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【人】 雨宮 健斗[ は、と気付けば机に突っ伏したまま寝落ちて いたらしく、スマホの時計はAM3:00という 恐ろしい時間を表示している。 やべえ、と呟いて身体を起こせば 分厚いコンクリートに囲まれた防音室は 静寂が耳に痛い。 固まった身体を伸ばして息を吸う。 生理的な耳鳴りが聞こえる。 ] (2) 2021/06/17(Thu) 19:42:41 |
【人】 雨宮 健斗─── 耳音響放射、だっけ。 [ 単調な音が不快な夜更け。 やりかけの課題を雑多に纏めながらスマホを弄る。 この時間にでも癒してくれる音はFMにあって、 アプリを立ち上げれば柔らかな声が鼓膜を撫でた。] 『みなさんこんばんは、いい夜ですね。』 (3) 2021/06/17(Thu) 19:44:29 |
【人】 雨宮 健斗[ ごくごく小さな音に設定しているスマホから、 しっとりしたジャズのメロディ。 とん、とん、とひとりでに動く指。 主旋律を拾ってばかりだった耳がいつのまにか 太く柔い低音を追うようになっていることに ふと、気付く。 うは、と笑って。 ] ─── 顔見てェな。 [ 閉まっていた蓋を開けて。 そっと、鍵盤に指を乗せる。 ピアノ弾きの端くれの自分から見ても羨ましく思う、 その手を思う。 触れたい なんて、夜更けにはやけに素直。 ] (4) 2021/06/17(Thu) 19:46:26 |
【人】 雨宮 健斗*** 『おつかれ。今日って練習? メシ食わねぇ?』 [ 滅法朝に弱い恋人が、どうにか目覚めているであろう 時間を待って、 待った割には愛想のないメッセージを送った。 夜更けには素直だったからと言って 顔が見てぇとか会いたいだとかなんとか、 思ってる通りの可愛いことはなかなか 口には出しづらい。 まぁ言ったところでまじまじと、 熱でもあるんじゃね?と返されそうな気は しないでもない。] (5) 2021/06/17(Thu) 19:47:51 |
【人】 雨宮 健斗[ 高校時代の親友、という肩書きが 恋人、に昇格して暫し。 超がつくほど過保護な母親が用意したマンションで 送る大学生活は、まぁわりに慌ただしい。 酷使を余儀なくされる左手はガチガチに 強張っていて推定握力5程度。 いででで、と唸りながら反対の手でぐにぐにと 押して解して。 ちょっと考えてメッセージを付け足せば、 さて返信はあっただろうか。 ] 『会えるんならそっち向いて出てくし、 うちでもいいなら今日小夜子(母)が 持ってきたカレーがある。』 * (6) 2021/06/17(Thu) 19:49:30 |
【人】 雨宮 健斗[ 思っていたよりずっと早くスマホが震えた。 自分はすっ飛ばした挨拶が、短くもきちんと並ぶ。 『おはよ』の三文字に唇の端が上がった。 今日は休み、と続くメッセージ。 高校時代から続いている彼のバンド。 ライブがあるとか近いとかそんな話があれば 聞いていたかも知れないから、 うまく休みが合ったことがラッキーで、 嬉しいと思った。 ] (15) 2021/06/17(Thu) 22:51:19 |
【人】 雨宮 健斗─── ……っ [ くっそ、と呟いて思わずスマホを握ったままの 腕で顔を覆った。 飾らない、剥き出しの感情は たった四文字のくせに破壊力がある。 自分もそう言えればいい、とわかっていて、 なかなか素直になるのは照れ臭いし 勇気がいるものだ。 ] (17) 2021/06/17(Thu) 22:54:06 |
【人】 雨宮 健斗─── ッ……この天然人タラシめ…… [ 負け惜しみを口にしながら、 情け無く熱を持つ顔で。 短い言葉を、スマホの画面がいい加減にしてくれと 言い出しそうなくらいには打っては消して、 消しては打ってを繰り返し、 ] うわ、 [ 最終的にやっぱり消そうと思った指が滑って、 送信ボタンを押していた。 ] (18) 2021/06/17(Thu) 22:56:25 |
【人】 雨宮 健斗[ 焦ったけれど。 送信を取り消すようなことはしなくて。 『待ってる』 と付け足した。 送ったあと、やっぱり少し頭を抱えた。 ] (19) 2021/06/17(Thu) 22:57:31 |
【人】 雨宮 健斗*** [ サボってきたツケが回って第一志望には 縁がなく、それでもなんとか引っかかった音大に 喜んだのは俺以上に母小夜子で。 寮でいいって言ってんのに張り切って 探してきたマンション。 防音室にはグランド置かれてました。 マジかよ、過保護半端ねぇ。 ちょいちょいやってきては食事を持ってきたり 掃除をしていく母親に辟易しつつ感謝しつつ。 おかげで今日は部屋は綺麗。 タッパーに入れられたカレーを冷蔵庫から取り出して。 換気扇の下で、ようやく煙草に火をつけた。]* (20) 2021/06/17(Thu) 22:59:55 |
【人】 雨宮 健斗[ もともとそんなに食べる方ではない、 そのことを誰よりも知っているはずの母親が 置いていく料理の数々は、確実に自分一人では 食べきれない量。 矢川くんにも、食べてもらってね。 お決まりのセリフとともにカレーのタッパーは 大きいのが二つ。 薄いグリーンのガラスの器には小さなサラダ。 ラップの下で赤いプチトマトがころんと並んでいる。] (27) 2021/06/18(Fri) 0:36:26 |
【人】 雨宮 健斗[ 近しい距離感に長い足。 その表情を伺い見ればほわりと緊張が緩んで、 正しく笑みが湧き上がる。 彼の背後で扉が閉まれば、部屋の空気が揺れて カレーの匂いがふわり舞った。 彼の手の荷物から、種類の違ういい香りが 細く立ち上った気がして、すん、と鼻を鳴らす。 靴を脱ぐ彼から荷物を受け取ろうと手を伸ばして 気使わなくていいのに、と告げた。 どうにも緩む表情筋に諦めて逆らうのをやめれば 己には照れた笑顔が顔中に浮かんでいるだろうか。] (29) 2021/06/18(Fri) 0:40:22 |
【人】 雨宮 健斗[ 一人暮らしの息子の家にちょくちょく訪れる 母親という生き物が、気になることくらい分かる。 彼女いないの?なんて。 なんでもない風を装って問いかける光景は、 別にうちだけのことじゃないはずだから。 殺風景な部屋。 もともと物に興味はない。 テーブルと、ソファと、テレビと、ベッド。 女っ気がないことに母は安堵の息を吐いている、 なんてことはあるのだろうか。 ] (42) 2021/06/18(Fri) 12:49:07 |
【人】 雨宮 健斗[ いいとこのお嬢さんだった母。 何不自由なく育ち、父親と結婚して、 波乱とは無縁の人生を送ってきた彼女が 性的マイノリティな世界についてどう考えているか、 己にはわからない。 ただ数年前の事故で、変わってしまったのは 己の未来だけではないのだと気づいた自分には 母親の夢も己が奪ってしまったのではという 負い目がいつもどこかにあって。 ] (43) 2021/06/18(Fri) 12:51:12 |
【人】 雨宮 健斗[ これ以上泣かせることはしたくねぇなぁとは思う。 けれど目の前でわかりやすく表情を綻ばせる この大切な人のことだけは、 どうしたって譲る気はないから、 どうにか理解してもらえればいいなと願っている。] (44) 2021/06/18(Fri) 12:52:42 |
【人】 雨宮 健斗……先に会いたいっつったのは、そっち。 [ 笑って揶揄い返してやろうとしたのに、 どこか拗ねたような、不貞腐れたような声になる。 ずかずかと歩いてキッチンに立ち、 対照的な動きで紙袋をそっと置いた。 ] (47) 2021/06/18(Fri) 12:56:42 |
【人】 雨宮 健斗[ ほんの二日前にあったばかりなのに、 久しぶり、なんて。 思わず口から溢れてしまったのは紛れもなく 自分なのでこの場合は仕方ない。 会いたい、どころではないのだ、と。 言えばどんな顔をするのだろう。 ] (48) 2021/06/18(Fri) 12:57:42 |
【人】 雨宮 健斗[ 伸ばした手は避けられることなく、 傾げた首を追ってひたりと頬に触れた。 しなやかで、みずみずしい肌。 澄んだ瞳が揺れる。 頬に触れた掌に一度ちらりと彷徨って、 戻った視線が己と絡んでからまた、僅か遠ざかる。 被さるように彼の手が重なった。 ゆっくりした動きで絡め取られていく指の感触。 そちらに落ちた綺麗な瞳を見つめたまま感じていた。] (67) 2021/06/18(Fri) 21:10:11 |
【人】 雨宮 健斗…… なんも。 [ 込み上げる感情を抑えると声は掠れた。 距離が詰まる。 身体を折るように、額が触れる。 こつ、と微かな骨に響く音。 炊いたかぼちゃの、甘辛い匂い。 穏やかな海を思わせる瞳が揺らめいて、笑んで。] (69) 2021/06/18(Fri) 21:11:26 |
【人】 雨宮 健斗[ 長い足がまた一歩、距離を詰めるのと同時に、 顔を上げる。 掠めるだけの口付けを。 ままごとのような、微かな唇を、そっと落として。]* (70) 2021/06/18(Fri) 21:12:14 |
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