【人】 人造生物 ユスターシュ―― 2日目夜/ヴンダーカマー ―― そう、なんです…? [出会った相手のことなんてそう一々覚えていない>>18 彼女の言葉に首を傾げて。 でも、それならそれで少しほっとする。 僕がこの街で出逢った人たちに何かを返したいと思うのは僕が勝手にそう望んだことで。 それで誰かが煩わしい想いをさせずにすむのならよかったと思う。] はい。 [再びの問いかけに強く頷く。 後悔はない。 寧ろ対価として安すぎるのではないかと思うのは人の姿を得て、陽の光が照らす温かな世界を見た今も変わらない。] (35) 2022/11/29(Tue) 20:54:29 |
【人】 人造生物 ユスターシュ[強烈な眩暈と脱力感に首を横に振ってどうにか正気を取り戻せば、それまでと変わらない彼女の声が聞こえた>>19 さっきと同じように自分の胸元に手を触れる。 「自分の中のなにかがなくなった」という感覚はやっぱり消えはしないけれど。それでも、後悔はなかった。] 僕のほうこそ、ありがとうございました。 [今更ながら、先程間近で見た彼女の顔を思い出して。 頬を朱く染めながら頭を下げる。 もしもの話。 ラ・コスタへの道中、彼女の噂を耳にすることがなかったら。 彼女に人の姿を与えてもらえていなかったら。 僕は化け物のままこの街の美しさも温かさを知らないで死んでいったはずだから。] (36) 2022/11/29(Tue) 20:57:36 |
【人】 人造生物 ユスターシュ――とある女の話―― [ある女がいた。 とある小さな村の、その中でも特に貧しい家の末っ子として女は生を受けた。 幼い頃、女は愛というものを知らずに育った。 酒癖が悪い父親と高圧的で支配的な母親。 末子である女を厄介者扱いし暴力を振るう兄姉たち。 そんな家族に囲まれて育った女であったが、 成長するにつれ次第にその美しさが花開きはじめた。 そして十三歳の頃。 女の評判を聞きつけたとある男にその身を買われ、村を出ることになった。 女を買い取ったのは、当時「ラ・コスタ」という街で劇場を営んでいた好事家。 新進気鋭の女優や歌手を幾人も輩出する遣り手として名の知れたその男はまだ幼さの残るやせぎすの少女に才能を見出した。 かくして女は師となった好事家の許でその美と才能を磨き上げていった。 思えば、女にとってあの頃が一番幸せだったろう。 師の許では彼女の美貌も女優としての才も歌声の美しさも、 磨けば磨くだけ輝きを増していったのだから。 師亡き後は、高貴な人たちの望むまま、渡り鳥のように劇団を移り。 そうして、気がつけば街一番の劇団の花形として名を馳せるようになっていた] (37) 2022/11/30(Wed) 9:41:55 |
【人】 人造生物 ユスターシュ[美しい女を求める者は数多いたが、その中に二人の男がいた。 嘗ての大侵攻で魔物たちの侵入を防いだ『北の勇者』。 そのうちの二人、『剣王』と『賢者』と呼ばれた男たち。 切欠は、ごく些細なものだった。 女が落としたハンカチを拾ったのが『賢者』と呼ばれた男だった。それだけの、些細な出会いだったのに。 気がつけば、賢者と会って話をする機会が増えていた。 そして、次に彼と会うのを楽しみにしている自分に気づくのにそう時間はかからなかった。 『北の賢者』という大層な肩書きとは裏腹に、その男は不器用で、口下手で、そして愚かなほどにひたむきで一途だった。] (38) 2022/11/30(Wed) 9:42:29 |
【人】 人造生物 ユスターシュ[―――俺にはあいつと違って魔法の才しかないが、 それでも、俺は君と添い遂げたい。君を、幸せにしたい。 女にとって、忘れられないプロポーズ。 美や機知からは程遠い、いっそ泥臭いその台詞は、 けれども舞台の上のどんな美しい台詞より女の心を打った。 女は、愛に…幸せな家庭というものに憧れていた。 それは、女が生まれ育った家にはなかったものだった。 この人とならば幸せになれるかもしれない、 温かな家庭が作れるかもしれない、と。 賢者が生まれて初めての恋にのぼせ上がったように、 女もまた、これからの未来に幸せな夢を見ていた。] (39) 2022/11/30(Wed) 9:43:41 |
【人】 人造生物 ユスターシュ[女は、プロポーズを受けた際、賢者に一つ、願いを告げた。 ―――Something old,something new, (なにかひとつ古いもの、なにかひとつ新しいもの) ―――Something borrowed,something blue, (なにかひとつ借りたもの、なにかひとつ青いもの) ―――And a sixpence in her shoe. (そして靴の中に6ペンス銀貨を) 当時、ラ・コスタの街で流行っていた恋歌の一つ。>>2:60 パトロン付の高名な詩人が作った詩に、これまた名のある作曲家が旋律をつけたもの。 「結婚式の当日に歌に挙がった物を身に着けると幸せになれる」 そんな噂も歌の流行と共に街に流れていて。 そうして、女は賢者に四つの品物を強請った。 特段高いものは望まなかった。 ただ、愛した男が自分のためにしてくれることが嬉しかった。] (40) 2022/11/30(Wed) 9:44:18 |
【人】 人造生物 ユスターシュ[数日後、賢者は四つの品物を集めてきた。 青いものは、青金剛石の指輪。 嘗て親友の『剣王』と共に巨大な魔獣を倒した際 その地の領主から賜った青金剛石を加工したものを。 古いものは、母親の形見のブレスレット。 母曰く、嘗て仕えていた家の貴族の娘から下賜されたものを。 新しいものは、真新しい絹のハンカチ。 上等の真っ白な絹に美しい白薔薇の刺繍が施されたものを。 そして、最後の品物について、賢者は悩んだ末に親友に切り出した。 「お前の持っているピン留めを一つ貸してほしい」と。 男は親友の気持ち>>2:9に気づいていなかった…否、 気づいていてもなお目を逸らしていたのかもしれない。 自分たちの友情は、これからも変わらず有り続けると、 愚かにもそう、思い込んでいた。 そうして、賢者は親友からマント留めのピンを一つ借り受けた。 そうして、全ての品物が揃い、賢者は女にそれらを渡した。] (41) 2022/11/30(Wed) 9:45:03 |
【人】 人造生物 ユスターシュ[――それから間もなくして。 女と会う約束をしていたその日の夜。 約束の刻限に家を訪ねても女は姿を現さなかった。 何度扉を叩いても、家の中にいるはずの女が応じる気配はない。 嫌な予感がした賢者は、扉を開けて家の奥へと足を踏み入れた。 女の寝室へと近づくたび、それまで嗅いだことのない噎せるような香の匂いに不安と苛立ちが募る。 …果たして、嫌な予感は的中した。 女の寝室へと足を踏み入れたとき、そこで繰り広げられていたのは見知らぬ青年たちと仲睦まじく身体を重ねる女の姿だった。 ――…それを見たときの賢者の心情は、如何ばかりであったか。 少なくとも、気も狂わんばかりだったのは間違いない。 その後、騒ぎを聞いて駆け付けた憲兵が見たのは、賢者が放った魔法の炎と斬撃とで、もはやぴくりとも動かない、瀕死の青年たちの姿だったのだから。] (42) 2022/11/30(Wed) 9:46:06 |
【人】 人造生物 ユスターシュ[賢者の受難は続いた。 彼が瀕死にした青年たちは、何れも当時の街の有力者の息子たちだった。 彼等の親は皆、我が子の醜聞を隠蔽するのと同時に、賢者に対する報復として、街からの永久追放を言い渡した。 弁明の機会は与えられず、そのまま、賢者は町を追われることになる>>0:338 その頃、女は悲嘆に暮れていた>>1:10 あの夜、女は愛する賢者と共に過ごしていたはずなのに。 気がつけば、賢者は街の有力者の息子たちに暴行を加えた罪で、街を追われることになっていたのだから。 だが、そのときのことを思い出そうとしても、なぜか事件前後の記憶だけが酷く曖昧で思い出せない。 結局、女も同じく弁明できぬまま、賢者は町を出て行ってしまった。 愛する者と引き裂かれ、女は悲嘆に暮れた。 だが、その後その悲しみを払拭するかのように女は女優としての仕事に邁進し、その年の『フェス』にて女神の心を射止めるまでに至った>>1:10] (43) 2022/11/30(Wed) 9:46:58 |
【人】 人造生物 ユスターシュ[――…女は知らなかった。 あの夜、友人から贈られてきた香を焚いた後、自分の家を訪ねてきたのは、賢者ではなく彼女に懸想した青年たちだったことも。 あの時焚いていた香が、強い幻覚を齎すものだったことも。 その香を贈ってきた友人――賢者の親友だった男が、悪意を持って青年たちを女の家に誘い込んだことも。 愛する男と幸福な時を過ごしていた、そう信じていたのに、 実際には知らない内に見知らぬ男たちに身体を弄ばれていたのだと。 後にその事実を知ったとき、女は悲嘆にくれ…そして堕落の道を辿った。>>1:11 役者の道から遠のき、強い酒とあの夜のそれより更に強い薬に溺れた。 それを用いて、女は屋敷に連れ込んだ男娼と身体を重ねた。 薬に溺れ現実と幻覚の境を見失った女には、もはや自分と身体を重ねる男は全て、嘗て自分が愛した男の姿に見えていた。 否、男は全て同じ顔に見えてしまっていると言ってもいい。 あれから長い年月が経っているのに、女の中では今でも男の姿は変わらないまま。 そうして、壊れていった女は次第に影街へと追いやられていき。 今はもう影街の景色の一部と化している。]* (44) 2022/11/30(Wed) 9:51:12 |
【人】 「怪人」 ファントムーーその魂は、いつも星のよく見える海岸に立ちつくしている。 その髪の色と同じ、青く星の瞬く夜空を見上げ続ける。 「しばらくだね。」 彼女と初めて会った時、彼女には記憶が無かった。 生前の自分に酷く嫌悪感を持つ魂は、そうなりやすい。 思い出したくもない、というものだ。 けれど、彼女はこうも言っていた。 『自分のことは覚えていないけれど、一つだけ心残りがある。 その為に、主の御許に昇らないのだ。』と。 「そんなまさか、と。 頭の片隅にも置いていなかったんだが、あとになって考えると、あまりにも君の話と重なる事が多くてね。 色々と調べたんだよ。」 (45) 2022/11/30(Wed) 14:15:40 |
【人】 「怪人」 ファントム「君が自分の命より大切にしていたリリーは無事だ。 今は母の呪縛から解き放たれて、自由に舞い踊っている。 だから、君はもう神の御許で待っていてあげてほしい。 ーーーさぁ、行こうか。 ステラ。」 (46) 2022/11/30(Wed) 14:16:07 |
【人】 大富豪 シメオン─ とある男の話 ─ [剣王シメオンの最も優れた能力とは何か。 男と共に『北の勇者』と呼ばれた者たちは口を揃えてこう言う。 「瞬時に本質を見抜く力」 と。 敵の弱点を即座に見抜き、敵の意図を瞬時に判断する。 その力こそが剣王の持つ最たる能力、彼らはそれを『心眼』と呼んだ。 ラ・コスタへ移住してより、その力は『美』に対して向けられた。 才能豊かな、しかし伸び切れない眠れる『美』を見出しては、彼らの飛躍に必要なものを与え、世に送り出した。 端役で燻るダンサーはそれによってプリマバレリーナとなった。 場末で小銭を稼いでいた歌い手は大劇団のプリマドンナとなった。 路上で似顔絵を描いていた者は流行りの画家となり、土産物の工芸品を作っていた者は街を代表する工芸家として名を馳せた。 シメオンによって見出され『美』の担い手として有名になった者は数多い。] (48) 2022/11/30(Wed) 17:07:08 |
【人】 大富豪 シメオン[だが、男は余りにも『美』に偏っていた。 ただ一瞬の輝きのために破滅に追いやられた者もやはりら数多くいた。 『美』の頂点に立ち、名を残したからといって本人が幸せだったとは限らない。 その一人が女優のドナータだった。 賢者の求愛を受けた女は幸せの絶頂にあった。 だが、それは賢者の親友に乗っては『美』が失われようとしていると受け止められた。だから、男は手を回した。 「幸せな結婚生活を続けるには必要なものがある」 男はそう言って女に流行りの歌を聞かせた。 女はそれを大層気に入って愛しい男にそれらを強請った。 男はそれを理解っていた。 賢者が男に何かを借りに来るとを。この街で賢者にはそれを頼める者が男しかいないのだから。] (49) 2022/11/30(Wed) 17:07:56 |
【人】 大富豪 シメオン[男は女の幸せを願っていた。 親友の幸せを願っていた。 ただ、それよりも男には譲れないものがあった。 そらだけのことで、それが全てだった。 ドナータは才能豊かな女優だった。 見目の美しさはもちろん、その演技は見るものを魅了した。 しかし、足りなかったのだ、男には女がもっと輝けることを、もっと美しくなることがわかっていた。 彼女に必要なもの。 男が見抜いたそれは『絶望感』だった。 ドナータの師は彼女を磨いた。 それが間違っていたわけではないが、彼女の『美』の本質は生まれの苦しさからくるものだった。あの頃には戻りたくないと、自分を磨くその想いこそが彼女の『美』の本質。 だが、幸せな日々を過ごす中でそれが曇っていくのを男は見過ごさなかった。見過ごせるわけがなかった。 そしてそれは見事に花開く。 悲劇的な別れ、体を汚され、愛する者を失ったその絶望がドナータをさらに美しく磨き上げた。] (50) 2022/11/30(Wed) 17:08:51 |
【人】 大富豪 シメオン[彼女は自分の幸せと引き換えに『美』の頂点に立った。 しかし、彼女の成功を知るとかつて彼女を弄び汚した男たちが再び女に近づいてきた。 男たちは当時のことをペラペラと女に聞かせた。 どれだけ楽しんだかということ、女もまた男たちに抱かれ快楽に悦んでいたということ、そして、女のもとへ向かわせた者の存在も。 その翌日、男たちの首は街の大通りに晒されていた。 人々は噂する。 彼らはドナータに手を出そうとして、彼女のパトロンが彼らを粛清したのだと。そのパトロンこそが賢者が去ってより彼女を庇護していた男、シメオン・ジョスイであった。 この街で知らない者はいない。 ジョスイの『美』に手を出してタダで済む訳がないことを。 故に、殺された男たちの親たちの辿った道は二つに一つだった。 黙して諦めるか、報復を画して返り討ちにあったか。] (51) 2022/11/30(Wed) 17:09:56 |
【人】 大富豪 シメオン[男はかつての親友に向けて呟いた。 「甘いんだよお前は。 敵は徹底して滅ぼさなければならない。 俺たちは、北で身をもって知ったはずだ。」 結局、その出来事でシメオン・ジョスイが罪に問われることはなく、そのことがこの男にとっての伝説の一端となった。 そんな街の出来事を他所に、ドナータはただただ堕ちていき、男はそんな女を見て、その醜さに苦虫を噛み潰したような顔をしていたという。*] (52) 2022/11/30(Wed) 17:12:22 |
【人】 「怪人」 ファントム―全てが終わって― すっかり脱力してしまった彼女の身体を、抱き留めていた腕から離して、ゆっくりとベッドへ横たえる。 ――もし、今の彼女を見てこのまま行為を続ける事を考える者もいるのかもしれないが、生憎自分はそこまで貪欲になれるタイプではない。 そっと腰を抜いて、一通り彼女の衣服を整える。 「――彼女を頼んでもいいかな? 貴方になら、任せられる。」 屋敷で仕えている魂の1人へと、彼女を託した。 リリーは彼女を知らないが、彼女はリリーを知っている。 何せリリーはイルムヒルトの友人だ、彼女が邪険にするはずはない。 ――リリーは、もしかしたら彼女にイルムヒルトの事を聞かれるかもしれないが。 「おやすみ、私の舞姫。」 再び、その額に口づけを落とす。 自由を得た彼女が、より美しい舞を魅せてくれる事を願いながら。* (53) 2022/11/30(Wed) 19:23:06 |
【人】 人造生物 ユスターシュ―― 影街にて ―― [店主さんに礼を言って店を出た後、 夜も更けてより一層人気の絶えた影街の通りを歩いていたときだった。 不意に目の前を白い人影が通り過ぎていく。 ふらふらと彷徨うように歩みを進めるその女からは余りにも生気を感じなくて。一瞬、幽鬼の類かと思ってしまった。 ぼろぼろのショールやスカートから覗くやせ細った手足や ぼさぼさの長い髪も相まっていっそう不気味に思えたけれど。 その姿以上に驚いたのは] 『―――Something old,something new, (なにかひとつ古いもの、なにかひとつ新しいもの) ―――Something borrowed,something blue, (なにかひとつ借りたもの、なにかひとつ青いもの)』 [その幽鬼のような女が口ずさむ歌に覚えがあったから。] (54) 2022/11/30(Wed) 20:41:40 |
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