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【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ朝が来る。 一度は正しき正義の刃として猛威を払った取締法という剣が失墜し、嫌疑の薄い者は徐々に釈放され始めた。 捕まったものはノッテファミリーや警察内外ばかりに限らず、まばらにそれ以外の姿もあり、 またある程度取り調べの終わった者たちほど、見送りもそこそこに送り出されていくような状態だった。 おそらくは街の様子も、マフィアも、警察も、緩やかに元に戻っていくのだろう。 ほんの少しの革命で何もかも全てが変わるほど、民衆の日常とは弱い者ではないらしい。 その人並みの中には、ある一人の男が含まれていた。場違いであろうその姿が。 罪を背負った長躯はその日、数日ぶりの太陽を見た。ひどく眩しい朝だった。 秋晴れは路面を艶やかに輝かせ、影を色濃く街を白く照らし出すかのように煌めいていた。 嫌疑をかけられた者の中には家族の迎えがあるものもあり、さまざまに人の行き交いがあった。 非日常と日常とが交差する。世界は引かれた線を曖昧に、混ざり合って当たり前を取り戻しつつあった。 ボーイスカウトのパレードが近くを通る。署から少し離れた通りの方で楽団が横切る。 この日は祝日のようにささやかに賑わっていて、平和の鳩が空に放たれるかのように美しい日だった。 男が空を見上げて、右手を空へとに翳す。 天気予報は、どうやら当たったようだった。 #BlackAndWhiteMovie (0) 2023/09/26(Tue) 21:45:12 |
【人】 黒眼鏡「サァテ」 カウントダウンの指折りが終わって、 鼻歌が独房に流れ出す。 「どうなるかな」 『プラン』はもう成立した。 あとは、どう進めるかだ。 (1) 2023/09/26(Tue) 21:49:31 |
【人】 黒眼鏡「まァとりあえず」 よっこいせ、と立ち上がり。 「『合図』からだな」 独房の中にどうやってか持ち込んでいた、 携帯電話のボタンを押した。 (2) 2023/09/26(Tue) 21:51:48 |
【人】 食虫花 フィオレ同じ頃、近くのショッピングモールで記念セールが行われているらしい。 朝から景気よく花火も上がっていて、パレードも相まって人通りはいつもよりも少し多いくらい。 キャップを目深に被って、カジュアルなパーカー姿の女が人込みの中を歩いている。 ノーハンド通話でもしているのか、ぶつぶつと何かを呟きながら。 花火を眺める人達の間を縫っていく。 「―――」 長身の男が、視界に入る。 目を細める。口元のインカムに何事かを呟いて。 後ろから近付いていく。その匂いは、姿は、よく知っているものだったから。 殆ど至近距離。背中に近付いて、口を開く。 「―――Ciao.」 そんな声は喧騒にかき消される。 背中に突き付けた拳銃が、間違いなく右の胸に向けられて。 人差し指が、引き金を引いた。 消音器で抑えられた音は、花火にかき消えてしまうだろうか。 それでもそれは確かに、放たれたのだ。 #BlackAndWhiteMovie (3) 2023/09/26(Tue) 21:53:37 |
【人】 黒眼鏡──ポン、と音がする。 釈放されていく人々の群れの中から、 あるいはその群れに紛れた何者かが、 人ごみの中から花火を打ち上げた音だ。 しゅるしゅると煙を曳いて立ち上った花火は、 警察署の直上でぽん、ぽんと音を立てて破裂した。 それがなんなのか、分かるものは少ないだろう。 ただ、何らかの『合図』であろうと思うだけだ。 (4) 2023/09/26(Tue) 21:53:42 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>3 ──パン、と音がする。 ぱっと花びらが幾つか舞った。パレードの列から薔薇の花が散る。 傍で鳴った花火のせいで、もしくは遠くの合図のせいで、銃声は随分と目立たなくなった。 子どもたちの笑顔のはるか上を通って、凶弾は晴れの日の空気を切り裂いて、 それでも他の多くに見咎められるわけでもなく、顧みられることは少なかった。 貴方の別れの言葉は届かなかった。けれど、その"指"は確かに届いた。 着弾の衝撃で長身が二度ほどたたらを踏む。 右胸から遅れて血が流れて、かふと血の匂いの混ざったため息を吐いた。 後ろに一歩、二歩と退いて、ゆっくりと前を向いた。 貴方を見つける。男の瞳は貴方を見据えた。 忘れるはずもない。貴方のことだって、男は覚えていた。 子どもたちの笑顔の傍にいつづけた貴方の優しい表情を、男は忘れていやしなかった。 #BlackAndWhiteMovie (5) 2023/09/26(Tue) 22:02:28 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ (6) 2023/09/26(Tue) 22:02:49 |
【人】 食虫花 フィオレ>>5 >>6 「………」 拳銃を持った手は、震えている。 女は、人を撃ったことなんてなかった。 あなたのことを、信頼していた。本当に、信用していたのだ。 けれど、今は。 柔らかな笑顔を浮かべていた女の顔は憎悪の色に染まって、あなたを睨みつけている。 あなたの向ける笑顔に、ぎりと歯を噛んで。 何で、笑うのよ。 何で、何で、 あの子達を手にかけたあんたが、何で #BlackAndWhiteMovie (7) 2023/09/26(Tue) 22:11:22 |
フィオレは、拳銃を下ろした。もう、必要ない。はずだ。 (a0) 2023/09/26(Tue) 22:13:09 |
【人】 Il Ritorno di Ulisse ペネロペ「 うっっせ!! ふざけんなバカ!!俺の耳までやる気か!?」 天地も地獄の底を引っ繰り返したみたいな騒音の中。 せっかく迎えに来てやってんのに、と ハンドルを握りぶつくさ文句を垂れ。 『家族』を迎えにやって来た車は警察署の前で停まる。 譲り受けた車に、託された『預かり物』。 全部が借り物の男を乗せて。 (8) 2023/09/26(Tue) 22:14:02 |
【人】 黒眼鏡アレッサンドロ・ルカーニオは、かんかん、と格子を叩く。 「おーい、看守さんよ。 おーい」 声を張り上げ、看守を呼んだ。 訝し気な顔で近づいてくる顔を見て、 「ああ、今日はあいつじゃないんだ。 しょうがねえな」 うーん、と言ってから、懐から何かをとりだした。 (10) 2023/09/26(Tue) 22:18:52 |
黒眼鏡は、折りたたまれた<指示書>を取り出した。 (a1) 2023/09/26(Tue) 22:20:12 |
【人】 門を潜り ダヴィード路地裏の逃走劇から一夜明けて。 借り物の電動バイクを操り、「頼まれた荷物」をどうにかこうにか積み込んで昨日までとは違う種類の混沌にあるアジトへと顔を出した。 「あだだだ」 「おだちん」の鍵を使うことなく運び出されたそれに首をひねりつつ、頬を腫らしながら。 昨日までの陰鬱な雰囲気をすべて忘れたような、晴れ晴れとした顔で。 (11) 2023/09/26(Tue) 22:22:55 |
【人】 黒眼鏡「――……っ、これは」 看守が目を見開く。 「ソ。 共和国元老院終身議員の委任状ね。 」──「裏切らず、漏らさずの黒眼鏡」。 10年積み上げたその信頼は、 政治家すらも"港"を利用する切っ掛けとなっていた。 後は簡単な話だ。 絶対に裏切らないということは、 まだ裏切っていないだけ。 かくしてアレッサンドロは、自らの自由が法的に認められる手段を一つ、手に入れたのだ。 ──少なくとも、混乱の極みにある刑務所を出るまでの間は通用するくらいの。 (12) 2023/09/26(Tue) 22:23:03 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>7 パレードが横切っていく。色とりどりのリボンと花が道を過ぎていった。 道には美しい花の残滓と甘やかな香りだけが残されて、 そこにあった殺意と敵意の痕など多くの足音の後にかき消されてしまった。 貴方の手の内の刃の鋭さを、其れと見咎める者がどれほどいることだろう。 男は酔っ払いのようにふらりとした足取りで路地へと吸い込まれていく。 高い建物の間の小暗い道の、その間に長身が消える。 そこに追いかけるものがあったとして、男の姿を見つけることは出来ないだろう。 代わりに過ぎていくのは、車の走り出す音だけだった。 どこへ行ったかなど、誰が知っているようなことでもない。 #BlackAndWhiteMovie (14) 2023/09/26(Tue) 22:24:41 |
【人】 黒眼鏡看守が直立不動の姿勢になって、牢の扉を開ける。 外からはパー、パー、パー!ファンファンファンファン!!!とすさまじい音が鳴り響く中、 「ドーモ」 がちゃり。という扉が開く音は、どこにも響かずにかききえて。 「あ。預けてたやつ、返してくれる?」 (15) 2023/09/26(Tue) 22:25:13 |
【人】 歌い続ける カンターミネ「"Hey!Pachuco!" HEY! HEY!」 携帯端末を握って叫ぶ。寝てる奴が居ても叩き起こせ。 どうせここから先は大騒ぎの時間だ。 「……さーて、そろそろ誰かは動くだろ。 スマートキーハッキングしてーっと。 1、2台外壁に突っ込ませとくか。HEY!」 ドン!ドン!ドラムの音に合わせて、 それなりに高級な車が外壁に突っ込んだ。 「しばらくはこれでいい。あとは…… あーった。俺のク・ス・リ! ……あの変態メガネ野郎め、"本物"をくれてやろうかな。 ま、どうせしばらくは潜伏しなきゃいけないしな……」 呟くと、適当な無線機と知らん警官の端末を ダクトテープでぐるぐる巻きに。 曲のリピート設定をONにして、隠しておいて。 これが発覚する頃には、すっかり『先生』は 署内のどこかに隠れて消えてしまうのだった。 (16) 2023/09/26(Tue) 22:25:31 |
【人】 Il Ritorno di Ulisse ペネロペ>>18 黒眼鏡 「おう、bentornato大馬鹿野郎」 正面から堂々と、散歩でもするみたいに歩いてくる姿に、 車の窓を開けて騒音に負けないくらいの大声でがなる。 それでも最初に言う言葉は『おかえり』だと決めていた。 「俺ァ『家族想い』だからな!!わざわざ来てやったんだ 『家』に帰る足が要ると思ってな!」 いつも通りの傲慢は、踏ん反り返らん限りの勢いで。 (20) 2023/09/26(Tue) 22:35:35 |
【人】 corposant ロメオ>>7 フィオレ 『ciao,fiore! 見たぜ〜』 ピピ、と耳元の電子音。続く男の声は貴女の協力者。 なんとも楽しそうな声は明らかな上機嫌。 『なんとも善き日、なんとも都合の良い日だ。 良い花火が上がったな』 『あんたも良い顔してるけど大丈夫そ?』 #BlackAndWhiteMovie (21) 2023/09/26(Tue) 22:37:02 |
【人】 食虫花 フィオレ>>21 ロメオ 「……まだ生きてた」 「……けど、これ以上は…」 人ごみの中を追いかけるだけで目立ってしまう。 それに、胸を撃ち抜いたのだ。時間の問題だろう。 「……大丈夫では、ないかも」 思ったよりも、負担が大きい。 ふらりと人ごみの中を歩いていく。 眩暈がする。吐き気が込み上げてくる。 すっきりすると、思っていたのに。 「悪いけど、車…用意しておいてくれる?」 #BlackAndWhiteMovie (23) 2023/09/26(Tue) 22:48:13 |
【人】 Il Ritorno di Ulisse ペネロペ>>22 黒眼鏡 「そりゃ大変、上司の教育が悪かったみたいだなあ?」 乗り込んでくるや否やのご挨拶には軽口で。 叩かれた肩はすぐに竦められた。 「ろくでもない事仕出かす気しかしねえ前フリだな。 はいよ、しょうがねえな。一つ貸しな」 車を再び発進させれば、あなたの店まで最短距離で。 その後はちゃあんと指示通りに動くだろう。 (24) 2023/09/26(Tue) 22:52:05 |
ダヴィードは、落ち着く間もないまま車に詰め込まれた。無抵抗だった。 (a2) 2023/09/26(Tue) 22:55:06 |
【人】 Il Ritorno di Ulisse ペネロペ>>25 黒眼鏡 「は? 嫌だね。 地獄の果てまで行っても取り立ててやるわ」 裏社会の人間など皆平等に地獄行き。そう思っている。 だから地獄まで行けば取り立てられる。簡単なお話だ。 「はいはい、言われるまでもねえよ。 心配すんな、手前の犬くらいきっちり躾けてやらあ」 どん、とそう厚くもない胸を叩いて。 そんじゃあな、そう言ってドアは閉じられる。 きっと別れはずいぶんとあっさりとしたものだった。 (26) 2023/09/26(Tue) 23:06:58 |
【人】 corposant ロメオ>>23 フィオレ 『おう、撃ててんだろ。 ならいい、あんたは種を埋め込んだ訳だ』 『車ならもう用意してる。マップ送るからそこに行きな。 お疲れさん。あんたは経験をした。 冷たい水用意して待ってんぜ〜』 通信の切れる音、その直後に貴方の端末に通知が入る。 そこにあったマップ情報に、これが用意した車があるのだろう。 「アーハハ。そらキツイわ」 別の路地の影、ポニーテールにキャップ姿。 自分も行くか、と歩き出した。 あなたが車に着くころには、 運転席に足を組んで座っている事だろう。 #BlackAndWhiteMovie (27) 2023/09/26(Tue) 23:14:35 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ──天気予報は当たった。 晴天の元、数日ぶりに見た陽光は眩しい。 一応迎えが来るらしい、とは看守からの言伝。 家に戻った後のことを考えると些か気が重いような、そうでもないような。 とりあえずは待つしかないかと行き交う人々を眺めていた、時間。 見慣れた長身は視界の端に掠めればすぐに分かるもので、「ぁ」と声を発した。 自然足がそちらへと寄っていく、聞きたいことがあるんだ。 貴方の罪状は知っていて、それが到底許されないものだと理解していて、尚。 怒り、よりも悲しかった。されど罪を裁くのは己ではないから。 ──夕暮れの公園、二人並んで食べたパン。 ──声を上げて笑った表情、全てが落ち着いたらの先の話。 だから、手の届かぬ遠くに行ってしまう前に。 ヴィトーさん、いつもみたいに名を呼んで、その先を、 ──パン。 距離は開いていた。まだ数メートル先。 それでも見えた。胸から。落ちる。血が。 ……なんで? 背後に居るのは誰。目深に被ったキャップ。 でも見間違えるはずがない。横顔は。 ……なんで? #BlackAndWhiteMovie (29) 2023/09/26(Tue) 23:26:22 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ「………………なん、で」 止まる足。 立ち尽くす間に二つの人影は遠ざかっていく。 パレードが横切っていく。 全ては足音の元に掻き消されてなかったことみたいに。 心臓がうるさい。 熱は下がったはずなのに頭がぐらついた。 なんで。 ──それしか言わないな、って、誰かが言った声が蘇る。 でも、なあ、だって。 それしか言えないだろ、こんなの。 #BlackAndWhiteMovie (30) 2023/09/26(Tue) 23:27:20 |
【人】 食虫花 フィオレ>>27 ロメオ ふらり、キャップで顔の隠れた女が車までたどり着く。 助手席……を通り過ぎ、後部座席に転がり込む。 そのまま丸まって、しばらく動かないだろう。 「………」 お水、と小さく呟いて。運転席の方に手を伸ばしている。 #BlackAndWhiteMovie (31) 2023/09/26(Tue) 23:29:42 |
【人】 corposant ロメオ>>31 フィオレ 「おかえり〜。休みな〜」 人通りも少なく建物の影、表の賑わいは少し遠い。 ひっそりと停車している黒い乗用車は新しいものだった。 後部座席にはこれまた新品の白いクッションが置いてあるから、使うのだって自由だろう。 「慣れない事をするのは疲れるよな。色々」 はい、とペットボトルを渡す。 「で」 「どうだった?」 #BlackAndWhiteMovie (32) 2023/09/26(Tue) 23:59:40 |
【人】 路地の花 フィオレ>>32 ロメオ 置かれていたクッションに遠慮なく顔を埋めている。 キャップがはずれて、あなたと同じようにポニーテールにした髪があらわになった。 「……こんなもんか、って思っちゃった」 ペットボトルを受け取り、ふたを開けて。横になったまま口を付ける。 目を伏せてぽつりとつぶやいた。 「思ったより、ずっと……すっきりしない」 「あいつが、笑ったから…?」 脳裏に焼き付いて離れない。 あんな顔が出来るなら、どうしてあんなことをしたのか。 わからなくて、気持ちが悪いままだ。 #BlackAndWhiteMovie (33) 2023/09/27(Wed) 0:35:41 |
【人】 新芽 テオドロ未来の事はいつか考えなくてはならないと知っていたが、 もう少し、泥のように眠っていたかった。 代わる代わる牢の前に現れる奴がいて、 ろくに襤褸に埋もれさせても貰えなかった気がする。 ああそう、だから己も腐らずに芽吹くべきなんだろう。 「───辞職願は保留、か」 事実とはそれでも各々の正義の前に曲解されるもので。 己の行動は、署長代理の所業を疑った勇気ある者のそれとして処理された。 後処理の為に駆り出す駒として、これ以上人員を減らしたくなかったというのが正直なところだろう。 漸く帰ってきた署長の目は。嫌になるほど正しい$Fをしていた。自分もまた、心の奥で嫌味を一つ二つ飛ばしながら酷く安堵したことを覚えている。 「くそったれのナルチーゾ。 しわがれた爺になって夜道に怯えてろボケ野郎」 その矛先は、渦中の元代理様に向かっていって。 結局のところ、俺は警察に向いていたんだろうか。 それを教えてくれる人はきっといない。 向き合って、優しい言葉をかけてくれる奴だけがいる。 (34) 2023/09/27(Wed) 5:57:05 |
テオドロは、事が片付いたら、それでもやはり警察を辞めるつもりでいる。 (a3) 2023/09/27(Wed) 5:57:22 |
テオドロは、でも、それでも今はまだ警察であることには違いない。 (a4) 2023/09/27(Wed) 5:57:58 |
テオドロは、だから─── (a5) 2023/09/27(Wed) 5:58:06 |
【人】 新芽 テオドロギプスと包帯にまみれた手指を引き摺るように。 それでも曲がることのない背筋が、 漫然と人混みをかき分けて歩いていた。 迎えに来るような人間に覚えはない。 人々の顔を一切見遣ることはなく、ただ足を進めていく。 当てもない、というのは少々正確ではなく。 心配をかけさせないために、この顔なんかを見たい奴らのために、暫し寄り道でもしてそれからどこに行くかを決めるつもりだった。順序が逆な気がするがまあいい。 そこまでなら、まあよかった。 ───パン、 その音に、警鐘であるはずの声に、つい顔を向けてしまった。 何の冗談だと思う。否、それが冗談でないということは、 きっと人一倍知っていることだった。誰よりも、なんてのは恐れ多くて思ったりできなかったが。 故にホワイダニットを一瞬で理解する。凄腕の探偵でさえここまで早く答えを出せることもそうそうないだろう。 「…………」 ただ、自分は警察だ。 だから、知らないことにした。 見なかったことにした、聞かなかったことにした。 全部は痛む身体と喧騒の中に紛れてしまったことにした。 #BlackAndWhiteMovie (35) 2023/09/27(Wed) 6:18:35 |
【人】 新芽 テオドロ法の下にある正義ではなく、 自分の中にある正義を迷いなく行使する。 分かっている。どれだけの理由を積んだとしても、 どれだけの感情を考慮したとしても、それが許されることではないのは。 いいことじゃないか、あいつを逮捕するチャンスがすぐに巡ってきたと囁くこの心の声は、自分を守るための棘で、決して本気じゃないもの。これもまた聞こえなかったふりをして、好きに言わせておいた。 「……まだ皿まで食ってないからな」 後悔しろ。俺をまだ飼い続けると決めた奴らめ。 いつか咲くだろう花はこんな一個人の横暴よりももっと根深く、奥底まで侵すのをその目で見ていろ。 警察には警察の規律があり、 マフィアにはマフィアの掟がある。 易々と破れば必ず身を滅ぼす、絶対不変の。 自分に残される最後の仕事は──その間を取り持つことだ。 もう二度と、全てを巻き込んだ諍いが起きないように。 それはきっと、 (36) 2023/09/27(Wed) 6:27:38 |
【置】 新芽 テオドロ──間違いなく、ひとつの毒だ。 ゆっくりと、弾みをつけて理を呑み込んでいくだろう。 (L0) 2023/09/27(Wed) 6:29:00 公開: 2023/09/27(Wed) 6:30:00 |
テオドロは、棘は人を無暗に傷つけるが、これならばあるいは。 (a6) 2023/09/27(Wed) 6:30:11 |
テオドロは、「変じて薬となる───というのはどこの国の言葉だったか」と笑った。 (a7) 2023/09/27(Wed) 6:30:43 |
リヴィオは、この『未来の話』が君と俺の希望になるよう願った。 (a8) 2023/09/27(Wed) 17:19:27 |
リヴィオは、"いつも通り"だ。 (a9) 2023/09/27(Wed) 17:53:21 |
【人】 口に金貨を ルチアーノ>>30 ニーノ 暗い知らせと取締法が収束しかけ明るい賑わいを見せる頃。 空は晴れ渡り、火花が空に咲き―― まだ知人達が数人拘留されている時間、外に用があった男は出歩いていた。 そうしてふ、と一台の車が目に入る。 その車の運転手など見えない、ナンバーに覚えもない。 それでも、都合の良い『あいつ』の車だと気付いた瞬間、 ルチアーノはパレードの通りに向かって走っていた。 パン。 音がやけに大きく聞こえた気がした。 どんな状況であるか男は確認できないまま辺りを見渡す、そして漸く見つけた知り合いは。 賑やかな喧騒の前に立ち尽くす、彼らが大事にする小さな弟分だった。 「ニーノ!」 その呆然としている姿に声をかける、貴方はこの嫌な予感の当事者であったのか。 それとも、ただの、目撃者であったのか。 #BlackAndWhiteMovie (37) 2023/09/27(Wed) 18:18:59 |
【人】 corposant ロメオ>>33 フィオレ 「そんなもんだよ。殺しって晴れ晴れしたもんじゃない」 横に積んだ小さなクーラーバックから紙パックのジュースを取り出し、ストローを差す。 端末で部下に次の指示を出しつつ片手間に飲むための物だ。 オレンジの爽やかな酸味はこの場に不釣り合いだった。 「……マジ? 笑ったの? なんで?」 「そらすっきりしねえわ。最後まで嫌だねえ……」 こっちは復讐に来たってのになあ。 珊瑚色の爪がこめかみをカリカリと掻く。 「でもあんたは撃ったよ。それで何か変わればいい」 #BlackAndWhiteMovie (38) 2023/09/27(Wed) 18:36:09 |
【人】 オネエ ヴィットーレ……解放の通達は突然に。 牢に捕まった立場も年齢も性別も違う何人もの"冤罪人"達は、 蜘蛛の子を散らすようにその場を離れていった。 ヴィットーレの怪我は随分酷くて、一人では動けそうも 無かったから、きっと誰かに支えられ、病院まで行ったことだろう。 ……そうして、病院に着くや否や治療を受け。 丸一日と少しの後、手術室から病室へと移される。 両手は爪が疎らに剥がされ、利き腕だった右手はさらに 指先の粉砕骨折や、ガラスでできた粗い裂傷。 肉ごとぐちゃぐちゃに潰されていたそれらは、今は ぐるぐると巻かれたギプスによって覆い隠されている。 神経まで細かに千切るその負傷は、 とても後遺症無し、で済むようなレベルではないだろう。 ヴィットーレは右手の痺れを感じながら、ベッドで座っていた。 #病室 (39) 2023/09/27(Wed) 20:26:29 |
【人】 黒眼鏡──真昼のこと。 海沿いの開けた道に面して建てられた、トラックがまるまる入ってしまいそうなスチール・ガレージを改装して作られた店舗。 それなりに古びていて潮による錆も無視できないが、そこは短パンとサンダル姿で表をぶらぶら出歩けるくらいには気ままな彼の城だった。 ──ごり、ごり、ごり。 【Mazzetto】という味気のない店名。 今その店頭に、看板は置かれていない。 入り口の脇にたてかけられたその看板には、そこの主に似合わない小さな花がセロテープで張り付けてあった。 ──ごり、ごり、ごり。 店内は照明が落とされて、黎明に照らされた海の底のようにじっとりと薄暗い。 そんな中で黒い眼鏡をかけた怪しげな男が、カウンターの奥でコーヒーミルを回している。 男はむっつりと口をへの字に曲げて、額からぽたりと汗を垂らしながら重たいハンドルに力を込めた。 ──ごり。 硬く、重い。金属質な音が部屋の奥底まで響き渡り、波に運ばれた石のようにカウンターの裏を埋めてしまいそうになるころ、 「兄貴?」 ──店の扉をがちゃり、と開く音がした。 #AlisonCampanello (40) 2023/09/27(Wed) 20:30:53 |
【人】 黒眼鏡>>40 路面と海面が反射する太陽の光を背負って、 一瞬影となったその男が店内に足を踏み入れる。 「黒眼鏡の兄貴、よかった、ちゃあんと釈放されてるじゃねぇか!」 ガイオと呼ばれるそのマフィアは、観光案内所の役付き者だ──表向きは。 実際にはノッテ・ファミリーの一員として、観光客を相手にスリや詐欺、置き引き、恐喝などを働く、外貨獲得部門を取り仕切っている。 「おう、ガイオ。 お前も出てこれたのか」 「部下たちもな、兄貴も早いじゃねえか。 あんなネタが出たんだ、もう少し絞られるかと思ってたぜ。運がいいな」 気安く笑いながら、意外と丁寧に掃除されている床を踏みカウンターに肘をつく。 アレッサンドロもまたコーヒーミルから手を話し、かちゃかちゃとコップを用意しながら立ち上がった。 「ソウ、裏切者のアレッサンドロです。 いいのか、こんなとこに来て。俺の処分はうやむやになってるだけだぞ」 「とぼけんなよ、『プラン』だろ? 何言ってんのかと思ったら、こういうことだったとは。 最初はびっくりしたが、すぐに失効したし、今なら取り返すのはなんとかなる。 …そんでもってこの機会に恩を返したら、高ぇ利息を取れるんじゃないかと思ってね」 ははは。アレッサンドロがにやりと笑って、ガイオの肩をぱんと叩く。 「抜け目のねえやつだな。ま、わざわざ呼ぶ手間が省けたよ」 「あんたにしごかれたからな。今度またうちに来てくれよ、フィーコも寂しがってる」 「ああ、あの犬」 (41) 2023/09/27(Wed) 20:32:59 |
【人】 黒眼鏡>>41 ガイオがスツールを軋ませて腰を下ろす。 アレッサンドロは何か思い出すように視線をあげながら、 ポットに入っていた珈琲をカップに注ぎ、カウンターの上にかちゃり、と置いた。 手をタオルで拭って、自分の分のカップも取ってガイオの隣の席に座る。 「そうそう…ってふざっけんなあんたが押し付けたんだろ! だが実際飼ってみるとかわいくてな、 ただでさえ家を空けちまったんだ。 早く帰ってやらねえと」 「ガイオ」 ん? と顔を向けたガイオに、 アレッサンドロが体を重ねるようにもたれかかって、 ―― ず ぐ。#AlisonCampanello (42) 2023/09/27(Wed) 20:36:07 |
【人】 黒眼鏡>>42 「兄 貴、… は? …ぇ、 」「ガイオ。犬の世話は、俺からお前の部下に頼んどく。 引き取り先も探すよ」 「……ぁ、……っ、……」 ぼた、ぼた。 綺麗に磨かれた床に、赤い雫がぼたぼたと落ちる。 体ごとぶつかるように突き込まれたナイフの先端は狭い肋骨の間をすり抜けて、 ちょうどガイオの肝臓に達していた。 太い血管がいくつも同時に切断され、ごぼり、と大量の血が傷跡から零れ落ちる。 ナイフを握ったままのアレッサンドロの手が一瞬で赤に染まって、受け皿にもなりきれず、零れた血液はばちゃばちゃと床をまだらに汚していった。 ──そのまま。固く握りしめられたナイフの柄が、ぐるんと捻り捻じ込まれる。 ぶぢぶぢと、さらにいくつもの血管が引きちぎられる音が響いた。 #AlisonCampanello (43) 2023/09/27(Wed) 20:38:48 |
【人】 黒眼鏡>>43 「……あに、……ぃ、 なん、……で、」 「お前、10年前に観光客ひとりひっかけただろ」 「………、……」 「それだ。お前ほんと、引き運悪いよな」 「………」 「悪い」 ぽん、ぽん。 まるで幼子をあやすように、血に染まった手がガイオの背中を叩く。 出血性ショックで既に気を失ったその体は、男の手に支えられながらゆっくりと傾ぎ、倒れる。 それを抱き留めて、まるで気遣うように優しく床に横たえると、 「バカラの続き、できなくて残念だ」 アレッサンドロはいつもの、酒の席で別れる時にかける調子のまま、そう声をかけた。 #AlisonCampanello (44) 2023/09/27(Wed) 20:39:48 |
【人】 黒眼鏡>>44 ぼた、ぼた。 返り血がカウンターの上に数滴飛ぶのも構わず、アレッサンドロは立ち上がった。 血に染まったスウェットを脱ぎ捨てて、扉の隙間から差し込む潮風をも追い越すような早足で、店の廊下を歩いていく。 まだらに赤く染まったトランクスをひっつかんで引き下ろし、サンダルを放り捨て、裸足で全裸のまま私室の扉を蹴り開けた。 みしり、と音がして蝶番が歪み、中途半端に傾いた扉。 それを振り返ることもなく、乱雑にかけられた黒いシャツをとスーツをひっつかむ。 下着、肌着、シャツ、スーツ。 次々と脚と腕を通していって、ボタンが捻じ込まれるように止まる。 その一挙手一投足が鳴り響く開演のベルのように耳に響いて、 アレッサンドロの全身を流れる血流がどくどくと脈打った。 その高ぶりを鎮めるように一度、ぱちんと頬を叩いて。 「うし」 ──すっかり準備を終えてから、壁際に据え付けられた鏡を見る。 ふーー、と吹きだした息は、まるで火が舌なめずりをしたかのよう。 ぎらぎらと燃え盛る堅炭の瞳がひび割れて、ごう、と熱が渦を巻く。 自分でその顔を見て、ふ、と笑い。 「確かに、こりゃ。 人相が悪い」 #AlisonCampanello (45) 2023/09/27(Wed) 20:40:45 |
黒眼鏡は、ポケットに突っ込まれていたサングラスをぴんと指先で弾き、つるを伸ばす。#AlisonCampanello (a10) 2023/09/27(Wed) 20:41:18 |
【人】 黒眼鏡>>45 拳銃に弾倉を装填する時のようにもったいぶって、かちゃり、と顔にひっかけて。 「──久しぶりの喧嘩だ。 楽しくなってきたよなあ、おい」 に、と口許が、牙をむくように暴力をにじませて笑う。 その様相は馬鹿みたいに荒々しく、 気さくで飄々としたカポ・レジームの面影はもうどこにも残っていない。 ──アレッサンドロ・ルカーニア。 それはかつて十四にしてスラム街の一角を暴力で纏め上げ、 その喧嘩の腕と狂暴性だけでファミリーへと拾い上げられた 喧嘩屋の小僧の顔だった。 #AlisonCampanello (46) 2023/09/27(Wed) 20:42:25 |
【人】 黒眼鏡>>46 そいつは格好をつけて黒眼鏡をかけると、またずかずかと店の方へ脚を進め、 折りたたまれた看板を片手で持ち上げる。 【CHIUSO】の面を向けて店先に放り出す。 潮風がごう、と吹く。 風に流された雲が太陽を覆い隠して、 三日月島の名物である太陽に照らされた海面はほどほどにしか光っていない。 それでもかまわない、と男は、革靴に包まれた脚をがつんと前にだした。 くるくると指先で回す、革細工のキーリング。 かちゃりかちゃりと音を手てて、愛車――フィアット500の鍵が音を立てる。 そんな音では、足りはしない。 そんな音では、贖えない。 10年を費やした弔いが、今日この時に結実する。 そんな風に喧嘩をしたことがないから、男にとってそれは最初で最後の、 ──最初で最後の、 ことだった。 「負ける事考えて喧嘩するやつが、いるもんかい」 だから、彼は勝つつもりだ。 だから、彼は笑っている。 #AlisonCampanello (47) 2023/09/27(Wed) 20:45:26 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>47 潮風がごう、と吹く。 地を照らさぬ太陽の代わり、差別主義者の神の代わりに、 俺がやる。 アレッサンドロ・ルカーニアはそういう風に生きて来て、 だから最後までそういう風にやるつもりだった。 「──さあて。」 ──さあて、鳴らそう。 アリソンに捧ぐ鐘を。 #AlisonCampanello (48) 2023/09/27(Wed) 20:47:29 |
カンターミネは、情報チームに連絡した。もうすぐ帰る予定だ、と。 (a11) 2023/09/27(Wed) 21:06:16 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ>>37 ルチアーノ 呼ばれる声で白昼夢から醒めるように。 ハッと貴方へ向けられた顔は憔悴しきったように酷く青褪めていた。 「ルチアーノ、さん」 それでも目の前の人が誰かは分かる、理解できる。 鉄格子越しではない再会に伝えたいことは他にもあったはずだ。 けれどどうしたって今、震えた唇が紡ぐのは。 「…………ねえさんが、ヴィトーさんを、撃った」 先の現実をなぞらえる言葉だった。 そうしてはっきりと形にしてようやく喉奥まで飲み込めた気がして、くしゃりと顔が歪む。 泣きたくはなかったのに涙が溢れてしまいそうで。 「……撃った、んだ」 なんではもう声にしなかった。 理由なんてわかっているから。 でも、わかっても、……わかっただけ、だった。 「…………ふたりとも、だいすきなのに…………」 #BlackAndWhiteMovie (49) 2023/09/27(Wed) 23:14:33 |
リヴィオは、痛みには慣れている。本当に恐ろしいのは──。 (a12) 2023/09/28(Thu) 0:08:50 |
【人】 路地の花 フィオレ>>38 ロメオ 「……」 そうなのかもね、なんて言葉を口にしようとして。 結局は開いた口からは何も発さずに、クッションに頬を埋めている。 いやな気持ち悪さだけが、ぐるぐると頭の中を回っていた。 「分かんないわよ……」 「……もしかしたら、……ううん、」 何でもない、とやはり言葉を飲み込んだ。 私が間違えているのかも。とか。本当は、もっと確かめるべきことがあったのじゃないかとか。 全部、全部。今更だ。 「これで、子供たちの未来が救われればいい…」 「もう、誰もいなくならなければいい」 ロメオ、とあなたの名前を呼んで。 後部座席で両手を広げている。寂しい時の、合図だった。 #BlackAndWhiteMovie (50) 2023/09/28(Thu) 2:27:52 |
【人】 corposant ロメオ>>50 フィオレ ちらとバックミラー越しに目を合わせた。 滅入った顔にかつての焔火の面影はない。 片眉を上げる。どうしたものか。 「フィーオレ……引き金は引かれたんだ」 「ケジメ付けに来たんだろ。 あんまり落ち込んでちゃ撃った相手に失礼だぞ」 呼ばれた名前に振り返り、ああ、と意図に気付いて。 ドアを開けて後部座席に回れば、 「ほい」と優しく抱き締めようとした。 「泣きたきゃ泣きな〜」 「落ち着くまでこーしてていいから」 ぽんぽん、と背を穏やかに叩いては擦って、 安心させるために、いつもよりも落ち着いた声のトーンで。 自分が焚き付けたものだから、ちとばつが悪いのだ。 #BlackAndWhiteMovie (51) 2023/09/28(Thu) 10:31:31 |
【人】 口に金貨を ルチアーノ>>49 ニーノ 「ヴィトー、……そうか。あいつが」 本当に、嫌な予感が当たってしまった。 だけど今ここに死体はない、周りが騒いでいる様子もない。 つまり彼はまだ生きていて、彼女は殺し損ねたか何かを仕込んだか。 少なくとも――その引き金を引いたのは確かなのだろう。 「……すまんなあ、ニーノ。止められんかった」 また男はあなたに謝った。 悪くもないのに、ただ謝った方が楽になれる気がして。 それは起こるのがわかっていたかのような表情で、諦めたような、それでも物悲しそうなものであった。 「旦那のことは諦めるんだなあ。 あの音で撃たれて騒ぎがないってことは もう何処かに逃げてるか、誰かに匿われてる。 行き場所は分からんが、……俺たちが探すから心配するなあ。 無事なら病院に直ぐ運ばれるだろうよ」 「それよりもなあ、ニーノ。今お前は誰に何を言ってやりたい。 ちゃんと決めんとならんだろ、俺はそれの手助けをしてやる」 「また一人で泣いてお家に引きこもるつもりか?」 #BlackAndWhiteMovie (52) 2023/09/28(Thu) 11:06:12 |
黒眼鏡は、行方を晦ませた。 #AlisonCampanello (a13) 2023/09/28(Thu) 11:39:29 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ>>52 ルチアーノ なぜ貴方が謝るのか分からなかった。 以前のようにその理由を問い質す余裕はなかったけれど。 それでも語り掛けてくれる言葉を拾い上げていれば頭の芯が徐々に冷えていく。 誰に、何を。 言葉にせず胸で繰り返した直後、最後の一言にははっと目を瞠り。 「…………ううん」 幾らか落ち着きを取り戻した表情で、首を横に振った。 目を塞がないと決めた、己を責めて泣くこともまた。 此処はもう何もできない牢の内ではないだろう。 ……誰に、何を。 もう一度、繰り返したところで解は不明瞭だ。 だが、そうなってしまう理由だけは明らかだったから。 [1/2] #BlackAndWhiteMovie (53) 2023/09/28(Thu) 18:09:30 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ>>52 ルチアーノ 「ごめんなさい、情けないところ見せて……」 「……あはは、ルチアーノさんさ。 面倒見いいね、ほんとに。 あの、手助け……というか、また、甘えていい?」 「いま、ひとつだけ」 少し遠くで見慣れたひとが自分を探す姿が見えた。 家からの迎えで、ならどうしても帰らなくてはいけなかった。 その先でないと、どれほど貴方の手を借りたところで解は得られないと分かっている。 だから今は、ただ貴方を見上げて乞う。 強く在りたいと願う。 されど気を抜けば目を塞いでしまいそうになる。 その弱さを見抜いてくれた、貴方にだからこそ。 「───"大丈夫だ"、って言って」 「……今のオレ、全然そんな風に見えなくても。 それだけ、……言ってほしいんだ」 「おまじない、欲しくて」 「……だめかなあ」 [2/2] #BlackAndWhiteMovie (54) 2023/09/28(Thu) 18:11:27 |
【人】 路地の花 フィオレ>>51 ロメオ 「泣かない、泣くわけないわ」 「……ありがとう、ロメオ」 一人だったら、きっとどうにもできなかった。 感情のやり場も、それを発散することも。 大丈夫、これは前を向くための儀式だ。 共犯者と言ってもいい関係のあなたと、背負ったものを分け合うような気持ちで。 これからも、私は間違っていなかったんだと思えるように。 「あなたがいてくれて、よかった」 胸を借りて、優しい声でそうつぶやくのだ。 #BlackAndWhiteMovie (55) 2023/09/28(Thu) 20:24:32 |
【人】 corposant ロメオ>>55 フィオレ 「そ? ならいいや。 美人が泣くのは絵になるが心が痛む……」 またぽろぽろ泣き始めてしまうのかと思いきや、 どうやらそうではないらしかった。 ちゃんとマフィアらしいトコあるな、と再認識をする。 内心ほっとしたと同時に、── 全てに報いあれ と願った。この因果の先がどうなっていくのか、きっと自分の目にはすべて映るわけじゃあ無いんだろうけれど。 「いくらでもいるさ。なんでもするって言ったろ」 そういう約束なのだし、そういう役目だ。 頭に軽いキスを落として、また背中を擦る。 「落ち着いたら帰るか? 今他の皆はどうなってんだろ」 #BlackAndWhiteMovie (56) 2023/09/28(Thu) 20:44:47 |
リヴィオは、笑っている。 (a14) 2023/09/28(Thu) 20:57:19 |
【人】 口に金貨を ルチアーノ日常と言うにはまだ遠いが、それでも多少の落ち着きを取り戻してきた頃。 その日はなんてないただの雨予報の日だった。 灰色の空は水気を含んだ空気を纏って重く沈んだ色をしている。 こつん、わざとらしく靴先で石を蹴った音。 忘れるわけもない。気付いてしまった自分に嫌気がさした。 「Bonsoir.愛しの猫ちゃん。今日も可愛らしいね」 その声の正体が確信へと変わった瞬間、彼の体はただただ固まって、その顔を見る事しかできなくなっていた。 「なんだ、ご機嫌斜めだね。 色男になったのでも言われたかったかい?」 散歩でもするように歩いてきた者の名はファヴィオ・ビアンコ。 十年前にルチアーノの上司となり、五年前に行方不明になった男であった。 #ReFantasma (57) 2023/09/28(Thu) 21:55:13 |
【人】 口に金貨を ルチアーノ「見違えたね、随分大きくなって」 「……だんまりか、本当に拗ねているのかい。 甘えたがりのルーカスは何処に行ってしまったのかな」 「うるさい」 聞きたくない、嫌でもあの日を思い出させるから。 目の前の男に触れられ、愛されて満たされていた日々が蘇ってくる。 失いたくなど無かった、ずっと居なくなって欲しくなかったものだ。 「どうして今更此処にいるんだ」 焦がれて、愛して、忘れられるはずなんてなかった存在が目の前にいる。 男から彼に施していたのは五年間の"教育"だ。 彼が決して逆らわないように、男の前では従順で素直で、常に周りを疑い警戒をし、それこそ男が居なくなれば何もできなくなるような人間になるように。 彼に自覚させることもなく、それが正しいことなのだと教え込ませ続けていた。 それは確かにうまくいっていて、今でさえその事実を彼は自覚することはない。 しかしそれは――未完成に終わっている。 #ReFantasma (58) 2023/09/28(Thu) 21:58:17 |
【人】 口に金貨を ルチアーノ「仕事だよ、言わなかったかな? 『行ってきます』って。期間を言い忘れていたかもね」 「なんだ寂しかったのか、それなら君が怒るのも仕方ない。 私が居なくなってから昇進もしたようだし、 それはうんと働いて一生懸命に頑張ってきたんだろう」 五年前ファヴィオはオルランドに海外のマフィアへ諜報員として潜入する命を受けた。 極秘任務の為に完全に身分を隠さねばならず、同意の下行方不明扱いにされることになる。 そうして雨が降りしきるその日、何も言わずに男は彼の前から姿を消したのだ。 「それでも、漸くひと段落付いた。 時間はかかったけどボスにも許可は貰っていてね。 やっと君を連れて行けるようになったんだ」 ああ本当に自分勝手だな、年寄り共は。 俺のことを一体何だと思っているんだ。 初めからそうだった。 死体の前に血塗れで座る子供の俺を連れて行った今のボスも。 そんなガキを兄弟みたいに連れまわして面倒を見た黒眼鏡も。 十年前がらりと変わったファミリーで孤独を埋めてきた男も。 本当に、俺を何だと思って。 #ReFantasma (59) 2023/09/28(Thu) 21:59:29 |
【人】 口に金貨を ルチアーノ「おいで。また昔みたいにしてあげよう」 男は動きがない彼の目の前まで歩んでいけば、流れるような仕草で頭の上に手を置いて髪を梳く。 腰を抱き寄せつつ首元に見えた赤い痕におや、と呟けばくすくすと楽し気に笑って愛で続けた。 「何も考えなくてよくなるよ。沢山頑張って疲れただろう?」 「ファヴィオ、」 反射で男の名前を呼んでしまえばもう止まらない。 「俺は……」 揺れた声は艶を帯びていて、緩やかにそのシャツに手が伸びて。 縋るように服に皴を作れば、甘く誘うように口端が上げられる。 やっと、見つけた。 #ReFantasma (60) 2023/09/28(Thu) 22:00:59 |
【人】 口に金貨を ルチアーノ>>54 ニーノ 「お節介なところが誰かに似た。 なんだ甘えたいのか、どうした?」 視線を一瞬だけ他所にやって、また顔を見返した。 やはり大人だといっても心配されるような家に居るのだろう。 羨ましいような、そんな自分も想像もつかないというべきか。 「なんだそんなことか。 お安い御用だ、その言葉のチョイスの是非は置いといてな。 いったい誰に貰った教わったのやら」 「重要なのは言葉の意味じゃない、おまじないであることだ」 そう言いながら、貴方の頬に手を当て、こつんと額を合わせる。 「ニーノ、お前は"大丈夫だ"」 余計なことは添えずに男の目は正面から貴方を見つめている。 根拠もない言葉がどんな意味を持って貴方の中に生きるのか。 きっと多くに生かせる人間であると男は信じていた。 それだけに頼り切らないで歩いてくれると祈っていた。 だから、これだけでいい。 #BlackAndWhiteMovie (61) 2023/09/29(Fri) 1:23:25 |
【人】 Il Ritorno di Ulisse ペネロペ>>-142 ダヴィード 表通りからは離れた路地の一角、隠れ家のような入り口。 石の階段を下ると、落ち着いた色の木の扉がそこにある。 下げられたプレートには『OPEN』の文字だけ。 カランカラン 扉を開けばドアベルの音が店内に響く。 暖色の控えめな明かりの下、 カウンター席に着けば、さっそく注文を。 「マスター、シチューとパンを二人分お願いしますっ。 あと、コンクラーベも!」 注文するのは、あなたが以前話していたものと。 比較的沁みにくいだろうノンアルコールカクテルがふたりぶん。 具沢山のシチューと、ライ麦100%の食事パン。 注文したものがカウンターに並べば、 猫被りは休日の一従業員の顔をして表情を綻ばせた。 「どうですか?美味しそうでしょう! マスターの作るシチュー、 私も一度食べてみたかったんですっ」 #バー:アマラント (62) 2023/09/29(Fri) 1:27:58 |
リヴィオは、まだ、笑っている。 (a15) 2023/09/29(Fri) 2:32:39 |
【人】 Commedia ダヴィード>>62 ペネロペ 一人であれば少し気後れしそうな隠れ家だ。一緒に来てくれる先輩がいてよかった。 ……いや、自分達は隠れ家から歩いてきたのだから正しくは隠れ家「風」か。 とりとめのないことを思うし、いくらかは口から出てきたかもしれない。 促されるままに着席するが貴方の頼んでいるカクテルが何なのかもわからない。 大人しく椅子に座って店内を見回しているうちに提供された一皿は、一日以上何も食べていない人間にとって魅力的すぎた。 「本当に……めちゃくちゃ美味しそうですね。 え、これ、ねえもう食べていいですか?」 なので、我慢ができるはずもなく。 煮込まれても素材の食感を失わず、シチューの味をしっかり吸い込んだ具材たち。 ほどよくあたためられたパンを浸せば、しっとりと口の中の傷に障らない美味しさが口の中に広がる。 合間に口にしたカクテルはやさしい甘酸っぱさが特徴で、貴方がこれを選んでくれたのがじんわりと嬉しかった。 #バー:アマラント (63) 2023/09/29(Fri) 7:54:29 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ>>61 ルチアーノ その距離は普段なら恐れを抱くものであったのに。 声を望んだ今はどんなものより安堵を渡してくれた。 たったそれだけでよかった、一人で呟くよりもずっと。 見つめる真っ直ぐな眼差しが差し出してくれるのは、勇気と信頼。 それがいつかの夜と重なって喉奥が詰まる心地がして。 「……うん」 貴方の手に指先を重ねて、返す。 「オレは、"大丈夫"」 そうしてようやく、揺らめいていた水面が静寂を得た。 おまじないが無くても立てる強さが在れば本当はよかった。 だけど今はそれは叶わないから、あなたの手を借りさせて。 それでもいつかの先には自分がだれかに、それを与えられる人になれるように。 [1/2] #BlackAndWhiteMovie (64) 2023/09/29(Fri) 9:28:31 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ>>61 >>64 ルチアーノ 続いた沈黙は二呼吸分。 直に貴方の指先を離した男は、一歩後退ってやっと笑えた。 「……へへ。 ありがとう、ルチアーノさん」 「すっごく助かった、どうにかなっちゃいそうだったから。 オレさ、ちゃんと答えを見つけて……言いたいことを伝えられるようになるから」 姿に気づいてこちらに駆け寄ってくるのは年嵩の女性だ。 "坊ちゃん"と呼ぶ声にひらりと左手を振って、最後に貴方へと向き直る。 「──おまじない、大事にする!」 「今度はもっと落ち着いたところで話そうね。 ……ヴィトーさんのこと、よろしくおねがいします」 もう一度だけ『ありがとう』を繰り返せば、じゃあとそのまま女性の元へと歩いて行く。 親し気に彼女へと声を掛けた男の姿は道脇に止められていた車の助手席の中へと消えて、車体もまた遠ざかっていくことだろう。 すれば今度こそ残るのは人々の賑やかな声と、時折宙を舞う鮮やかなリボンと花だけ。 其処に在った凶行など誰も知らないまま、晴天の元を白い鳩が一羽横切って行った。 [2/2] #BlackAndWhiteMovie (65) 2023/09/29(Fri) 9:30:31 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ「──坊ちゃん。 ……旦那さまが夜、お帰りの後に話があると」 窓の外で流れ行く景色を見ている。 先程の光景は未だ瞼の裏に張り付いて離れはしなかったけれど。 心は、彼のお陰で幾分か落ち着きを取り戻している。 「……うん」 大丈夫……大丈夫だ。 沈黙が長く続いた車内で瞼を伏せ続ける。 口をようやく開いたのは信号待ちの時間。 ひとつを尋ねた、『かあさまはもう長くないの』。 声はない、それでも髪を優しく撫でる指先を感じた。 薄々勘付いていた現実の答えだ。 ならばこれは相応な時で、これ以上にない機なのだろう。 不思議と悲しさはなかった。 それよりも安堵が勝る。 その事実こそが何よりも苦しかった。 #SottoIlSole (66) 2023/09/29(Fri) 9:50:47 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ「夜までは身体を休めてくださいね。 食事も食べられそうになったら、いつでも」 変わらず優しい家政婦に声を掛けて、自室へと足を踏み入れる。 まず目に入ったのは扉近くの数箱の段ボール。 何が入っているのか一瞬思い出せなくて……でも、すぐに思い出した。 置きっぱなしだったからもうダメになってしまっているかもしれない、たくさんの果物。 ……ああ、そうだったな、そういえば。 怒りも憎しみもやはり湧かなかった。 あるとするなら上手く騙してくれたことへの感心と。 最後、取り繕えなかった綻びへの好意だろうか。 やさしいひとだって、今でも思っているんだ。 ……ぽすり。 誘われるように重たい身体を寝台に載せれば、毎夜目を通した本が其処に在った。 手に取り頁を捲れば幼い子供の字が書き綴られている。 うとうとと落ちていく瞼が最後読めたのは幾度も辿った一文。 『 おとなになったら、けいさつかんになる!!! 』#SottoIlSole (67) 2023/09/29(Fri) 9:53:24 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ──名を呼ばれて目を覚ます。 気付けば外はどっぷりと暮れて暗闇に満ちていた。 起こしてくれた家政婦の顔は晴れたものではなくて。 彼が帰ってきたことを知り、立ち上がる。 部屋を出て向かうのは居間。 普段通りの整ったスーツ姿で、その人はソファに腰掛けていた。 右手に巻かれた包帯に視線が寄せられたのは一瞬だけ。 後は、テーブルに載せた一枚の紙を見つめていて。 「……逮捕は誤認に近かったそうだが。 お前がマフィアと関わりを持っていたのは、事実だな」 固い声、感情の読めない色。 目を細め、「はい」とひとつだけを返す。 これほどの騒ぎとなり彼が知らない筈がなく、だから予感は当たったのだ。 「なら、言いたいことは分かるだろう」 この人にとってどうしたって許容できないもの。 そのラインをオレは知らず飛び越えていた。 ならばこれは、当然の帰結だ。 #SottoIlSole (68) 2023/09/29(Fri) 9:55:07 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ (69) 2023/09/29(Fri) 9:56:45 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ……拾い上げる。 訓練で幾度か触ったそれは、最後まで人に放つことは無かった。 先輩に幾度か教わった撃ち方を思い出しながら左手に持つ。 利き手じゃないからブレそうだな。 ねえさんはどんな気持ちで、これを握っていたのだろう。 見つめて、見つめて、見つめて──その銃口を。 目の前の彼へと、向けた。 「────」 感情の良く見えない横顔だった。 何を考えているのか知りたいのに、わからない。 それでも彼が眉を動かすこともなく、静かに瞼を伏せた現実を見て。 「…………あはは」 ……笑えてしまった。 ああもう、ずっとそうなんだ。 いつも、いつも。 #SottoIlSole (70) 2023/09/29(Fri) 9:58:47 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ「……恨んでほしいなら」 「もっと、うまくやれよなぁ」 手は落ちる。 懐へとその重みを仕舞う。 『ねえ、かあさまに会わせてよ』 『それでおしまいにするから』 オレは笑って伝えられただろうか。 返る声はなく、彼は小さく頷いただけだった。 #SottoIlSole (71) 2023/09/29(Fri) 9:59:32 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ寝台の上で眠る、随分とやせ細ったその人の頬を撫でて囁いた、「かあさま」。 薄らと開いた瞳はオレとよく似た色をしていて、この姿を視界に入れた途端にほらまた、花が咲く。 「……ニーノ、ずっといなかったきがするの」 「そんなことない、かあさまが寝てただけ」 嘘を吐くことに胸は痛まず、騙すことに罪悪感も無い。 「ニーノ、手はどうしたの」 「転んで怪我をしただけ、大袈裟だよね」 願うのはどうか、彼女がまた迷い路に落ちてしまいませんように。 「そう……、…………ねえ、ニーノ」 「……うん」 「…………ニーノ」 「なぁに」 ただ名を呼ぶだけで体力を消耗し、また落ちかける瞼に微笑んでみせた。 この世はきっと、残酷でやさしい嘘に満ちている。 信じるには時に辛く、眼を塞ぎたくなる現実が其処にある。 だとしてこの身に手渡された祈りに偽りはなかったんだろう。 ──オレが、この人の幸せを願うように。 閉じ切った瞳、冷えた額へと唇を寄せた。 #SottoIlSole (72) 2023/09/29(Fri) 10:03:01 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ「……良い夢を」 「愛してる」 ──彼女の前で一番の本当を告げ、寝顔をしばらく眺めた後に部屋を出る。 自室へと戻って、着替えて、荷物を纏めて、居間を覗く。 彼の姿はもう其処には無くて、最後の挨拶なんて一言もないまま。 ならばと出て行こうとする背を呼び止めたのは家政婦で、差し出されたのは一枚のカード。 全部がへたくそな人だなと、やっぱり笑ってしまった。 軽くなった身体で夜の道を歩いた。 ひとり、星空を眺めていれば先のない孤独を見たような気がした。 だから『大丈夫』をまた形にする、それだけで不安が溶けていく。 向かう場所はどこにしようか。 ……そうだな、今日はとりあえず。 #SottoIlSole (73) 2023/09/29(Fri) 10:03:59 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ──みゃぁ、白い子猫が鳴いて擦り寄った。 「……んぁ〜なあに。 新入りに挨拶しにきてくれた? そうだよお揃い、住所不定無職の名無し……ああいや、名前はあるな」 「今日はミルクはないぞ〜。 朝になったら買いに行ってもいいけどさ」 深夜、誰も居ない公園の原っぱに寝転んでいたらすりとちいさなぬくもりに擦り寄られる。 頬を左手で撫でてやりながら、あたたかな存在に知らず目が細まった。 「これからどうしようかな。 死人が歩いてちゃだめだよなあ、街は出ないと……」 それでもそうする前にやることはある。 解は見つかった、誰に、何を言いたいのかも。 けれどこの夜が明けるまではここで一人、空を見上げて居よう。 ようやくに訪れた彼の死を悼もう。 言葉を交わしたことのない、知らない誰か。 オレに今日までを与えてくれた、陽だまりの子ども。 #SottoIlSole (74) 2023/09/29(Fri) 10:05:07 |
【人】 夜明の先へ ニーノ「……おやすみ、ニーノ」 上手にらしくあれただろうか。 彼女が望むただ一つの太陽に。 陽は何れ落ちる。 夜は必ず訪れる。 されどまた、輝きは昇るだろうから。 その時は違い無く、己自身の光で誰かを照らせますように。 #SottoIlSole (75) 2023/09/29(Fri) 10:06:07 |
【人】 夜明の先へ ニーノ……ぼんやりと夜空を眺めて過ごした夜。 空が白んできた頃にようやく身体を起こした。 本当に仲間だと思ったのか懐かれてしまった子猫を、……悩んでとりあえず抱えて。 さて、しばらくはどうしようか。 『ニーノ』が死ぬとなればスマートフォンは置いてきてしまった。 手持ちにあるのは幾らかの現金と、少しの着替えと、それから入っている金額を聞いたときに耳を疑って笑ったキャッシュカードだけ。 他にはなんにもない、けれど小さなころよりはずっとましだ。 金があれば大体はなんとかなる、誰かも言ってた。 あまり顔を見られないようにとパーカーのフードを深く被り、ついでに黒いマスクもしておく。 不審者っぽいかな?合ってるからいいか……。 会いたい人にはこの足で。 場所がわからないなら連絡先だけメモをした紙はあるから。 「……行くか」 返事をしてくれるみたいに、子猫が腕の中でまた鳴いたのでひとり笑った。 (76) 2023/09/29(Fri) 10:50:22 |
【人】 路地の花 フィオレ>>56 ロメオ 「涙は安売りしてやらないんだから」 少しの間そうしていれば、調子も戻ってきたのか軽口も飛び出して。 あなたの胸から顔を離せば、笑みを浮かべるくらいの余裕もあるようだった。 「やってやったんだから。私」 「ね、何でもしてくれるなら」 「何か美味しいものでも買って帰りましょ、あの部屋でお疲れ様会したいわ」 みんなも早く落ち着いたらいいんだけどね。 解放されたばかりであれば、なかなかそうもいかないだろうけれど。 #BlackAndWhiteMovie (77) 2023/09/29(Fri) 14:13:14 |
カンターミネは、口にする。「エリー、」その名前を呼ぶ時は、いつだって。 (a16) 2023/09/29(Fri) 17:44:26 |
アリーチェは、両手を顔で覆ってもだもだした。 (a17) 2023/09/29(Fri) 18:14:37 |
【人】 corposant ロメオ>>77 フィオレ 「……ハハ。それでいい。女の涙は宝石と同じだからな」 下を向けば貴女と自然に目が合う。 口の端を吊り上げて、悪戯小僧みたいな笑い方をした。 「Ottimo lavoro!」 「美味しいもの? いーよ、何買う? つかなんでも買うか……せっかくなんだし奢ってやるよ」 運転席に戻れば、そろそろずらかるかとエンジンボタンを押す。端末には見張りの部下達の『問題無し』との報告が入っていた。そちらにも『お疲れさん』と返して、後部座席を振り返る。 「じゃあ行きますかぁ。問題無い?」 #BlackAndWhiteMovie (78) 2023/09/29(Fri) 18:46:00 |
【人】 Il Ritorno di Ulisse ペネロペ>>-172 >>63 ダヴィード 「Buon appetito! 冷めない内が食べ頃ですよっ」 食事前の挨拶をして、シチューをひとさじ。 具材の旨味と甘みがふわりと広がる優しい味。 しっかりとした食事パンの食べごたえも、夕食にちょうどよく。 「Buono! …そういえば、 実は近々マスターに料理を習おうと思うんです」 「最初に習うのは、このシチューで決まりですね」 なんて笑って、シチューをもうひとさじ。 いくらか食べ進めた頃に、カクテルのグラスを傾けた。 「それはそれとして。 来年来たら、今度は一緒にお酒を飲みましょうねっ。 成人祝いはここでさせてもらってもいいのかも」 来年。あなたが18歳になれば、 ノンアルコールでないカクテルで乾杯ができる。 そんなまだ先の未来の約束も勝手にしてしまって。 残暑も過ぎて、外は徐々に涼しくなっていく頃。 バー:アマラントは今日もいつも通り。 穏やかであたたかな時間が過ぎていく。 #バー:アマラント (79) 2023/09/29(Fri) 19:26:18 |
【人】 Commedia ダヴィード>>79 「へえ?ああ、じゃあ。 習ったらおれにも作ってくれませんか、ペネロペさん。 材料代も出すし片付けもしますから」 もくもくと食べ進めながら、貴方のそんな一言に反応した。 もとよりこの男は人の手がかかった料理が大好きで、外食にそこそこの給金を注ぎ込んでいる節がある。 それが貴方のお手製ならばもっと嬉しい。そんな単純さだ。 「いいなあ、それ。来年にもまたこうやって…… 俺に似合うお酒選んでくれますか?」 今回の選んでもらったカクテルは「傷に沁みないもの」という基準が大いに影響しているだろう。 それを抜きにして、18歳の自分に貴方が何を選んでくれるのかが気になった。 その時に貴方は別の顔をしているかもしれないけれど。 貴方のいつも通りに触れた、あたたかい時間。 子どもはなんだか、泣きたいくらいに嬉しかった。 (80) 2023/09/29(Fri) 21:01:15 |
【人】 Il Ritorno di Ulisse ペネロペ>>80 ダヴィード 「Certo!」 実際のところ、この男の『趣味』は多岐に渡る。 取り繕った顔の数だけ趣味があり、 料理を趣味とした事もあれば苦手なふりをした事もある。 ともすれば、以前にも手料理を振る舞った事があるかもしれない。 けれどそれとこれとはまた別の話。 「ふふー。感想聞くのが楽しみです、どっちも」 料理も、お酒も。 18歳になったあなたに似合うのはどんなカクテルだろう。 幸いにして酒には詳しいものだから、いくらでも選択肢はある。 初めて飲むそれが、良い思い出になるように。 それから、あなたの成長ぶりを楽しみにして。 #バー:アマラント (81) 2023/09/29(Fri) 21:33:41 |
ペネロペは、約束をした。 (a18) 2023/09/29(Fri) 21:34:00 |
【人】 Commedia ダヴィード>>81 ペネロペ 「ペネロペさん」の手料理はきっと、初めてだろう。 貴方に作ってもらったものならきっとなんだって、それこそ消し炭だって無理矢理に口に詰め込んでから泣くような男だけれど。 これからあるかもしれない、ない話。 「あははっ、来年ですよ。言いましたからね。 絶対一緒に来てくださいね」 もうすぐ夏が終わり、実りの秋と眠りの冬が来る。 この先にどんな苦難が待っていようと、未来に楽しみな約束があるのはいいことだな、と思う。 目の前の苦難を乗り越えるためにたくさん笑って、たくさん泣いて、たくさん食べて。 すこしだけ貴方に甘えて。 そうして、日常は続いていく。 #バー:アマラント (82) 2023/09/29(Fri) 22:58:24 |
ダヴィードは、平穏と日常を愛している。 (a19) 2023/09/29(Fri) 22:58:39 |
【人】 口に金貨を ルチアーノ背の低いしっかり者を見送ったあと、通知の鳴り止まない携帯を見る。 まだまだ自分は何処かで必要とされていて。 疲れても歩きを止めることすら許されないような気にさせられた。 「『ちゃんと答えを見つけて、言いたいことを言えるようになるから』……ねえ」 「俺もそれをしないとならんのだよな」 大きなため息をついて空を仰ぐ。 にぎやかなリボンを一つ空中でキャッチしてまた捨てた。 「それにしても今、あの旦那のことを頼まれたか……? どうせアレのところに行ったんだろ……人気者め……。 ……はあ、……俺が吹っ掛けておいて邪魔できるか」 あと何時間だろうか、と凡そ場所ももうわかっている。 片方の事は良く知らずとも、片方のことはよくわかっている。 あいつがやると言ったらやるやつだ、一番とは言わずともそこそこ理解者でいるつもりなのだ。 「アジトの様子見に行くか……あーあと牢屋の中の怪我人……。 忙しい、忙しいぞアレッサンドロ・ルカーニア! お前が放り投げた分全部俺が拾うことになってるの許さんからな!」 #BlackAndWhiteMovie (83) 2023/09/29(Fri) 23:14:10 |
【人】 路地の花 フィオレ>>78 ロメオ 悪戯小僧には、目を細めて悪い女ぶった笑みを返す。 こどもっぽい仕草が、なんだか今は一番似合う気がしたのだ。 「片っ端から気になるもの買ってみちゃう? 出来立てのお惣菜とか、お店の人の今日のおすすめとか!」 今なら何だかいいものと出会えそうな気がしたから。 あなたが運転席に戻っても、後部座席に居座ったまま。 体は起こして、白いクッションを抱きかかえる。 キャップをかぶり直して、アクティブなスポーツレディの装いをもう一度。 「うん、いつでも行けるわよ」 「安全運転で、でもぱっと済ませちゃいましょっ」 吹っ切れたような顔で、楽しそうに笑ってみせた。 #BlackAndWhiteMovie (84) 2023/09/29(Fri) 23:27:25 |
ロメオは、ひとのかたちをしている。 (a20) 2023/09/29(Fri) 23:35:07 |
エルヴィーノは、イレネオの電話を鳴らした。 (a21) 2023/09/29(Fri) 23:38:24 |
エルヴィーノは、イレネオに通話が繋がる事はない。 (a22) 2023/09/29(Fri) 23:39:50 |
【人】 corposant ロメオ>>84 フィオレ 「アハ、それもいい。 余ったら家に持って帰って食えばいいしな〜」 すっかり機嫌が直った様子にこっちも気を良くして、 今から何を買ってやろうか計画立てて。 自分もキャップを被り直せば、 バックミラーの位置を調節してハンドルを握った。 「OK〜。んじゃ、行くか」 そうして車は走り出し、きっとどこかの店にでも そのまま向かうのだろう。 自分のカローンとしての役目も これで果たされた。 一つの銃声の犯人を連れて、リボン舞う青空からは遠ざかる。 仕事はきっと、これで終わりだ。 #BlackAndWhiteMovie (85) 2023/09/30(Sat) 0:00:19 |
カンターミネは、歌う。歌うのが怖くとも。 (a23) 2023/09/30(Sat) 0:45:33 |
【人】 幕引きの中で イレネオまさに蜘蛛の子を散らすようだった。 監獄から吐き出されていく人、人、人。 早朝の白む空に照らされ、昇る朝日に祝福されるがごとく家路に着く。或いはそのまま遊びに赴き、それとも最早この地を捨てて遠くへ駆けて行こうとする面々は、疲弊しつつも各々どこか安心した顔をしていたのだろう。 これでもう終わる。悪人は討伐され、三日月島には平穏が戻るのだ。おめでとう、みんな、よくやった。おめでとう。 ぱんぱんと鳴るパレードの花火は拍手にも似て、奇妙にこの日を彩っていた。 しかし。 イレネオ・デ・マリアが牢を出たのは、それから随分後のこと。 日が再び落ち、また高く昇りきり、中天を過ぎた頃──── つまり、次の日の午後のことだった。 #AbbaiareAllaLuna (86) 2023/09/30(Sat) 4:59:01 |
【人】 幕引きの中で イレネオ突然の展開に署内は蜂の巣をつついたようになっていた。情報は錯綜してんやわんやの大騒ぎ。電話対応にも追われ会見の準備、やれあの証拠を持ってこい、やれあれを止めさせろ。末端も末端で仕事に勤しんでいた男が法の失効を知らされたのは、ナルチーゾ・ノーノの緊急逮捕が幕を下ろした後のことだった。 事後処理に駆け回った署内の人間の一人が取調室に飛び込んだのは、イレネオがまさに目の前の男の爪を剥ぎ取ろうとしていた時のこと。 謂れのない責め苦に悲鳴をあげていた被疑者は、その知らせにどれだけ安心したか知れない。彼は椅子から転がり落ちるようにして伝達者の元に走り、縋り付いて涙を流したという。 対する男は、当然法の失効に反対した。 これはマフィアやその協力者を先んじて取り締まることの出来る、画期的な法案だと主張した。いつもの生真面目さ、四角四面さ、愚直さで主張した。 しかし全ては終わったことである。 その言葉はひとつも聞き入れられることがないまま──それは皮肉にも、これまで犠牲者たちにしてきた態度と同じだ──男は一度落ち着けと犬小屋に戻された。 それはおそらく、暴挙の限りを尽くした愚犬に対する庇護の意味合いもあったのだろう。 混乱に乗じてどんな目に遭うかわからない男を野放しにするほど、この国の警察は終わってはいなかった。 #AbbaiareAllaLuna (87) 2023/09/30(Sat) 5:01:35 |
【人】 幕引きの中で イレネオまんじりともせず夜を過ごした男に沙汰が言い渡されたのは、次の日になってからのこと。 停職処分。 期限については追っての通達。 それは男にとっては重い、しかし見るものが見れば軽すぎる裁定だった。 どうしようもなく愚かで、それでも職務に懸命だった忠犬への、慈悲の意を含んだ処罰だった。 #AbbaiareAllaLuna (88) 2023/09/30(Sat) 5:02:19 |
イレネオは、警察署を出た。16時を少し回っていた。 #AbbaiareAllaLuna (a24) 2023/09/30(Sat) 5:02:39 |
【人】 幕引きの中で イレネオ故に男は途方に暮れていた。 犬に出来ることは主人の意向に従うことだけである。 身を捧げた正義には手を離され、リードを握る者はいない。従った法は失効し、今や頼るものもない。 明るい陽射しの下に、男は憔悴しきった姿を晒した。 右を見る。牢に入る前と変わらない人並み。それは既に日常に戻りつつある。 左を見る。紙吹雪が散っていった。昨日あったらしいパレードの名残だろう。 後ろを見る。その門はいつもと変わらず、けれどこの男を追い出して閉じた。 前を見る。一般車両に紛れて通り過ぎた救急車を見て、思い出す声があった。 「バディオリは大丈夫なのか」 「彼なら病院へ」 「撃たれたのは肩だろう。命までは────」 ざり。 靴底が舗装された道を擦る。イレネオ・デ・マリアは知らない。 何故彼が負傷することになったか。 それでも。いや、それだからこそ。 足を向けたのは自宅ではなかった。 #AbbaiareAllaLuna (89) 2023/09/30(Sat) 5:03:13 |
イレネオは、病院を訪ねた。16時を15分ほど過ぎていた。 #AbbaiareAllaLuna (a25) 2023/09/30(Sat) 5:03:33 |
イレネオは、病院を後にした。20時の少し前のこと。 #AbbaiareAllaLuna (a26) 2023/09/30(Sat) 5:06:11 |
【人】 幕引きの中で イレネオ帰路に着く足は酷く重く、億劫だった。 元より姿勢のいいわけではない男の背が今日は更に丸く俯いている。日の暮れた暗さを心細いとは思わないが、明日から過ごさなければならない日々のことを考えれば自然気は沈んだ。 幾日の間を何もせず過ごすことになるのだろう。 どれだけの時間に耐えることになるのだろう。まるで未決囚だ。 趣味も何もない、訪ねるような友人もいない不明瞭な空白を思えば、知らずうちに溜息が漏れた。 こつ、こつ、と石畳を鳴らす足音はいつか砂利を踏む音になる。 裏路地を通るのはいつも通りの癖だった。 なにも近道というわけではない。ただ、街灯のない細い道を帰宅がてらにパトロールするのはこの男のルーティンだった。 始めた頃には時々目にしたチンピラなども、最近はとんと見かけない。 良いことだ、と男は思う。きっと良いことだ。 だからこの帰宅ルートは、任を解かれた今日だって変えるつもりがなかった。 ────そして、それがいけなかった。 #AbbaiareAllaLuna (90) 2023/09/30(Sat) 5:07:21 |
【置】 幕引きの中で イレネオ猫みたいな人だった。 痩せぎすで、億劫そうで、いつも顔色が悪くて。 気まぐれで毛並みの悪い、野良猫みたいだった。 それでも。 瞳だけはいつも、いつも鮮やかに花やいでいた。 あの目が困って伏せるのが、嫌いじゃなかった。 ────好きな花くらい、聞いておけば良かった。 #AbbaiareAllaLuna (L1) 2023/09/30(Sat) 5:16:45 公開: 2023/09/30(Sat) 5:20:00 |
【人】 手のひらの上 イレネオイレネオ・デ・マリアの遺体は見つからない。 一巡査長の身柄は行方不明として結論される。 その捜索も、程なくして打ち切られるだろう。 それはマフィアから警察への手打ち表明であり、 それは警察からマフィアに対するけじめであり、 狂犬が病理を撒く以前に駆除されただけのこと。 誰かが言ったように、署長代理にも法にも見捨てられ。 誰かが言ったように、道理と因果に従って。 誰かが言ったように、地獄に堕ちる。 狭い路地裏では空すら見えない。 負け犬が月に吠えることはない。 #AbbaiareAllaLuna 悪人は、等しく裁かれるべきだ。誰かが言ったように。 (91) 2023/09/30(Sat) 5:20:23 |
リヴィオは、君と友人であるリヴィオは、柔く微笑み君との未来を思い描いた。 (a27) 2023/09/30(Sat) 5:58:09 |
【人】 口に金貨を ルチアーノからん、と靴の先で何かを蹴った軽い音がする。 繊細なグラスに罅が入ったそれは、何の変哲もない眼鏡であった。 裏路地をただいつものように歩いていた男は首を傾げつつも、 それを上着のポケットに入れてそのまま先へと歩んでいった。 「……、何かいるなあ」 漂ってくるのは慣れない鉄の香りだった。 鼻が利く犬でなくとも想像できてしまう程の量が流れていることがわかる。 すえた匂いはしない、まだ時間があまり経っていないのだろうか。 さらに足を向ける。 ここは自分のシマの傍だから、治安は正しく守っていかねばならないと。 #AbbaiareAllaLuna (92) 2023/09/30(Sat) 7:53:53 |
【人】 口に金貨を ルチアーノ路地裏の前に用意された二台の車のうち、大きな黒いずた袋を乗せた車が男を乗せずに何処かへと向かっていく。 「うちの犬も仕事が早くなったなあ。 猫が関わらなければ本当にいい仕事をする。あ。 ……今日は猫にすれ違わんかったな、エキスパート失格か? まあいい」 車が向かう目的地は知っている、だが自分がそこまでついて行ってやる気もなかった。 そこまで自分達は仲もよくなければ情もない。 俺の方で悪かったな、クソガキ。だが別れの挨拶ぐらいは送ってやろう。 「Notte notte e sogni belli, それでは御機嫌よう」 #AbbaiareAllaLuna (93) 2023/09/30(Sat) 8:05:00 |
【置】 口に金貨を ルチアーノ路地裏を縄張りのように歩くどら猫は、常に不幸の傍に、何かを奪って去っていく。 どら猫は気にしない、悪意に手を染めることも。善が尊ばれないことも。 そこには常に理由があり、誰かの利益の為に何かが淘汰され続けている。 世界は独りに優しくなく、価値がわからぬものに救いなど手に入らない。 そんな現実をただ見て歩き、通り過ぎてゆくだけの人生。 仕組みさえわかってしまえばそこまで悪い物じゃあない。 今日も男はその道を歩く、止めてしまえばそれこそ生きることをやめてしまうのと同じだから。 #AbbaiareAllaLuna (L2) 2023/09/30(Sat) 8:06:24 公開: 2023/09/30(Sat) 8:10:00 |
エルヴィーノは、不思議そうにその紙袋を見た。 (a30) 2023/09/30(Sat) 15:54:07 |
エルヴィーノは、が上げたその慟哭は真昼の庭に響いた。 (a31) 2023/09/30(Sat) 15:58:36 |
【人】 口に金貨を ルチアーノ薄く太陽に陰りをもたらす空の下。 ルチアーノは片手にブーゲンビリアの花束を持ち何度も足を運んだガレージの前に居た。 そこに同じく見飽きるほど身近に感じていた赤のフィアット500が収まることは二度とない。 鍵のかかっていない扉を開ければ真っ直ぐいつもの場所へ。 ここは誰が入ってくるかもすぐわかる席で、カウンターに立つ長躯も良く見えた。 「あんたにじゃないぞ」 花束を置いてから店をじっくりと見渡して、一つ息を吐く。 もうこの空間が無くなるのは時間の問題だ、珈琲は飲めなくなるし、皆でたまに顔を合わせた時間もなくなる。 暫くしてからテーブルにうつ伏せ目を閉じた、ここでもやっぱり眠れそうだ、今はとても疲れていたし誰も来なければ許されるだろう。 何処か穏やかな気持ちで別れを受け入れることができている。 怒りや殺意がないとは言わないが、楽しそうであったのだ、 そんな男の姿が見れて自分が嬉しくないわけがない。 ただ今は静かに休んでいたい。 大好きだったこの場所で、彼の愛したものへの想いが籠もったこの場所で。 #Mazzetto (94) 2023/09/30(Sat) 18:15:27 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>a33 店に置きざりにされていたコーヒーミルには、 「使用禁止 廃棄しろ」という張り紙がある。 どうも食品ではないものを曳いたらしい。 喫茶店の風上にもおけない所業だ。 ガレージはがらんとしていて、 けれど多くのものがそのままだ。 それはきっと、戻ってくるつもりだったからではない。 このままにする以外に、なかったのだ。 それ以外に、何を足すことも、何を引くこともしたくはなかった。 潮風だけが、その憩いを見守っていた。 #Mazzetto (95) 2023/09/30(Sat) 18:41:27 |
ダヴィードは、買いすぎた昼食を、一人きりでは食べきれなかった。 (a34) 2023/09/30(Sat) 20:16:09 |
ダヴィードは、『イレネオ・デ・マリア』に、生涯出会うことはなかった。 (a35) 2023/09/30(Sat) 20:16:27 |
リヴィオは、本当はとても、狡い男だ。 (a36) 2023/09/30(Sat) 21:36:16 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>-363 ぐおおおん、と。 尋問と拷問に意識の向いていた構成員たちのなかで、 壁越しに遠く響いていたエンジン音が、ぐんぐんと近づいてきたことに気が付いたものはいただろうか。 ──ば がぁん。 甲高く硬質な音が、建物の中に響く。 差し込んでいた日の光が、眩く溢れ出すように強さを増した。 建材がへこみ弾ける音とともに、真っ赤な車が突っ込んできたのだ。 もうもうと車から吹きだした白煙に、ノッテの構成員たちががなり、銃を向け、あるいは混乱しヴィンセンツィオを引き倒そうとする。 めいめいに好き勝手な反応を見せるものたちは確かに、元から乏しかった統率を欠いており。 ばがん。 ──扉の隙間から滑り込んできた男が、両手に構えた拳銃と短機関銃をまき散らす間隙を与えることになる。 #BlackAndWhiteMovie (1/2) (96) 2023/09/30(Sat) 23:03:24 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>-363 ぱ、ぱ、ぱ、ぱぱぱぱぁん。 発砲炎と共に破裂音が何度も瞬き、血飛沫と湿った音が響く。 構成員たちの半数近くを奇襲で叩き、 がしゃあん!! ――照明を打ち抜き。 暗闇に閉ざされた中で殴打と落下音、銃声がさらに続いて―― 「おう」 ――あなたのそばで、足音が聞こえる。 「生きてるかあ、ヴィンセンツィオ」 #BlackAndWhiteMovie (2/2) (97) 2023/09/30(Sat) 23:06:51 |
【人】 花浅葱 エルヴィーノゆっくり、上がる。 病院の階段を、一歩ずつ。 それはまるで天国へ続く道のようで、あの屋上への扉を開いたら、あなたが居そうで。 ルチアーノと別れ病室に戻された時は満身創痍だった。 絶対安静の人間が、受けるべき点滴を受けずに外に居たのだから、ナースも医者も皆が青い顔をしていたのは仕方のない話だ。 すぐにまた点滴に繋がれ、青白い顔に生気が戻ってくるのにまた数日を要したに違いない。 歩けるようになって、リハビリを始めた。 手先はなんとなく動くようになったけれど、肘を動かそうとすると痛みが響いて動かない。 砕かれた肩はミリも動かせる気がしない。 本当は、ベッドの上にいるのが一番楽だけど、今はすごく屋上に行きたかった。 金色に輝く太陽の下、広がる青い空を見たい。 だって。 寂しいんだ。 心に空いた穴はルチアが埋めてくれるけど、ずたずたになった心臓が今も血を流しているから。 #BelColletto ▼ (98) 2023/09/30(Sat) 23:13:14 |
【人】 花浅葱 エルヴィーノ「やっとついた」 白く輝く扉を開いて外に出れば、涼しい風が男の髪を柔らかく揺らした。 ゆっくり、一歩ずつ前に進んで、 柵に手をかけたらもうだめで、ずるずるとその場に膝を折って座り込む。 身体の辛さよりも、今は、心の震えが止まらないのが酷くつらい。 手の中にあるたった一つだけの贈り物を見つめて、 ……ぱた。 ぱたり。 静かに雨が頬を伝った。 「……忠犬は、主を待ち続けるものだろう?」 「な……んで、キミが先に、僕を置いていくの」 僕がもっと、あなたの手綱をしっかり握ってたならこんなことにはきっと、ならなかった。 僕がちゃんと、あなたがしている事を知っていたなら、あなたの頬を打ってでもそれを止めていた。 僕が撃たれてなんてなかったら、あなたを助けに行ったのに。 ――知らないことは、罪だ。 だからこれは、全部僕のせい 。#BelColletto ▼ (99) 2023/09/30(Sat) 23:14:13 |
【人】 今更、首輪を外されても エルヴィーノ「……レオ……」 あの日約束したその名を呼ぶ。 「レオ………ッ」 何度も、何度だって、その名を呼ぶ。 天国への道を閉ざす、格子の前で。 「約束、守って……る、だろ」 「なのになんで、応えてくれない……っ」 だけどそこに、あなたは居ないのだ。 今更、その首輪を外されても、僕はもう上手く歩けそうにない。 #BelColletto (100) 2023/09/30(Sat) 23:15:34 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>96 >>97 [16:00] ノッテの構成員が殴り込んできたときよりも大胆な音が響く。 此れより先に追いかけっこに加わるものなんて警察ぐらいしかありはしない。 その筈だった。そうだとしたなら、こんな荒っぽい手立ては取らない。 他の誰が在るというのか。彼らの手を迷わせたのはそうした困惑もあったのだろう。 目を向けるべき相手を誤らせ、その視界を暗く潰した。 男の反応は緩慢だった。薄く雲が張ったような、空の色が向けられる。 人の死体がいくら増えようが男の注意を引くことはない。そうだった。 それが、乱入した男の顔を見て僅かに目を見開く。 確か当初乗り込んで来た構成員達は、ある男の部下だった筈だった。 秘密主義のマフィアたちであっても、多少顔の割れている人間はいる。 そうした者たちの幾らかは、一人の男を信奉めいて仰いでいた筈だった。 少なくとも自分が罪を暴かれ情報から隔離される前はそうだった。 #BlackAndWhiteMovie → (101) 2023/09/30(Sat) 23:27:35 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>96 >>97 その男の顔を見上げて、満身創痍の男は笑った。 息だけで、けれどもそこにあるのは嘲弄とはまた違うものだった。 仕方ないものでも見るような、怪訝と皮肉の混じったそれだ。 「……はっ、はは」 「迎えの趣味が派手だな、アレッサンドロ」 #BlackAndWhiteMovie (102) 2023/09/30(Sat) 23:28:17 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>101 満身創痍の男の前に、黒いスーツを翻した男が立っている。 壁の隙間から差し込む燦光が、ちかちかとその輪郭を彩って。 見やれば、その体のあちこちに乱雑にまかれた包帯や布の切れ端が赤く染まり、彼もまた無傷ではないことが分かるだろう。 そいつはあなたの表情に、に、と笑顔のように口元を歪めると。 「――気安く 呼ぶン じゃッ ね えよ、 くそヴィト ッ!!!!」――横殴りに銃身を叩きつける。 #BlackAndWhiteMovie (103) 2023/09/30(Sat) 23:35:27 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>103 頬骨に堅いフレームが擦り合わされる感覚があった。 既に大分張られて腫れた頬に、今までの痛みを再生するように神経が痛んだ。 軽く咳き込んで血塊を吐き出す。喘鳴は荒れたものの、悲鳴はあげなかった。 衝撃に流される前に向こうを向いて金属製の扉に叩きつけられた頭は、 まず視線を貴方へと向けて、それを追うように頭そのものが前を向く。 「他人行儀に呼ばれる方が、お前はよっぽど好みじゃないだろう」 立ち上がろうともしなければ、反撃の姿勢も見せない。 ただ、大混乱のさなかにある町工場の中の景色を背景に見上げて、 叩きつけられた言葉と態度を映画のスクリーンのように眺めているだけだ。 それで満足するのなら、それで構わないだろう。 けれどもそれで腹の虫が治まらないのなら、それはきっと不満だ、そうだろう。 「一方的に殴りつけて気が済むんだったらこのまま付き合ってやる。 で? それでお前は構わないのか?」 #BlackAndWhiteMovie (104) 2023/10/01(Sun) 0:02:08 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>104 ぷ、と吐き捨てる唾は赤黒い。 ストックに張り付いてしまったような指を引きはがして、 弾切れになったらしい短機関銃ががらんと床を転がった。 「うるせェ。 舐めやがってマジで」 乱暴に伸ばした腕で、あなたの肩を掴み引き起こす。 その振る舞いに"カポ・レジーム"としての、 あなたからすれば取り繕った、気さくな様子は欠片もない。 ──ただ、まったく、見慣れた様子。 かつてソルジャーとして纏っていた、当時の顔をすっかりと取り戻した顔で。 「ここで元部下の代わりをやってやってもいいンだが──」 じろ、と目だけで横を見る。 「………」 「乗れ」 車体のひしゃげたフィアットを指さす。 「これ以上話を聞いてやる気も、解釈してやる気もねえ」 「ただ、ここにいると邪魔が入るだろ」 「──ンなことしてる時間も余裕も、暇もねえ」 だろ、と。 答えも聞かずに、車の方に向かっていく。 (105) 2023/10/01(Sun) 0:10:00 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>105 上体さえ浮き上がらせられたなら、それに追従しないわけでもなかった。 何もかもに無気力であるのとは異なる、他から見て違いはわからずとも。 打撲程度の損耗はあるものの無事な方の腕で体を支えて立ち上がる。 片足は引きずり気味ではあるものの、体重を支えられないわけではない。 点々と血が尾を引く足跡を残しながら、助手席の方へと歩いていく。 時間が無いのは確かだ。そして目の前の相手を見れば、互いにそうなのも確かだった。 皮肉るような物言いはされど相手の提案を蹴って立ち止まったりするものではない。 そればっかりが事実であって、心中の内を饒舌に語ったりはしない。 「話くらいは聞いていけよ。何も聞きたくないわけじゃあないだろ。 もしそれくらい呆れてるなら、お前は此処にわざわざ来ない」 決めつけるような物言いのどれだけが真を得ているのだろう。 長い月日の中で互いがどういう人間か霞んだか、或いは。 少なくとも、聞けと言うほど自分から話したりというのも、男はやはりしなかった。 「……お前の運転する車に乗るのは、そういや初めてだったかな」 #BlackAndWhiteMovie (106) 2023/10/01(Sun) 0:26:40 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>106 怪我を慮る様子など一切なく、力任せに腕を引き起こす。 手招きも指図も、説明も気づかいも無い。 奇妙で不格好な、それは信頼ににた形。 ここ十年ばかりお互いの間に横たわっていたさまざまなしがらみや思惑、年月や歳月。 そういったどうでもいいもの全て、 ばたんと乱暴に閉じられる扉の音にかき消えていくようだった。 「……カー・ラジオ代わりに流してやるから、勝手に話せよ」 分泌される脳内物質のせいか、 それとも流れ出す血のせいか。 なにもかもを走り切った直後のような、気怠さと自由の境目のような空気。 ──この十年ばかしあった微妙な距離感の代わりに、そういったものがぶちまけられたような感覚。 それを形容する名前を、ふたりは持たなかった。 あるいは、必要としなかった。 「たりめーだろ。 カポの車に乗る警部がいるかよ」 がたがたと煙と異音をあげながら、フィアットのタイヤが滑り出す。 行先は、港。 ゆっくりと沈みゆく太陽を追いかけるようにして、ひびの入ったフロントガラスが瞬いた。 #BlackAndWhiteMovie (107) 2023/10/01(Sun) 0:35:59 |
リヴィオは、君と同じ空を見ている。 (a37) 2023/10/01(Sun) 0:40:35 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>107 その日の空は晴れていた。 緞帳を割るように光は破砕された開口部を割って差し込む。 パレードが幕を開けた頃に比べれば随分と光は色を帯びていて、 道向こうの目的地であるように主張する夕の色がやけに視界に眩しかった。 僅かな隙間を縫って吹き抜ける風が傷をひりひりと傷ませる。 「お前をパトロールカーに乗せてやることはしょっちゅうだったけれどな。 性懲りも無い暴れ方ばかりするもんだから、ガソリン代を請求してやりたかったくらいだ」 まだお互いが若く未熟で、ちょうど今の夕焼けのように昼と夜の交わりとの関わり合いを、 どんなふうに図るべきなのか探るようにしていた頃の話だ。 今、或いはこうなる直前よりもずっと上手く切り抜ける方法なんざ知らなくて、 どちらも自分の上、社会だとかそういうものに叱られため息を吐かれていた、 あの頃の夕日が一番眩しかった。 「お前は引き継ぎは終えてきたのか。どうせろくに話もしてないんだろう。 口を開かないことばかり得意になっちまったもんだな」 #BlackAndWhiteMovie (108) 2023/10/01(Sun) 0:59:55 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>108 潮風はまだ遠く、けれど海から吹き上がる風は真っ直ぐに削いでいくようだ。 こんなときにこそ使うべき黒眼鏡を助手席にかちゃりと放り捨てて、 ハンドルを苛立たし気に指先が叩く。 とん、とんというリズムは、鼓動とも路面の震動とも入り混じらない不協和音。 なのにその音が妙に耳に響いて、それ以外がどこか遠くに聞こえてくる。 「今ならぜって〜被害届出してるからな、あんなの。クソ暴力警官。 あの時懲戒喰らわせておくべきだった」 今にして思えば、あの時分が一番互いを信頼していたとさえ思う。 何も伝えず、何も理解せず、 それなのに同じ場所にいた。 その時のように交わされる言葉は、 傷跡に疼く熱に溶けていくよう。 ──理解とは程遠く、けれど齟齬がなかった。 スラムか、暴力か、あるいは痛みか。 何某かの塔の正体が何だったのかはいまだに分らないが、 少なくとも、同じ言語が通じていた。 「…そっち、あの状況でしてきたのか? 嘘だろ。 俺ぁなんもしてねえよ。あいつらならどうにかするさ」 車は海辺へと続く道路を曲がり、赤い照明が明滅する港湾設備へと進んでいく。 その光をフロントガラスに映しながら、 なんだか嬉しそうに笑う。 ──相変わらずの放任主義だ。信頼する相手のことは、あとは大丈夫だと無条件に、どこまでも放り出す。 #BlackAndWhiteMovie (109) 2023/10/01(Sun) 1:10:39 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>109 ゆっくりとカーブを曲がり、建物の間から遠くに海が見える。夕暮れの色に照らされた美しい海。 いつもだったらそれを楽しむ余裕があったかもしれないし、 その向こうにあるのだろう本土の岸辺を想像することもあるのかもしれない。 街の景色が遠ざかっていき、見えるものの色数ばかりが少なくなっていく。 そう遠くもないうちに、この車は港へと着くのだろう。 「俺の部下に引き継ぎなんざ必要ないさ。普段からなんでも教えてやっている。 お前と違って上に立つものも一人きりてなわけじゃない……うまくやるだろうさ」 果たして当人らにとって適切な引き継ぎがあったかなんて想像はしない。 少なくとも今から間に合わせることなんてのはお互いに出来やしないのだから、 彼らの身になって考えるなんてことに意味があるわけではない。 痛んでいない右腕を動かす。ポケットから抜き取られたのは一本の葉巻だ。 湿気の管理もされていなければ剥き身のままほっとかれてラッパーに皺が寄っている。 あの日、餞別として貴方から強奪したものだ。 それが見えるように片手で掲げてから口に咥える。 「……火貸してくれ。シガーライターくらいあるだろ、この車」 #BlackAndWhiteMovie (110) 2023/10/01(Sun) 1:29:23 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>110 がたがたと歪んだフレームの隙間から、さんざめく潮騒が聞こえてくる。 フロントガラスから回り込むように、 海面が反射する橙の光が覆っていく。 ぐるりとハンドルを回して、半開きのゲートをくぐる。 するすると滑り落ちるように向かう先は、港湾施設に併設された倉庫群だ。 「俺の部下にも引き継ぎなんて必要ねぇけど!? 俺のやってた仕事なんざ、あることをあるようにしただけだ。 もっとうまくやるまであるね」 張り合っているのかなんなのか、それとも誇らしく主張しているのだろうか。 確かなものなど何一つなく、空々しくすらあるがなり声が車内に響く。 葉巻の先端を視界の端にだけとらえながら、 「セルフサービスだ。 お前の人生に俺からくれてやるものなんて一つもねえ」 アクセルをがん、と蹴りつけるように踏む音。 速度を増した車は、舗装された斜面を跳ねるように降りて、 ある倉庫の陰へと向かう。 ──そこは、カポ・レジーム"黒眼鏡"が管理する倉庫群。 治安組織もファミリーの監視も、少なくとも普段はほとんど及ばない この街の空白地帯。 #BlackAndWhiteMovie (111) 2023/10/01(Sun) 1:38:23 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>111 「っ、はははは。 物知らずが店一つ任されるくらいだ、それくらい教えられてりゃ問題ないだろうよ」 空笑いが返る。くるくると葉巻を回してポケットへとしまいこんだ。 張り合って上げる大げさな声も、突き放すような物言いも、やけに満足そうに耳を傾ける。 背中の向こう、振り返らなければわからない街の様子などわからない。 残された彼らがどうしているかなど知る術もなく、知らせる者もいない。 それでよかった。 スピードを上げる車とは裏腹に、悠揚と構えて眼の前を見ていた。 話す相手に目を向けるのでもなく、ただ紫色を帯びていくオレンジを見ていた。 たかだかの干渉に集約してしまうには、男のほうは、今にすっかり満足していた。 車が停まれば扉を開けて助手席から外へ逃れ出る。 景色を見に来た、だなんて。そんなことは欠片も思っちゃいない。 それでも求めるものを提示されるまでは、開け放った扉に手を掛けて、 沈みゆく夕日が海を照らしているのばかりを見ていた。 体重を他に預けて構える、その片目は失われていた。 全身打撲の状態であちこちに殴打の痕があり、片足は半ば引きずっていた。 外套の内側からは血が流れ出す。左肩は粉砕され、脇腹はじんわりと血を吹いていた。 一番顕著であるのは右胸の傷で、すっかり黒くなった血の跡を染めるように新たな血が流れる。 今は空にされた助手席のシートが、凄惨さを物語っていた。 #BlackAndWhiteMovie (112) 2023/10/01(Sun) 2:16:30 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>112 「ぬかせ。お前よりよっぽどいい上司してたわ」 本気の舌打ちをぶちまけながら、バックミラーをぐいと捻る。 根本から明後日の方向を向いた鏡は、もう背後の街並みを映し出したりはしない。 視界に広がるのは風の割には穏やかに揺れる海面と、 それを無機質な倉庫の陰が無機質に、参差として遮っていた。 助手席が開くの音に覆いかぶさるように、 蹴り開けるような勢いで扉が開く。 ところどころ穴の開いたスーツの裾がばたばたと、 忙しなく海風を孕んで揺れていた。 「一服する間くらいは待ってやるよ」 ばん、と力任せに叩きつけられたドアは、しっかりとは閉まらずに中途半端にずれた。 車越しににらみつけるアレッサンドロの片目もまた、押し当てられた布切れを赤黒く滲ませている。 銃弾が掠めたのか、あるいは貫通したのか肩や腿にはごわごわと乾いた血液の痕が張り付いていて、特に左腕の動きが鈍い。 それでも、 「おめえが何やったか、よく見てなかったンだけどよ」 フィアットの天板に、ごとん、と肘を乗せて。 「んなもん、どうでもいいから。」 「これからぶっ殺すくれえ殴るから、死んでも文句言うなよ」 ――笑った。 #BlackAndWhiteMovie (113) 2023/10/01(Sun) 2:30:45 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>113 懐からナイフの一本を取り出す。手入れはされているが汚れているそれは、 おそらく手癖も悪く先の町工場内部から拾ってきたものなんだろう。 ひしゃげた葉巻を乱暴にカットすると、煙草のボタンを押して起動させる。 幸いシガーソケットに歪みは無かった。ライターを取り出して赤熱面に押し当てるも、 直火でないから火がついて炙られるまでにはさんざ苦労をした。 「……初めはお前は随分大人びちまったから、裏切られたと知ったら切り捨てて、 あとはそれきり、自分の部下かなにかにでも始末を任せるものかと思っていたよ」 保管状況も火付けも何もかも悪い葉巻は、パルタガスの良さを台無しにしている。 しばし車に体重を預けながら、夕日が沈んでいくのを見ていた。 こんなところまで追ってくるのがいたとして、アジトやあちこちが散々な今、 痕跡を追ってやってくるとしたって日が昇ってからだろう――唯唯彼を追うふたりは別として。 「何かに付けて突っかかってくるようなガキの時分じゃなきゃ、 自分の手でケリつけようなんざしないだろうと思っていた」 「けれど、お前は追ってきた」 喉の奥から喘鳴混じりの笑い声を吐く。 車を挟んで並ぶ男の顔を見て、目を細めて笑っていた。 遠いものになってしまった景色を眺めるような、懐かしむような目。 ころりと首を傾げて、可笑しそうに、いつかのように頬を緩める。 「 自分を殺す凶器を選べるなら、お前がいいとずっと思っていたよ 」#BlackAndWhiteMovie (114) 2023/10/01(Sun) 9:11:51 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>114 「そりゃこっちの台詞だ、あんたが大人になっちまう日が来るとは思っちゃいなかった」 車に体重を預けながら、悪餓鬼のような笑みを浮かべる。 怒りと苛立ち、嘲りと――仲間意識。 そういったものがないまぜになって、ぐつぐつと、 耐えがたいはずの悪臭を放ち煮えたぎるような凶相。 なのにそれは、どこまでいっても笑みと表現されるものだ。 「──俺だってガキじゃあいられねえ。ただ、どーでもよくなる時だってある」 はるか遠くを過ぎゆくプレジャーボートのエンジン音が、波を伝い足元にまで響いてくる。 そうして、あなたの漏らした言葉には、一瞬きょとん、と目を丸くして。 「──ハ」 「気色悪いこといってんじゃねえよ」 ははは、ははは、と。抑えきれなくなったような哄笑が、途切れ途切れに漏れ出して。 「──オッサン、コラ。ノンビリ吸ってんじゃねえぞ」 かつては大人と子供ほどに離れていた年齢は、今やすっかりと希釈された。 それなのに、その口調は悪態をつく子供のようだ。 ポケットに片手を突っ込んだまま、車に手をついてゆっくりと回り込む。 おぼつかなかったはずの足取りは、舗装された足元を引きちぎるかのように重く、強い。 ぴりぴりと、引き絞られたか弓矢のように、それは放たれる時を待っている。 #BlackAndWhiteMovie (115) 2023/10/01(Sun) 9:41:54 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>115 「俺は変わっちゃいねえよ。周りが自分よりガキばっかりになっただけだ。 だから面倒を見てやらなきゃいけない数が増えた、それだけの違いしかない」 自分が、自分たちが若い頃も、自分より年少の人間は面倒を見てやった筈だ。 その数が増えただけ。目下のように振る舞う機会なぞありはしない。 それでも、根底にあるものは変わらないままだ。 哄笑を聞いて、ひとたび眉を顰めて。それから、また仕方なさそうに口角を吊り上げた。 次第にそれは同じような高笑いに変わって、港にどうしようもない馬鹿笑いが響いた。 笑えば傷がずきりと痛む。体の震えに伴って新しく血が吹き出した。 そんな無粋の一つ一つが、奇妙な高揚の後ろに押し流されていく。 頭の中が晴れていくような清々しい興奮が、片方だけの瞳を爛々と輝かせた。 「――葉巻はゆっくり吸うもんだろ、小僧。 ……だから此れはお前が台無しにしたことにしてやる」 親指が下から葉巻の胴を弾いた。燻った珈琲やナッツのような香りが舞う。 手元から離れた一本がくるくると回転しながら地面に落ちていき―― トッ、と小さな音を立てて路面にぶつかる。 それを合図とするように、車に体重を殆ど預けて予備動作を消して、 右足を大きく振り上げて蹴り上げた。距離が足りれば体の中央、 そうでなくとも当たれば顎は刈れる。 #BlackAndWhiteMovie (116) 2023/10/01(Sun) 10:14:07 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>116 「ガキみてえなこと 言ってんじゃ ね ぇえぇえええエエエエエよッ!!!」 葉巻が撃鉄のように落ちて、 そらすら待たずにばねは動いた。 ほぼノーモーションで放たれた蹴りを避けられたのは、同時に動き出していたからにすぎない。 だ、だん、と鋼板をへこませる音と同時に、アレッサンドロの長身が車の天板よりも高く飛び上がる。 大きく孤を描き放たれる、横殴りの足刀。 ──だが本命は、その陰。 先ほどまでポケットに突っ込まれていた拳が緩く握りしめられて、空中に身を躍らせた直後── 蹴りとワンテンポ遅れただけの奇妙なタイミング、そして間合いで突き出される。 当たるはずも牽制になるはずもない、ばたつかせただけのような手。それがぱ、と開かれて、 ばさり 、と。握り込まれていた粉末が、 掠れた音とともにぶちまけられる。 派手な蹴撃に紛れて放たれるそれは、 アルミ片を削った金属の欠片。 粘膜を容易く傷つける無数の礫が、潮風に逆巻きながら、顔面を狙ってぶちまけられた。 #BlackAndWhiteMovie (117) 2023/10/01(Sun) 10:25:28 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>117 躱された脚を引く力に任せて上体を引く。 大仰な動きは、それが本命でないのも相俟って適切な間合いで避けられた。 問題はその次だ。 「っ、」 片目を庇うように瞑る。視界は一時的に制限されはしたものの、恒久的にそうなるよりはいい。 避けようもない攻撃は顔面に降り注ぎ、交通事故にでもあったように傷に金属片が食い込んだ。 見えないものを、やり過ごしきったと判断するのは難しい。 目を開くことが出来るのはもう一手先だ、故に。 見えずとも当たることが予測できるものを狙わなければならない。 流れるように殴りつけにかかったのは足刀、過ぎ去った右足の膝裏だ。 勢い、空中から地面に引きずり下ろすようにしながら自身も背中を丸め、 頭上からの奇襲が追撃されることを防いだ。 握り込めるならばそのまま膝裏の布を引っ掴めたならいい。 そうしたなら落下する体の支点は言いようもなくめちゃくちゃになる。 #BlackAndWhiteMovie (118) 2023/10/01(Sun) 10:39:48 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>118 爪先が何かを掠めて、あるいはまったく空振りをして、 けれどそんなものはどうでもいいと引き戻す。 格闘戦において、自らの肉体を伸ばしたまんま相手の射程内に置いておくほど愚かしいことはない。 ──そんなものを分かっているとばかり、即座に叩きつけられた拳と脚刀がぶつかりあう。 「っ、っだ、」 膝裏を鉤のようにひっかける指を上から押しつぶすように、 器用に全身のばねをたわませてもう片方の足を叩きつける。 技術というにはあまりにも稚拙で力任せなそれが、 もつれあうようにして互いの手足をはじき合った。 人間が滞空していられる時間は、そう長くはない。 アレッサンドロが辛うじて両足を地面に着地した時には、 そんな一瞬の攻防を経て、互いが姿勢を崩したままだった。 否。 僅かに、無茶な動きをしたアレッサンドロの方が姿勢が悪い。 それを補うように、咄嗟に距離を埋めるように左手の拳が突き出される。 ──ちか、と。 金属の輝き。 握り締めた拳の指と指の隙間、 そこに握り込むように金属片。 拳から突き出す先端は猛獣の爪のように、防御すれば肉を裂き骨を打つ。 距離と間隙を埋めるように鋭く二度、三度、狙うは当然顔面、あるいは傷を負った胸元や肩口。 #BlackAndWhiteMovie (119) 2023/10/01(Sun) 11:03:51 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>119 引っ掴んで頭を地面に叩きつけさせてやるには至らず、指はぱっと離される。 その代わり、指が潰れるほどではなかったのが幸いだ。 相手の不利を狙って畳み掛けるのが承知の人間が着地を見守っているか。 そんな筈はない。地面に落ちた雁を狙わない銃口は無い。 追う脚が一歩を大きく切り詰める。 互いに考えることは同じらしかった。 息をする間も与えまいと、両拳を使って顎下から肩、肋の合わせ、 そうでなければそれこそ向かってくる拳に平然と合わせて殴打を叩き込む。 それでもどうしたって肩の潰れた左腕は動きも鈍く痛みも走る。 右拳のように、相手の卑怯をお構い無しに血を上げながら迎え打つなんてのは出来ない。 そうしている間にも相手の左拳に挟んだ鈍い刃は己の拳や顔面を裂いていた。 新しく出来た傷口にまで、先に降り注がれたアルミ片が皮膚から剥がれ落ちて潜り込む。 いずれは勢いを失わざるを得ないのは必至だった。 だからそれを補うものが必要だ。 シガーカッター代わりのナイフはまだ左手にぶら下げられている。 勢いの無い左拳は代わりに、右拳に紛れて相手の上体を裂きに掛かる。 別段手段を選ばないのはそちらばかりでもない。 そして連撃の迫間、左手が引きに入った瞬間を見計らうと、 点対称の右足は視界の外より、相手の左足の肘を踏み付けにするように蹴り込んだ。 次に何が来るか予測するように、僅かに長身の背が曲がる。 #BlackAndWhiteMovie (120) 2023/10/01(Sun) 11:23:16 |
ニーノは、あなたと同じ空を見続けていたい。 (a38) 2023/10/01(Sun) 11:27:22 |
ニーノは、だから、「いっしょにいて」とねだった。 (a39) 2023/10/01(Sun) 11:27:27 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>120 極至近距離での白兵戦で、完全に攻撃を避けることなど不可能だ。 姿勢を僅かに整えるまでの数瞬に、 殴打は筋肉と骨で、刃は服の表面で受ける。 みしりという音が体内で響いて、足先が思わず溢れ、 それでも牽制を幾度と放ち、 そのまま押し込まれることを防ぎ切る。 体躯では負けている。 体重というものは格闘戦において絶対だ。 それでも、正面からぶつかり合う。僅かでも腕のうちに潜り込むように身をかがめて、 「っ、づ」 抉りこむような蹴りが、突然そこに現れたかのように肉を打つ。 ばぢん、という音を遠くに聞きながら僅かに体を引いて、 じんと痺れる足をかばうよう片足でかるくステップを踏みながら、ノックするような軽く早い拳を叩きつける。 体力と血液を絞り出すかのように打ち、打たれ、削り合う。 喧嘩でも殺し合いでもある、それはひどく原始的な闘争だった。。 #BlackAndWhiteMovie (121) 2023/10/01(Sun) 11:39:49 |
ロメオは、「オレの事拾ってくれて、ありがと」 (a40) 2023/10/01(Sun) 11:45:18 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>121 眼前を血しぶきが舞う。鈍くえぐれた傷口は鮮やかな肉を垣間見せ、直に赤を滲ませた。 段々と温む拳と襟首がその凄惨さと、負ったダメージを物語っていた。 休みの一つも挟まない連打は徐々に勢いは鈍っていく、故に仕切り直しの蹴りを放ったのだ。 持っていけなかったのなら足は弾むように引き戻されて地面を叩く。 その勢いのままに体は沈み込み、肩より下まで降りた。 幸いであったか不幸であったか、予測による行動が拳の当たる先を決めた。 「ぐ、」 ジャブは傷ついた右目の端を掠めた――正確には掠めただけで十分だった。 瞼の横手を叩いた拳は元よりあった傷を広げ、こめかみまで薄い肉を切開した。 潰れて瞼の中に溜まっていた、眼球だったのだろうものがどろりと頬を落ちる。 沈んだ体はナイフを握った左手を回すように後方まで引き絞らせる。 胴を狙うか、脚を狙うか。選んだのはそれ以外だった。 顎下を見上げられるくらいまで沈み込んだ姿勢から焦点を合わせる。 アッパーカットの要領で、逆手に構えたナイフを腹部から頭部まで駆け上がるように振り上げた。 深く当たれば骨に当たって止まる。浅ければ傷は広がる。 逆手に持ったのは射程を腕の長さより外へと伸ばすためだ。 今の状況において表情を緩めていられるほど余裕があるわけではない、というのは、 筋肉を緊張させておく必要があるからだ。そうでなきゃ、笑っていた。 これが楽しくない筈がない。 #BlackAndWhiteMovie (122) 2023/10/01(Sun) 12:10:40 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>122 「ッダ、…っあぁ゙あ!!」 振り上げられたナイフに対し、踏み込んだのは本能的な反射行動だった。 刃ではなく、それを握る腕を止める。 それもガードと呼べるものではなく、飛び込み、胸板で受けるだけ。 どんという衝撃が肺を貫き呼吸を止めるが、 構わず、かじりつくようにナイフごと腕を抱き込みひっつかむ。 「…… っラ、 ぁ゙!!」命を振り絞るような格闘戦では、ぱたた、と水音が響くものだ。 それは汗か涎か、血か、あるいは髄に近いものか。 生命の雫が撒き散らされていくように 二人の足元になにかが飛沫く。 笑顔はない。 だが高揚し、滾り、燃えていた。 その勢いのままに大きく体を捻り、 砲弾のようなストレートが放たれる。 技巧も戦術も殴り合いの中に消えていき、 あるのはただ肉と骨を叩きつけるような気迫だけ。 #BlackAndWhiteMovie (123) 2023/10/01(Sun) 12:19:44 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>123 ぎ、と歯ぎしりをする音が鳴る。肩を砕かれている左腕を固められれば、 どうしたって押し引きに依る力の均衡は負傷した部位に集められる。 呼吸が乱されれば攻防のリズムも自然と崩れる。 掴まれた腕を引いて振りほどこうとして、軸足に体重を掛けた、 その瞬間に破裂音じみたものが響いた。 体重の乗った一撃は頬を殴りつけ、ぐらりと首から上を揺らした。 まともに食らえば隙を生じる。ふ、と体から力が一瞬抜けた。 それしきで降参なんてつもりはないが、一手分の空隙を晒すには十分だった。 密着した体の間で、からんとナイフが地面に落ちる。 一瞬吹き飛んだ頭の中身を引き戻して攻め手を考えるにしたって、 どうしたところで相手の次撃が先になる。 #BlackAndWhiteMovie (124) 2023/10/01(Sun) 12:43:24 |
【置】 きみのとなり リヴィオ好きも嫌いも、愛も恋も多くのものを知らないまま。 それでも、誰かを、何かを大切に出来る心はあった。 それは、こんな自分を慕ってくれた君やエル、 こんな自分に何となくでも贈り物をくれたダニエラ君、 こんな自分でも友人になってくれたルチアーノや、 同じ立場で、落ちる前に手を掴んでくれたニコのおかげだ。 破滅願望はあるけど、 それでも、生きているうちくらいは前を向いていよう。 俺はもう、ただのリヴィオなのだから。 (L3) 2023/10/01(Sun) 13:33:26 公開: 2023/10/01(Sun) 13:35:00 |
リヴィオは、貴方の作る料理を大層、気に入っている。 (a41) 2023/10/01(Sun) 14:45:57 |
リヴィオは、柔らかに微笑んでから店を後にする。それは──5日目の午後のことだった。 (a42) 2023/10/01(Sun) 14:47:07 |
エリカは、柔らかに笑んで、店を後にする彼を見送った。──ある日の午後の出来事。 (a43) 2023/10/01(Sun) 14:58:28 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>124 振り抜いた腕が、拳が、びきびきと軋む。 指がひしゃげてしまったかのような衝撃。 ─構わず、再び握り込む。 「…、っ、お休みしてンじゃ、ねえぞおっ!!」 ナイフの音、体勢、隙。 それらを自覚しながら、けれどどうでもよかった。 2度。3度。その一撃一撃で殺すつもりで、 拳を叩き込みながら前に出る。 突き進む。 もつれ合うほどに飛び込んで、めちゃくちゃに殴りつける。 どちらのものかもわからない液体が飛んで、びたびたと落ちていく。 それらすべてを振り払うように足を振り上げて、 そのまま蹴倒す様な前蹴り。 姿勢を崩せば、あとは絞め殺してやるだけだと、 前へ。 #BlackAndWhiteMovie (125) 2023/10/01(Sun) 18:22:36 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>125 数度に渡り拳が頭部を殴りつける。頭を上げはしない。 上げられないのは顎を打たれるのを厭んで、頭蓋の丸みで受けているからだ。 それだって苦し紛れのやり過ごしであって、ガードしたほうが良いのは確かだ。 顎を引き、狭い視界で相手の拳の動きを潜り込むように見遣る。 それでもまだ尚眼光は諦念を宿しては居なかった。 いつも日常を過ごし、他人と過ごしている時よりもよほど活き活きと殺意に燃えていた。 「っ、づきは」 攻め手を変えた動きを、見ていた。 ふらつく頭をどうにか押し戻し、屈めた姿勢は蹴り"に"立ち向かった。 傷ついた左手が脛を掌底で受け、浮き上がらせた膝の下に肩を半ば差し込む。 重心を上にずらさせながらに踏み込んだ体は右肘を前に出して滑空し、 全体重を肩から肘の上腕筋に乗せて鳩尾めがけて倒れ込むような、 頭上まで持ち上げない形のパワーボムだ。 「地獄か、――」 日の頂点の沈みつつある、海の音が近かった。 踏みとどまることが叶わなければ互いの体は、海の中へと落ちる。 #BlackAndWhiteMovie (126) 2023/10/01(Sun) 18:47:05 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>126 がつがつと頭蓋骨を殴りつける拳が、恐らくは指としての機能を失いつつある。 だとしてもそれは打突部位として、最後までそこに在る。 だったら、十分だ。 いつのまにか取り落としてしまった車のキーは、もう見当たらない。 苦し紛れのように腕時計を外して、それを握り込み、 僅かに重みを増した拳を何度も何度も叩きつける。 油断は、しない。慢心も、しない。 このまま殺しきるつもりで打ち、殴り、叩き、蹴る。 呼吸することすら忘れ繰り返す打擲の末、 「っ、お」 先ほどナイフを握る掌を受けた時の、逆回しか。 蹴りが威力を発揮する前に受け止められ、 ぐわんと体が持ち上がる。不味い、と体を引く―― より 、も、そんなことよりも。 「…っがッ!!!」 一撃入れることばかりが、脳を焼く。 持ち上げられた肩口に重心を預けて、倒れるに任せて。咄嗟に跳ね上げた軸足を折りたたみ、 ――顔面に、膝を叩き込む。 踏みとどまるつもりは、なかった。もろともに海へと叩き込むその狭間に、がづん、と。 #BlackAndWhiteMovie (127) 2023/10/01(Sun) 18:56:14 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>127 血の絡んだ髪が引きちぎられて頭皮が飛び、切れた瞼の下からは白い骨が見える。 鼻骨は折れて元の面影を残す面は少しずつ削られて尚、スカイブルーが貴方を見ていた。 しっかり組み付き切った膝は肩でホールドしたまま。 脚が地面を蹴る。二人分の重さが急に重力を失ったようにふっと軽くなって、 きらきらと海面の光る水の上へと投げ出された。 それでも尚視界に迫る膝を見て咄嗟に出来たことと言ったら。 勢いをつけた殴打は手段としては取れない。 基点となっている肘をぐるりと回して、指が伸べられたのは、 包帯で塞がれた、傷ついた眼窩の内側だった。 どっちが有効打であったのかが判明するよりも早くに、 スローモーションで動く秋の海の冷たさが迫ってきていた。 #BlackAndWhiteMovie → (128) 2023/10/01(Sun) 19:11:27 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>127 ――続きは。 「海の底で、やるか」 これで決着がついたとは思わない。相打ちだとも思わない。 だったらこれから先の予定なんてのも決まっている。 それを未だ楽しみだと思えることにか、まだ互いを付き合わせていけることにか。 着水の瞬間、ようやく頬を緩めた。 果ては地獄の底でさえあっても。 #BlackAndWhiteMovie (129) 2023/10/01(Sun) 19:11:38 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>128 「てめえ」 口を大きく開いて、 赤い飛沫が白波を横切り、 橙の燦光が瞼を過り、 視界と天空が回転する。 「なあ」 がづん、がづん、がづん、がづん。 肉と骨が打ち合う衝撃が、今も続いているのか、 それともずきずきと鈍く残る残響なのかもわからないまま。 誰も逃れられぬ運命のごとく、 重力が追いついてきて、 「──ふざ」 #BlackAndWhiteMovie → (130) 2023/10/01(Sun) 19:18:23 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡音も衝撃も、感じなかった。 気が付いた時には、全身に泡がまとわりついていた。 どちらが漏らしたものかもわからない 気泡が全身を覆って、 海面で乱反射する夕日が薄暗く差し込んで、 がぼ。 この泡は、自分の口から出たものだ。 それだけを自覚しながら、 ごぼ ごぼぼ。 ――握り締めた拳を、そ の顔面に 叩き #BlackAndWhiteMovie → (131) 2023/10/01(Sun) 19:19:32 |
黒眼鏡は、ヴィンセンツィオとケリをつけた。 #BlackAndWhiteMovie (a44) 2023/10/01(Sun) 19:25:35 |
【置】 Commedia ダヴィード昔、両親に言われたことがある。 「人を叩いたり、悪口を言ってはいけないよ。 ダヴィードもそうされたら悲しくって泣いちゃうでしょう? 誰にでも優しくしてあげるようにしようね」 その通りだ、と思った。 両親は優しかった。 今も甘ったれた性格のままなのは、どちらに似ていたんだろう? 昔、叔父に言われことがある。 「お前が居なけりゃ良かったのになァ。 どうせお前の人生もこれからお先真っ暗だよ」 そんなはずない、と思った。 一年とすこしの間の叔父との生活は、積み上げられた酒瓶と気まぐれに押し付けられたアイロンの熱さしかもう思い出せない。 永遠に続くと思っていた日々は突然に終わった。 幸せな日常も苦痛の責苦も、等しく。 そして今回も、また。 未だ分からないままに、幸せに置いていく日々を開封する日が来るのかは、これまた分からない。 ただひとつだけ分かることは、 慕わしいものはすべて地獄へ堕ちると言う。 地獄とは永遠に許されることのない罪人が集められ、永遠に責苦を受けると言う。 ならばそれに倣って、己もいずれその場所に行こう。 (L4) 2023/10/01(Sun) 20:13:04 公開: 2023/10/01(Sun) 20:15:00 |
【置】 Commedia ダヴィード「両親に二度と会えないことよりも、 大切な人たちに二度と会えない方が怖いんです。 アハハ、俺は親不孝な息子ですよ」 (L5) 2023/10/01(Sun) 20:14:51 公開: 2023/10/01(Sun) 20:15:00 |
【人】 摘まれた花 ダニエラ (136) 2023/10/01(Sun) 20:26:47 |
【人】 摘まれた花 ダニエラ (138) 2023/10/01(Sun) 20:32:21 |
【人】 黒眼鏡>>138 『…もしもし?』 その電話を取ると、 男の声が聞こえた。 ──君はきっと、よく知っている。 思い出せるかは分からないが、思い出してもおかしくないくらいに。 ……あのジェラート屋の店主だ。 『──ああ。ええと。今日、あんたから電話がくるか、 あんたが電話に出たら、こう言えと言われてます』 彼はあなたの声を聴くと、 何も尋ねることなく、 『「俺が一番好きなのは、カップのバニラ」って』 『お届けしましょうか、なんて聞いたんですが、いや、食いたいわけじゃないと……』 咳払い。 『すみません、私が首を突っ込むことではなかったです。 それだけ…ああ、その電話はやるから好きにしろと。 それだけ伝えろと言われていますので、伝えました。 あ、私は姿を晦ましますのが、店は娘が継ぎます。 今後とも、ごひいきに』 がちゃり、と電話がきれて、それきり。つー、つー、つー、という電子音だけが聞こえた。 (139) 2023/10/01(Sun) 20:36:14 |
リヴィオは、「ねぇ、ニーノ。………いや、えっと」 (a45) 2023/10/01(Sun) 20:38:03 |
リヴィオは、署内での"ニーノの話"を思い返して悩むような仕草。しかし、言葉は続く。 (a46) 2023/10/01(Sun) 20:38:11 |
リヴィオは、「俺達はまだ、お互いに知らないことも多いからさ。落ち着いたら話をしようか」 (a47) 2023/10/01(Sun) 20:38:21 |
リヴィオは、言えること、言えないことがあるだろうけど──それでも、話すべきことがあるから。 (a48) 2023/10/01(Sun) 20:38:31 |
フィオレは、気まぐれに、もらったリップを塗っている。似合う?なんて近くにいる彼に聞いたりして。 (a49) 2023/10/01(Sun) 20:38:38 |
リヴィオは、「あぁ、そうだ。晴空の下の散歩も忘れずに行こうね」 (a50) 2023/10/01(Sun) 20:38:41 |
リヴィオは、 暫く は君と、君達と歩んでいくために、足並みを揃え歩んでいくのだった。 (a51) 2023/10/01(Sun) 20:39:32 |
フィオレは、なんとなく、予感がしたのだ。 (a52) 2023/10/01(Sun) 20:39:32 |
【人】 摘まれた花 ダニエラ (140) 2023/10/01(Sun) 20:45:00 |
フィオレは、予感が、悪い方向に当たるなんて。この時は思っても見なかったのだけれど。 (a53) 2023/10/01(Sun) 20:48:31 |
ニコロは、幸福の為に、これからも歩き続ける事を決めた。 (a54) 2023/10/01(Sun) 20:52:16 |
ニコロは、月桂樹の花を、ゴミ箱へと捨てた。 (a55) 2023/10/01(Sun) 20:52:59 |
ルチアーノは、「早起きが毎日出来るようになったらな」そう告げて、貴方と共に海辺を歩いた。 #ReFantasma (a56) 2023/10/01(Sun) 20:53:46 |
ダニエラは、「ああ、でも…。」 (a57) 2023/10/01(Sun) 20:57:49 |
ダニエラは、この中にある、鍵だけは、どうしようかは決めていた。 (a58) 2023/10/01(Sun) 20:57:59 |
ダニエラは、きっと近いうち『お兄さん』に連絡を入れる。 (a59) 2023/10/01(Sun) 20:58:33 |
ダニエラは、彼の方が、自分よりずっとあの場所での思い出が多いと知っていたから。 (a60) 2023/10/01(Sun) 20:58:39 |
【置】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ本名:ヴィンセンツィオ・ベルティ・デ・マリア(Vincenzo Berti di Maria) 死因:■■■■■■ 発見場所:■■■■■■■ 遺体の様子: ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ (L6) 2023/10/01(Sun) 20:59:15 公開: 2023/10/01(Sun) 21:00:00 |
【置】 摘まれた花 ダニエラねえ、アレッサンドロさん。 あの日、聞くことができなかったこと。 だから、本当のことはわからないままのこと。 あたしは、―― 親孝行 できていましたか?聞けた方が良かったのか。 聞けないままで良かったのか。 その答えすら、今も出ない。――きっと、これからも出ることはない。 (L7) 2023/10/01(Sun) 20:59:40 公開: 2023/10/01(Sun) 21:00:00 |
【人】 摘まれた花 ダニエラ荷物を転がし、抱えて、少しの距離を往く。 虚実不明の明るい鼻歌を奏でる。 そうやって向かう先にいるのは王子様。 あたしのひと。いつものように、女はその名前を呼んだ。 (141) 2023/10/01(Sun) 20:59:55 |