) (63) 2020/12/12(Sat) 9:47:58 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[痺れに苦しむようなか細い吐息を溢して、呻きを流す。 「ヴィル。」 徐々に神経まですり減らされれば、滅びを迎える肉体が与える苦痛を感じることも無くなる。 通りが良くなった喉を震わせて、1人の名前を呼んだ。] 夢で未来を、見たことがあるんだ。 黄泉 …彼処は昏くて..寒くて……. …怖いばかりで、...何もない。 まるで今の季節のようだ。 [紅鏡の気配に、少しばかり眉を寄せる。 もう片方の腕を床に這わせるように動かして───冷たい身体を抱きしめ直した。] (64) 2020/12/12(Sat) 9:48:15 |
【人】 凍土 リヴァイだから、 ……お前の傍にずっといるさ、ヴィル。 お前が私を求める限り、 私を拒んだりしない限り ……永遠に。 (呪いが解けた御伽噺の人物のように、 甘ったるい言葉を……らしくもなく吐き出す様は、 怪物の性から解放された、普通の少女のままで。) (65) 2020/12/12(Sat) 9:50:15 |
【人】 凍土 リヴァイ[思い返せば彼の名前を呼んだことがなかった。 甘味の取りすぎを咎めるときも、口喧嘩をするときも。 ……身体を重ねたあの夜の時だって。 卒業時に形式めいて叫んだフルネームは呪文のようなもので 相手のことを思って発したことなんて一度たりとも。 お前は私を置いていくのだと思って その身に縋り付くような恥を晒して お前に何れ来る暗い未来をおもって どす黒く回る心を抑えられぬ時も。 孤独に震える末路は自分だけの秘密で 感じていた体温も何れは離れていくものだと…… 毒薬を与えたくらいで何も変わりやしないのだと、勘違いしていたのかもしれない。] (66) 2020/12/12(Sat) 9:50:36 |
【人】 リヴァイ[それきり、女の唇が開かれることはなかった。 魔性を失った朝焼けも間近な空の中、宵闇が手を招いている。 初雪が2人の上を白いシーツのように覆って仕舞えば、まるで互いに寄り添い眠っているように見えるのかもしれない。 苦痛に顔を歪ませ、喉をかきむしった痕跡こそあれど、 その表情は憑き物が取れたように穏やかで、少々上品な笑みを讃えてこそいた。] (69) 2020/12/12(Sat) 9:52:04 |
【人】 リヴァイ[……もう、辛いことは何も感じなくなった。 冬の到来を知らせる新雪も、美しさを感じるばかりで気にならなくなった。 だけれど今はやっぱりひどく寒いから、最後まで寄り添っていても許されるだろうか。] “ もう2人、何もかも分け合えるから ” (この冬の寒さでさえも、2人だけの秘密にしよう。)** (70) 2020/12/12(Sat) 9:53:24 |
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