【人】 門を潜り ダヴィード目を覚ます。顔を洗う。髪を整える。 昨日のうちに準備をしておいたシャツはぴんと糊がきいていて、 袖を通すとどこか爽快な気分になる。 小さなカップに濃い珈琲を淹れて、部屋に満ちる匂いと共に早朝の目覚めの一杯を楽しんで―――― とは、ならず。 人々が仕事の合間、昼食を楽しんでいる時間にようやく起きた男は、時計をたっぷり睨んでから大きなため息を吐いた。 「はぁあ〜〜〜〜…………? とりあえず……めし……?」 のろのろと身なりを整えて、やるべきことを指折り数える。 今日の予定は昨日の写真の現像とあといくつかの雑用。 靴に足を捻じ込んでどうにか目を覚ました男は、とりあえずいい匂いのする方へと歩き出した。 #街中 (48) 2023/09/08(Fri) 22:47:07 |
【人】 門を潜り ダヴィード>>61 イレネオ 「うん? ああ、イレネオさん!こんにちは、良い日ですね」 幾分かまだぼんやりとしていた頭がしゃっきりとしたようだ。 軽く会釈をしてから、貴方の言葉にすこし笑った。 「吸血鬼じゃないんですから、もう。 お恥ずかしながら、今からお昼を買いに行くところで。 ……今日はお仕事ですか?それともお休み?」 貴方の私服はいつもかっちりとしているから雰囲気で判別するのが難しい。 男の私服も似たようなものであるので、なんだか二人とも町からは浮いているような気がしてならない。 口にこそ出さないが、寝起きのとりとめのない頭で考えると不思議に可笑しいのだからたまらない。 結果、変ににこにこ……にやにやと、楽しそうな返答と相成った。 #街中 (68) 2023/09/09(Sat) 9:03:25 |
【人】 門を潜り ダヴィード>>81 イレネオ 「ひええ。貴方が言うと洒落に聞こえませんね。 大人しいただの人間でいるとしましょう」 正しくそれは冗談のひとつとして処理された。 肩をすくめてくすくすと笑う姿には、貴方への気安さが見て取れる。 「休日のようなものです。 やることはあるけれど急ぎではなく、人に会う予定もない」 非番。交代制の仕事なんだろうか。 男の脳裏にいくつかの『貴方がしていそうな仕事』が過って消えていった。 それから、続いた貴方の言葉に少しだけむっとした表情を作った。さすがに寝惚けた言葉を貴方に伝えるわけにはいけないから、嘘ではない言葉を紡ぐ。 「その休日のような日、に知り合いに会えたものですから。 ちょお〜っと機嫌がよろしかっただけですけど! ……お昼、もう食べましたか?」 #街中 (83) 2023/09/09(Sat) 13:57:29 |
【人】 門を潜り ダヴィード>>84 イレネオ いかにもな温かい目線を向けられているような気がして、どこか腹の底が落ち着かない気持ちになる。嫌ではないから更に困ったものだ。 「困る……?ああ……なるほど」 初対面の時から此方、貴方の真面目さは嫌というほど見てきたものだ。休日だから丸一日寝ているだとか、好きな菓子を買い込んで部屋に籠城するだとか、そういった行為からは無縁なのだろう。 深く頷いた。 「わあ、何かは出るかもしれないんですか? ……そうですね、ここからなら商店街でDa asporto。 または少し歩いてトラットリアが何店か」 空模様は雲一つない青空とはいかないが、それなりに気候はいい。外で食べるのもいいだろうし、昼食前に軽く運動をするのにも向いているだろう。 #街中 (88) 2023/09/09(Sat) 15:24:36 |
【人】 門を潜り ダヴィード>>95 イレネオ 頷かれてしまった。 つまりは、想像は大体のところ合っているという認識になる。 そんな貴方の貴重な休日、その一食だ。気合いを入れなければ男が廃るだろう。 「選んでいいんですか?では遠慮なく。 ……嫌いなものやアレルギーなんかはありませんね?」 念の為の確認をしながら、脳内の地図を広げる。 あそこは騒がしいからダメ。こっちは味の割に値が高い。 いくら大衆料理店と言えど、給仕人がいない店はない。 どうせなら2人で気楽に食べられるのがいい。 ううん、と首を捻って。 「商店街の方に美味しい持ち帰りの店があるんです。 ピッツァもパニーニもありますから、好きなのを選んで…… 外れのベンチで食べるのはどうですか?」 集るつもりはなかったが、財布の紐を緩めてもらったのなら有り難く感謝を持って享受するのも年下の特権だろう。 それに商店街の近くならばデザートの類だってすぐに入手できる。 珈琲の一杯でも季節のジェラートでも、押し付けてしまえばこちらのものだ。そうだ、それがいい。 #街中 (102) 2023/09/09(Sat) 21:23:07 |
【人】 門を潜り ダヴィード>>107 イレネオ 「どうしても食べられないものは……ない、かな。 強いて言うなら苦い生野菜ですかね」 まあ、この歳になれば除けて食べるなんて真似はしませんけど。 昔はサラダが嫌いだったから、親は苦労したんだと思います。 ぽろぽろと零れる言葉はあまりにもありきたりで、平凡で、特別なことなんてひとつもない。 今日の二人のように。 「でしょう? ピクニックも好きですし、外が好きですから。 常に変化があるからいくら見ても飽きないんですよ」 厳しさのない視線にどこか安堵する。 年上なのに休日の過ごし方が上手くない貴方に、少しでも楽しみを提供できているなら幸いだ。 話が纏まれば後は行動あるのみ。 そのまま商店街の方向へと足を向けることだろう。 #街中 (113) 2023/09/10(Sun) 0:07:31 |
【人】 門を潜り ダヴィード>>129 イレネオ 「正直に言えば、あまり。 買ってきたものを温めて珈琲を淹れるのが精一杯です」 のんびり、ゆったりとした街歩き。 駆けてゆく子供を慌てて両親が追いかけて、すれ違う恋人たちが微笑ましそうにそれを見守る。 人の営みはそのまま街の色を染め替えて、あと数週間もすれば夏のことなんて忘れてしまうのだろう。 「それは……まあ。努力をします。 うっかりたちの悪い奴らに絡まれるのはごめんですから」 たちの悪い奴ら。相手が誰かも分からずに日々の鬱憤を暴力によって発散しようとする連中。 一人でなんとかすることも出来るけれど、万が一にも怪我をしてしまえば迷惑をかける人がたくさんいるので、そうはしたくないというのが正しいところ。 いくつかの店は新商品を目玉に盛況で、そのうちのひとつを指差した。お昼時の真っ盛りは過ぎているためか行列の姿は見えないだろう。 「あそこです。 おすすめは生ハムとモッツァレラのパニーニ。 あとピッツァ・カルネもお肉たっぷりで最高です」 おすすめは露骨にお肉が大好きな若者らしいものだった。 #商店街 (136) 2023/09/10(Sun) 17:27:46 |
【人】 門を潜り ダヴィード>>138 イレネオ 「栄養食品は……食べた気がしませんから。 誰かが作ってくれたご飯が一番ですよ。あたたかみとか」 相応に食費は嵩むし、今朝のように一食丸ごと抜かすことも少なくないからこそ可能な芸当ではある。 正直にそれを申告するのはやめておいた。 「あの時みたいに怪我をするのはごめんです。 しばらく風呂に入るのが嫌になりましたよ」 初対面の時は声をかけられた意味がわからなかった。 ないものとして通り過ぎていく人間が大半の中で、紛れもなく訳アリと書いているような男に声をかけたのだから。 ぽかんと間抜けな面を晒したのが恥ずかしくて、関係ないでしょうと声を絞り出したのだったか。 「本当に本当に悩ましいところなんですが。 二つとも買って、二人で分けるのはどうですか? 両方美味しいんですよ」 少々行儀が悪いかもしれないが。 持ち帰りのピクニックならば誰に気兼ねをすることもないだろう。 #商店街 (141) 2023/09/10(Sun) 19:15:26 |
【人】 門を潜り ダヴィードよい子はおうちに帰り、眠っている時間。 雲が薄く星を覆い隠してしまう夜。 幾枚かの写真の入った茶封筒を持って、男はそこにいた。 「ええ、しっかりと、誠心誠意、穏便に説得してきました。 それでも何の文句があるんだ**野郎、と言われまして」 このように、と。 泣き喚く姿、地に伏せている姿、誰かの指で造られた笑顔。 それからいくつかのやり取りを経て、とあるソルジャーから請け負った『仕事』の報告は終わった。 #アジト (146) 2023/09/10(Sun) 21:09:54 |
【人】 門を潜り ダヴィード>>162 イレネオ 直接告げたことはなくとも隠しているわけでもない。 それは男にとって当たり前のことだったから、いわゆるこの年頃の『親』に対する一般的な振る舞いが分からなかったという理由に尽きる。 そして、そんな自分を育ててくれた人たちのことは誰にも話せるものではなかった。 「あたたかい物は食後の満足感が違いますから。 胃も懐もあたたかい方が幸せですよ」 もし貴方がいつかそんな言葉を口にしていれば、この時間はたちまちに無かったことになって、男は貴方から隠れるように消えていただろう。 そうはならなかったから今に続いている。 「 miao 。 ……いや、うーん。すみません、今のなしで。」 ではそれらしく鳴き真似のひとつでもしてみるか。 そんな思いつきから発せられた音は悲しいくらいに猫には聞こえなかった。 「やった。楽しみです。 猫には向いてないようなので人間の特権を享受しましょう」 いつの間にやら、男の手には2本のフレーバーウォーターが握られていた。ラベルにはオレンジとレモンが描かれている。 店で共に売られていたものだろう。 #商店街 (166) 2023/09/11(Mon) 7:57:59 |
【人】 門を潜り ダヴィード>>176 イレネオ 「ねえ?懐を寒くするおねだりをしておいて恐縮ですが…… いえこの程度で寒くなると思ってる訳ではないんですが」 むにゃむにゃと口の中で言葉にならない言葉を噛み潰す。 貴方が適切なところで歩を止めてくれるものだから、男はそれにすっかり甘えていることに気付けないままここに至ってしまった。 自分にとって都合の悪いことは聞かず、何も知らないまま。 「わっ、も〜…… なんですか、猫じゃないですってば。やめてくださいよ」 楽しそうな声だった。いつぞやの虚勢を作るのをやめ、知り合いに素直に見せる表情は年相応の幼さがまだ残っている。 乱れた髪に手櫛を通して直す間にも、目が合えばきっと笑みを深めただろう。 それは気まぐれな猫が見せる愛嬌とも、可愛がられた犬の習性とも、ただの子どもが優しくされた時とも似ている。 そんなやり取りをしているうちに、頼んだ料理たちがそれぞれに切り分けられて持ち帰り用として出てくるだろう。 紙袋に入られたそれをそっと持ち、貴方を外れのベンチへと促した。 #商店街 (180) 2023/09/11(Mon) 18:22:42 |
【人】 門を潜り ダヴィード>>183 イレネオ 穏当に、真っ当に、日の当たる道を歩むこともできたのだろう。 少なくともあなたの目の前で笑っている間は、今この瞬間は、何も知らないおねだりが少し上手いだけの子どもだった。 年相応に世界が自分の思うがままに回っていると勘違いしできる愚かさも持っていた。 浮かれるままに貴方を先導していく。 ベンチに座り紙袋を開ければ、蒸気に蒸された紙袋特有の匂いと、まだあたたかいパンとチーズの匂いがふわりと辺りに広がったことだろう。 「ありがとうございます。イレネオさんも冷めないうちに。 Buon appetito。」 食前の挨拶を済ませれば、朝食を抜いた男の食欲……と食べ進める速度は相応のものだった。 ピッツァの具材はサラミに生ハム、それにベーコンという暴力のような構成だ。しょっぱさと肉の脂がとろとろのチーズと溶け合って若さの特権として胃にするすると収まっていく。 パニーニはシンプルな構成で、焼き目の付いたパンと生ハムにモッツァレラ、それに挟み込まれた野菜が層となって、ざっくりと齧ると触感の違いが楽しい。 ひと心地ついてからはたと我に返る。おすすめに対する貴方の反応は如何だろうか? フレーバーウォーターを時折挟みつつ、ちらちらと様子を窺った。 #商店街 (186) 2023/09/11(Mon) 20:17:41 |
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