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【人】 ツァカリ[工房から離れたあとは 森の外で待っていた女衆と合流して 近くの町に寄り土産などを買うと、 里に向けて移動しながらの遊牧を続けた。 その間、乳搾りを覚えた。 本来なら女の仕事である。 やらせてくれと頼むと色めき立った彼女らだが 一人で世話になる時のためだと知らせると、 ひと月以上里を不在にすることについて 目に見えて落ち込んでしまい、少々参った。 未婚の男女にとって遊牧の旅は 互いの中から伴侶を決めるためのものでもある。 男は十五、女は十二には結婚をする。 子を産める女の子は宝物だから、 早めに男がついて大切にするのだ。 だけど自分にはこれまで特別に そうしたいと思える相手はいなかった。 どの娘も大切だ。男だって。ともすれば、一族以外も。 等しく大事にしなければならないと 半ば使命感のように感じていた。] (0) 2021/11/16(Tue) 20:18:57 |
【人】 ツァカリ[一週間ほどかけて里に帰れば、 長老に挨拶して、 冬支度の指示を出し、 自らも作業をしながら過ごした。 必要なだけの家畜を潰し、 肉を捌いて、倉庫に吊るす。 天然の冷凍庫で独りでに凍って、 春になれば乾燥した風で干し肉に変わる。 新鮮な肉も良いが、独特の旨味が出て良い。 残りの家畜は小屋に入れる。 寒さに身を寄せ合い、 自然に繁殖を行うようになる。 装具士殿が家畜を受け取らなかったから、 冬が解けたら沢山の仔が産まれるだろう。] (1) 2021/11/16(Tue) 20:19:57 |
【人】 ツァカリ[だから、整形中の腕を意識するたびに思い出した。 傷口に触れられたときの、 身体の奥が騒ぐような心地と。 優しく撫でられたときの、 内側から暖かくなるような心地を。 構われるのは元来好まないのだが、 そのうちに、教えを乞う以外でも 彼にならされても良い……、 して欲しい、ような気がしてきた。 そして自分も、彼に触れてみたい。 許されることだろうか……?] (3) 2021/11/16(Tue) 20:27:57 |
【人】 ツァカリ[────この想いは、 職人と依頼主という枠組みの内側には 到底納められないものだ。 そのことに気がついたのは、 出発の何日前のことであったか。] (4) 2021/11/16(Tue) 20:28:39 |
【人】 ツァカリ[直ぐにでも馬を走らせて 逢いに行きたくなったが……、 他の者の為の仕事をしている彼の 迷惑になりたくないという思いが 自分を里に留まらせた。 それはもう、先日の去り際のように 他者の幸福を願う純粋な理由だけではなくて 彼の心を得たいから 気分を害しうることをしたくないという 打算めいたものがあった。 ────自分にもこんなに世俗的な欲が あったのだと戸惑う。 だけど矢張り、……悪い気分ではなかった。] (5) 2021/11/16(Tue) 20:29:58 |
【人】 ツァカリ[────…二週間後。 森奥の工房を再び訪れた。 数頭の家畜を連れて。 数が少ないから統率のための歌は無しだ。 動物たちはとても従順で ついていくべき長から目を離すことなく ぴたりと後ろを走ってきていた。 夜明け前に出発し 中途、三度ほど家畜の足を休ませたが あとはずっと移動だ。 それでも到着した頃には、 日は随分と傾いてしまっていた。] (13) 2021/11/20(Sat) 11:16:58 |
【人】 ツァカリ[馬からヒラリと降りる。 装具士殿の姿を見つけられれば、 微笑み、悠然と歩み寄るだろう。] ダアト殿。元気にしていたか? なあ、これを見てくれ 帰り際に貴殿が着ていて とても格好が良かったから そこの町で買ったのだ 見た目以上に温かいのだな 俺にも似合うだろうか? [挨拶もそこそこに、 片腕を広げ、衣装を見せつけようとする。 黒い外套だ。 キラキラと目が輝いているのは、 慣れぬ服にはしゃいでいるのではない。 全く同じものとはいかず細部は違うだろうが 目の前の彼と大体、揃いだからだ。*] (14) 2021/11/20(Sat) 11:17:04 |
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