人狼物語 三日月国


237 【身内R18】冬来たりなば春遠からじ

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北神 翡翠は、メモを貼った。
(a0) 2024/01/01(Mon) 1:04:59

【人】 北神 翡翠

[寝室に移動した後は二人して裸になると、
ベッドの中で抱き合って、少なくとも一回は愛し合っただろう。
ナマで出来る機会を一回で終わらせるはずはない
]


(病み上がりって何だっけ)
(なんだろうな……)
(いや、俺はもう病み上がりじゃないんだから……)


[最後は精魂尽き果てて、君との繋がりを解いた記憶も無いまま泥のように眠った。

 
酒を飲まなければもう一度出来たかもな。


君の体を腕の中に囲いながら、そんな夢を見たかもしれない。
そして迎えた翌朝。
君からクリスマスプレゼントだと言って渡されたのは、小さな包み>>0
礼を言って受け取ると、促されるままに開封して]


 あっ……タイピンだね。
 この石は…───瑠璃ラピスラズリ、かな


[すぐに思い出したのは、君がいつも着けている青薔薇のイヤリングだ。青薔薇といえば、初めて君が俺の部屋に入った時、ベッドの上で片方の薔薇を見つけた時の事を思い出す。
青薔薇イヤリングを君だと思って、持主が居ない時にキスをしたけど、その時と似た感情が胸を過った]
(2) 2024/01/04(Thu) 22:35:58

【人】 北神 翡翠

[様々な思いを巡らせながら手元のピンを眺めていると、
俺の両手を君の手が包む。
そのまま胸元へと移されて、一緒に想いを伝えられる。>>1]


 ……可愛いね。
 君だと思って、ずっとつけていくよ。


[かつての青薔薇イヤリングを君のようだと思ったから、
似た雰囲気を持つこのタイピンも君のようだと思える。
まさか青薔薇イヤリングの一部が使われているとは、この時は思いもよらなかったけど]
(3) 2024/01/04(Thu) 22:36:51

【人】 北神 翡翠

──1月5日 早朝──



君が暮らす学園寮の前にミニバンを停める。
到着したよとLINEを送る前に君の姿が見えたので、運転席から手を振って合図を送った。
君は初めて見る車体で驚いたかもしれないね。


「あ、そうそう、去年の秋くらいに買い換えたんだ。
 地方に行く用事が増えたからね、車内が広いのにしたくて」


君が乗り込むのを待って、出発してからそう切り出したかな。
以前の車種と比較して、今度のは荷物が多く積めるし、シートがフラットにもなるので、いざとなれば車中泊も可能だ。
まぁ、車中泊の機会はまだないけれど、長時間移動で楽な姿勢を取れるのは大事なポイントだ。あと、


「車内にミニ冷蔵庫とカラオケもあるよ。
 これで渋滞に巻き込まれてもバッチリ」


モニターはフロントと後部座席にもあるから、ほぼカラオケボックスと同様に楽しむ事ができる。機器には最大四人までユーザー登録が可能だから、


「あとで海瑠の名前も登録しようね。何なら歌っていく?
 いいよ、……君の歌を聞きながらドライブなんて最高だ」


なんつって。
実際に歌うかはともかく、「ひすい」「こうき」「まさたか」に続いて「みる」は登録したかもしれない。
(4) 2024/01/05(Fri) 0:21:50

【人】 北神 翡翠

新車は以前より大きいけれど、ここ数日かけて都内を走り回ったので、車体感覚は掴めたと思う。正月三が日は道路も空いてて走りやすかったしね。

今日は休み明けで多少の混雑はあったものの、都心を抜けた後は快適なドライブを楽しむ事ができた。
冬の澄んだ青空の下、君とのトークや歌(?)を楽しみながら行けば、やがて目の前に海景色が広がってくる。
夏場と違って海岸にはほとんど人はいないが、時折景色を釣りを楽しむ様子が散見された。
俺たちも海を見ながら、去年の夏に行った海水浴の思い出話に花を咲かせたかもしれない。
やがて目的地に到着すると、付近の駐車場に車を停めて降りる。


「うわっ、寒ッ」


冬の海風が強く吹き付けて、思わず悲鳴を上げて肩を竦める。
帽子やマフラーは、しっかり身に着けておかないと、風に飛ばされるかもしれないよ。気を付けてね。


「……よし、まずはこの橋を渡って、
 向こうにある神社にお参りに行こっか。
 その後はここに戻ってきて、次はあっちの水族館に行こう」


こうして俺たちは、吹きすさぶ風に体をくっつけ合いながら
橋を渡って、地元に古くから祀られている水神様のお参りへ
と向かった。
(5) 2024/01/05(Fri) 0:22:12

【人】 北神 翡翠

三が日は過ぎたものの、向かった神社は参拝客で賑わっていた。
橋を渡った先に続く参道にはあらゆる店が立ち並び、食べ歩きできる温かいメニューなんかも並んでいる。
昼食にはまだ早い時間だが、甘酒や焼き団子の匂いが漂ってくれば、思わず手が伸びそうになる。いやいや、まずは参拝が先だ。君と軒先をのぞく程度に留めて、朱塗りの大鳥居を潜る。
目の前にある石段を昇れば、再び鳥居と境内へ続く門が現れた。
門に入ればすぐに参拝待ちの行列があったので、二人で最後尾に並ぶ。
ご丁寧にも近くに「ここから約30分」といった立て看板があって、


「アトラクションみたいだね」


と、こっそり君に耳打ちして、頷き合ったりして。
しかし、待ち時間の目安が分かるのはありがたい。途中、交替で行列から抜けて、手水鉢で手を洗って口を漱ぐ。
ものすごく冷たい水だったけど、そこは我慢……。

境内は木々に囲まれているので、海沿いほど風は吹き付けない。
二人で話をしていれば30分なんてあっという間で、やがて俺たちの順番が回ってくる。
北神家としての参拝は元旦に済んでるから、
今から願うのは、君と共に生きるこれからについて

 
 家内安全
 子孫繁栄
 安産祈願…───は、まだ早いか


水の神様、水神様。どうぞ、われらをお守りください。
(6) 2024/01/05(Fri) 0:22:38

【人】 北神 翡翠

お参りの後は社務所に立ち寄って、今年最初の運試し。
御神籤チャレンジだ。


「……っと、半吉……?」


馴染みの無い結果に首を傾げる。
半分吉、……中吉くらいかな。
しかし、書いてある事自体は悪くなさそうだ。
恋愛の欄には、
愛する人と共に過ごせることに感謝できるでしょう

とあって、思わず君の方を見る。

君に御神籤を見せて「半分だよ」と添えたら、
二人一緒だから大吉、といった答えが返って来たかな。


「二人揃えば大吉かぁ……ふふ、良い事をいうね」


君の前向きな言葉に胸が温まる心地がする。
喜びは二人で二倍に、悲しみは半分に、だっけ。
君と居れば本当に、良い運が巡ってくるような気がした。
(7) 2024/01/05(Fri) 0:23:25

【人】 北神 翡翠

神社を出て来た道を戻る最中、参道で気になる店があったら立ち寄ってみようか。
民芸品アクセサリーの店は、君の心をくすぐる可愛い小物が盛りだくさんだったかもしれないね。
トンボ玉を使った根付?ストラップ?いいんじゃない。
君とお揃いで持とうか。
二人で選んだものを一緒に目の前で掲げ、記念にしようねと笑い合う。

食べ歩きも心惹かれたけど、今はいいかな。
この後で向かう水族館へ早く行きたいし、昼食は館内で済ませようと考えているから。

海風が強い橋を渡って、最初の地点に戻る。
今度は海沿いの道を歩いて水族館へ。
何でも、国内では珍しいラッコを飼育展示しているらしい。


「ラッコ……見るの初めてかもなぁ」


水族館自体訪れるのは学校の課外学習以来で、今までラッコはお目にかかったことがなかったと思う。
今回ここへ来る事になったのも、以前何かの折に君からラッコの話を聞いたのが発端だ。


「芸が出来るの?マジで?」


水族館で見るショーはイルカやアシカのイメージだったけど、ラッコも出来るんだ、へぇ。君から仕入れた情報に感心しつつ、では実物に会いに行こうか、と一緒に水族館に入った。
(8) 2024/01/05(Fri) 0:23:47

【人】 北神 翡翠

お目当てのラッコの前は、大変な賑わいを見せていた。


「すっげー……、大人気じゃん」


その盛況っぷりに驚いたけど、理由も分かる気がした。
ラッコって水面に浮かんで胸の上で貝殻を叩くイメージだったけど、それだけではなくて、予想しなかったような、実に多様多才な動きをする。


「ラッコって、二本足で陸に立てるの?
 ……あっ、もらったのをどっかに仕舞ってるね。
 えっ、ポケットが付いてるんだ、ふ〜ん…海瑠詳しいね
 あっ、かわいい。
 あんなポーズするんだ。
 へぇ〜、分かってらっしゃる。あざと可愛いジャン」


幸い君は女の子にしては背が高い方だから、
水槽の目の前まで移動しなくても、ラッコの愛くるしい
動作はよく見えた。
思わず俺もスマホを取り出して、写真や動画を撮ったりも。

ラッコを十分に堪能したら、水槽の前を離れる。
そろそろ昼食にしようかな。混む前に済ませた方がいいかも
と、君を促して、館内のレストランへと向かった。
(9) 2024/01/05(Fri) 0:24:10

【人】 北神 翡翠

レストランに入ってメニューを眺めれば、
心なしか海の幸が多いような気がする


「……なんだか
 展示を見て、魚を食いたくなったりするのかな……」


複雑な思いを過らせつつ、俺はあっさりめに蕎麦を注文した。
ちなみに夜は事前に伝えている通り、
フレンチレストランでフルコースの予定だ。
この付近にある老舗で有名な店で、気軽に立ち寄れるのが売りだから、ドレスコードの指定はない。
とはいえ今日の事を考えると、それなりに意識した服装にはなった。今はセーターにダウンジャケットだけど、車にスーツの上着は置いてある。
セーターの下は白シャツで、君から誕生日に贈られたネクタイを結んでいた。

なので、今日は君の視線が首元に当たるのが、少し多いかな。
ふふ、似合う?
着けて見せるのは、初めてではないけれど。
(10) 2024/01/05(Fri) 0:24:42

【人】 北神 翡翠

食事を済ませてレストランを出れば、館内巡りを再開する。
珍しい生き物を眺めるのは普通に楽しいけど、ペンギンや
アシカ、イルカのショーはやっぱりテンションが上がるね。
しかも、イルカのショーではステージから
『今日お誕生日の方いらっしゃいますか〜?』
なんてお姉さんが呼びかけるものだから、
隣に居る君の手首を咄嗟に掴んで、


「は〜い」



と、一緒に手を挙げて大声で返事をしたり。
そうしたらステージに呼ばれたものだから、君は戸惑ったかもしれないけど、俺は笑顔で送り出しただろう。
ステージには君の他にも、小学生くらいの女の子が来て、
同じ誕生日同士、緊張した面持ちで立ってるのが何だか微笑ましく映った。

俺はスマホを構えて、ステージの上を撮影する。
こちらに君の視線が向けられれば、軽く手を振り返す。
そして、進行のお姉さんが
『イルカちゃんからのプレゼントで〜す』と促されるまま、
水面に顔を出したイルカから頬にキスを贈られると、
会場から一斉に拍手が湧いた。


 ふふ、こんなに大勢の人たちから、
 誕生日をお祝いされて良かったね。


俺からも拍手を贈って、君たちの誕生日を心から祝った。
(11) 2024/01/05(Fri) 0:25:24

【人】 北神 翡翠

イルカのショーで思いがけないイベントに遭遇した後
でも一生の思い出になりそうで良かったね

閉館の時間も近づいて来て、二人でグッズショップに入る。
ここでも一番人気はラッコか。
他にも多種多様なかわいいが満載で、君は店に入ってからずっとはしゃぎっぱなしだ。
特にラッコの等身大(!)抱き枕が気に入ったようで、


「いいよ、買ってあげる
 誕生日のプレゼント。

 ……うん?持ち帰れるでしょ、車で来てるんだから」


水族館を出て駐車場までは持ち歩く必要はあるけど、
帰りは君を寮まで送り届けるつもりだから、問題ないはずだ。
こちらとしても、誕生日のプレゼントは君の好きなものを贈りたいと思っていたから好都合だし。
ただし、特大なのでこれを収める紙袋や包装紙が無さそうで、


「それじゃあ、首元にリボンを巻いてください」


ラッコの首元に赤いリボンを結んでもらって、
ラッピング代わりにしてもらった。
車までは俺が運ぶつもりだけど、君が持つというなら
それでも構わない。
何にせよ、君の笑顔が見れて本当に良かった。
(12) 2024/01/05(Fri) 0:26:10

【人】 北神 翡翠

水族館を出ると、辺りはすっかり日が暮れていた。
まだ夕方と呼べる時間帯だが、今の時期は日の入りが早い。
日が落ちると海風が一段と冷たく感じたので、
移動の足取りは自然と速くなる。
駐車場に入って車まで戻ると、素早く乗り込む。
あ、ラッコちゃんは後部座席によろしくね。ダウンジャケットも脱いで一緒に後ろへ放り込む。


「よし、それじゃ次へ行こう。
 それじゃ、しゅっぱ〜つ」


ナビのボタンをポチっとな。
交通の状況に合わせて安全運転で向かいます、と。
(13) 2024/01/05(Fri) 0:26:29

【人】 北神 翡翠

車を走らせること30分ほど、海沿いから少し外れて山間に入ったところに、洋館風の建物が現れた。店の駐車場に入って車を停めると、セーターからスーツのジャケットに着替える。君も靴を履き替えるとかしたかな。これまでの行程をずっと、ヒール付きのパンプスで移動するのは大変だったと思うし。


「これ、どう?……着けてきたよ」


誕生日にもらったネクタイに着けたのは、クリスマスにもらったネクタイピン。>>0
ずっとセーターの下にあって見えなかったと思うけど、最初からここに居ました〜、なんてね。

服装が整ったら、店の入口へ向かう。
先に扉を開いて、君を中へ通してから自分も続く。
受付で名前を伝えれば、窓際の席へと案内された。

店内の照明は明るすぎず、落ち着いた雰囲気だ。
カジュアルが売りというだけあって、客の服装は様々だが、
小さな子どもを連れたファミリー層は居ないようだ。

席に着くと、飲物の注文だけ聞かれる。
車で来ているからと、ノンアルのシャンパンを頼んだ。
君はアルコールを頼んでもいいけど、おでんの時の前例もあるし、きっと同じものにするかな。乾杯する用だしね。
グラスが運ばれて、一人分ずつ目の前で注がれる。
給仕が去った後で、二人でグラスを掲げた。


「改めて誕生日おめでとう、海瑠…───乾杯」


グラスの側面をそっと触れ合わせた後、
一緒にシャンパンを含んだ。
(14) 2024/01/05(Fri) 0:26:59

【人】 北神 翡翠

コース料理をゆっくりと味わい楽しんだ後、
最後にデザートが運ばれてくる。
苺のミニショートケーキと、プチエクレアの間に、
ビスキュイを添えたシャーベットが置かれたプレートだ。
三点盛りの周囲を様々なカットフルーツが彩り、君の分には
Happy Birthday 海瑠 の文字がチョコレートで書かれている。
プロは画数の多い漢字もチョコレートで書けるのだと感心した

特別な演出に、君が喜んでくれれば、こちらも嬉しい。


「今日はどう、……楽しかった?」


デザートの後にコーヒーをブラックで飲みながら訊ねる。


「って、去年の俺の誕生日を覚えてる?
 君も食事の最後にこうして、聞いてきたっけ」


当日はプラニングから費用持ちまで、すべて君が行って
内心ひどくビビッたのを覚えてる。
でも、申し訳ないと思いつつも、君が何から何まで
俺にしてくれたのが嬉しくて。
今度は君の誕生日に俺が同じようにしよう、って心に
決めたんだった。
唯一、今日が日帰りで泊まりでないのが同じでないけど、
10日ほど前に泊まりで旅行に行ったばかりだしね。
今回は日替わり前に君を送り届けないと。
(15) 2024/01/05(Fri) 0:27:30

【人】 北神 翡翠

 

「で、君はこうも言ったよ。覚えてる?
 自分の気持ちは死ぬまで、……いや、
 死んでも変わらない、と。

 …───俺もだよ」


そこで俺は、テーブルの下から小さな箱を取り出して
君の目の前に差し出す。
やっべ……すげぇ緊張する

急に心臓がドキドキしたけど、言葉を続けなければ。


「君が卒業したら迎えに行くよ、
 だから、……
俺と結婚してくれ、海瑠



小刻みに震える手で、
ビロード製のジュエリーボックスの蓋を開ける。
箱の中身はプラチナリングが嵌っていて、
その中心には小粒ながらも輝くダイヤモンドが、
君の方へ向けて光を放っていた。
(16) 2024/01/05(Fri) 0:28:23

【人】 北神 翡翠

俺たちは既に結婚を約束を交わしていて、それぞれの両親にも挨拶を済ませた両家公認の間ではあるけれど、改めてこうして手順を踏むと、信じられないくらい緊張した。
ここで今更、君に断られる選択肢はないと思うけど、改めて受け入れてくれれば、涙が出そうになるほど嬉しくなった。
箱をテーブルの上に置くと、差し出してもらった君の左手薬指に、そっと指輪を嵌める…───と、その時、


「────!!」


突如店内に鳴り響く、あまりに有名な結婚行進曲のフレーズ。
ぎょっとして音のする方を見ると、店内の片隅にあるピアノで今まで穏やかな生演奏を披露していた奏者が、今やこちらに笑顔を向けながら、超ノリノリで曲を奏でている。
続けて店の奥から給仕が出てきて、

『ご結婚、おめでとうございます!』

と声を上げると、店内に居た客が一斉にこちらを見て、店員と一緒に拍手を送ってくれた。

えっ。
この店こんな事するの?確かに予約を入れる際に、
誕生日祝いと一緒にプロポーズもしますとか、言っちゃった気がするけど。
この状況に戸惑いつつも、君と顔を見合わせて頷く。目で促して、二人一緒に椅子から立ち上がると、


「ありがとう、ございます……」


祝福の拍手を贈ってくれる人たちに向けて、深く頭を下げた。
それから改めて、この場にたまたま居合わせた人たちの顔を順に見ながら、
(17) 2024/01/05(Fri) 0:28:49

【人】 北神 翡翠

 

「二人で、……幸せになります」


[はにかみつつも、決意を伝える。演奏と拍手はしばらくの間、鳴りやまなかった]
(18) 2024/01/05(Fri) 0:29:12

【人】 北神 翡翠

店を出る際に、店員から君に大きな花束が渡された。
これは俺の方から内緒で頼んだやつ


その場に居たお客を巻き込んでの祝福は、俺にとってもサプライズで、未だ信じられない思いを抱えながら二人で車に戻った。
運転席に乗り込むと、ハンドルに凭れてハァ、と溜息を吐く。
何だか一気に緊張が解けたみたい。


「なんか、もう……すごかった、ね」


先程の出来事を振り返りながら、君の方を見て力なく笑う。


「でも、料理も美味しかったし、すごくいい店だった。
 また来ようか……」


誕生日とか結婚記念日とか、来る理由はいくらでも作れそうだ。
再びこの店を訪れる将来を想像して笑うと、車のキーを差し込んでエンジンをかける。
この先向かうのは、本日最後の目的地。
カーナビに登録しておいた住所を呼び出すと、機械音声の指示に従って車を出した。
(19) 2024/01/05(Fri) 0:29:32

【人】 北神 翡翠

車が最後に向かったのは、山の中腹にある展望台だった。
山間にありながらも海が一望できて、辺りの夜景も楽しめるという隠れスポットらしい。
近くに車を停めて、二人で展望台へ向かう。
外灯が少なくて周囲はかなり暗いが、ガゼボらしき建物が見えるから、あのあたりが展望台か。


「あ〜……、ほんとだ……」


山間に囲まれた市街地が輝いている様子は、温かな灯火が集まっているようで、どこか安らぎに満ちた光景だった。
市街地の向こうにあるはずの海は、夜空に溶け込んでそのものは見えないけれど、
海面に浮かぶ船が灯す明かりは見える。
今朝参拝した神社がある島には灯台が立って、海へ向けて道しるべの光を投げかけていた。


「街のイルミネーションとはだいぶ違うけど、……どう?
 良かったら、少し眺めていこうか」


都内のイルミネーションのような煌びやかさはないものの、
この夜景を君と味わいたくて、ガゼボの方へと誘った。
建物の下にあるベンチに並んで腰を下ろすと、君の肩を抱いてぴったりと寄り添うように身を寄せる。
頬をくっつけて「冷たい」とか言いながら、ここぞとばかりにじゃれ合った。
シーズンを若干外しているのか、あるいは寒すぎるからなのか、周囲には誰もいない。ベタベタイチャイチャしても、咎める者はいないって訳で。
(20) 2024/01/05(Fri) 0:29:54

【人】 北神 翡翠

イチャイチャはしてるけど、ちゃんと夜景も眺める。
ガゼボの屋根に覆われてない夜空には、都心では見えない星たちが瞬いていた。


「あ〜……星もたくさん、綺麗に見えるよ。
 温泉でも露天風呂から見たね

 ……こう寒いと、
 また温泉に入りたくなるなぁ。……寒、さむ…」


温泉に入れない代わりに君から暖を取ってやろう、というわけではないけど、体の向きを変えて君の体を両腕で強く抱き締める。


「……、」


しばらく無言で抱き合っていたら、今日起きた色々な
出来事を思い出した。
ここまで楽しくドライブして来たこと、神社に参拝したこと。
お揃いのトンボ玉を買って、水族館でラッコを見て、
イルカショーで君の誕生日を祝ってもらったこと。
その場で贈ったラッコの抱き枕は、気に入ってくれた様子。
レストランに行って、君の誕生日を祝ってから、
指輪を贈ってプロポーズをした。
その場に居た人たち全員から祝福を貰えた。
君の左手薬指には、ダイヤモンドが輝いている。
(21) 2024/01/05(Fri) 0:30:27

【人】 北神 翡翠

 

「海瑠……、誕生日おめでとう、
 ……あと、」

 
(22) 2024/01/05(Fri) 0:30:49

【人】 北神 翡翠

──3月14日──


この日、俺の母校の学園では卒業式が行われた。
前年と同じように式典が行われたのだとすれば、
その後は友人たちと一緒に謝恩会に向かうのだろう。

事前に謝恩会の後で迎えに行くよと君に伝え、
会場の場所を君から教えてもらう……うん?


『ここって去年、俺の誕生日に泊まったホテル?』


君から送られてきた位置情報に見覚えがあったので訊いたら、Yesはいと返って来たかな。
なるほど、すごい偶然。それとも運命のイタズラ?

 ……。


『楽しんできてね。それじゃ、また』


送ったメッセージをそのまま受け止めるか、あるいは言外に込めた思いまで伝わるか。何にせよ、俺は君から指定された時間と場所に従うまで。
(37) 2024/01/07(Sun) 1:26:35

【人】 北神 翡翠

かくして俺は、約束した時刻の指定された場所に現れた。
ホテルのロビーに入って、エスカレーターから見えやすい場所にでも立ってようか。


「……なんか懐かしいな」


一度しか訪れた事のないホテルだけど、周囲の光景は見覚えがある。昨年のちょうど今頃、君とここでロマンチックな一夜を過ごした事はいい思い出だ。

あの日あの時この場所で、
君としたあれそれを頭の中で呼び起していたら、エスカレーターの方からたくさんの賑やかな声が聞こえてきた。


「あ〜…あれだな」


賑やかな若者の集団、おそらく彼らが学園の卒業生だろう。
酒が入っているのか、楽し気に盛り上がりながらエスカレーターに乗って下りてくる。
(38) 2024/01/07(Sun) 1:26:59

【人】 北神 翡翠

彼らは俺より一年後輩だから、中には在校中に多少交流のあった顔もあった。向こうもこちらに気付いたのか『北神せんぱ〜い』と呼ばれて手を振られる。
おいおい、声がでけーよ、と周りからの視線の痛さに身が竦む思いをしながら、手を小さく振り返した。
まあでも、一年ぶりの再会に嬉しそうな顔を向けられれば、俺も悪い気はしなくて、


「ひさしぶり〜、元気そうじゃん。
 卒業おめでとう。

 ん?
 ああ、俺も元気だよ。

 えっ、写真?いいけど。撮ろっか?って、
 俺も一緒に?あ、ハイハイ」


卒業したては記念写真を撮りたがるものかな。
その気持ちはなんとなく分かる

ほろ酔い気分の後輩に腕を引かれて、適当なその辺を背景に写真を撮った。その後で何故ここに居るのかと、今更ながらに訊かれて、


「いやぁ、
 君たちに卒業おめでとうが言いたくて待ってたんだってウソ。
 あ、おめでとうがウソって事じゃなくて、
 待ち合わせだよ。ここでね」


何もここに居る全員が、俺と海瑠の関係を知っているわけではないだろうから、少しだけ言葉を選んで慎重になる。
でも、誰かが「瀬戸ですか?」って訊いてきたので、そうだよ、と頷いた。すると別の誰かが、会場にまだ居るのを見かけたと教えてくれる。
(39) 2024/01/07(Sun) 1:28:41

【人】 北神 翡翠



「わかった。
 じゃあ、もう少しここで待ってようかな。
 うん、じゃあね、…───元気で」


ロビーから出ていく彼らに手を振って見送り、
再びこの場に一人取り残された。


(さて、俺のお姫様はいつ登場するかな)


などと思いながら、再びエスカレーターの方を見上げる。
すると、程なくして君の姿が見えた。


「おっ」


今日はパンツスーツか。そういえば、君から服装については聞いてなかったな。
俺の前ではスカート姿が多くなったけど、君のそうした姿を見るのは、去年の暮れに写真を送ってきてくれた以来か。
そして、君を取り囲むキャピキャピ集団よ……。
(40) 2024/01/07(Sun) 1:30:11

【人】 北神 翡翠

 

「……訂正。王子様、かな?」


思わずふ、っと軽く吹き出す。
滅茶苦茶モテてんじゃん、王子サマ。
とはいえ、その光景を見て湧いた感情は、羨ましいとか妬けるとかではなくて、純粋に愛しい、な訳で。

 どんなにハンサムな恰好をしてても、
 俺にとっては最高の彼女なんだよなぁ……。


君の姿を視線で追いながら、目の前に来るのを、待った。**
(41) 2024/01/07(Sun) 1:30:32

【人】 北神 翡翠

君と合流してから、クロークで荷物を引き取る。
コートとボストンバッグが一つ、あとは卒業式で貰った花や贈り物が入った紙袋かな。


「たくさんもらったね、…なんか、女の子からのが多い?
 ん、……そっち持つよ」


そもそも男が卒業式でプレゼントを贈るとか無いから、
送り主は必然と女性なわけだが。
一番重そうなバッグを代わりに持って、ホテルの駐車場へ移動する。


「君が寮から送った荷物は今朝届いたよ。寮にはもう、
 忘れ物はないかな?このままうちへ向かって大丈夫?」


君が寮で普段使いしていたものは、既にわが家に届いている。
段取り通りであれば、卒業式の後で部屋を引き払って、
最小限の荷物はこのバッグの中身だけ。
乗ってきた車の側まで来ると、後部座席を開けて
運んできた荷物をそこに置く。
(42) 2024/01/07(Sun) 10:48:13

【人】 北神 翡翠



「それと、俺からも。卒業おめでとう、海瑠」


すぐに元の位置に戻すかもしれないけど、まずは君に
直接手渡したい。
両手が空いた君に差し出したのは、青い薔薇の花束。
数えれば花は21本あるはずだ。
一年前に青い薔薇を4本、俺にくれた君なら意味は伝わりそうだね。
そもそも、薔薇の本数にも意味があるとは、この花束を買うまで知らなかったけど。



「あと、これも。バレンタインのお返し」


続けて渡したのは、小さい紙袋。
中身はマカロンだ。今日はホワイトデーだしね。
マカロンもオススメだけど、パッケージに描かれた白い猫が可愛いので、気に入ってくれると嬉しい。
俺からの贈り物に、君が満面の笑みを浮かべてくれたかな。
カッコいいスーツを着てるけど、今の君は本当に女性らしいと思うよ。
好きだ。



「ふふ、喜んでくれたかな。
 良かった。……それじゃあ、いこっか」


君を促して一緒に車に乗り込む。
目指す先は俺の…───今日からは、二人で住む家だ。*
(43) 2024/01/07(Sun) 10:55:57

【人】 北神 翡翠

渋滞に遭う事もなくスムーズに移動したが、
家に到着したのは結構遅い時間だ。
車を停めて、君を家まで案内する。
敷地内にある離れの一軒家。去年の正月にも一度来たよね。
一階、二階あわせて3LDKだけど、二人で住むには十分だろう。
今後家族が増えたら、増改築等やり様はある。

俺の両親は既に母屋の方に越していて、空いた部屋には君の荷物が運び込まれていた。
君の実家から届いてる分もあって、
君の手で荷解きされるのを待っている。


「今日はもう遅いから、荷物の整理は明日からにしよう。
 あと、うちの両親に会うのも明日でいいから」


両親や祖父母は同じ敷地内にいるけど、別居という体だ。
初めは何かと顔を合わせる機会が多いかもしれないけど、基本あちらから干渉してくることはない。母も祖母もそうして良好な関係を築いてきたから、君もそうだといいな。


「君は今夜、このベッド使ってね」


夫婦の寝室になる部屋に、ツインのベッドがある。
両親が使用していたものだが、マットレスや寝具は新しいものに交換済だ。
君のバッグを同じ部屋に置いてから、居間へと案内する。
(44) 2024/01/07(Sun) 12:20:29

【人】 北神 翡翠

 

「後で風呂にも案内するね。
 とりあえず、お茶でも入れようか。
 緑茶?それとも、ミルクティーがいいかな。
 カフェインを気にするなら、ハーブティーもあるけど」


リクエストを聞きながら、君にお茶を振舞うのは
久しぶりだなと感じ入る。
俺が寮にいる間はよく入れたものだけど、
離れ離れになってからは、その機会も失われていた。

君の分のお茶は、青薔薇が描かれた白いカップに入れた。
やっぱり君って、青薔薇のイメージなんだよね。

それに、さっき手渡した花束に足すと22本になる。
意味は「ふたりで歩いていこう」だったかな。



「……お待たせ」


二人分のお茶を運んで、ソファーにいる君の隣に腰を下ろす。
君の手元にカップが移るのを見ながら、こっそりと、そのような意味を込めて。*
(45) 2024/01/07(Sun) 12:22:17
 




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