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【人】 雨宮 瀬里その日はすぐにやってきただろう。 宮々の家に行く車の中では、 きっといつもよりも会話は少なかった。 私ね。 時折貴方を窺っては 貴方を好きであることを確かめてた。 貴方の気持ちがなくなったとしても、 私の気持ちがなくなったとしても、 一瞬一瞬のことを、思い出せるように、 流れる景色の内側に、貴方の存在を確かめてた。 (0) 2022/05/26(Thu) 13:58:42 |
【人】 雨宮 瀬里私が知らなかったのは 恋矢が抜かれると、恋心を失うだけではなくて 貴方が記憶を失う可能性もあるということ 私も貴方も知らなかったのは 恋矢が抜かれると、 その恋矢と繋がっていた相手の恋矢も消滅して 相手の恋心や、記憶にも影響があるかもしれないこと 恋をしていた間の私自身が、 いなくなってしまう可能性もあるということ (1) 2022/05/26(Thu) 13:59:12 |
【人】 雨宮 瀬里宮々の家に着く。 私たちを迎えてくれたのは誰だったか。 貴方の隣で、私は薄紫の翼を揺らす。 貴方の隣に居られるのは、 どれくらいの間だったのだろう。 僅かなひととき。私は貴方と手を繋ぐ。 * (3) 2022/05/26(Thu) 13:59:54 |
【人】 雨宮 瀬里「 もちろん、覚えてるよ。 」 あの時のふたつの音。 私たちを結び付けてくれた恋の矢は、 確かに今もここにあって、 おかげで、私たちは素敵な恋をすることができた。 目を閉じれば今でも胸の中で響いている気がした 澄んだ美しい歌声が。幸せを願って鳴らした指音が。 「 忘れないよ 」 私にとっての忘れない≠ヘ 貴方にとってのそれとは重みが違ったけれど それでも、きっと、気持ちは同じ。 (7) 2022/05/26(Thu) 19:46:15 |
【人】 雨宮 瀬里武家屋敷のような平屋建てに、 まったく驚かなかったかと言えば嘘になるけれど それでもなんとか澄ました顔は出来ていただろうか こんな時に、作りものの顔が得意なのが役立つとは 通された客間で、机を囲んで貴方と向かい合う 二人きりになったときには、 あれがお祖父さん?とでも聞いただろうか 肯定が返ってきたら、優しそうね、とも。 「 治療、怖い? ……病気、良くなるといいね 」 恋天使の矢を除去する治療。 どんなことをするのだろうか。 想像すらつかない私は、そんなことしか言えなくて。 恋を失うことからは、目を背けた。 (8) 2022/05/26(Thu) 19:47:10 |
【人】 雨宮 瀬里上手くいったら その言葉は、単に貴方の病が治ったら、 という意味ではないことくらい、私にもわかる。 何もかもがただの杞憂で終わったら。 貴方と私が今のままで、在り続けられるなら。 「 うーん、何かな… 」 何をしたいか、なんて考えたことなかった。 何処に行きたいか、なんて考えたことがなかった。 貴方と一緒だったら、どこでもよかった。 それが当たり前≠セったから。 ……結果。私は一つの答えにたどり着く。 (11) 2022/05/27(Fri) 7:58:13 |
【人】 雨宮 瀬里「 すぐには無理かもしれないけれど 私ね。蓮司と一緒に暮らしたい。 週末デートで突然音沙汰なくなって 貴方の有事に駆けつけられないとか。 そんなの、もう嫌だもの。 」 お互いに生活の拠点を持っているから すぐに共に暮らすのは難しいかもしれない。 だけど当たり前≠ェずっと続くように、 私は、貴方の傍に在りたい。 * (12) 2022/05/27(Fri) 7:58:33 |
【人】 雨宮 瀬里それは上手くいったら≠フ話。 だけど、絶対に訪れないなんて仮定はせずに 訪れるかもしれない未来を夢見た。 「 うん、約束 」 もちろん上手くいったって、 そうするには山ほど課題はあるかもしれないけど それでも。夢を見ないよりかは、全然いい。 (16) 2022/05/27(Fri) 14:58:08 |
【人】 雨宮 瀬里「 待ってるよ。 行ってらっしゃい。 」 あなたの右目を見つめてぎこちなく微笑んで。 大丈夫だよ、と言うようにひとつ頷いた。 貴方がそうやって微笑んでくれるなら 私も、貴方を微笑んで送り出したい。 貴方に最後に見せる顔は、 やっぱり笑顔がいい。………なんて。 そんな言葉が頭を過ぎったら、 込み上げるものは、あったけれど。 泣くのは、今じゃない。 (17) 2022/05/27(Fri) 14:58:30 |
【人】 雨宮 瀬里きっとお祖父さんが、 もしくはお手伝いの人が。 治療が1日近く掛かることを私に伝えたのは それから間もなくのことだったし、 きっと、私は不自由なく滞在させてもらえたのだろう 食事も、寝床も、きちんと宛てがわれて 私はそこで貴方を待つことになる (19) 2022/05/27(Fri) 14:58:57 |
【人】 雨宮 瀬里1時間、2時間、 経過する時間の中で、 私は常に貴方のことを思い浮かべた。 まだ、私は貴方のことを愛している。 そんな言葉を反芻しながら、 涙を流しながら 恋心を何度も確かめた。 同時に、恋心を抱いているということは まだ、貴方の治療が終わっていないということだ。 それは、私にもわかること。 同時に、貴方のことを思い出せるということは まだ、貴方の治療が終わっていない可能性があるということ それは、私にはわからないこと。 貴方への恋心を最後に確かに感じたのは、 私が眠りにつく前のことだった。 * (20) 2022/05/27(Fri) 14:59:50 |
【人】 雨宮 瀬里夢を見た。 とても大切な人と手を繋いでどこかへと歩いている夢。 顔には陰が掛かっていてそれが誰かはわからない。 私は、誰かの名前を呼んでいるのに、 それがどんな音なのかわからない。 聞こえない。自分の声も、誰かの声も。 (25) 2022/05/27(Fri) 20:21:14 |
【人】 雨宮 瀬里目を覚ますと、私は知らない場所にいた。 朝の陽ざしがとても眩しく、暑く。 季節が夏に移り変わっていることを知る。 知らない場所、というのも語弊があった 私は確かにそこを知っていた。 知っているはずなのに、思い出せないのだ。 (26) 2022/05/27(Fri) 20:21:34 |
【人】 雨宮 瀬里私は私のものであるらしい♀唐開ける 私のものであることはわかっている だけど、そう、何かが違う。 鞄の中を開ければそれは顕著で、 詰められた服はどれもカジュアルなものばかり だけどそれも、 どうしてか私のものであることはわかってる。 ただ、それを着ていた記憶がないだけだ。 (27) 2022/05/27(Fri) 20:21:50 |
【人】 雨宮 瀬里 恋矢を取り除いた貴方と それに伴って恋矢が消滅した私と その程度に差があったかどうかは神のみぞ知る話 少なくとも私には あの春から今までの記憶が ぼんやりと、朧げにしか残っていなかった 朧げに、残っていたことは、不幸中の幸いか。 ……いや、思い出そうと思えば 思い出せることもある 例えば私が、学校を卒業して弟子入りをしたこと そういえば着る服が変わったということ そう、私は確かにあれから1年以上の歳月を 雨宮瀬里として生きてきたのだ。 季節が夏に移り変わっていたことも、 次第に納得することは、できた。 (28) 2022/05/27(Fri) 20:22:27 |
【人】 雨宮 瀬里俺 宮々 蓮司 恋 お見合い 記憶 手紙に書かれた単語が、 ただの単語として、意味も成さずに滑り落ちていく だけど、ここに書かれたことが本当だとすれば…… 私は、暫くその文字をずっと指で辿っていた。 * (30) 2022/05/27(Fri) 20:23:18 |
【人】 雨宮 瀬里扉が3回叩かれる。 そこに立っていたのは見知らぬ老人だった。 ほんの少し、身構える。 人のよさそうな顔つき、白い髪、刻まれた皺 そして ────── 紅い瞳。 「 ……あの、えっと。 ここに来た理由…? いえ、覚えていません。 」 不安げな表情を浮かべながら、 私はその老人に答える 紅い瞳が、どうにも心をざわつかせる。 (34) 2022/05/28(Sat) 0:40:45 |
【人】 雨宮 瀬里答えながら、私は老人にさらに問いかけるだろう 手に持っていた封筒を見せながら。 手紙を見せはしないが、 いわゆるラブレターというやつに近い。 他人に中身を見せるものでもないだろうから。 封筒の表面には「瀬里へ」と書かれており、 裏面には「蓮司」と書かれているはずだ。 「 手紙は、蓮司、という人からのものでした 私は、……ちょっと、わからなくて。 あの、ここは、どこなんでしょうか。 あと、この、宮々、というのは、その… 」 言葉を紡げない。 宮々が何を指すのかはわからないし、 矢継ぎ早に聞いた質問の答えは、 この目の前の老人が持っている、そんな気がした。 答えを待つのが正解だ、と。 (35) 2022/05/28(Sat) 0:41:22 |
【人】 雨宮 瀬里私は、気づかなかった。 その名前を、滞ることなく宮々と読めたことに。 かつて冗談でもなんでもなく 雨宮瀬里という人間は、その名前を初見の時に みやみやさん、と呼んだというのに。 * (36) 2022/05/28(Sat) 0:41:51 |
【人】 雨宮 瀬里「 ………手違い 」 私はただその言葉を繰り返す。 ちょっとした事故、恋矢をなかったことにする、 その言葉を頭の中で繰り返した。 「 そう。なんですね。でも、 」 でも、の言葉の先を紡げない。 この頭にこびりつくほんの少しの違和感はなんだろう。 (40) 2022/05/28(Sat) 10:06:13 |
【人】 雨宮 瀬里 恋天使のお見合いのことは知っている。 蓮司という人が手紙に書いていた、 お見合い、というのはそのことだろう。 恋天使のお見合いで 手違いなどが起こるだろうか 手紙が本当であるならば 蓮司という人は、私を愛していてくれたらしい 記憶を喪っても、取り戻したいと思うほどに。 一番私が引っかかっているのは その感情を目にしても、 何も嫌な気持ちが起こらないということ。 私が恋に抱いていたはずの忌避感を なぜか抱いていないということ ── まさに、私は恋をしていたのだろう。 そしてそれが、嫌な感情でなかったことだけは どうしてか、今も思い出せるのだ (41) 2022/05/28(Sat) 10:06:42 |
【人】 雨宮 瀬里「 ……あの。 蓮司さん?に、会うことはできますか 」 私はまっすぐに紅い瞳を見つめて問う。 やっぱりこの紅い瞳は私の心をざわつかせる。 会ってもわからないかもしれない。 会っても思い出せないかもしれない。 思い出しても、何の意味もないのかもしれない だけど手紙のそのひとは、私に会いたいと望んでいた それが、そのひとと記憶にない私が望んだことならば せめて叶えるくらいは、……そう願って。 * (42) 2022/05/28(Sat) 10:07:02 |
【人】 雨宮 瀬里広げられた大きな翼 同族の証 が畳まれる残ったのは紅い瞳のそのひとだけ。 「 それは…… 」 会ってどうする?の問いには言葉を詰まらせる 話しがしたいという気持ちもないし 会っても知らない人だろう、という想いは強い 赤の他人になった、そう告げる老人の声は、 まぎれもなく事実だった。 それは今の私にとって≠サの通りの意味を持つ だけど前までの私≠ノとっては? (45) 2022/05/28(Sat) 11:32:10 |
【人】 雨宮 瀬里手紙が残っていたことと、 手紙にお見合いと書かれていたこと 恋に対する忌避感がないこと。 それらは確かに私に恋人≠ェいたのだろう事実を 浮かび上がらせる。 老人や、この手紙の主が嘘を吐く理由もない…筈だ。 老人が渋っているのもそれが真実だからだろう。 そして老人にも、私が戸惑っている様子は そのまま伝わるに違いない。 (46) 2022/05/28(Sat) 11:32:22 |
【人】 雨宮 瀬里「 ……だけど、 会わないのは、後悔すると、思うから。 多分記憶が混乱する前の私だったら、 会いたい、って願うような、そんな気がするんです 」 そのひとの気持ちはわからない。 今の私の気持ちでもない。 だけど今までの雨宮瀬里≠セったら。 そうしたい、と望むだろうから。 気の強い、私のことだから。 20年以上この心で生きてきた。 記憶がなくても、私のことくらいはわかる。 朝食を食べろという声には頷いて、 私は蓮司≠フ意向を、老人の答えを、待つことにする (47) 2022/05/28(Sat) 11:33:31 |
【人】 雨宮 瀬里恋人だった人との記憶はないけれど 私が確かに変わった、という事実だけは、 私の中に薄ぼんやりと残っている 以前のような洋服を着なくなったこと 母親とはそれでも良好な関係を築いていること 家を出て、陶芸の道に私が進んだこと それは蓮司≠ニ関係ない部分だから 記憶の混乱が起きていないのだろうか それでもその変化≠キるきっかけは思い出せないから それをくれたのは、まぎれもない、その人なのだろう。 * (48) 2022/05/28(Sat) 11:33:57 |
【人】 雨宮 瀬里昼よりも前のころ、 空には高く陽が昇り、木々の緑を美しく照らす 案内された庭には洋装の男性がひとり佇んでいる 私は白のブラウスと赤紫のスカートを纏って その人のほうへ近寄っていく それはいつ手に入れたものなのか 私は、憶えていない。 そこにも貴方との記憶があるのだろう その人の背中を後ろから見たとき、 会うのが怖い、と思ってしまった 怖い、という感情が、 いつかの感情に重なった気がしたけれど それはいつのことだったのかわからない (51) 2022/05/28(Sat) 13:43:51 |
【人】 雨宮 瀬里「 ………こんにちは、蓮司さん? 」 名前を口にして、 どこか違和感があったのは何故だろうか もしかしたら蓮司さん≠ネどと 私は、呼んでいなかったのかもしれない (52) 2022/05/28(Sat) 13:44:12 |
【人】 雨宮 瀬里その人がこちらを振り向く。 二色の瞳がとてもきれいで、だけど、私は、 「 ……?? 」 何かが、とても違和感で。 「 目、大丈夫、なんですか 」 陽の光の下 、美しく煌めく二色の瞳に、何が大丈夫じゃない≠アとがあるというのか それもわからないまま、私は本能的に、 そんな言葉を、口にしていた。 * (53) 2022/05/28(Sat) 13:44:53 |
【人】 雨宮 瀬里きっと私はその人に瀬里≠ニ呼ばれていたのだろう その呼び方はどこかしっくりときて私は縦に首を振る それと同時になにかデジャブのような違和感を感じて 心の奥底がほんのわずかに軋む 「 ……そうですね、かっこいいですよ 」 ほらまただ。 少し戯けて掛けられた言葉、 何も文脈としておかしくはないのに、 なにか、なにかが、ひっかかる。 (57) 2022/05/28(Sat) 16:01:41 |
【人】 雨宮 瀬里「 うん。初めましてでは、ないみたい でも、憶えてないんです 」 貴方もですよね、って確認するように。 貴方の声も、顔も、憶えてはいないけれど それでも、どこか、穏やかな気持ちで話せたのは。 やっぱり絆があったから、ということなのだろうか。 その人に翼はない。 だけど、手紙の中には「恋矢」が、と書いてあった 同種であることを前提に、私は話をする。 これで相手が恋天使じゃなかったら…ふと不安になって 私は背中の羽を揺らしてみせて、貴方の視線の先を確かめた。 …羽根が見えていなさそうなら、 ほんの少し、不安な顔は見せただろう。 (58) 2022/05/28(Sat) 16:02:12 |
【人】 雨宮 瀬里「 あの 」 そうして私は貴方にあの封筒を差し出す。 恐らく貴方の文字で、瀬里へと書かれた一通の封筒。 「 貴方に返すのも、なんか違うと思うんですけど でも。貴方にも、読んでもらいたくて 」 封筒には一度開けた跡があるから、 私が読んだものだということはすぐに分かるだろう それから、もうすこしだけ、貴方に近づいて 声を落として、小さくつぶやく (59) 2022/05/28(Sat) 16:02:26 |
【人】 雨宮 瀬里「 あのお爺さんが、 手違いで、恋矢が刺さって、 恋矢を抜いたのだと言っていました。 ……でもここにはお見合い、ってあるし 何より、これを書いた人の言葉が、 手違いで恋矢が刺さってた人のものだって 私、思えないんです。 たぶん。蓮司さんの字、だと思うんですけど ……読んでみて、ください。 」 手紙を読んでくれるのならば、その傍で。 言いたいこと、ってなんだったんでしょうね、って 私は困ったように笑いながら呟いた。 * (60) 2022/05/28(Sat) 16:02:38 |
【人】 雨宮 瀬里これは俺≠ェ書いたものじゃない。 その言葉にどこか落胆の気持ちを抱いてしまったのは 別に恋心を取り戻したい、とかいう動機じゃない。 じゃあ私を動かすものはなんだろう?って ふと考えたとき、一番に心に浮かんだのは 私の中に知らない私がいること それが、どうしてももやもやするのだと気づいた。 (66) 2022/05/28(Sat) 18:21:36 |
【人】 雨宮 瀬里「 いえ。 恋心を抱いていたらしい、のは ここにいる私、ではないので。 」 好きか?と聞かれて即答した。 好き嫌い、という感情はどこにもない。 昨日までの私たちはどこにもいない。 貴方と過ごしたらしい日々の様々な瞬間が 私の中からすっぽりと抜け落ちたまま、 私は、いつかの私の続きを歩いている。 (67) 2022/05/28(Sat) 18:21:49 |
【人】 雨宮 瀬里「 ありがとうございます。 ……助かります。 」 ここは一体どこなんだろう、とスマホを見る。 位置情報から、大体の場所が分かるはずだ。 ロックを外せば、私と貴方が並ぶ待ち受け画面が見えた。 (68) 2022/05/28(Sat) 18:22:01 |
【人】 雨宮 瀬里見覚えのない車。 見たことのあるような車。 躊躇することなく私の足は助手席へ向かい、 慣れた手つきでその扉を開く。 「 あの。 何か、思い出したら。 ううん、何も思い出さなくても。 また、連絡してもいいですか。 」 そう切り出したのは車が発進した後だったか。 スマホには、ご丁寧に貴方の連絡先も、 直前までのやり取りも、残っているようだった。 (69) 2022/05/28(Sat) 18:22:20 |
【人】 雨宮 瀬里「 恋心があるとか、ないとか、じゃなくて ……記憶。ないのが。嫌だなって。 」 貴方との記憶、じゃない。 私自身の記憶がないことが、嫌だなって思ったんだって 私は、貴方に伝えるだろう。 「 ……自分のこと、 なんでも自分で決めたいんです。 だから、昨日までの私が分からないのがすごく嫌。 おかしいな。 昔私そういう人じゃなかった筈なんですけど。 」 昔の私は、自分の意思を持たずに、 家族に、他人に、自分の評価も意思も委ねていた。 今の私は、すっかりそうでないと嫌だ、なんて …それが、変わった記憶はどこにもないのに。 * (70) 2022/05/28(Sat) 18:23:12 |
【人】 雨宮 瀬里貴方の皮肉には素直に頷いた。 きっと、昨日までの瀬里≠セって、喜ぶはずだから。 恋をしたらどうなのか、と私は考えたりはしなかった 知らない貴方に恋をするつもりもなかった。 けれど、どうしてだろうか。 恋をしてはいけない≠フだと、 そんな気持ちが無くなっていることに、 私は気づいてはいなかった。 それは、ほんの少し貴方の状態とは違っていたのかも。 (74) 2022/05/28(Sat) 19:38:16 |
【人】 雨宮 瀬里「 clarity?知ってる、というか、」 そう。私は確かにclarityを知っている。 知っているどころか、…と言葉を紡ごうとして その先に続く言葉が見当たらないのに気付く。 多分私はスマホの履歴に「灯歌」という名前を見ても それが誰だかあまり思い出せなくなっているのだろう (75) 2022/05/28(Sat) 19:38:37 |
【人】 雨宮 瀬里「 ……ううん、なんでもない。 知っている、はず、なんだけど、 あんまり思い出せないの。 これも、貴方との記憶が関係しているのかな 」 透明な歌声が車の中に響く。 不安な人を励ますような、優しい歌声。 大丈夫だよ、って背中を押してくれるような声。 私は、その声を、確かに、どこかで、 記憶を呼び起こそうとしても、靄がかかっている だけど、記憶を探るように、探すように、 ぼんやりとした瞳で、私は貴方のことを見た。 貴方は、どうしてこのひとを知っているの? そんなことを問いかけるように。 * (76) 2022/05/28(Sat) 19:38:51 |
【人】 雨宮 瀬里ぱちん、ぱちん、と指が鳴る そのたびに、何か大切な景色が色づいていく 『 私ね、変わろうと思って 』 それは確かに私の声 変わるための後押しをしてくれたのは…? 透明な歌声、跳ねるような指の音、 月明りが照らす暗がりの中で、 明るい光が私の、 私の……? 真っ赤 ななにかが、見えた気がした (79) 2022/05/28(Sat) 20:21:27 |
【人】 雨宮 瀬里 明るい光に目線を向けようとして、 車が動く。 思考は途切れる。 「 何か、思い出せそうな気がしました 」 それだけ言って小さく笑うと、 私は手元のスマホに視線を落とす。 車の中。会話などはほとんどないはず。 (80) 2022/05/28(Sat) 20:21:48 |
【人】 雨宮 瀬里スマホに残されたメールも写真も、 どれも私の知らない雨宮瀬里だった。 たくさんの景色や、たくさんの食事や、 たくさんの笑顔が、そこには残されていた。 「 楽しそう 」 私はただの感想を呟く。 他人事だけど、本当にそれは楽しそうだったから 「 恋、してたんだなって、分かります 恋をする人間と、同じ顔、してるもの。 」 恋をしたい、だとか。 同じ感情を取り戻したい。とかじゃないけれど。 スマホに残った、二人の姿は、本当に楽しそうで ……だから、私は至極当然の質問を投げかける。 (81) 2022/05/28(Sat) 20:22:03 |
【人】 雨宮 瀬里「 どうして、恋矢を抜いてしまったんでしょうね 」 貴方は知っていること。 私は覚えていないこと。 ただの、話のきっかけにすぎない。 * (82) 2022/05/28(Sat) 20:22:14 |
【人】 雨宮 瀬里「 病? ………そう。だったんだ。 」 病によって、恋矢を抜かざるを得なかった。 そんな話は今、初めて聞いた。 ううん、瀬里≠ヘ知っていたんだろう。 知ったうえで、それを受け入れたとき 私は、どう思ったんだろう。 うらやましい、の声に私は小さく微笑んだ 「 これほど楽しそうに過ごしていたのに 恋心と記憶が消えてしまったのは…… ……きっと、悔しかっただろうな。 」 恋心が消えるときの感情なんてわからないけど でも大切にしていたものを喪わざるを得ないときの 悔しさとかなら、分かる気がするから。 (86) 2022/05/28(Sat) 22:39:03 |
【人】 雨宮 瀬里駅前で車が止まる。 私が全く知らない駅だったけれど きっと家までは帰ることはできるだろう。 「 ……うん、 」 貴方の視線がこちらへと向く ここで、私が車を降りればそれでおしまい。 時々私から連絡をするかもしれない。 だけどそれもいつ終わるかはわからない。 だからと言って何もできないし、何かしようとも ── 二つの色の違う瞳を 私のスカートとお揃いの色の左目を 私が…好きだったであろう、その瞳を、 (87) 2022/05/28(Sat) 22:39:48 |
【人】 雨宮 瀬里「 …っ、ごめんなさい 泣くつもりとか、なくて 」 意に反して流れ出た涙を あたたかな指先が拭うなら、 私は思わずそれを否定するけれど、 涙は簡単には止まってはくれなかった。 それでいて、もっと触れていたいと思ったのは 昨日までの私?それとも今の私? それとも、全部、私なのだろうか。 (97) 2022/05/29(Sun) 8:44:32 |
【人】 雨宮 瀬里洋服の好みが変わっても 恋矢が刺さって恋心を抱いても それがまた喪われて想いが消えてしまっても 私に起きた変化はすべて、 雨宮瀬里そのものなのだろうか。 貴方に出会って、貴方が日常を満たして以降の 私自身の記憶は喪われたままだというのに (98) 2022/05/29(Sun) 8:45:06 |
【人】 雨宮 瀬里こんな終わり方は嫌だ。 はっきりと音になって耳に届いたそれに 私はこくりと頷いた。 「 私も。こんな終わり方は嫌 」 理由なんて私だってわからない。 だけど、こんな終わり方は絶対に嫌だというだけ。 (99) 2022/05/29(Sun) 8:45:18 |
【人】 雨宮 瀬里「 私ね、記憶を取り戻したい どうしたらいいか、わからないけど… 」 恋をしていた私も、今の私も、私だというのなら 恋をしていた時の私の記憶を、取り戻したい。 オーディオからは相変わらず透明な歌声が響いている。 * (100) 2022/05/29(Sun) 8:45:30 |
【人】 雨宮 瀬里「 ……恋人に? 」 私が浮かべるのは困惑の色。 それでも頬に触れた手を避けることもしないまま 貴方の両の瞳を見つめる。 恋心とはどんなものだっただろうか 思い出せぬままに、恋人の振りをするのは ──── ああ、それはかつての私。 そんなことも忘れているくらいに、 いつの間にか私は変えられていた。 憶えていないから、きっと貴方のお陰。 (103) 2022/05/29(Sun) 11:12:42 |
【人】 雨宮 瀬里「 ……うん、構わない。 瀬里≠熈蓮司≠烽サれを望むもの。 」 流れていた涙が止まったから、 きっと、そうなのだろう。 「 ……改めて、っていうのもなんだけど 雨宮瀬里です。……よろしく……? 」 きっと2回目の初めまして。 はにかんだ笑顔は、営業スマイルなんかじゃない。 (104) 2022/05/29(Sun) 11:13:20 |
【人】 雨宮 瀬里「 恋人はじめに、もう少し、 ドライブデート、しませんか。 歌も、聞いていたいし、 もう少し、話がしてみたいから。 」 例えばひとつ先の駅まで。 例えば乗り換えのターミナル駅まで。 家までは、少し気が引ける距離だけど。 もしもドライブデートが叶うなら、 きっと最初から、お互いを知っていこうかな。 私が陶芸を生業にしていることとか 貴方は珈琲を好むとか、きゅうりが嫌いだとか 他愛のない話を、いくらでも。 時間制限はどこにもないから。 * (105) 2022/05/29(Sun) 11:14:33 |
【人】 雨宮 瀬里記憶から抜け落ちてしまった欠片を拾い集める 私たちにとっては初めて手に入れる欠片は 新鮮味がなく、どこかすんなりと馴染んでいく 隣の駅を越え、 ターミナル駅を越え。 記憶があいまいであっても 私は正しく貴方に住所を伝えることが出来たはず だけどそんなことしなくたって ナビの履歴に残っていたかもしれないし ナビを見なくても…… 貴方は、問題なく車を走らせたかもしれない (109) 2022/05/29(Sun) 20:03:23 |
【人】 雨宮 瀬里街灯の少ない小さな町。 こうして夜の助手席に座っていることも なんだか、初めてではないような感覚に陥る 事実、初めてではないはずだから当然だけど 貴方の左隣に居ることが、 なんだか、至極当たり前≠ナあるかのような感覚。 オーディオからゆるやかに流れる音楽 窓の外を流れる夕景 いくつもの標識 低いエンジン音と 僅かな車の振動 ああ、いつだってこうやって、 離れがたい どこにも着きたくない そんな気持ちを重ねていたのは、 ………誰、だっけ。 (110) 2022/05/29(Sun) 20:04:04 |
【人】 雨宮 瀬里気づけば、私の家へとたどり着く。 記憶がはっきりしている実家ではなく、 記憶が朧げだった一人暮らしの小さなアパート。 だけど確かにここが私の家なのだ、と 住所がそらで言えたように、知識として理解してる 「 遠くまで、ありがとう 」 すっかり辺りは昏くなってしまった 途中お昼や休憩に立ち寄ったとはいえ 随分と長いドライブデートをさせてしまって 素直に…ほんの少し申し訳ない気分になったけど。 (111) 2022/05/29(Sun) 20:04:19 |
【人】 雨宮 瀬里「 蓮司さん、……あの、 」 言葉を投げかけて、詰まらせて。 何か言うべき言葉があった気がして、 それでもそれは何処にも見つからなくて。 (112) 2022/05/29(Sun) 20:04:31 |
【人】 雨宮 瀬里その日の夜か、翌朝か。 貴方と別れてからというものの 貴方のことがどうしたって頭を離れず どこか熱に浮かされたような心地は続く。 溜まっていた写真や、メールのやり取りから どうやら週末だけ私たちは会っていたようだし 彼のことを、蓮司、と呼び捨てにしていたようだ 貴方が居ない部屋で「蓮司」と呼んでみて なんだか恥ずかしくなって顔を赤らめたのは 貴方が知らない私だけの秘密。 『 また週末、会ってくれますか 』 貴方に一文メールを送るだけでも、心が跳ねた。 (114) 2022/05/30(Mon) 13:10:04 |
【人】 雨宮 瀬里貴方に再び恋をした今、 記憶なんてなくてもいいと思う自分がいた だけど 貴方に再び恋をしたからこそ、 貴方との過去を取り戻したいと思う自分がいた お見合いで出会ったのだろう人々との 縁を思い出したい、そんな気持ちもあった それに ────── (115) 2022/05/30(Mon) 13:10:38 |
【人】 雨宮 瀬里貴方は、何を言おうとしてたんだろう。 手紙の最後に書かれている文章を目で追う。 それから何か ── 私たちは約束を交わしたような、 ………そんな気がずっとしていたんだ。 * (116) 2022/05/30(Mon) 13:10:56 |
【人】 雨宮 瀬里 諦めなかった。 記憶を喪ってしまったこと。 恋心を喪ってしまったこと。 わからなかったことが悔しかったんじゃない。 忘れてしまったことが悔しかったんじゃない。 1年経っているはずの私は随分と変わっていた。 以前のはっきりした記憶の中の雨宮瀬里は、 もう、私の要素のどこにもなかった。 これだけ人を変えてしまうほどの恋を。 これだけ私を変えてしまうほどの貴方を。 忘れたまま、生きていくということが 私にとって、望ましくない。 私の理性はそう思った。 (123) 2022/05/30(Mon) 15:08:11 |
【人】 雨宮 瀬里 それと同時に、理性じゃない部分が 貴方を喪うことを、恐れていた。 貴方と離れることを、強く拒んだ。 涙を流した理由は、 悲しみも悔しさでもなくて きっと貴方と離れることに対する恐怖だった (124) 2022/05/30(Mon) 15:09:00 |
【人】 雨宮 瀬里貴方に恋をすることが、 必然だったような、気がしていた。 貴方との記憶を喪っても、なお。 靄が晴れるきっかけは、 まだ私には、訪れなくとも。 週末のデートまでの日数を私は指折り数えている * (125) 2022/05/30(Mon) 15:10:26 |
【人】 雨宮 瀬里私にとって初めての週末デートの日。 その日私は家にいて、 貴方が来ることを今か今かと待っていた 靄はまだ晴れていなかった 貴方がすでに記憶を取り戻したことを私は知らない 私が、いつ取り戻せるのかも、分からない だから、貴方を迎えたときに 「 蓮司 さん 」と。私は呼んだ。 (128) 2022/05/30(Mon) 21:17:31 |
【人】 雨宮 瀬里「 待ってた。遠いところまでありがとう。 ……ご飯……かな?このあとどうする? 」 週末デート。この後いつもどうしていたんだろう。 私はこの町のこと、知っているようで何も知らない。 きっと住み慣れた町、だったはずなのに。 (129) 2022/05/30(Mon) 21:17:47 |
【人】 雨宮 瀬里私の瞳に映る貴方は、 もう一度私に恋をしてくれたひとのはずだった 貴方の瞳には、 上手くいったあとのお願い事も、 貴方との日々も、忘れてしまった私が映る だけどきっと貴方が誰であっても。 忘れてしまったころの貴方も、 これから先の貴方のことも、全部知りたいと私は願う。 * (130) 2022/05/30(Mon) 21:17:59 |
【人】 雨宮 瀬里貴方と過ごす時間なら、きっとどこだって楽しい。 …こんな気持ちで、今までの雨宮瀬里は、 貴方と一年も過ごしてきたのだろうか。 それとも恋矢を受けた恋と、 今の恋は、何かが違うのだろうか。 恋をしたことがない≠ゥら これが恋なのかどうかも確かめられずに 私は初めての週末デートを迎える。 そういえば。と、私がきっと提案したのは この町にきて貴方と最初に行った店=B 「 この間見かけて、気になっていたの 」 と、きっと私は一年前と同じことを言う。 それを私が気づいていないだけで。 ふいに囁かれた言葉には、 真っ赤になって、頷いた。 これを一年続けてきたというのか、私は。 (133) 2022/05/30(Mon) 23:19:05 |
【人】 雨宮 瀬里同じメニューを頼み、同じ感想をいう。 お店の人が「ああ、」という顔をしていたから もしかしたら何度も訪れたことがあるのかも、と そう気づいてからは、貴方に向かって苦笑した。 私たち、どうやら来たことがあるみたいね、って。 貴方が思い出したなんて知らないもの それからまた少しだけ車を走らせて といっても都会ほど、夜景が美しいわけじゃないから きっと、それはそこそこに。 (134) 2022/05/30(Mon) 23:19:22 |
【人】 雨宮 瀬里「 蓮司さん、 」 それはそれからだいぶ時間が経った後。 身体が幾度貴方を求めようと、 まだ記憶を取り戻す前の私は、 薄いタオルケットにくるまりながら 薄暗い部屋の中、肌を貴方に寄せている 「 あれから暫く、 記憶を思いだそうと、頑張ったんだ 」 どうだった?って聞かれたら 首を横に振るだけだけど。ご存じの通り。 (135) 2022/05/30(Mon) 23:19:47 |
【人】 雨宮 瀬里「 家にある服とか、 随分、昔の私と、違うの。 昔の私がどうだったか、っていうのは ……蓮司さんには、内緒。 今と全然違って、びっくりしちゃうから 」 知ってる、ってネタ晴らしされない限りは 私はその話はしないつもりで。 見てみたいとか言い出されても ほらまた、私は首を横に振るだけ。二回目。 (136) 2022/05/30(Mon) 23:20:02 |
【人】 雨宮 瀬里「 でもきっと蓮司さんが変えてくれたんだなあって だって変わった記憶が、ないんだもの。 つまらないことは案外覚えてるのよ。 蓮司さんと関係ないこと。 ここの町の人間関係だとか、 私の師匠にあたる人のおでこ掻く癖とか。 でも私の中から、蓮司さんとの記憶だけが すっぽりと抜け落ちちゃってるの。 」 多分きっと、貴方もそうじゃない?って同意を求める ……その返事がね、どうであれ。 私はそれ以上に、貴方に言いたいことがあったの。 (137) 2022/05/30(Mon) 23:20:16 |
【人】 雨宮 瀬里体を起こしてちいさな棚へと手を伸ばす。 一番上の引き出しを開けて、中から取り出したのは ── 見覚えのない、 赤 いマニキュア。 (139) 2022/05/30(Mon) 23:21:10 |
【人】 雨宮 瀬里「 陶芸をするときね。 ネイルって基本だめなの。 作品に爪が刺さったら台無しだし 納得いく作品は絶対にネイルをしてたら作れない だから、私は、これ、使わないはずなの でも憶えてないってことは、 貴方との記憶の何かに、関係するんだと思う ……って言われても困っちゃうか。 見覚え、ないよね。 あるはず、ないよね。 」 私は記憶を喪っているはずの貴方≠ノ問いかけた * (140) 2022/05/30(Mon) 23:21:24 |
【人】 雨宮 瀬里「 これを? 」 ベッドサイドにはちいさなランプが灯り 赤いマニキュアを僅かな光の中で翳してみせる 殆ど使っていないゆえなのかほとんど減っていない赤を そっと目の前で揺らして 「 似合うかな… 」 …などと。 どちらにしろ週末が終わったら剝がさねばなるまい。 一日、二日くらい指先が赤でも、 なんとなく悪くはない気がした。 (144) 2022/05/31(Tue) 8:42:13 |
【人】 雨宮 瀬里一糸纏わずベッドに寝転がりながら。 灯りは相変わらずあまりないまま 私は爪に色をのせる 「 不思議ね。 前もなんだかこんなことがあった気がしたの 暗い場所だとマニキュアが塗りにくい、って 私、なんだか知ってる気がする 」 大人になってからネイルなんてしたことないのに どうしてか、この感覚を私は知っている 「 でも、普段指に色がついていないから なんだか不思議な感じ。 まるで、別の私になるみたい。 」 色づき艶めく左手の小指と薬指。 二本塗って光に翳して、そうして私は首を傾げる (145) 2022/05/31(Tue) 8:42:38 |
【人】 雨宮 瀬里「 あれ?この赤、最近どこかで、 」 薄れてしまった記憶の中とかじゃない。 最近、どこかでこれと同じ色を私は見た気がする (146) 2022/05/31(Tue) 8:42:58 |
【人】 雨宮 瀬里『 私ね、変わろうと思って 』 それは確かに私の声。 透明な歌声、跳ねるような指の音。 ちいさな灯りが照らす暗がり。 明るい光が私の手元を照らしていて 私の指先が、ひとつひとつ色づいていく (150) 2022/05/31(Tue) 8:44:37 |
【人】 雨宮 瀬里赤く塗られた左手の小指と薬指 見慣れた部屋と匂い いつもの週末 肌で感じる貴方の体温 隣には恋をしている相手がいて、 私は、貴方に向かって 「 蓮司? 」 ……と。一言だけ呟いた。 * (153) 2022/05/31(Tue) 8:46:26 |
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