【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト[私にも、かつて師と呼んだ人がいた。 しかし、独り立ちして、職を得て。 ……あれから何年になるのだろう。 今や己が師≠ニ呼ばれる側になり。 だが、己が一人前と呼ぶに足るものかどうかは、 未だにわからない。] (43) 2022/03/26(Sat) 23:59:34 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト[分家筋とはいえ、名門に連なる家に生まれて 恵まれた生活を送ってきた。 だからこそ、名に実力がそぐわぬと 謗られる事も多かった。 一族の者なら、家門の人間に師事するのが当然。 そんな家柄に生まれついておきながら、 一人家を出た時も、後ろ指をさされたものだ。 そのまま今に至るまで、 外に構えた居で暮らしている。 しかし、実家に戻れば子供の頃と変わらずに、 自室が整えられているのを知っていた。 もっと顔を出しなさいと、不孝者の弟に詰め寄る 口の五月蠅い姉がいたから。] (44) 2022/03/26(Sat) 23:59:38 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト[己も、早い時分に家を出てしまったが 歳の離れた姉も、早々に嫁いで行って。 お互い様ではないかと思ったものだが、 縁談自体が孝行だったなと、 一人勝手に捻くれていた。 実際、姉の方は、 実家にもよく顔を出していたらしいが。 今となっては。 親不孝はどちらの方か。] (45) 2022/03/26(Sat) 23:59:42 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト[……今の家は、職場からそう離れていない、 街中の古い一軒家だ。 借家で、少々家賃が嵩むけれど 魔術師可の物件だから仕方ない。 諸々の条件を考えれば、悪くない選択だった。 そのような計算ができる程度の生活力も、 いつの間にか身についていたが。 元々、そういった分野に 明るい人間ではなかったもので。] ……ペーパーナイフを頼む。 [呆れたようにこちらを見る>>5 弟子の、冷めた視線には慣れてしまった。 褒められた事でないのは理解している。 ――性格は義兄に寄ったのだろう、 困り顔などはよく似ていると思う。 しかし、今のような表情をする時は、 姉の面影が浮かんできて。 こちらを見る目へ視線を合わさず、用を申し付けた。 僅かばかりの間に、感傷を追い払う。] (46) 2022/03/26(Sat) 23:59:45 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト[人の出入りが多くなるのを好まないから、 この家に顔を出す人間は限られていた。 使用人も、通いの一人だけ。 今はそこに、居候の弟子が一人加わった。 正直に言うと、弟子を取る気など無かったのだが。] (47) 2022/03/26(Sat) 23:59:48 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト[黒き盾のシュバルツシルトは、 その色に誇りを持っている。 姉もその一人だったから、 きっと姪も、そうに違いないと思っていた。 少なくともその日までは、違いなかったはずなのに。 しかし、あの雨の日。 全身黒で染め抜かれた少女の顔は、 死に取り憑かれているようにしか見えなかった。 そんな姉の忘れ形見の目前で、 どうして扉を閉められようか。] (48) 2022/03/26(Sat) 23:59:50 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト[まさかこの自分が、シュバルツシルトの人間に 師と呼ばれる日が来るとは―― そう呼ばれたいと思った事など、一度も無い。 しかし、叔父と呼ぶ声に返すには あの日の傷が、まだ生々しくて。 半分仮面に覆われた姪の顔を、 私は、真正面から見られずにいる。] (49) 2022/03/26(Sat) 23:59:53 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト[弟子の問いに、一度視線を向けて。 いいや、と首を振った。 オペラを弟子に迎え入れた際、 本家の方で一悶着あったのを、 アガーテ様が収めたと聞いている。 オペラが自ら拒んだというが。 少女の師となるべき人物は、別にいたという事だ。 当然だろう。本家筋の娘がこんな男に師事するなど、 不満に思う者がいるのは想像に難くない。 実際、オペラの才に見合う教育を施せるとは 自分自身考えていなかった。 しかし、彼女がなぜ私を選んだのか。それを考え。 ……答えを得たわけではないが、変に無理はせず 自分の手の届く範囲で、ものを教える事にしたのだ。 ……オペラが「また」と問うのなら。 私の目の届かない所で、 同じ事を言われ続けているのかもしれない。 そう思うと、情けなさに視線が下がる。 やはり自分は、師の器ではないのだろう。] (58) 2022/03/27(Sun) 6:01:22 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト……そういう用件ではない。 仕事の依頼だ。 難しい話なので、少し考えていた。 [言葉を選びつつ、他言無用の一文に目を遣る。 他≠ノ弟子は含まれないものと、 そう思っていいのだろうか。 いいのだろうな、おそらく。 『よきに計らいなさい』と言っている あの方の顔が目に浮かぶ。 面倒な薬の作成依頼だ。 私が弟子にどんな教育をしているか アガーテ様もご承知なのだから、 全て織り込み済みと思っていい。] (59) 2022/03/27(Sun) 6:01:30 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト[指示を仰ぐ必要がないと判断できる程度には、 あの方との付き合いも長くなった。 こんな末端まで気にかけていただけるのは ありがたく思っているが。だからこそ、 便利に使われている部分も否定できないので 正直、胸中は複雑だ。 しかし、対価を出し渋る方でもないし。 王国の為に、と仰るからには 事情がおありなのだろう。] 旅支度をしてくれ。二人分だ。 今回は君も連れて行こう。 良い経験になるだろう、……おそらく。 [一つ息を吐いて、そう言った。] (60) 2022/03/27(Sun) 6:01:38 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト……あ、ああ。よろしく頼む。 行き先は…仕事については追々話そう。 路銀の心配はしなくていい……。 [出発日時など、必要な事だけ伝えると、 オペラは早速動き始めた。 やや呆然と、部屋を出て行く背を見送って。 …いつの間に、あんなに逞しくなったのだろう。 初めての事だろうに、牛乳配達まで気が回るとは… 私は度々忘れて、ミュラー夫人の世話になったのに… 無論、帰った後の小言付きでだ。 師としても、叔父としても、肩身が狭い。 姪は、私よりしっかりしているのかもしれない。 性格は父親似かと思っていたが、 やはり、そうでもなかったのだろうか。 私は実の姉よりも、義兄の方と馬が合った。] (65) 2022/03/27(Sun) 6:02:17 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト[……誰も居なくなった部屋で、 もう一度依頼書を読み返す。 ああ、同行者がいると言い忘れたな―― それも後で伝えなければと、心に留めて。 書かれた名前を指でなぞってから、 他言無用の手紙は、早めに処分してしまう。 懐かしい名前だ。 元気にしているだろうか。 仕事にかまけていて、 久しく顔も見ていない。] (66) 2022/03/27(Sun) 6:02:21 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト[家事は多少おざなりになっていても、 仕事については、真面目に取り組んで来たつもりだ。 筆不精の自覚もあるが、私だって、 用があればペンくらいとる。 心配の必要はないだろうが。 私も手紙をしたためた。 薬の調合に必要な条件を考えれば、 向かう先はあそこだろうと 頭に思い描いた地図から、一つの名前を拾い上げて。 紙に記すのは、落ち合う場所と、大体の日時など。 それから よろしく頼みます と一言書き添えた、簡潔な手紙を出した。 こちらに秘匿事項はないものの、 連絡事項は速やかに。そう思って封をした、 蒼鉛の酸化膜による虹色も、己の魔法も。 アガーテ様とは並ぶべくもないが、 私の手によるものだという事は あの方ならわかってくれるだろう。 あの女は、今頃。 不肖の弟子と組む事に、 何を思っているのだろうか。]** (67) 2022/03/27(Sun) 6:02:24 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト[死に分かたれる事なく、姉は義兄と共に葬られた。 だが、それを幸いと呼ぶには、あまりに若すぎた。 葬列は長く伸び、 名だたる人物も花を手向けに訪れたが。 実際に二人と付き合いのあった者が、 どれほどいたのかはわからない。 そんな中。隅に追いやられていた、 差出人名のない百合の花。>>86 名を残さないからこそ、思いが残る気がして。 家 のために訪れた多数の弔問客。名 もなき花は不要だろうと、棺に入れた二輪の他は、全て引き取った。 雨に濡れる墓地の中、 泥に塗れて枯れて行くのは忍びなかったから。] (99) 2022/03/28(Mon) 6:42:26 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト[さすがの私も葬儀の前後は、実家に顔を出して。 百合の花は、姉の気に入りの場所へ飾った。 幼い頃、家族で過ごした団欒の窓辺に。 気落ちした父母がそれを眺めて、 いくらか安らいだ顔したのを見れば、 送り主に感謝して。 自分もそれを眺め、 一体、誰が送ってくれたのだろうかと考えた。 白 紅 いと言った姪の、言葉の意味には気付いていなかった。] (100) 2022/03/28(Mon) 6:42:34 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト[思いに気付いていたのなら。 もう会わないつもりだと、>>79 そんな思いを抱かれる事も無かったのだろうか。 それとも、私の方が、 ただ思い知らされるだけなのだろうか。 顔も見せなかった弟子には、 何か言えるはずもないのだが。] (102) 2022/03/28(Mon) 6:42:48 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト[オペラを迎え入れた時。 弟子を取るつもりの無かった自分は、一瞬、 師の元へ送れば良くしてくれるのでは…、 などと考えてしまった。 自分の元で学ぶより、姪のためにもなるだろうと。 だが、一瞬の事だ。できないと思う理由があった。 師匠の思いに対して鈍い私も、 多少は考える頭を持っている。 アガーテ様は、友の話をするのがお好きなようだ。 ルービナ様の新しい弟子の話は、 私の耳にもいくらか入っていた。 だから、邪魔をしてはいけなかろうと。 (103) 2022/03/28(Mon) 6:42:53 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト[翌朝。オペラに声を掛けて、 今度は忘れずに、協力者の説明を行った。] 紅玉の魔女、ルービナ様は私の師だ。 アガーテ様とも旧知の仲で、 人物も魔術の腕も、信頼の置ける方だから 今度の機会に、よくよく学びなさい。 [という言葉も添えて。 弟子に推挙する事はなかったものの、 孫弟子にあたるのだから。 旅の間に、そんな機会もあるだろうと。 優れた術師の教えを受けられるのなら、 受けさせてやりたいと思ったのだが…… 孫弟子。孫を持った覚えはない、 と言われてしまうだろうか。はたして。] (104) 2022/03/28(Mon) 6:42:59 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト[目的地には早めに着いた。 偶然ではなく、意図しての事である。 旅先では、何もかも予定通りとは行かないから それに備えて、というのもあるが。 余裕を持って行動し、現地での滞在先など下見して、 師匠の手を煩わせないようにするためだ。 これも、かつての弟子の習いというもの。 自分の事はともかくとして、こういう行動は>>85 昔から心がけていたつもりだった。 さて、道中特に問題も無かったので、 こちらの予定通りの時刻に到着し。 雑事を済ませ、万全の態勢で 師匠を迎えるつもりだったのだが。] 落ち着きなさい。いくらなんでもここに来て、 うっかり間違うという事もないだろう…… [弟子にはそう言って。 元々硬い表情筋を、可能な限り余裕の顔に近付けた。 了承の返事は受け取っているし>>92 自分は自分で、しっかり確認もした。 手違いはない…はずだ。おそらく。 師匠次第だが (108) 2022/03/28(Mon) 6:43:31 |
【人】 蒼鉛の魔術師 ヴィスマルト[……落ち着かないのは、弟子だけではない。 弟子の影響かとも思うが、 そうではないと思う自分もいる。年甲斐もなく。 会ったらまず、何と言うべきか。 あの頃は一体、どうやって会話していたのだろうと 思い出そうとしても、上手く行かなかった。]** (109) 2022/03/28(Mon) 6:43:34 |
(a5) 2022/03/28(Mon) 23:00:54 |
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