【人】 三月ウサギ俺にはお金がありません。 ずばり、そんな情けない要望を送りつけて。 犯罪の類を警戒するこちらに対し、 主催者を名乗る人物は、至極当然とばかりに姿を現した。 その常人離れの美貌にも驚かされたが。 手渡された封筒に入っていた、 帯で封をされている札束。 数えなくともその金額を教えてくれた。 (370) 2021/07/05(Mon) 21:06:58 |
【人】 三月ウサギ「 ひゃくま、……??? 」 俺の認識では、運賃や服を買うのに使う額ではない。 慌てて数枚だけ抜き取ると、 残りは用は済んだとばかりに その割には、何故か大学内へと向かう背に向かって。 ねだったのはこちらとはいえ、 百万円なんてぽんと貰えるはずがなく。 勿論残りの数万円にしたって 自分に受け取る正当な権利があるとは、 とても思えなかったけれど。 (371) 2021/07/05(Mon) 21:09:03 |
【人】 三月ウサギとりあえず、俺が知る限り、 一番高価な服が売っている店に行き。 そのまま店員に見繕ったもらった。 肌触りがよく、光沢のある生地は 逆にどうも着心地が悪く。 服に着られる形になったかどうかは、 ─── 自分ではよくわからない。 (372) 2021/07/05(Mon) 21:09:33 |
【人】 三月ウサギそんな心理だから、いざザ ラピスの前に立っても。 なかなか一歩を踏み込むことができないで。 場違い、そんな3文字と共に。 しばらくその場に立ち尽くしていた。 そのまま家に残してきた、家族のことを。 薄ぼんやりとした思考で、考えていたのなら。 …… そう言えばもうすぐ、 20歳の誕生日だったな。 玄関で履き慣れない靴に悪戦苦闘していた背中へと。 不意に投げられた、おめでとうの声を思い出した。 (374) 2021/07/05(Mon) 21:10:35 |
【人】 三月ウサギとはいえ、ケーキやご馳走、 ましてやプレゼントなど無縁な家庭。 そのまま歳を重ねる以外の意味は持たない日。 友人の誕生パーティに招かれても、 贈る物を用意できなかったから。 苦い思い出の方が多い。 (375) 2021/07/05(Mon) 21:10:58 |
【人】 三月ウサギはぁ、と嘆息と共に、意識を逸らした瞬間。 胸元のリボンが、するりと解け、空中にこぼれた。 気慣れない服。どうやら結びが甘かったらしい。 逃げたそいつを掴むため、屈もうとした耳の横を、 アスファルトの地面を渡る風が、さぁっと通り抜けた。 そのままふわり、風に攫われるリボン。 視界の端に捉えれば、 …… 自身の双眸は無意識に、 リボンではない別の何かを求めるように、 (378) 2021/07/05(Mon) 21:17:24 |
【人】 三月ウサギ「 え、ちょ。君? 」 続いて飛び出た戸惑いを含んだ言葉。 言い終える暇もないほど鮮やかな手つきだった。 戻って来たリボンは再び攫われて、 あっという間に、自身の胸元を飾った。 呆然としているうちに、 彼女は颯爽とこちらに背を向けて。 その視線の先には ───。 (401) 2021/07/05(Mon) 23:17:07 |
【人】 三月ウサギこくんと、喉を鳴らす。 …… 場違いだと、気後れする気持ちはまだある。 しかし中身が伴わずとも、 装いがもたらす力はそれなりで。 何より美しく整えられた胸元が、 自身の背を後押ししてくれた気がしたから。 (402) 2021/07/05(Mon) 23:17:11 |
【人】 三月ウサギ「 すみません。 1010号室を予約してるはずなんですが。 」 ようやくホテルに入り、自身の姿が映るほど 美しく磨かれた大理石の壁、なんてものがあれば。 精一杯気にしてない風を装い、豪華なロビーを進む。 そうしてフロントでチェック・インを済ませれば、 先程の少女はどうしていただろう? とりあえず、「宿泊料金?支払われてませんよ」 にこやかに微笑むホテルスタッフの口から そんな言葉が出れば、脱兎の如く逃げるつもりで。** (403) 2021/07/05(Mon) 23:17:43 |
【人】 三月ウサギ「 えっ ……? 」 振り向く彼女と俺の視線が交差する。 まるで一瞬にも永遠にも感じられて。 浮かべた疑問符と同時に納得もする。 豪華なホテルにも物怖じしない態度。 審美眼に優れているわけでもない自分ですら 彼女の纏う紫色のワンピースが、 質の良いものであるとわかる。 (459) 2021/07/06(Tue) 20:02:58 |
【人】 三月ウサギエレベーターに乗り込み、二人きりになれば、 少し躊躇ってから、10Fのランプを灯す。 同時に、困ったように頭をかいてから。 「 まさか君みたいな若くて …… 可愛い 女の子が来るとは思わなかった。 ええと。 俺のマッチング希望通りなら、君は ─── 」 お金持ち、とは流石に口にはしなかったが。 ここまでに察せられる要素はあっただろうか? 裕福で可愛い女の子が、初対面の相手と二人きり。 鴨がネギどころの話ではない。 (461) 2021/07/06(Tue) 20:04:13 |
【人】 三月ウサギ「 ご両親は知ってるの? 君が何か事件に巻き込まれれば。 心配するのも被害を被るのは、君の家族だ。 」 音もなくエレベータが上昇するのを感じながら。 ─── ずくり、と胸を刺すような痛みが走る。 …… これは気のせいだ。 心配する家族なんて、俺とは無関係だから。 説教じみた台詞は全てこちらに帰るブーメラン。 仮に指摘されれば、子供のような反論を返そう。 (463) 2021/07/06(Tue) 20:05:21 |
【人】 三月ウサギ「 心配する家族がいない ……? 」 犯罪者扱いされたことより。 その言葉は心をひどくざわつかせた。 「 そんな高そうなワンピースを着ておいて? まさか主催者に頼んで手配してもらったとは 言わないだろう? 」 もしかしたら目的の階まで直通だったかもしれないが。 いつ誰かが入ってくるかわからない密室。 声を荒げない程度の分別はあった。 しかし相手を見据える瞳は剣呑な色を宿して。 (475) 2021/07/06(Tue) 22:38:34 |
【人】 三月ウサギ「 …… ただ、話がしてみたかった。 俺が持たないものを持つ人達と。 知らない世界を知る人達と。 」 先程までのざわめきは色を変えて、 代わりに胸を締めるのは一つの願い。 静かなエレベータ内。 激しく渇望する想いを ぽつり、凪のような声音で落とし終わる頃には 目的の階に着いただろうか? (477) 2021/07/06(Tue) 22:40:22 |
【人】 三月ウサギ開いた扉の先。 これまた、下手をすれば自身の家より広いだろう 絢爛豪華な廊下に一歩踏み出せば、 床が柔らかいという未知の経験を味わいながら。 どこか失望したような表情を浮かべていた少女。 ついて来ているかも確認せず。 背を向けたまま、言葉を投げた。 (478) 2021/07/06(Tue) 22:40:35 |
【人】 三月ウサギ「 三月ウサギ。 俺が登録した名前。 もちろん、本名じゃない。 長いから適当に呼びやすいようにして。 」 彼女がこのまま踵を返すようなら不要な提案。 向けた言葉の行方を知らぬまま、 さらに一歩、歩みを進めて。 (479) 2021/07/06(Tue) 22:40:48 |
【人】 三月ウサギ─── 三月ウサギとは。 童話『不思議の国のアリス』に出てくる 登場キャラクターだ。 アリスのウサギといえば、 時計を持って逃げている奴の方が印象強いだろうし。 こちらは共に出てくる狂った帽子屋に、 どうにも出番を食われている。 …… そんな、勝手なイメージを胸に抱いたのなら。 (480) 2021/07/06(Tue) 22:41:37 |
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