【人】 星集め サダル―後日談― 私は世間を少し甘く考えていた。 だって、読み書き計算ができる。魔法もできる。 特殊な形ではあったけれど店を経営していた実績もある。 それなら。旅という形にならなかったとしても。 別の場所で。別の街で。 商人の小間使いであったりメイドであったり、ギルドの職員などで働けるのではないか。 そう思っていたのだ。 (25) 2021/12/14(Tue) 22:34:53 |
【人】 星集め サダル私が。 普通の人間ならそうだったのかもしれない。 けれど、人形屋の店主だった私は、あの街でホムンクルスを売り過ぎた。 言われるがままに対価と引き換えに。 彼らは本当に様々な用途に使われていた。 その顔は、私と同じ。 だから。 どこに行っても。どこに行っても。 少し経てば知られてしまう。 エオスの裏街にある人形屋。その真実も、眉唾物の噂も。 (26) 2021/12/14(Tue) 22:35:13 |
【人】 星集め サダル私もホムンクルスなのか。 誰の所有物だ。 対価を払えばなんでもやるのか。 そんなことを言われて私は首を横に振る。 違う。わたしは、違う。 わたしは、違うの。 そう訴えても、今までしてきた事実は覆すことはできない。 もっと遠くへ。 もっと私を誰も知らない場所へ。 私はきっと。対価を間違えた。 あの店の中を整理するだけで、対価を支払ったと思ったの。 (27) 2021/12/14(Tue) 22:35:34 |
【人】 星集め サダル自分のしてきたことが、こんなに罪深いだなんて。 自分の顔が出回ることがこんなに恐ろしいだなんて。 私は、知らなかったの。* (28) 2021/12/14(Tue) 22:36:08 |
【人】 星集め サダル―後日談― たかを括っていた。甘くみていた。 だって、ほかの名前をつけられていたホムンクルスたちは、みんなマスターと共にそれなりに、或いはとても、幸せで平和だと思っていたから。 でも私は違う。 私だけが、違う。 名前を思い出した。 でもホムンクルスたちと同じ顔をして。そのくせ、ひととの混じり物で。 (51) 2021/12/15(Wed) 0:16:41 |
【人】 星集め サダルマスターもいない。だれもいない。 なのに。 上手くいくわけがないじゃない。 なんとかなるわけ、ないじゃない。 人間を擁護する者。その意味を持つ名前。 でも人間たちは、私がサダルと同じ顔をしていると知ると。 体に勝手に触ろうとする。 乱暴に扱おうとする。 目つきが変わって恐ろしくなる。 だから私は怖くなって。 街の人たちのことを思い出して。 私の名前を思い出させてくれた彼のことも。 私に愛称を教えてくれた彼女のことも。 帰りたい。 彼に、彼女に、会いたい。 でも、きっとそれは無理だ。 帰るには今来た道を戻らなくてはいけない。 それは本当に私にとっては恐ろしいこと。 それだけの恐怖が。私には感じられていた。 (52) 2021/12/15(Wed) 0:17:22 |
【人】 星集め サダル『…優しいんですね。マスター。』 彼女の身の上にあったことは薄らぼんやりとしかわからない。 けれど、決して幸せでは無いだろうということは察していた。 だから。 その言葉だけを告げて、マスターについて行くだろう。 遠い遠い教会にて。 助けを求めて逃げ込んで。 けれど、異端だ。生命の冒涜の証だと石を投げられ。 (54) 2021/12/15(Wed) 0:19:00 |
【人】 星集め サダル「…イクリールさん?」 うっすら瞼を上げる。意識が浮上してくる。 どうしてこんなところにいるんだろう。 彼女をぼんやりと見上げて。 でも。 隣にいる影にビクッと体が震えてしまう。 同じだ。 私と同じ顔がそこに在る。 (62) 2021/12/15(Wed) 6:14:59 |
【人】 星集め サダル「〜〜〜っ、…ありがとうございます。 すいません、わたし、…倒れてしまって。 助けていただいてありがとうございました。」 幸い、気を失っている間に魔力が回復したようだ。 握っていたものをそっとポケットにしまって。 痛むところに手をかざして回復魔法をかけていく。 ぽう、と掌の内側が白く光った。 (63) 2021/12/15(Wed) 6:15:16 |
【人】 星集め サダル「…イクリールさんは、どうしてここへ?」 私側から、弟妹たちへの情報はもうほぼ遮断されていたから。そうしたくて、そうしていたから。 彼女とルベドのやり取りや、そのルベド側の心中も全くわからない。 だから、首を傾げて。 真面目な顔で、問いかけていた。 あの時以前の頃のように。** (64) 2021/12/15(Wed) 6:15:33 |
【人】 星集め サダル「生命。大事にしないといけませんから。」 ホムンクルスには子どもはできない。その筈だった。 でも自分は真っ当なホムンクルスではない。 お腹をさする。確かにここに命がある。 歪んだ生命体の自分の中に、確かな命が。 「この子のためにも。平和に暮らしたいんですけど。 私のしてきたことは軽い事ではなくて。 だから、今は耐えないといけませんね。 …本当に、助けに来てくれてありがとうございました。」 (82) 2021/12/15(Wed) 17:32:44 |
【人】 星集め サダルお腹を庇いながらゆっくりと頭を下げる。 もしあのまま倒れたままだったら、自分も、お腹の子もダメだったかもしれない。 そう思うと、目の前に彼女がいてくれることが嬉しくて。 (83) 2021/12/15(Wed) 17:32:59 |
【人】 星集め サダル「ミートパイ…一緒に食べても良いですか? ふふ、あの日を思い出しますね。」 サダル・ミロンとして対話した最後の日。 その日を思い出して、私はほんの少しだけ笑うことができた。* (84) 2021/12/15(Wed) 17:33:13 |
【人】 星集め サダル―後日談― 「ありがとうございます。嬉しい。 そうですね、お酒はやめておきます。 もしあれば、白湯をくださいな。」 温かいものは心も身体も癒してくれる。 彼女のホムンクルスが食事の用意をしてくれて、久々に食べたミートパイに頬が緩んだ。 「美味しい。あそこのミートパイはやっぱり美味しいなぁ…。」 口にして。咀嚼して。 スパイスのよく効いたパイはお肉がしっかり詰まってて、時折感じる刻み野菜の存在がそこに優しい甘さを添えてくれる。 スパイスは香りを豊かにすると同時に身体に活力も与えてくれる。 ああ、美味しいなあ。 そう思って、懐かしさにも言葉少なになって。 (97) 2021/12/15(Wed) 20:22:49 |
【人】 星集め サダル「…近くまで、送ってくれませんか?」 浮かべたのは困り顔。 完全に帰ることはできない。 でも、今は離れ過ぎてしまったから。 少しだけ近くに戻るの、その為のお願い。 「エオスの近くの町か村か森で、 改めて暮らしていこうと思います。 それならイクリールさんともっとお話しできるし お手紙でもやりとりできるでしょう? エオスに戻ると。 私は私を見失ってしまいそうで。 置いてきた子たちの居場所を奪ってしまいそうだから。」 (99) 2021/12/15(Wed) 20:23:40 |
【人】 星集め サダル戻りたい。戻れない。戻らない。 そんな気持ちの揺れの中で。 だめ? と、彼女に問いかける私は、少しばかり苦しくて。 なんとかそこで、暮らしていけないから試してみよう。 真実を認めながら生きていくしかないんだと。 そんな気持ちで。* (100) 2021/12/15(Wed) 20:24:54 |
【人】 星集め サダル「一緒の家? でも、…お店とか、日銭、とか…。」 手を取られる。それを振り解くことはしない。 けれど、一緒に暮らすと金銭面ではどうなるのだろう。 完全に彼女を頼る形にはならないか。 それに。一緒に暮らせば、彼女の暮らしに影響させてしまう。なにより、目の前の彼を目にする機会が増えるだろう。 私が、私を見失いそうになる同じ顔を。 (116) 2021/12/15(Wed) 21:43:32 |
【人】 星集め サダル「…なら、頼って良い? でも、一緒に暮らすのは、ちょっと、怖い。」 怖いの理由。同じ顔をあまり見たく無い。 でもそれを言葉にするとこの子を否定することになるから。 (118) 2021/12/15(Wed) 21:44:21 |
【人】 星集め サダル「イクリールさんの家の隣に、家を建てるか、借りるか、します。 …そうしても、良いですか。 私も不安なの。怖いの。一人は、もういや。 何よりこの子のために平和な場所で暮らしたい…。」 うう、ぐすっ、と泣き声が響く。 両手でイクリールさんの手を握り締めながら泣くその姿は。 どこか祈りを捧げるような。* (119) 2021/12/15(Wed) 21:44:35 |
【人】 星集め サダル―後日談― 「私が…お母さん…。」 そうだ。私はお母さんになる。 イクリールさんの過去を知らないけれど。 だからそのことには何言えないけれど。 私は私のために。この子のために。 「…ありがとう、本当に、ありがとう…。」 (130) 2021/12/15(Wed) 22:36:48 |
【人】 星集め サダル私は彼女と額を合わせるようにして。 泣いて、泣いて、ひとしきり泣いてから彼女と共に帰路につく。 家の手配はすぐにはできなかったから、その晩は一緒に寝かせて、と甘えて。 次の日から手配して。彼女の店の隣、青い屋根の小さな家を作る。 仕事も探した。幸い、街の人はサダルを知ってるから。文書屋のお手伝いやイクリールさんのお手伝いをしてお金を得て。 少しずつ時は過ぎていく。 私のお腹は少しずつ満ちていく。 (131) 2021/12/15(Wed) 22:37:09 |
【人】 星集め サダルお腹の父親について。 聞かれなければ伝えなかったけれど。 聞かれたら隠すつもりもなくて。 十月十日経った頃のある日。 痛みに耐えながら、私はその人の名前を呼ぶ。 (132) 2021/12/15(Wed) 22:37:22 |
【人】 星集め サダル私の名前を思い出させてくれて人。 私に唯一の命を授けてくれた人。 その人の名前を呼んで。 涙をほろほろ流して。 そうして産声が響く。 生まれたのは男の子の双子。 我が子をこの手に抱いた時。 (133) 2021/12/15(Wed) 22:38:28 |
【人】 星集め サダル「そう思ってくださるのはとても嬉しいです。マスター。 でも、マスターの喜びが私の喜び。 マスターの望みが私の望み。 ですから、そういうことはあまり…なのです。」 そうやって気遣ってくれる優しさで満たされてしまう。 彼は成長し、ホムンクルスは見た目は衰えなかったけれど。 ちゅ、と彼に口つけて。 彼を優しく寝台へと押し倒す。 「ただ。長生きしてくださいね、マスター。 願いがあるとするならばそのくらいです。」 (157) 2021/12/16(Thu) 5:52:27 |
【人】 星集め サダルそれと、貴方の子を産んでみたかったと。 そう思い小さく口にしたのは、サーシャのことを感覚的に知っていたからか。それともどこかで聞き及んだからか。 ホムンクルスの身体ではできないこと、と、理解してはいるけれど。 貴方には貴方らしく生きていてほしいと、ベリルは教もまた彼を愛する。 さて、今日は抱こうか、抱かれようか。 彼の体をさすりつつ、微笑んだ。** (158) 2021/12/16(Thu) 5:52:42 |
【人】 星集め サダル―後日談― 無事に双子の男の子を出産して。 それからの毎日は怒涛の如く。 赤ん坊を育てるのは大変で、それが同時に二人なら尚更大変で。 イクリールさんの手助けもたくさん借りて。 ルベドを始めとしたホムンクルスたちの助けも借りた。 同じ顔を見るのが苦痛だ、なんて言っていられなかった。 子供たちは混乱するかもしれないから、多用はなるべく避けたけれど。 子供を育てながら冒険者ギルドの受付で働く事ができた。 子供が小さなうちはギルドにも連れてきたり、近場で預かってもらったりなどして。 そんなふうな毎日が、濃密で大変で。 自分が自分であるために。 私だけをみて欲しくて。 そんな事を言う暇がないくらい忙しかった。 親になるとは、そう言うことかもしれない。 (159) 2021/12/16(Thu) 6:01:39 |
【人】 星集め サダルそして、私はやはりホムンクルスでもあり、人間でもあるようだった。 今までがそうであったように、この体は成長はしない。一部分を除いて。 その一部分は、子育てをする際に必要だったからか、胸は少し膨らんだ、その程度のことだけれど。 そんなふうに過ごして、いつの頃だっただろう。 彼は、毎年エオスに来て、イクリールさんの所には来ていたのかもしれないけれど。 (160) 2021/12/16(Thu) 6:02:02 |
星集め サダルは、メモを貼った。 (a3) 2021/12/16(Thu) 20:14:05 |
【人】 星集め サダル―狂った錬金術師― ミロンが後を尾けられていたのだろうか。 >>186美しい魔族に馬乗りになられ刀の切先を突きつけられている。 その、狂った錬金術師は、その幼さを隠せない姿でぱちりと目を瞬かせた。 「断る。私に何の利もない。 殺したいなら殺せば良い。」 この肉体に未練は無いから。 この家の地下に、錬金術師の肉体のスペアが保存されている。 それを喪って本当に死んだとしても。 錬金術師はもう、構わないのだろう。 今は惰性でホムンクルスを生み出していた。 だって。サーシャはあまりにもサダルとは違った。 サーシャはサダルにはなれなかったのだから。 (195) 2021/12/16(Thu) 21:51:41 |
【人】 星集め サダル「でも。死ぬのなら、口付けで死にたい。」 そんなリクエストを許される身ではないけれど。 「…ホムンクルスが君に害を与えたのなら謝罪しよう。 それとも、正義感に駆られたのかな? あるいは贖罪。 それとも…まあ。 終わらせてくれ。」 侵入者の頬に手を伸ばし。 微笑みを浮かべる錬金術師。 「狂った恋心を。」* (196) 2021/12/16(Thu) 21:52:13 |
【人】 星集め サダルつまり。理解はしても納得が出来ず。 ゼロの可能性から一でも引き出そうと。 方向性を変え。アプローチを変え。目的すら見失いかけて。それでもやはり手を止める事ができなかった。 それでも、やっぱり。 手を止めることなど。できずに。 言葉を紡ぎ終えて、一拍。 体の内側で爆ぜるものがある。 心臓を貫き抱きしめる彼女も貫き。 体が震える。痙攣して。口から、体から、血を流し。 震える指先で彼女の頭を撫でた。 名前も知らない、でもサーシャを知る女性を。 (218) 2021/12/16(Thu) 22:55:58 |
【人】 星集め サダル「…一緒に死んで、くれ、るの…?」 それか、この程度では死なないのか。 こんな狂った錬金術師と死ぬなんて、そんな事はあり得ないだろう。 だから、離して良いのにと笑って。 指先をパタリと体の横に落とした。* (219) 2021/12/16(Thu) 22:56:12 |
【人】 星集め サダル―マスターと: sideベリル ―マスターと出会ってから、何年も、何年も過ぎて。 エオスから二日もあればたどり着くことのできる北の森で、ベリルはマスターと二人で暮らしていた。 今までの華々しいマスターの活躍とは違う、穏やかな日々。 木漏れ日のような、ひだまりのような、温かな時間が流れていく。 晴れの日も。雨の日も。春も、夏も、秋も、冬も。 魔剣を封印してからは静かに。穏やかに。 出会った日と比べて、ほぼ変化のない自分。 それに比べてマスターは歳を重ねて、人らしく老いていく。 髪が白くなっていたかもしれない。 皺も刻まれてきたかもしれない。 でも彼は、ベリルにとって変わらず大切なマスターだ。 (232) 2021/12/16(Thu) 23:48:45 |
【人】 星集め サダル―ギルドの職員― 一度、向日葵にギルド職員を案内して別れたが、私は少しだけ心残りがあった。 ルイージさんが死んだ。 それはどこでだったんだろう。 一度家に戻ったものの、子供たちが落ち着いたのをみて、向日葵の扉が開くかどうか気にしながら過ごして。 向日葵の扉が開いたらすぐにかけつける。 「あ、の、すいません。 ルイージさんはいったいどこで。 …お墓とかは、あるんですか?」 そんなふうに問いかけて。 その先、聞くことはできただろうか。** (254) 2021/12/17(Fri) 9:37:31 |
【人】 星集め サダル―『人形屋』その後― マスターを喪った後の人形屋は、もちろん売り物が無くなり店としての機能を失いつつあった。 今のサダル・ミロンは。そして元のサダル・ミロンであるサーシャは。それを寂しいと思いながらも受け入れる道を選んでいた。 契約済みのものはそれぞれ契約した相手の元へ。 まだ、未契約だった個体は眠らせてあげよう。 そして、店に残されたさまざまな素材は商業ギルドや冒険者ギルドに引き取ってもらった。 そうして裏街から一つの店が消えたのである。 (255) 2021/12/17(Fri) 12:28:19 |
【人】 星集め サダルそして、それらの取引で得た資金を使い、私は表通りに店を構えることにした。 『星集め サダル』という屋号の、アミュレットの店だ。 星のように淡く光る欠片。 それを連ねたり、並べたり、下げたりして。 このアミュレットは祝祭の時に特によく売れる。 このアミュレットは願い事を叶える手助けをしてくれるらしいと、若い少女たちに人気だ。 また、本当に叶えたい願いを知ることができる。 そんなふうにも言い伝えられているし、実際に軽い守護と導きの魔法がかけられている。 (256) 2021/12/17(Fri) 12:28:38 |
【人】 星集め サダル「ミロン、今日の店番をお願いね。」 今の店主は、二人。 姉のサーシャ・サダルと妹のミロン・サダル。 二人が若いままなのはこのお守りのおかげでは? と、密かに噂する子達はホムンクルスのことをきっとあまり知らない世代。 サーシャと、その二人の子供と、ミロン。 四人の姿を表通りに見ることができるようになるだろう。** (257) 2021/12/17(Fri) 12:28:53 |
【人】 星集め サダル―後日談― 「そうなんですか。冒険者とは…。」 確かに。冒険者ギルドで手伝いをした時にそんな話を聞いたこともある。 運が良ければ。仲間がいれば。遺髪や装備品を持ち帰ることはできたかもしれないし、墓も簡易ながらできたかもしれないけれど。 どうやら彼はそういう人はいなかったようだ。 私は彼のことを何も知らない。 あの一晩。その肌の熱さは忘れないけれど。 >>265名前を問われると一瞬戸惑った。 どうしたって、この名前を伝えるときは少し緊張する。 だって私だけの名前だから。 それを皆にも言えるような気持ちにしてくれたのはイクリールさんで。その名前を思い出させて刻んでくれた人こそ、ルイージさんだった。 胸元でキュッと拳を握りしめる。 (266) 2021/12/17(Fri) 18:51:37 |
【人】 星集め サダル「サーシャと言います。 ルイージさんとは、一度きりでしたが…。 ルイージさんは私の恩人なんです。 そして、…また、会いたかった。」 それに。言葉にしかけて、一度唇を引き結んだ。 自分の家の扉をちら、と振り返る。 一度大きく息を吸って。 (267) 2021/12/17(Fri) 18:51:54 |
【人】 星集め サダル「それに。あの子たちに。 お父さんはこんな人なんだよって。 話してあげられることが増えたら良いと思いました。」 いつか大きくなったら、尋ねられるのだろうか。 あの一晩のことしか私は知らない。 でも、それだけでも満たされた。十分だった。けど。 あの子たちに話してあげられることが増えたら良い。 今更だけど、もっと貴方のことを知れたなら。 そんな思いが、芽生えたのだ。 あの日溢れた涙の理由もあったのかもしれない。* (268) 2021/12/17(Fri) 18:52:12 |
【人】 星集め サダル―後日談― 「…そうでしょうね。」 私は少しの寂しさを覚える。けれど、それで仕方がないとも思えた。 過ちなんて言わない。それでも、あれは彼にとっては一夜の夢のようなものだろう。 私にとっては特別な名前も、きっと彼にとってはそうじゃない。 イクリールさんの方が、彼を知っていたんだろう。 だから、声をかけたとき、彼は私をイクリールさんかと聞いたのだ。 私とは、あれだけだから。 それでも、名前を思い出し、刻まれ。子供まで授けてくれた人だから。 私にとって彼は大事な存在の一人なのだ。 それでも。以前より複雑な精神性を宿していた私は。 ただ、寂しくて。困ったような顔になってしまう。 (272) 2021/12/17(Fri) 19:48:33 |
【人】 星集め サダル「そうだったんですね。本当にすごい人。 亡くなったのは残念ですが、私は決して、忘れません。 …忘れられません。」 あの時。もし引き止めていたら。 連れてったと我儘が言えていたら。 そんな、考えても仕方のないことを考えてしまう。 何か変わっただろうか。例えば、彼がもう少し生きていられたとか。 また、この街で「またね」を叶えることができていたとか。 じわりと目頭が熱くなる。 唇を軽く噛んで、それをどうにか堪えてると、笑った。 (273) 2021/12/17(Fri) 19:48:50 |
【人】 星集め サダル喜んでそれを受け取る。 そう言いかけて。 遺品だった、と我に返って言い直す。 一応、人が死んで喜ばないくらいの精神性への理解はあった。 「…お茶でもいかがですか。」 どこから来たのかは知らないが。 届けてくれた相手をこのまま追い出すよりはと。 前の店主に教えられていた茶を入れるために準備を始める。 湯を沸かし始めるその隣にはミートパイ。 あの日からサダル・ミロンの密かな好物となっていた。* (281) 2021/12/17(Fri) 21:09:09 |
【人】 星集め サダル「アールグレイです。苦手なら別のを用意しましょう。 アールグレイの花言葉は安らぎだそうですね。 私は存じませんが、私なりの餞として。」 そして、アールグレイをもう一人分。 それは、ここにいないルイージの分。 そうして自分の分をいれて。 「そう言えばお名前をお伺いしても良いでしょうか。 サーシャもお礼の手紙を書きたいと思うことでしょう。 私自身、貴方にお礼を言いたいのです。」 (297) 2021/12/17(Fri) 22:29:49 |
【人】 星集め サダル―マスターと: sideベリル ―愛して、愛されて、抱かれて、抱いて。 マスターの晩年には、頭を撫でてもらいながら彼に奉仕することが増えた。 マスターがもし勃たなくても、キスして触れ合って、穏やかに過ごしていく。 そしてとうとうその日を迎えた。 (313) 2021/12/17(Fri) 23:17:24 |
【人】 星集め サダル私は貴方に出会えて幸せでした、マスター。 きっとどのホムンクルスよりも幸せだったでしょう。 だって貴方に愛された。貴方を愛した。 それだけで素晴らしい奇跡ではありませんか。 貴方の旅にお供できてよかったです。 貴方の隣にいられてよかったです。 (314) 2021/12/17(Fri) 23:17:45 |
【人】 星集め サダルどうしても、ホムンクルスはマスターよりほんの少しだけ長生きになってしまう。 涙を流しながら、彼と共に眠りについた。 ただキスをしたくて、キスをして。 私は契約から解き放たれてしまうけれど。 このキスももう契約の意味を成さないけれど。 私は貴方と共に棺の中。 魔法を使い、地中に埋まろう。 瞳を閉じて。体を重ねて。貴方を感じて。 「今度マスターの隣に立つのなら。 同じ種族になりたいです、マスター。 愛しています、永遠に…。」 こうして、ベリルと名付けられたホムンクルスの生涯は幕を閉じる。 深い闇の中でも。マスターと共にあるのなら、それだけで幸せでいられたのだった。** (315) 2021/12/17(Fri) 23:17:59 |
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