…此処にいてもいいって言ってほしいから

これ以上今のまま生きていても、きっと、ただ寂しいだけだから

[差し出した赤い石の価値は、実のところ僕にはよくわからない。
それでも、この石は…僕を化け物として生かしてくれているこの石は、魔術的に価値あるものなのだろうと思う。
だからこそ、主様は…この石をはじめとしてさまざまな仕掛けを生まれる前の僕に施したのだ。


それこそ、己の全てを賭したと言っても間違いはないだろう。
……それで生まれてきたのが『失敗作』の僕だったのは、申し訳ないけれど。

―――でも、今は。
彼女にとって、此の石が願いを叶える対価になるかだけが気がかりだった。]

もし鏡を見る機会があったなら、自身も気づいたことだろう。
鏡に映るその姿は、嘗ての自分の創造主を二回りほど若くしたような、そんな姿であると。
尤もそれを知る機会はもう少し先の話であったかもしれないが

あの子と、同じくらいか

自分の存在が全く無意味じゃないと、思うことができる

――とある男の話――

[それはずいぶん昔の話。

ある男がいた。
幼くして才気に溢れ周囲から神童と呼ばれたその男は、年若くして魔法を、そして錬金術を修め。
嘗て北方の大侵攻があった際には仲間たちと共に『勇者』と呼ばれ『賢者』としてその叡智を讃えられた。

男には、友がいた。
否、「友だと思っていた」というのが正しいか。

その友は、男から見て酷く強欲な性分の持ち主であった。
男には――身も蓋もないことを言ってしまえば――魔法の才しかなかったが、彼はこの世の全てを欲し、己の欲望を、望みを叶えてきた。

友には、男のような魔法の才能はなかったがそれ以外の全てを持っていた。
否、手に入れたというべきか。

優れた剣術と、大侵攻の際に賜った『剣王』の二つ名。
その名声によって得た、名誉、財、地位。――そして美。

欲深い男ではあったが、同時にその才の全ては本物だった。
己の欲望に対する姿勢に思うところはあれど、北の大侵攻のとき、背を預けて戦ったあの日のことを男は忘れていなかった。
この世の全てを手に入れようとしているかのような彼を、それでも、男は友だと信じてきた。―――あの日までは。]