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【見】 宮野忠左衛門利光[ 俺は一角の家に次男坊として生まれました。 とは言え妾腹の子でありましたので、 いろいろと面倒な目に合いましたし 疎まれることが多い中で育ちました。 そんな俺を、裏の無い真直ぐな瞳で見つめては 花が開くように笑うふたつ歳下の 幼馴染みの少女、それが美鶴です。 美鶴は雑穀問屋の娘で、俺と兄の後ろを 妹のようにちょこちょことついて回り、 よく笑い、それは可愛らしい少女でした。 俺は当たり前のように美鶴に惹かれ、 また嬉しいことに美鶴も俺を悪しからず 想っていると知った日はあまりの嬉しさに 眠れぬ夜を過ごしたものでした。 息が詰まるような家を出て二人密かに 逢瀬を重ねれば、ああ生きている、 妾の子でもなんでもこの世に生まれて 来られてよかったと心からそう思うのでした。 ] (@0) 2020/08/18(Tue) 7:56:24 |
【見】 宮野忠左衛門利光[ 俺は十八、美鶴は十六になったある日。 夫婦になろうと、祝言をあげようと、 いつ切り出そうかと頭を悩ませていた、 その頃の話です。 俺の兄に嫁取りが決まったと、いつになく 上機嫌の父から告げられた言葉に、 箸を持つ手が細かくかたかたと 震えるのが分かりました。 想像に違いなく、相手は美鶴だと、 そう笑いながら酒を飲む父と兄の隣で、 俺はどのような顔をしていたのでしょう。 口の中の飯は砂利を噛んでいるように酷く不味く、 しかし残すことも許されず、 無理矢理に喉に押し込んでは 美鶴のもとへ走りました。 ] (@1) 2020/08/18(Tue) 7:58:40 |
【見】 宮野忠左衛門利光[ 話は戻りまして。 美鶴は大きな瞳いっぱいに涙を溜めて、 私は利さんが好きだけれど、 兄上様に御嫁に参ります、と微笑みました。 堪らずに美鶴の手を取り なにも言えないまま、すまないと、 一言告げるのが精一杯。 くしゃ、と歪んだ美鶴の顔が見えて、 ふわりと胸に飛び込んできた華奢な身体を 抱きしめました。 ] 利さん…あのね… [ もう矢も盾もたまらず、そのまま唇を奪い、 縺れるように情交に及んでしまいました。 夜更けに、白く浮かぶ裸体を抱きしめて、 このままお前を連れて逃げようかと話せば 美鶴は泣きながら笑う。 あの時は確かに哀しく、髪の一筋ほどには 幸せな刻でした。 ] (@3) 2020/08/18(Tue) 8:04:26 |
【見】 宮野忠左衛門利光[ 身支度を整えて、別れ際に自ずから 小さく口付けをくれて。 振り返ることもなく歩いて行く背中。 最後になりました。 (@4) 2020/08/18(Tue) 8:07:02 |
【見】 宮野忠左衛門利光[ 橋から身を投げたらしい彼女の亡骸が 見つかったと耳にした時には、 身体中の血の気が全て引いていくのが分かり、 膝が抜けてへたりこんでしまいました。 どうして独りで逝ってしまうのだ どうして独りで逝かせてしまったのだ (@5) 2020/08/19(Wed) 0:34:07 |
【見】 宮野忠左衛門利光[ どのようにして家に辿り着いたかは あまり記憶にありませんが、 虚な眼をあげて目にした父と、兄の、 激昂と落胆はそれはそれは凄まじく。 お前が誑かしたのだろうと俺を責め、殴り、 刀さえ向けました。 抗う気などさらさら無く、このまま 斬られれば彼女のもとへ向かえるなぁと 空虚が満ちる眼で、向けられる刃を ぼんやり見つめて居りましたが、 まさか貴様が身の程も弁えず と、懸想したのではあるまいな 美鶴も美鶴で馬鹿な女だ、 と我が家の名誉に傷を付けよって、 …そう投げつけられた言葉が耳に障り 滾る血が身体を焼き、ギリ、と噛み締めた 奥歯の音を最後に湧き上がる 途方もない怒りに我を忘れ ……気付いた時には兄を、そして父を 斬っておりました。 ] (@6) 2020/08/19(Wed) 0:41:50 |
【見】 宮野忠左衛門利光[ 気が狂いそうな血の臭いに、 胃の腑から込み上げるものを吐き出しながら、 ふらふらと立ち上がり、そのまま出奔し。 いつしか二人で見た桜の木の下で ようよう腹を切って果てるまで、 お天道様の当たらぬ場所を、 人には言えぬことを科しながら、 ただ息をしているだけの日々を 過ごしていたのでありました。 三途の川で会えるはずが、人殺しで おまけに身内斬りの俺は上手くあちらには 行けぬということなのでしょうか、 もがくうちに段々と記憶すら朧となり ただただ空を漂うだけの亡魂となり果て、 それでもこの愛しい名前に縋るように 此処から離れられず、 美鶴を探しに行く意気地もないままに。 ] (@7) 2020/08/19(Wed) 0:46:09 |
【見】 宮野忠左衛門利光[ そうして訪れたいつかのあの時。 生身の人間に触れ、あろうことか 当の本人から抱くことを許されて。 俺のような実体の無いものをさえ恐れず、 託し、また慈しんでくれた美しい彼女。 …あの日から、臆病な己の中で冷え切った心の中に 小さな灯が燈ったように。 ほんのりと淡い温もりが常に側に在るのです。 ああ、そうなのだ。 いつか、俺に胆玉が座った時。 己の罪咎をきちんと向かい見る事が出来た時。 そのときは今度こそ美鶴の待つであろう 川の畔へ向かえば良いのだと解して。 今までを思えばさほど遠くないであろう日を 静かに待ちながら 今日もふわりふうわりと、宿の中を漂うのでした。 ] (@8) 2020/08/19(Wed) 0:49:09 |
【見】 宮野忠左衛門利光 …トントン お寺の 道成寺 釣鐘下ろいて 身を隠し 安珍清姫 蛇に化けて 七重に巻かれて ひとまわり ひとまわり… ** (@9) 2020/08/19(Wed) 0:53:48 |
【見】 宮野忠左衛門利光きちかうのむらさきの花萎む時 わが身は愛しとおもふかなしみ [ いつからか、己のまわりに桔梗の花が降る。 気品があってそれでいて可憐で、 折れそうに細い茎の先 少し俯きがちに咲くその花は、 蕾はまるで紙風船。 (@11) 2020/08/20(Thu) 9:40:17 |
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