──呼び出しの声。

「うぇ、俺なんかしたっけ？マジで当たった？」

“一部の人間が呼び出されている”
少年院に入ったばかりの人間が理解できた情報なんてそれくらいだ。

「ここまでされる程じゃなくない？皆してるって先輩も言ってたしぃ……」
小声で呟き、急かされて「ハイぃ！」と走る。
ちらりと見えた名簿らしきものに、10数人程の記載があった。

「―――……なにこれ」

呼び出しのお触れを聞き集まった、場所。
見回せば殆ど見知った顔しかいない……のは当たり前か。
少年院の塀の中なのだから。

「ふぅん、……要するに金稼ぎのために協力しろってこと。
　勝ち残れば褒美あり……ね」

「――――………」

思考の海へと沈みながらそう呟いた。

【プロフィールカード】

　番号：4274
　名前：素崎真斗（ｽｻﾞｷﾏﾅﾄ）
　年齢：19歳（高校・大学には行ってない）
　異能：影渡り-テリトリー-
　　　　影を踏むことで、相手の行動・異能を封じる。
　　　　また、その影に入り込み潜むことができる、
　　　　その際相手の記憶を視てしまうため
　　　　本人はその力を使うことを好んでいない。
　　　　弱点は光と闇。影を作り消してしまうものなので。
　収容歴：2年目
　犯罪歴：少年拉致監禁

　ひとこと：
「……よろしく。俺の邪魔……しないでくれると助かる。
　面倒なのは嫌いなんだ」

「───えぇと、」

この場所に来てから日も浅い。
何かの説明でもされるのかと思いきや、
とんでもなかった。

「そうか。分かった。
　いや分かる訳ないだろ。
　仮眠して来ても良いか？」


　　　　　　　　　　　　☆何も分からない─────！

■プロフィールカード


　番号：1117
　名前：闇谷 暁
　　　　ﾔﾐﾀﾆ ｱｶﾂｷ
　年齢：17
　異能：（未記入）
　収容歴：数週間〜数ヶ月
　犯罪歴：毒殺未遂　1件
　ひとこと：冤罪を主張する。
　　　　　　俺はただ───ッハァ！？
　　　　　　セッ……せ、そ……おれ男……え！？
　同室：貴戸 高志

　何よりも大事なことだった。説明役の看守へ執拗に確認している。
　次に尋ねたのは、報酬について。
　貢献度次第で収容期間の短縮も可能と聞けば、さらに目を輝かせた。

「よ〜っしゃ、リョウちゃんに任せな。
　何もわからねーけど……まあ、何とかなるだろ！」

　夢を叶えるのならば、いつかではなく今がいい。
　人間はいつ死んでもおかしくないのだから。

【プロフィールカード】

　番号：7734
　名前：迷彩リョウ！リョウちゃんって呼んで！
　年齢：16！早生まれだからまだ15だよ
　　　　小学校はまあまあ行ったかも〜
　異能：真似するやつ！
　収容歴：もうすぐ2年だった気がする
　犯罪歴：殺人ホジョ？ってやつ！
　ひとこと：「おんなじやつがいい！」
　同室：黒塚彰人

「アハハ、ジョークにしては笑えないですよぉそれ〜」

「……あ、ほんとにやるの？」

にこにこと、いつものように笑みを浮かべながら話を聞く。

「もう決まっちゃったんですもんねぇ。
　ご褒美貰えるように、頑張りますよぉ」

「……僕みたいなのを入れるんです？
　面白い反応なんて出来ませんよ」

　説明をまともに聞いたか聞かなかったか、適当な調子で説明役にそう返す。手足の指の数をゆうに超える注意を受けてから、普川は一人になった。

「物好きって何処にでも居てるよね」

　鈍く光を反射する銀の筒が、コトリと音を立てて机に置かれた｡

【プロフィールカード】

　番号：9949
　名前：普川 尚久(ﾌｶﾜ ﾅｵﾋｻ)
　年齢：20歳

　異能：影に質量を持たせ、操る能力。特に名前は付けていない｡

　収容歴：6年目。中2の夏から。
　犯罪歴：殺人罪(1名)、傷害罪(10名)

　ひとこと：「僕はなんもしとらん」
　

【プロフィールカード】
　番号：0251
　名前：鏡沼 創（かがみぬま はじめ）
　年齢：17歳

　異能：「皆と仲良くなれるやつだよぉ」
※精神干渉系異能に分類。
『相対した相手に軽度の好意（友情などに位置する）・親近感を与える』『自身への敵意を抑える』ものと推定。　

　収容歴：春に収容。
「ツッキー以外先輩だねぇ。よろしく〜」

　犯罪歴：傷害疑い及び殺人未遂疑い。要経過観察。
「オレはなぁんにもしてないのにね？」

　ひとこと：
「みんなトモダチなんだし、仲良くしようねぇ」

　――分かりました。
　少年から青年への過渡期である（そうであると推測される）男は、与えられた指示のすべてに、いっそ無感動なまでに従順に頷いた。

　もういいですかと問う。許可が下りれば即座に背を向けた。
　このとき一礼を忘れていたことに気がついたのは退室し、一人になってからだった。