人狼物語 三日月国


52 【ペアソロRP】<UN>SELFISH【R18G】

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視点:人


【人】 『ブラバント戦記』  



  帝国歴721年 岩の月15日

 平原に薄く積もる雪が融けると共に、
 地獄の戦乱が遂に幕を開ける。

 アリン家の滅亡など前触れでしかなかったかの様に
 各地で一斉にレジスタンスによる戦闘行為が発生した。

 かつて領地を奪われた者、家名を貶められた者、
 祖先を虐殺された者、アーレンベルクの信仰者……

 皇帝ヴィルヘルムが即位前より行っていた
 魔術学園剣戟部の活動を通した革命へのメッセージは
 確実に効力を発揮していたと言えよう。


 
(5) 2020/12/01(Tue) 15:39:34

【人】 『ブラバント戦記』  



 6万にまで膨れ上がった帝国側の軍勢は
 平野を駆け抜け、豊かな山岳と河川を越え、
 春の訪れに先駆けてバルバロスの森の裾────
 ガルニエ伯爵の持つ領地へと迫った。

 七つの諸侯は北の海沿いに追いやられた帝国を
 南方から東方へと取り囲む形で点在し、
 ガルニエはその中でも最も北寄りに位置している。

 ほぼ時計回りの侵攻ルートを取るだろうと
 予め予測していた公国諸侯は、
 森林地帯にゲリラを展開しこれを迎え撃った。

 森から出れば挟撃を免れない帝国は深い森を抜けたが、
 道中での度重なる襲撃により消耗を繰り返す事となる。


(6) 2020/12/01(Tue) 15:39:58

【人】 『ブラバント戦記』  



 
K
einem vernünftigen Menschen wird es einfallen,
 Tintenflecken mit Tinte,
 Ölflecken mit Öl wegwaschen zu wollen.
 Nur Blut soll immer wieder mit
 Blut abgewaschen werden.


    ────まともな人間はインクの染みをインクで、
        油の染みを油で洗おうとはしない。
        血のみが血を以て洗い流されようとする。


 
(7) 2020/12/01(Tue) 15:40:16

【人】 『ブラバント戦記』  



  721年 氷の月3日

 弓兵や銃兵を森に潜めて抵抗するも、
 民兵を盾とするかの様ななりふり構わぬ進軍により
 ガルニエ領、アングレール領は次々陥落。

 隣合う領主である彼等の総意により届けられた
 降伏のサインはまるで受け取られる事はなかった。
 交渉が跳ね除けられると彼等は籠城を選んだが、
 其れも空から降る焔の前では無力だった。

 ガルニエ公は言った。


   『   悪魔に魂を売った怪物めが。
     騎士の誇りを貶めてまで勝利を得て
         一体何になる?      』




 
(9) 2020/12/01(Tue) 15:42:01

【人】    





  「 陛下、斥候より伝達に御座います!
    サー・アルベルタが討死したとの事──── 」



 
(46) 2020/12/03(Thu) 0:06:21

【人】 『ブラバント戦記』  



  722年 火の月2日

 バルジ峠唯一の陸路を雪が覆い隠していく。
 昨年秋のダンメルス家による決死の抵抗を受け、
 大損害を受けた帝国軍は反撃の機会を窺っていた。

 掃討部隊の空挺が丘陵を飛び交う中、
 深い雪原に潜んでは近付く冬に耐え忍ぶ。
 餓死者が出る様な行軍ではなかったが、
 気温が下がれば傷が癒えずに力尽きる者が増える。

 隊列から無念ながらに離脱する者も現れ、
 帝国軍は縮小の一途を辿っていたが────

 年も明けて間もない頃、彼等は攻勢に出る。
 其れは吹雪に紛れて四部隊に組み分けた布陣での
 挟撃作戦だった。

 
(51) 2020/12/03(Thu) 0:11:28

【人】 『ブラバント戦記』  





 ────対し、死の間際に立つ者の激憤は
     血に連なって流れ落ちる事など有り得ず。



 男は言った。正確には諭す様な声色で嗤った。
 制圧された居城、今にも降ろされようとする梟の御旗、
 帝国兵の掃討を受けた残り僅かな同胞の断末魔。

 戦乱の喧騒が少しずつ過去のものと変わる中、
 余りにも穏やかな声は確実に居合わせた者達の耳に入る。



 
(54) 2020/12/03(Thu) 0:13:28

【人】    



 男は学者だった。
 物を作り、真理を知り、歴史を記す使命を持つ。
 同時に多くの術式に通ずる優秀な魔道士でもあった。


       「 お前一人の為に国は後退した。
         繁栄の手段を自ら潰したのだ 」


  
(55) 2020/12/03(Thu) 0:13:52

【人】 『ブラバント戦記』  



  722年 土の月16日

 『724年中にはこの戦争を終える』────
 主君の言葉の元、数を減らした帝国軍は
 軍隊を複数に割いて暫しの休戦期間に入る。

 とは言え、制圧圏よりそう離れていない砦では
 変わらない厳戒態勢が敷かれていた。

 ダンメルス家滅亡より数ヶ月を経て
 残るアングレール、ロイス、ベストラの三家へ
 侵攻を開始する。

 最も社会的地位が低く、地理的にも北方に位置する
 アングレール家が真っ先に矢面に立つこととなった。


(58) 2020/12/03(Thu) 0:15:31

【人】 『ブラバント戦記』  



 ────と思われたが。

 自領への帝国軍の侵入を確認するなり、
 アングレール子爵側は兵を差し向けず白旗を上げた。

 数度使者による伝達が行われた結果、
 ブラバント帝国は城の明け渡しを要求。
 それは二百年前に大部分を焼失した後、
 再建されたかつてのシェーンシュタイン城だった。

 交渉はその大広間で行われる事となる。
 血濡れの婚儀となったその場所で。


 
(59) 2020/12/03(Thu) 0:15:50

【人】 『ブラバント戦記』  



  723年 風の月5日

 第一回の出兵より三年。
 獅子戦役最後の攻勢が始まる。

 山岳に護られた高巣城を落とすのは至難の技。
 ベストラ家は近道となる全ての橋を落とした上で、
 魔道部隊が谷間を通る帝国軍を崖の上から迎え撃った。

 降り注ぐ氷の礫は火を用いて相殺する訳にもいかず、
 傷口に凍傷を作った兵がそのまま凍え死ぬ事もあった。

 帝国は丸一年と数ヶ月をかけてこれを攻略。
 舞台は城内戦へと移ることとなる。

 この戦いでの死者は両陣営合わせて数万人に及ぶ。
 魔法によって発生した洪水で行方知れずの者も少なくない。
 

(69) 2020/12/03(Thu) 12:56:47

【人】    



 持てる術を全て使い切った上での敗北。
 総指揮官として捕えられ、引きずり出されたのは
 ベストラ公爵家、アイリー城主ユーダス。


       「 私の妻子にも手を出したな。
         これで満足か? 燎原の獅子よ。 」


 
(72) 2020/12/03(Thu) 12:58:56

【人】    




 既に妻子は西の大陸へ出る船に乗せられ、
 ベストラ家は実質的な滅亡を目前としていた。
 ユーダスは血の混じった唾を濡れた野草に吐き付ける。


     「 大昔の話だ。私とて当事者ではない。
       数百年の年月の内に事実がどう伝わったかも
       定かではないだろう。 」


 
(74) 2020/12/03(Thu) 12:59:48

【人】    




 ユーダスは歯噛みする。
 遠い祖先の行いなど彼の知る所ではない。
 だが血統が背負う罪は長く残り続け、
 善行によって洗い流される事は無いと理解していた。


       「 ハ、これまでもそうしてお前が
         犠牲にした者に報いて来たのか? 」


 
(76) 2020/12/03(Thu) 13:00:46

【人】    




 諜報と謀略に長けるベストラが
 皇帝の身に降りかかった事柄を知らない筈がない。
 相手が見据える物が“自分が去った後の未来”であると
 全てを悟った上で囁いた。


   「 ではお前自身はこれからどうする?
     その呪い、その力、とうの昔から知っているぞ。
            ────長くはないのだろう? 」


(78) 2020/12/03(Thu) 13:01:48

【人】    




 僅かに滲んだ本音をユーダスは聞き逃さない。
 王の出生に纏わる噂、内政へ潜り込ませた間者の情報、
 そこから弾き出されるのは全身全霊での侮蔑。

    「 報復の為に生まれ育て上げられた
      レオポルド卿には最早何もないと?
      そうか! ────ハハハハハハ!  」



 
(80) 2020/12/03(Thu) 13:03:20

【人】    



  724年 冷の月28日

 長い長い戦争はブラバントの勝利で幕を閉じる。
 七つの諸侯が根絶され、彼等の家族の生き残りは
 実権を奪われるか遠くの大陸へと全員が流された。

 彼等は冬に差し掛かる山脈を越え、
 数週間をかけて帝都まで戻る支度を始める。
 ぬかるんだ高原が戦疲れを助長する中、
 重い足取りで北西方向へと凱旋するのだった。

 城主を失ったアイリー城はもぬけの殻となり、
 奇しくもシェーンシュタインの雨の再現となった。


(82) 2020/12/03(Thu) 13:04:30