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【人】 鬼 紅鉄坊……これは、 [ やがて、示された文字の連なりは凄惨な過去を綴る>>24 大きな流れの中に点在した、小さな村の陰の歴史。 ある僧侶と流れ者が辿った末路。 理解出来る筈の言葉が、思うように頭に入らない。 やがて千が声とした名を、子供のように追い掛け繰り返し。 ある一瞬で、隻眼を見開き身体を強張らせる。 ] ああ、そうだ。そうだった…… 私は、この僧に命を助けられた……そして、共に殺された [ 夢を見ているような朧な声が、取り戻したものを告げた。 意識の外で震え、小さくなっていく。 それでも抱えた花嫁の耳には、全てが届くだろう。 ] (27) 2021/06/30(Wed) 19:22:26 |
【人】 追憶 紅鉄坊とても寛大で慈しみ深い方だった いつ死んだって構わない、そう思う程絶望していた私を 老いた身で懸命に看病し、励ましてくれた 山の鬼のことを、恐れるのではなく憂い 危険な場所から離れず、彼らが救われることを祈り続けていた 数多の恩を受けたというのに 守れなかった……私はいつでも、無力だった [ 取り戻さなかった──千が見せることを選ばなかった記述の中 そこにいる親代わりのような誰かのことも 僧に宿っていた面影が、曖昧に輪郭を形作る。 湧き上がるのは温かさと、それを奪われた喪失感。 ] (28) 2021/06/30(Wed) 19:22:49 |
【人】 鬼 紅鉄坊よく見つけてくれた、礼を言う これで充分だ……充分過ぎる程、取り戻せたよ 千のお陰で思い出し、受け止めることが出来た [ 悲しみも憎悪も、その声には宿らない。 鬼がかつての生の全てを思い出すことは無かった。 それでも、喪ってしまった大切なものの記憶は蘇った。 心を落ち着ける時間を、千の体温を感じたままに暫く得てから 再び口を開き、切り出そう。 ] (29) 2021/06/30(Wed) 19:23:32 |
【人】 鬼 紅鉄坊千、お前に伝えたいことがある だが、それはとても大きな話で 私たちだけではなく、山にも村にも影響が出てしまう 長い間変わらなかった二つの関係が、大きく揺らぐのだ だから、待っていてほしい 私の心が決まるまで、重い選択をする覚悟が出来るまで [ 触れた手をそのままにしてくれていたのなら、 そっと握り込んでから離し、言葉を続けるだろう。 ] (30) 2021/06/30(Wed) 19:23:55 |
【人】 鬼 紅鉄坊冬が明けたら、きっと告げよう あの花が──梔子が咲く前に …………必ず全て、話すから [ 背中から抱く腕の力は、人間の身には少し痛い程に。 今だけは緩めることが出来そうにない。 ]* (31) 2021/06/30(Wed) 19:24:11 |
【人】 将軍 かんぅ―祝言― [どんどこどーん はあえいさ、えいさあ。よよいのよーい。いや何処の祭りだ。かんぅの心は今燃えに燃えていた。滝の中なので実際に燃える事はできないが、心は今有頂天。そのうち、叫び声をあげて山に飛び出しかねない。なぜそんな事になっているかというと、今日が祝言だからである。 すでに婚姻はすませた身 (かんぅ視点)] (32) 2021/06/30(Wed) 22:05:04 |
【人】 将軍 かんぅ[だが、式はまだだった。 つまりかんぅと婿殿はあれほど愛し愛されあっていたのに事実婚の間柄だったのである。(かんぅ視点)というわけで、結婚式はじめました。纏うは白い花嫁衣裳。 背負うは青龍偃月刀。祝いの席の周りにお集まりの皆様は婿殿使用人たちであり、用意されたお酒を前に 正座する姿は服装が服装じゃなきゃ 様になっただろうに 隣に座るはずの婿殿の魂は抜けてないだろうか。 昨日もかんぅったら頑張り(はっする)すぎちゃったから ――ちなみ、下は履いていない*] (33) 2021/06/30(Wed) 22:05:57 |
【人】 鬼の花嫁 千…………まるで紅鉄様みたいな人だな [全てを漏らすことなく聞き遂げて、小さく息を吐いて口を開く。 死を望む者を立ち直らせる真っ直ぐな心、 己を犠牲にするかのように誰かの為に独り生きる様。 やはり鬼の心はかつて大切だった者達が創り上げたもの。 変えられない過去を嘆いたり、人間であった頃の鬼の無力さを否定するよりも きっと大切だったのだろうその記憶を分かち合うことを、千は選んだ。] 俺は少しばかり埃塗れになっただけだぜ 頑張ったのはあんただ、そうだろう ──なあ、よく戻ってきてくれたな [余所者の妖怪との戦いで怪我をしたあの日に似た台詞。 鬼の身体は今はずっと傍にあった。だが、心は過去を視た。 その上で常のように呼び掛けてくれる鬼のままで在るのが、とても喜ばしかったのだ。] (35) 2021/06/30(Wed) 23:40:35 |
【人】 鬼の花嫁 千……なんだい、随分先の話だなァ そんなことを先に言われると、気になっちまうよ どうせ俺があんたの言うことを拒むわけがないんだから、 そこは安心して、他の問題について考えな [暫くの沈黙の後に、握り、離れてゆく手。切り出された話。 取り戻した記憶が鬼に何かを決意させたのだと千にも分かった。 少しの間を空け首だけが軽く見上げるようにして振り返り、態と茶化すように軽く応え口角を上げる。 本当はその重みを分けてくれと、出来ることは無いのかと言いたかった。 それでも、たかが二十年と少しを生きた人間には背負えぬものだと察して、想いは押し留める。 きっと互いに受け取れない荷と受け取れる荷があるのだ。鬼には握り飯を作るのが難儀だったように。 ならば只、巡る季節の先で来る時を待つだけだろう。] (36) 2021/06/30(Wed) 23:40:50 |
【人】 鬼の花嫁 千なあ旦那様。今日も朝から寒いなァ だからまだ……このままでいようぜ [痛い程の力は、しかし抱えた人の子を潰すものではない。 かつて人であり今は鬼である男の、不安や決意、自分への想いが込められた強さ。 だから千は咎める代わりに、もう少し紅鉄坊の時間を奪うことを選んだのだ。*] (37) 2021/06/30(Wed) 23:41:04 |
【人】 子天狗 茅[差し出された手>>18に収まらんと、寄せられた茅の身体をまた、するすると黒い糸が這い、宵闇に似た色の着物がその身を包み込む。 その意匠はまるで、山伏のようなそれで、ついでとばかりに額を滑った黒が、頭襟を形作った。 足元には、高下駄。 背中には、小さいながらも明らかな、漆黒の翼を可視化させ。 そうして子天狗は、天狗さまの腕の中に収まって笑う。 子天狗には、村の様子が聞こえていた。 だから当然知っていた。 今、村は『村長さんの娘夫婦』の『披露宴』の真っ最中。 だからきっと、『天狗の嫁』の『披露』にも、丁度良い。] ふふ。 とっても驚くと思うよ。 [おめでたい話じゃあないか! なんて。 子天狗は腕を伸ばして、天狗さまの首元に抱き着く。] (38) 2021/07/01(Thu) 0:06:53 |
【人】 子天狗 茅[次の瞬間、“お嬢さん”が、新郎を匕首で刺した。 さっきまで無かったはずのその刃物は、茅が一度天狗さまに向けたものと、そっくり同じ形をしていた。 新郎はただの人間だから、不意打ちに成すすべもない。 そして刃が刺されば、ヒトは傷つく。 傷の場所が悪ければ、ヒトは死ぬ。 “花嫁”の刃は、“花婿”の喉を、正確に切り裂いた。 紅い血潮が夜空に舞う。 しん、と辺りが静まり返る。 どさ、と“新郎だった骸”が大地に倒れた。] (40) 2021/07/01(Thu) 0:07:03 |
【人】 子天狗 茅[子天狗が呟くと、ざわ、とヒトに波が立った。 驚く声、叫ぶ声、問いただす声。 あぁ、ぐちゃぐちゃだ。 ぐちゃぐちゃ。 『だってこの人、私のこと馬鹿にしたんだもの』 うつろな表情で、“花嫁”が言う。 同時に別の所で、誰かが誰かを殴り倒す音がした。 それを機に、あちらこちらでヒトとヒトの争う声がし始める。] (42) 2021/07/01(Thu) 0:07:08 |
【人】 子天狗 茅[子天狗はただ、そのきっかけを与えただけだ。 子天狗の妖力では、ヒトに特別な力を分け与えることはできないししないけれど、代わりに幻聴を聞かせることはできた。 ただ、ほんの些細な悪口を、隣の誰かが囁いたように、聞かせただけ。 それからちょっと試しに、“花嫁”の手に、刃を握らせただけ。 聞こえた声に何を思ったかは勿論、どんな行動に出たかなんて、そんなのは子天狗の預かり知るところではない。 ヒトとヒトが争うのを眺めつつ、と、と、と天狗さまに近寄って、寄り添う。] (44) 2021/07/01(Thu) 0:07:13 |
【人】 子天狗 茅[気づけば紅く濡れて倒れている身体は一つや二つではない。 村長の家の屋根に、火が付いた。 悪意の声が聞こえた所で、普段の行いが良かったならば、それが幻聴であることになど容易に気づけたことだろう。 何せ、長く共に暮らした隣人だ。 けれど、悪意の声を疑いなく信じてしまった時点で……彼らは元々、そういった疑いを互いに抱いていたということだ。 何て哀しいことだろう!] 案外、幻聴でもなかったのかなぁ。 [くすくすと、子天狗が笑う。 笑う。 ……嗤う。] (45) 2021/07/01(Thu) 0:07:18 |
【人】 子天狗 茅[どれだけの時間が経ったろう。 決して小さな村というわけでもなかったと思うが、その割に終わりは割合あっさりしていたかもしれない。 子天狗が、と、と、と大地に波紋を残す。 じゃり、と砂を踏むような音がして、幻覚が霧散した。 後に残ったのは、死屍累々。 そしてその真ん中に座り込む、『お嬢さん』の姿。 真っ白だったはずの着物に、誰かの赤を浴びて、がたがたと震えていた。 その眼前に子天狗がしゃがみ込む。] どうしたの? “お嬢さん”? [はじかれたように顔を上げ、『お嬢さん』は怯えたように、後ずさった。 子天狗は、まるで心外だとでも言いたげな顔をする。 ついと近寄って、その冷たくなった両手を握ってにっこり笑ってあげた。] (46) 2021/07/01(Thu) 0:07:20 |
【人】 子天狗 茅 泣かないで? 綺麗なお顔が、台無しだよ? [にっこりと、優し気に。 なのに“どういうわけか”、『お嬢さん』は震えたまま、涙を流し続けている。 可哀想だなぁ、と思った。] しょうがないなぁ。 じゃぁ、 『夢』 [きゅ、と冷たい指先を握りしめると同時、『お嬢さん』が眼を見開いた。 いやぁぁ!と叫んで、白眼を剥いてしまう。 おかしいな。どうしたのかな。 “家族”や“旦那様”との、 甘い夢 を見せてあげてるはずなのにな。子天狗は首をかしげる。 そっと手を放すと、 自らの手で死んだはずの彼らに追い回され続ける夢に堕ちた 『お嬢さん』は、ぱったりとその場に倒れてしまった。なるほどきっと、“歓喜の”叫びなんだろう。 俺にはわからないけれど。] よかったねぇ。 “皆”にまた 逢 えて。[一度だけ、『お嬢さん』の頭を撫でて、子天狗は立ち上がった。 振り返った先、天狗さまの姿を見つければ、また嬉しそうに笑う。 そうして子天狗は、天狗さまの元へと駆け寄った。**] (47) 2021/07/01(Thu) 0:07:23 |
【人】 鬼 紅鉄坊── 来たる冬 ── では、行ってくる 見つければ村近くまで届けねばならないのでな、 遅くなるだろうが、心配しなくていい [ 戸口に立った千を見下ろし、頬を撫でる。 人よりずっと強く逞しくある鬼の身体とはいえ、 凍える空気の中その命の温かさが愛おしい。 少しばかりの名残惜しさを覚えながら、背を向け山の奥へ歩き出す。 その日、独り寺を出たのは陽が昇りきった刻 薬屋の店主が訪ねて来た後だった。 ] (48) 2021/07/01(Thu) 1:56:16 |
【人】 鬼 紅鉄坊[ 奪い合った時間、抱いていた温かさはもう名残も無い。>>37 その分過ぎた日々で、幾度も触れてきた。 すっかり梔子の実が橙に染まり、収穫を終えたのは数日前のこと。 辺りは白に包まれ、すっかり姿を変えている。 この百数十年山で過ごし、数える程しか見たことのない雪。 やはりこのところの気象が影響しているのだろう。 店主曰く、その中で一人の子供が朝から山に遊びに行ってしまい 昼を過ぎても帰ってこず、村人が立ち入れる範囲では見つからない。 先日実を引き渡した際、寺を気にしている様は気に掛かったが 村の者など皆、どうせ千を嫌っている。早く喰われろと思っている。 引き合わせたわけでもないなら、そこまで気にすることもない。 千について口に出して何かを言うでもなかった男の願い、 小さな子供の命が掛かっているとあれば、引き受けぬ理由は無い。 ] (49) 2021/07/01(Thu) 1:56:32 |
【人】 鬼 紅鉄坊……一体、何処に行ったんだ [ 山は何処までも静まり返っている。 どれ程歩いても、痕跡は見つけられなかった。 同胞が騒いでいないのなら、つまり襲ってはいない。 雪はとうに降り止んでいる、 途中からでも隠されていない足跡がある筈だ。 陽の傾き始めた空を木々の合間から確認し、ふと気づく。 ああ、 そういえば性別も名前も聞いていなかった。 ]* (52) 2021/07/01(Thu) 1:57:19 |
【人】 鬼の花嫁 千─ 必然の冬 ─ 寺の中を暖めながら待ってるさ 精々あんたに怯えた迷子の捕まえ方でも考えとけよ、ひひ [口角を歪めた笑みで可愛げのない事を言い、千は鬼を見送った。 自分など気にせず、子供を見つけることに集中出来るように。 その目立つ姿が白に消えるまで、中に戻ることなく見つめていた。 こんな寒い日に迷惑な子供だと思う。だが、雪が物珍しい気持ちは、分からなくもない。 村人が門前まで訪ねて来るまでは、千と鬼も外の景色を寄り添って眺めていた。] (53) 2021/07/01(Thu) 1:57:45 |
【人】 鬼の花嫁 千[朽ちた穴を板で塞いでいるような廃寺の中はとても寒い。 座敷牢は、陽が入らないがしっかりとした家の中だった。 それでも、千にとってはこの場所のほうが好ましい。 いつも共に食事を摂る、かつて像が置かれ経を唱える為に使われていた広い部屋の中。 長らくしまいこんでいたあの白い着物を纏った上に、更に外套を羽織り 燃えた石炭を、灰が入った火鉢の中へと火箸で移していく。 鉄瓶で湯を沸かすのは、鬼が帰ってきてからだ。 時折灰をならし新しく炭を運びながら、火鉢の前で手を擦りその時を待っていた。] (54) 2021/07/01(Thu) 1:57:59 |
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