【人】 九朗[人と人の賑わいの中。 砂上の浮島特融の炭や煙のにおいすら春風とともに覆い隠すのは、 子供が喜ぶ甘い菓子の匂いに、食欲を誘うタレや醤油の焼ける匂い。>>12 人が溢れる商店街のにおいだ。 子供が駆け回る祭りのにおいだ。 その匂いに釣られるようふらふらと出店へ近づき、早速桜色の餡を乗せた串団子をみっつ買い求める。 とはいえ往来で団子の立ち食いもどうかと。 周囲を見回す九朗の鼓膜を打ったのは、神楽の鈴とは異なる凛とした鈴の音。>>13 それは満開に咲く桜の木の下。 何かを囲む人垣の中からその音は聞こえたようで、興味を引かれるまま九朗の足はそちらへ向かった。] (21) 2022/04/12(Tue) 0:03:24 |
【人】 九朗[舞い手の動きがぴたりと止まれば、ぱらぱらと始まった手を打つ音は一呼吸の間に称賛の拍手へと鳴り代わる。 それとともに狩り衣の舞手へ投げたり、手渡さたれたりする投げ銭。>>35 用意のいい客は色や柄のついた和紙に銭を包んで準備していたようだが、生憎九朗にそこまでの用意はない。 とはいえ何もせずに立ち去るのは…と。 小銭を入れた財布を取り出し、相場と思しき金額にほんの少しの心づけを添えて、懐紙に包んでそうれと投げた。 過去の九朗が遠い地で故郷の祭りを懐かしみながら、同じ狩衣に狐面の舞い手に投げたもの。 それを受け取ったのは先代か、或いは当代か。 そもそも東天を名乗る舞手の代替わりすら知らぬ九朗が、今それに気づくことはなかっただろう。*] (40) 2022/04/12(Tue) 22:25:53 |
【人】 九朗[舞いが終わり、観衆の輪が少しほどけたその流れに流されるように。>>36 止まっていた九朗の足も再び歩き出す。 手に持っていた串団子は残り二本。 偶然、白く丸々子猫を抱えたご隠居とすれ違えば。 手ぶらで帰るその様に、餅もまだ柔らかい串団子を土産にどうぞと手渡したかもしれない。 そうでなくとも、途中で一二三に会うかと少し多めに買ってみた串団子。 このまま持っていても、これでは神楽が始まるほうが早そうだと。 更なる人込みの予感に早々に見切りをつけて、甘さと塩気の塩梅がちょうどいい桜餡を口へ運んで咀嚼する。 もっち、もち。 食べ歩きは行儀が悪いと咎める人も今はおらず。 小さな子供に至っては、綿菓子片手に器用に人ごみを抜けて走り回っている。 それでもぶつかりそうになれば、九朗の方が半歩避けて道を譲り。 別の通行人に肩をぶつけて、すみませんと頭を下げることになるのだがご愛敬。*] (41) 2022/04/12(Tue) 22:40:21 |
【人】 九朗[甘いものを食べたら、次は何かを飲みたくなるのが人の性。 硝子の瓶に丸いビー玉が入ったラムネの瓶は魅惑的で、九朗も一二三も、子供の頃は貯めた小遣いを握って真っ先に向かっていた頃もあった。 そのうち瓶を割らずに中のビー玉を取り出すにはどうしたらいいか。 どうやって瓶の中にビー玉を入れたのかと。 瓶の構造に夢中になりはじめるあたり、三つ子の魂百までよく言ったものだと九朗はしみじみそう思う。 とはいえ、甘い団子を食べた後は、甘い炭酸水よりも少し渋い茶が飲みたいと九朗は思う。 そうなれば、行く当てもなくただ流されていた足は目的を持って歩き出す。 榛名の商店街から出店している店だから、今年も店を出しているだろう。 祭り用に持ち運びできる竹筒に入れて売られる茶を求め、] (43) 2022/04/13(Wed) 0:23:44 |
【人】 九朗[魚竜の骨を磨いて作られた風鈴が、春風に揺られて乾いた音を立てている。 同じ店の商品には、白く磨かれた指輪や腕輪、耳飾りなどの装飾品も売られていた。 そのどれもこれもが、驚くほど繊細な彫り細工を施されていた。 子供用の小さく安価なものから、榛名や桜を連想させる少し値の張るものまで。 硝子玉を嵌めたものもあるが、九朗の目を惹くのは、骨という素材に透かし彫りを施す職人の技術。 戻らないと言ったのはどの口か。 純粋に美しさを愛でる出なく。 ただただその技術と技量を推し量ろうとする。 どうやって作ったのか。 自分ならどう作るか。 未練かと聞かれれば、それは否だ。] (45) 2022/04/13(Wed) 0:24:26 |
【人】 九朗[それでも染み込んだ思想や習慣の類いは、早々なりを潜めるものでもないということか。 カラカラとぶつかり合う骨の音色を振り払うように歩を進め、目当ての出店で飲みなれた味の茶をひとつ。 なんのことはない竹筒の水筒だが、喉を潤すには値段も量も丁度良く。 口内に残る甘い桜と餡の味を清涼な茶の味で洗い流し、道行く人をぐるりと見渡せば。 今度は練った水飴を売りながら、子供相手に熱弁を振るう紙芝居屋が目に留まる。 演目はおそらく、九朗や一二三が子供の頃から人気の英雄譚だろう。 「その姿およそ五十尺! 竜のごとく堅牢な鱗に毒の棘持つ鰭、 魚にはない獣の如く鋭い牙が 蒸気帆船を守る傭兵たちの血に染まる! このまま船は砂の海に沈むのか!! 誰もが絶望に膝をつきかけた時、 一人の男が立ち上がる!!」 拍子木をカカンと打ち鳴らして、紙芝居屋の男が恐ろしい魚竜の描かれた絵をスパッと引き抜いた。] (46) 2022/04/13(Wed) 0:26:14 |
【人】 九朗[子供たちの歓声とともに現れたのは、身の丈ほどもある巨大な銃槍を携えた一人の男だった。 「『諦めるな! 閃光玉の光を合図に、 魚竜の体へありったけの銛を撃て!』 男が持ちたる銃槍、 巨大な魚竜の鋭い牙に負けず劣らず! その鋭き穂先は鍛え抜かれた鋼の如輝いて!! 男の雄姿に再び立ち上がる傭兵たち。 士気高揚な顔ぶれに、 男は手に持った閃光玉を 巨大な魚竜の鼻先へ投げ ――――」 幾本もの銛を撃たれ、砂の海面に縫い留められた巨大な魚竜。 男はその心臓目掛けて銃槍を放ち、見事魚竜を仕留めるというもの。 子供向けに脚色されているとはいえ、 凶暴な魚竜の群れに遭遇すれば船が沈むこともある。] (47) 2022/04/13(Wed) 0:27:23 |
【人】 九朗[幸いにして、近年はそのような不幸な事故は随分減った。 造船技術の進歩、安全な航路の確保、魚竜を狩る武器の発展。 理由は様々にあるだろうが、それはまた別の物語。**] (48) 2022/04/13(Wed) 0:29:48 |
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