【人】 転校生 矢川 誠壱 ──3-A── [ 特別、この曲が好きなわけではない。 選んだのだって、スタンダードで おそらくここにくる生徒たちが皆 知っているであろう曲であること、 それから、兎みたいに、跳ねる、 きらきらしたピアノの音に この曲が浮かんだから、それだけ。 鍵盤を叩く音がする。 ピアノは打楽器だと、誰かが言ってた。 それは確かで。リズムを刻みながら、 鳴らされるその音が、心地いい。 ゆったりとしたテンポで始まった曲は 次第にその波がはやくなっていく。 ほら、また跳ねる。 きらきら、する。 それを掬い上げるのが、捕まえるのが、 それからもっと高く上げて、上げて、 いっしょに跳ねるのが、楽しい。 メインテーマに戻って来れば、 そのまま連続して同じGで始まる 別の曲へと変えてみよう。 メドレーのようにつながったそれは、 願いを込めて、星に祈った、とある 木の人形のお話。] (201) 2020/06/15(Mon) 22:26:07 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ 曲を切り替えたことに彼が気付くなら またメインをピアノにうつして。 それをワンフレーズ弾いてから、今度は いつか、王子様が迎えにきてくれる、と 夢見る美しい少女のお話。 これもGからはじまるから繋げるのは そう難しくない。 急にはじめたお返しだといわんばかりに、 連続して曲を変えては見たけれど、 投げたそれらに、すべて的確な答えが 返ってくるのだから楽しくないわけがない。 きっと、彼はすごくいい演奏者だ。 左手はうまく動かないのかもしれないが、 間違いなく、いまも、演奏者で。 ああ、永遠に続けばいいのにとすら、思う。 こんなたのしい時間は、まだ終わりたくない。] (202) 2020/06/15(Mon) 22:26:32 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ まだ、もっと、 ───だけど。 ポォーン───…と響いた音。 最後の一音が、教室の床から壁を伝い、 そのまま天井から抜けて行った。 外は、騒がしいはずなのに。 やけに、静かに感じた。] (204) 2020/06/15(Mon) 22:27:26 |
【人】 転校生 矢川 誠壱平気そうで安心したよ [ と委員長に続けてから、 おしぼりをこちらも受け取って礼を。 いつもとは全く雰囲気の違う彼女は、 とてもかわいらしかった。 「似合うね、服。」と褒めてみたら、 その表情は綻んだ。まさか目の前の彼が 取り繕うためにタバコ、なんて 口にしたとは思っていなかったから。] こちらこそ、ありがとう。 [ そういって、微笑みかける。 他にもっと口に出すべき言葉が ある気がするけれど、うまく見つからず、 一瞬開きかけた唇を結んで、 視線を左右に振った。] (207) 2020/06/15(Mon) 22:28:50 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ すると、彼はポケットから何やら チケットを取り出して差し出す。 次期大統領、という言葉が 気にならないわけがなかったが、 ひとまず、それを受け取った。 そこには確かに、タピオカドリンク、と 書かれている。場所は、2-Cらしい。 そしてつづいた言葉に、視線を上げて。 また少し困ったように笑った。] …まあ、並んで歩いてたら 壁、みたいになるかもしれないけど。 俺は、一人でタピオカの方が正直 難易度高いんだけど… 雨宮くんは甘いの結構飲む方? [ と飲むなら一緒に行こうよ、と 誘ってみる算段。] (208) 2020/06/15(Mon) 22:29:33 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ だが、ちょうどその時、ポケットで スマートフォンが震えた。 そういえば、そろそろリハの時間か。] …とりあえず、俺もちょっと バンドの方行ってくる。 [ そういって、アコースティックベースを ケースへと戻す。少し迷ったが、 また弾くこともあるかもしれないし、と 教室の隅に置いておいた。] (209) 2020/06/15(Mon) 22:29:56 |
【人】 転校生 矢川 誠壱…じゃ、委員長、ちょっと リハに行ってくるので抜けます。 [ そういって彼女に頭を下げて。 そのまま教室を出ようとドアへ向かう。 が、片足を出したところで気づいた。 「あ」と小さく声を漏らして。 重心を後ろ足に戻して中を覗き。] 今日、ライブ出るので。 さっきの演奏楽しかったなって 思ってくれたひとはぜひ、 見に来てくださいね。 [ そう宣伝は忘れず。 男は体育館へと向かうのだった。]* (211) 2020/06/15(Mon) 22:32:32 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ ちゃっかり宣伝をして、 教室を出て、その前を通りながら 廊下の向こうへと歩いていく途中 ふと模擬店内にその姿を見れば、 少しばかり目を開くだろう。 彼がこちらに気づくなら、 口元を緩めて、顎を軽く上げて。 背中にあるベースを数度指差し、 忘れてないよね?と暗に示しつつ、 ひらひら手を振って「またあとで」を もう一度伝えるのだった。]* (216) 2020/06/15(Mon) 22:55:19 |
転校生 矢川 誠壱は、メモを貼った。 (a59) 2020/06/15(Mon) 22:58:08 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ 足取りは軽い。 いい音楽に触れた。いい演奏者に会えた。 それは音楽を楽しむ者としてこの上ない 幸せだと今強く感じる。 その上、このあとはリハだ。 ステージに立つのは好きだ。 あの空気が、熱が、会場が、 一体になるのはたまらなく心地いい。 ベースを背負い直す。 ああ、またコーヒーのいい香りがした。]* (260) 2020/06/16(Tue) 22:35:10 |
【人】 転校生 矢川 誠壱 ──リハーサル── 「おせーよイチ!ギリギリ!」 ごめん、 ちょっとクラスの方手伝ってて [ メンバーのいる体育館の袖にいくと、 ボーカルである坂口祐樹に怒られてしまった。 まあまあ、とその隣でなだめるのは ボーカルと同じ顔のギター担当・裕也。 ドラムの智は「間に合ったんだからいいよな」 とゆるっとした口調で笑いかけてくれる。 彼らのバンドWTwo winsWは、 ギターとボーカルを担当している双子、 坂口兄弟によって発足したらしい。 帰国子女ゆえの流暢な英語で がなるように歌い上げるのは、邦楽ロック。 英語がそれだけできるのに洋楽にする という選択肢はなかったのかと ふとしたときに聞いたことがある。 だが祐樹の答えはシンプルだった。] (261) 2020/06/16(Tue) 22:35:48 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ W洋楽とか邦楽とかどうでもいいW …間違い無いな、と思った。 自分たちがいいと思ったものを演奏する。 そのジャンルが今はたまたま、 ラウド寄りのオルタナティブロックだった。 で、その中でも気に入っているのが 邦楽アーティストだったというだけ。 以前は他のものもやっていたらしいが、 今回の文化祭では1組のバンドの曲に しぼって演奏する。 ちなみにオリジナルはやらない。 すべてコピー曲ばかりだ。 曲はかけない、と一蹴された。 発足したのは兄弟が中等部2年の頃で、 毎年文化祭には出ているし、 なんならライブハウスなんかでも やっているらしい。比較的、学園内では 有名で人気のバンドだ。] (262) 2020/06/16(Tue) 22:36:42 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ 人気の理由は…彼らの顔面偏差値に よるところもきっと大きいだろう。 身長はそう高いわけではないけれど、 整った顔をした双子。 甘いマスクから飛び出す迫力のある歌声は、 男子も女子も魅了する。 ドラムの智はおっとりとしていて、 柔らかな雰囲気なのに、曲が始まると変わるのだ。 以前いたベースも劣らず整っていたから、 正直顔面偏差値を下げた自覚はある。 背が高いだけで顔が綺麗なわけではない。 気落ちされなければ上々だ。 顔面のことばかり言ったが、もちろん 演奏テクニックもかなりのものだった。 だからこそ、ベースとして急遽加入して そりゃもう必死で練習したのだ。 運良くやったことのある曲もあったから、 救われた部分は大きい。 ベースを取り出して、取り急ぎチューニングする。 ちょうど1弦を合わせ終わったところで、 リハーサルの順番が回ってきた。] (263) 2020/06/16(Tue) 22:39:54 |
【人】 転校生 矢川 誠壱「おっしゃー!いくぞー!」 [ 大きな声を出して舞台に出て行く 祐樹に困ったように笑う裕也が 「まだ本番じゃねーぞ」と声をかけた。 マイクのハウリングが響く。 肩にかけたベースが、なんとなく重い。 智に「大丈夫か?」と声をかけられる。 ああ、と微笑みかけて、ステージへ出た。] (264) 2020/06/16(Tue) 22:40:18 |
【人】 転校生 矢川 誠壱* [ 7分間のリハーサルが終わる。 セッティングは問題なさそうだった。] 「あ、そうだ」 [ と祐樹が口を開く。] 「なんかさ、1組出れなくなったらしくて。 俺ら、もう一曲なんかできねーかって。」 え、 [ 裕也と智も目を開いている。 どうやら二人とも聞かされていなかったらしい。 ぱちくりと目を瞬かせて、無言の時間が流れる。] (265) 2020/06/16(Tue) 22:40:34 |
【人】 転校生 矢川 誠壱「え、まさか、OKしてないよな?」 [ 裕也が心配そうに尋ねる。] 「え、OKした。」 [ 祐樹が悪びれる様子もなく答える。] え [ え?なんだって? だっ て、 おれは、 1ヶ月前に入ったばかりで。] 「あれやろうぜ、NAME。」 [ あっけらかんと言った。 言いのけやがった。 己が何かを言う前に祐樹の「はぁ!?」が 先にきた。思わず唇を結ぶ。] (266) 2020/06/16(Tue) 22:40:55 |
【人】 転校生 矢川 誠壱「だって、イチが入ってから 新規の曲なんもやってねーじゃん。 NAMEもやろーっつったのに、 結局時間の都合で削ったしさ。」 [ まあ、たしかに。己がやっているのは、 以前いたベース担当の代わり、でしかない。 もともとバンドで練習をしていた曲ばかり。 つまりは、この1ヶ月で新しくなにか曲を 追加すると言うことはしなかった。 いや、正確にはしたのだけれど、 間に合わないと判断して削ったのだ。 それが、WNAMEWと言う曲だ。 ブラッシュアップできていない状態で 表に出すのは特に裕也が嫌がった。 隣で唸るのが聞こえる。 智はなんにもいわなかった。] (267) 2020/06/16(Tue) 22:41:19 |
【人】 転校生 矢川 誠壱「でも、あれはまだ…」 [ 渋る。たしかに。不安しかない。 全員暗譜はしているとはいえ、まだまだ 擦り合わせられていない部分は多いのだ。 不安は、ある。 そう、不安はあるのだ。 ──────…だけど。] (268) 2020/06/16(Tue) 22:41:46 |
【人】 転校生 矢川 誠壱あの、さ 俺やりたい。 [ 小さく主張した。 あの曲の歌詞を思い出す。 今、やりたい、とおもった。 ──きっと、口に出すのもおこがましい理由。 やるべきだと思ったから。 後悔、しないためにも。 後悔、させないためにも。 やるべきだと。] 「俺も賛成」 [ 智が相変わらずゆるっとした声で賛同する。 これで、3対1になってしまった。 また、裕也が唸るのが聞こえる。] (269) 2020/06/16(Tue) 22:42:13 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ だが、祐樹が「なあ」と念を押せば、 もう折れざるを得ないと思ったのだろう。 「わかったよ」と頷いた。 練習する場所はない。 基本的に本番前に練習することは できない仕様になっている。 ほとんどぶっつけ本番になるだろう。 それでも、いい気がした。 祐樹の声がはずむ。 ライブの出番は、後ろから3番目。 まだしばらく時間がある。 一応譜面だけ軽く見返しておこう、 そう思いながらベースをまたケースに入れ、 体育館を一旦出るのだった。]* (270) 2020/06/16(Tue) 22:42:38 |
(a72) 2020/06/16(Tue) 22:50:09 |
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