【人】 片連理 “椿”『できれば君には、ヒトとして生きてほしい』 [きょうだいであり、友人であり、恋人であり、また自分自身でさえもあった同胞の遺した最期の言葉が、今も耳の奥にぼんやりと残っている。 “人狼“と呼ばれる、ヒトの道を外れた生き物。 獣ともヒトともつかない、同族喰らいの化け物。 それが、今の彼女の本質であった。 ヒトが、あるいは獣が“人狼”となるためにはいくつかの異なる機序が存在するが、彼女の場合は自業自得とも呼べるものだった。 かつて神仙を目指した修行者が、己の精神の瑕疵を完全に削ぎ落とすべく魂を“磨き上げる“秘術を用いた。しかしそれは不完全なものであり、彼の魂は自身が望む高潔と、捨ててしまいたい俗悪とに引き裂かれた。しかし、高潔であるはずの彼は、切り捨ててしまった部分のあまりの大きさに、対して残された自分のあまりの小ささに慄き、己こそが欲深くあさましいものであったと悟った。彼はその罪を悔いて、一度は滅しようとしたもう一人の自分を憐れみ、これを庇護して今度こそはと深く愛した。 しかし、傷を受けた魂は二度と元には戻らず、彼らは極めて不安定で不完全な連理の存在として、また、ただしい魂を羨み、妬み、求めるあまりにヒトを喰らう怪物となって、ゆえにヒトの世を離れ隠遁の暮らしを続けていた。] (59) 2023/03/01(Wed) 4:08:13 |
【人】 片連理 “椿”[傷ついた魂は引き裂かれたその箇所から徐々に風化してゆく。彼らはやがて半ば眠ったような状態で夢現の狭間を漂いながら、少しずつ魂を磨り減らし、長らく彼女を護り愛した片割れも遂に力尽き、彼女ひとりを遺して砂のごとくに消えてしまった。 彼女は片割れの言葉通り、ヒトとして生きることを試みた。しかしそれは叶わず、結局またヒトを喰らって、失意のうちに取り残された。自分に残された時間がそう多くはないことはわかりきっていた。 彼女は最後に、これまでに出会いほんの僅か心を交わしたひとびとに逢いたい、と願った。隠遁の暮らしの中でも人との関わりが全くないわけではなかった。夢か現か定かではないが、彼女は友の一人に逢いに行った。彼もまた魂に傷を受けたひとりで、それでもなお強く、美しく生きる姿を、彼女は愛していた。盃を交わし、思い出を語り、ついに呪いに打ち克ったという彼を眩しく思い、それを成せなかった自分を戒め、別れは告げぬままにそっと彼のもとから去った。その記憶は風化する魂と共にすでに薄れつつあったが、温かなものが彼女の中に残った。 そして今、彼女は水辺に座っている。ここがどこかはわからない。しかし、なぜここにいるのかはわかっている。もう一人の友に逢いにきたのだ。] (60) 2023/03/01(Wed) 4:09:15 |
【人】 片連理 “椿”[彼女はゆっくりと立ち上がり、マントの埃を払ってから、目深に被っていた頭巾を外す。 露わになった彼女の長い髪は、黒の間のあちこちに白が混じり、遠目には銀に見える色合いであった。しかし、その老婆のような髪の下の目鼻立ちは幼い娘のようにも見え、どこか歪さを覚える相貌に感じられるだろう。 少し離れたところを歩く人影に向かって、彼女は手を振った。まだはっきりと顔も見えない距離だが、それが彼であることははっきりとわかった。以前に逢ったのがどれくらいまえなのかはもうわからない。彼女の時間の感覚はすでに失われている。なんとなく懐かしさを覚えるほどには時間が経っているような気もする。 ふと、そういえば以前少しの間を共に過ごしたときにはこの頭巾を外して見せたことはなかったかもしれないと思い出す。それでも彼は自分のことに気がつくであろうと、なぜか確信が持てた。彼女は待ちきれず、彼の元へと駆け寄った。] お元気そうですわね、楓様。 [楓、というのは仮の呼び名だ。彼の本当の名を、彼女は知らない。彼女の方は椿、と名乗ったような気がする。これも、本当の名前ではない。たまたま頭に浮かんだ花の名を口にしただけだ。そもそも、彼女にははじめから名前などなかった。片割れとの間ではお互いを区別する必要はなかったから、ただ複数形で「わたしたち」とだけ呼び合っていた。] きっと、お会いできると思っていましたの。 [椿は右手を差し出し、微笑みを浮かべる。 通り抜ける風が、肌に心地よかった。]** (61) 2023/03/01(Wed) 4:56:10 |
【人】 黒崎柚樹…………そう。"平和"。 "個別に貰った"のはまだ食べてないから……。 [ ────ああ、やっぱり。そうか。 武藤の返事 >>47 で確信できた。 この武藤は、"あの事故"に遭う直前の武藤。 不思議な事象が起こり続ける極限状態の中、私は私が女であることを告げ、互いに恋心を抱くようになって「また会おう」と再会を誓うことになる前の武藤。 ねえ。 武藤は、"あの時ああならなければ良かった"と 思ったりしてる……のかな。 だから、今、武藤の側だけ、時が巻き戻っていて。 それともやっぱりこっちの方が現実だったりするのかな。 あの時から半年、重ねた日々の方が、私の泡沫の夢だったんだろうか。 考えれば考えるほど吐き気がしてきて、でも表には出すまいと、目の奥に力を込めた。] (62) 2023/03/01(Wed) 6:11:54 |
【人】 黒崎柚樹[宿泊者として登録されている知った名前は、自分と武藤の2人だけ。 だろうな……としか自分は思わなかったけれど、武藤は管理小屋で心底不思議そうな声をあげていて、どうしたものかなと眉尻を下げる。 鍵を受け取り小屋を出ようとした時、管理人から"荷物が届いている"と声をかけられて、数泊分の着替え等々が入っているらしい各々の宿泊荷物を受け取った。 私のは、部の合宿で毎度使う、手に馴染んだドラムバッグ。] ………………。 [一応と中身を改めれば、"半年前までよく着ていた服"ばかりが詰まっていて、小さく溜息を吐いた。 そこには勇気を出して買うようになったスカートや、かわいいかわいいと武藤に絶賛されながら買った春色の服は何も無く、身体の線を隠すような大きめサイズのモノトーンかつユニセックスのものばかり。 取り巻く状況の何もかもに、"男であれ""男に戻れ"と告げられているようなものだった。] (63) 2023/03/01(Wed) 6:13:57 |
【人】 黒崎柚樹────うん。 こっちも武藤と一緒なら安心だな。 ["女子と一緒だったりしたら"の他意無き言葉にツキリと胸の奥を痛めつつ、微かに笑顔を作ってみた。 あの事故の時も、武藤の明るさや行動力に幾度も救われたよ。 肝心なところで逃げようとする自分に、武藤が幾度も踏み込んでくれて。] 寝てる時、やかましかったら蹴り飛ばすから。 [そんなこと、したことないけどね。 抱き締められたまま眠りに落ちて、朝になってもやっぱり抱き締められていて……という夜と朝が、幾度訪れたことか 武藤の寝相は、誰より自分が良く知って────、なんて、一瞬思い浮かべてしまった事は慌てて脳内で打ち消した。] とりあえずコテージじゃない? そろそろ日も暮れるし場所くらいは確認しておかないと。 [荷物もあるし、と、さして重くはないドラムバッグを揺らして見せて、温泉なんて、一緒に行ったら慌てふためくことになるのは武藤の側なんだけどなと今日幾度目かの溜息を吐いた。] (64) 2023/03/01(Wed) 6:15:42 |
【人】 黒崎柚樹[そうして訪れたコテージは、確かに"男2人の滞在"ならこういうのなんだろうな、とは。 奥の寝室にはシングルベッドが2つ。 入り口近くのリビングスペースには、いかにもキャンプ場的な、無骨なテーブルセットとシンプルな炊事施設。 屋外にもバーベキュー用なのだろう、テラスに諸々の設備が整っている風だった。 風呂は温泉に行くことが想定されているらしく、それでもお愛想のように小さめのユニットバスがついていたことには密かに安堵して。] "ご注文の食材は冷蔵庫にございます"……。 [テーブル上のリーフレットにそんな文字列を認めれば、冷蔵庫の中にいかにもなバーベキュー用食材の他、脇の棚にはパンや米、果物なども積まれていて。] …………っふ、……。 [この夢──夢だとして──、主はどちらかというと武藤なんじゃないかな。 いかにも"こういうの食べたい"みたいな、パンケーキミックスにチョコソースまであるんだもの。] 敷地内にレストランや売店もあるみたいだけど、食事はなんとかなりそう、かな。 [言わなかったっけ。自分、料理はひと通りできるからさ。*] (65) 2023/03/01(Wed) 6:17:17 |
【人】 緑山 宗太朗>>46 あれ、と荷物を回収されればほんのちょっぴりだけ眉を下げた。 俺もっと重いの持てるのに…… という、男の意地張理のお話。重かった荷物の代わりに『自分にしかできない仕事』を頂けばニコニコと上機嫌。 すぐ機嫌が戻った……むしろ元より機嫌が良くなった様にも見える。 単純な男であった。 「ハーイ」 ちょっと間延びした声で了承を返せば、しっかりと差し出された手を掴む。 「んじゃ行こうぜ〜」 と、えっちらおっちら歩き出す。 さっきはちょっと間が開いていたかもしれないけど、今度は相手に歩幅を合わせて目的地まで行くつもり。 小さなお散歩の開始。男の鼻歌に鳥の囀りが、調子の外れた合いの手を入れていた。 (67) 2023/03/01(Wed) 6:56:29 |
【人】 一匹狼 “楓”[彼はここへ何故、何をしにやって来たか? 彼はいつも通り“旅”に出た。 そして旅先で情報を集め、山中へと入ったのだが……。 目的の地とはここだったろうか。 別のどこかでなかっただろうか。 そもそも、“主目的”は果たす前か、後か? ……朧げなのである。何もかも。 だから彼は、ここで人に逢う可能性すら考えていなかった] (68) 2023/03/01(Wed) 7:11:23 |
【人】 一匹狼 “楓”[湖のほとりを歩いていく彼は、遠くに手を振る人影があるのに気づく。>>61 視線を向けた先には、白いマントに身を包み、遠目には銀髪にも思えるような長い髪の女性がいた。 他の亡霊のような人影と違い、はっきりと目に留まる姿に意識を惹かれ、彼の歩みは止まった。 駆け寄ってくる足音とともに、彼女の姿が近づいてくる。 彼女のことは、深く被った頭巾で顔を隠した姿しか見たことがなかった。 素顔を見るのも、それどころか髪の色を知るのも今が初めてだったのだが── 彼の脳裏には瞬時に浮かんだ名があった。 そして彼女の呼びかけで確信を得る] 椿。 [彼を『楓様』などと呼ぶのは、椿と名乗った白頭巾の女性ただひとり。 彼女同様、『楓』もまた本名ではない。彼女の名乗りを受けて咄嗟に浮かんだ単語……それが『楓』だった。 それを仮の名として名乗っただけのこと] (69) 2023/03/01(Wed) 7:12:49 |
【人】 一匹狼 “楓”[差し出された手に応じるように、彼も右手を出し、彼女の手に触れようと試みる。 握手を求められたかと思ったのだ。 久しぶりに会った“仲間”なら妥当な挨拶ではなかろうか] 久しぶりだな。あれからどうしてた? [握手ができたか、それとも違うと言われたか、それはさておき。 懐かしさを感じて、彼は安らいだ微笑みを浮かべていた。 彼女とともに過ごした日々の中で、そんな表情をした瞬間は無かった。微笑むことこそあれ、どこかに緊張が宿っていたはずだ。 彼女以外の前でなら、決着の後にそういう表情を浮かべたことはあったのだが]** (70) 2023/03/01(Wed) 7:14:14 |
片連理 “椿”は、メモを貼った。 (a9) 2023/03/01(Wed) 7:34:38 |
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