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【人】 時雨[ 娘は捜索を任せてくれるようだ。 目の不自由な身の上では、 足元をとられてしまわないか、 と 娘を少し案じたものの。 ――僕は人と長く関わるべきではない。 だから、彼女に背を向けた。 そういえば、名前を聞いていなかった。 歩み出した足を一度止めて、振り返る。 けれどもう、祭りは始まるのだろうか。 人の波に飲まれて、 彼女を見つけることはできなかった。 コマを連れ帰ることができれば その時にでも聞けばよいかな。 ふたたび社の方角へ目を向けた。 ] (3) 2024/04/04(Thu) 14:45:41 |
【人】 時雨[ それに、 僕は彼女に、きっと僕の名前を名乗れない。 目の見えない彼女はきっと他の感覚には鋭敏だ。 時雨を名乗っても、 きっと何か綻びがでてしまうだろうから ] (4) 2024/04/04(Thu) 14:46:21 |
【人】 時雨[ 僕は犬は少し、苦手だ。 子供の頃、時雨に懐いた犬に 追い回された挙句押し倒されたことがある。 コマは小さいと言っていた。 小さな犬なら なんとか、――なんとか? 大丈夫かなぁ……;; というよりも引き受けてしまった以上、 どうにかするしかない! 犬の潜むような場所に見当はつかないけれど とりあえず緑の多い方はこっちかな。 すすもうとして進行方向、目線の先 ] (5) 2024/04/04(Thu) 14:47:02 |
【人】 時雨[ けれど祭りの効果なのだろうか? 誰もその狐面を気にしていない。 目線が合わないから? 人波がとても多いのに。 僕にはぶつかってすれ違ってゆくものすらいるのに。 なぜか僕とその者の対角線は わざと避けられているかのように人がいない。 僕とその者を結ぶように、一筋の道ができている。 ] (7) 2024/04/04(Thu) 14:49:19 |
【人】 時雨―――、 [ 頬が熱い気がするのは気のせい? わからない。 このままあの者の側まで、行ってもいい? ――わか、らない。 でも ] (8) 2024/04/04(Thu) 15:01:25 |
【人】 時雨[ 結ぶ人波のない対角線を、 僕は真っ直ぐ、その人物の方まであるく。 こんなに人がいても、道筋にはだれもいない。 ] すみません 知り合いの家族の小さな犬 コマといいます 迷子になってしまった子と その子がとてもよく似ています 一度だけ、僕に確認させてはいただけませんか。 [ 狐面は、こちらを見てくれただろうか。 ]* (9) 2024/04/04(Thu) 15:08:01 |
【人】 時雨きゃっ……! [ 男の指先に降った稲光に驚いて 小さく悲鳴をあげる。 しまった。と口を塞ぐは癖のようなものだ。 驚きの隙間、稲光を纏った姿が見えた。 狐面からは表情は伺えはしない。 ――ただ。 ] (15) 2024/04/04(Thu) 21:50:35 |
【人】 時雨[ その瞬間、動けなかったのは 見惚れていたからというのが、 何よりも、正しい。 雷を纏う姿が、――雨を呼ぶ仕草が、 ただ、ただ。 僕の視線を奪ってゆく。] (16) 2024/04/04(Thu) 21:52:57 |
【人】 時雨コマ…… [ 犬を案じた声は、音にならなかった。 激しい雨が全てを洗い流してしまう。 髪が、着ている衣服が、肌に纏わり付く。 僕という、人間の輪郭が浮かび上がる。 歩いてくるのは見えたのに。 逃げようと思えばきっと逃げられたのに。 未だその視線の先が僕を見ているかも、 わからないのに。 男の大きな手は、 いとも簡単に僕を抱きとめてしまった。 ] (17) 2024/04/04(Thu) 21:54:38 |
【人】 時雨[ 雨で痣があらわになる。 僕はそれにも、気づいてはいない。 されるがままに顎は男の方へと向けられている。 ] 迎えに……?なんのことだ お前は誰だ? [ 睨みつけた、つもりだったのに。 ] (18) 2024/04/04(Thu) 21:58:01 |
【人】 時雨[ きっと僕が惚けていたのは束の間だ、 そのはず。 雨の雫が水溜りに落ちて、波紋をつくりだすような それくらいの刹那のはずで。 なのに、だ。 僕ば今自分の置かれている状況を、 何ひとつ理解できそうにない。 ] (25) 2024/04/05(Fri) 23:22:05 |
【人】 時雨かわいい……? [ 不平不満ではない。 ずっと時雨には必要のなかったものだ。 ゆえにつまり何がおきているか、わからない。 村にいる他の娘をかわいいと思ったとしても 僕自身に使用される言葉ではなかったはずだ。 たしかに僕は女物の召物を纏っている。 生前の母が唯一、僕に遺したもの。 一度も着せてやれなかった、と。 母が似せて作った学生服ににたもの。 僕は ただそれを纏っただけ。 村の娘達はもっと、きちんと 美しさを身に纏っている ] (26) 2024/04/05(Fri) 23:31:23 |
【人】 時雨ゎ [ 考える僕をよそに 狐面は雨に濡れた僕を捕まえた。 雨が降り注いだ、そのあとは。 たとえ僕が消えても、 その後にはなにも 残さない。 雫の跡ですらも。 ] (27) 2024/04/05(Fri) 23:33:47 |
【人】 時雨ひゃ、 [ さっきから僕は悲鳴ばかりだ。 見たこともない場所に連れてこられたと思ったら、 今度は頭を男の身体に押し付けられた。 僕とはちがう。当たり前だ。 当たり前ではあるけれど、……それもある、けど。 僕はこんなに至近距離で、 他の人間の鼓動を聞いたことはない。 神立と言った。 それしかわからない。のに。 濡れた服は、とても、――寒いのに。 僕の頬が痛いくらいに熱い。 ] (28) 2024/04/05(Fri) 23:34:27 |
【人】 時雨[ ようやく、僕の体は地についた。 視界いっぱいだった他人の身体は離れ かわりに二人の人間がいるには余りあるほどの部屋と 目がひとつしかないニンゲンと、 首の長いニンゲンが目に映って、] 妖っ……?! [ まただ。 いけない、と、口を押さえてももう遅い。 神立は。 神立は? 相変わらず狐面からは何を見ているかも、 解らない。] (29) 2024/04/05(Fri) 23:35:07 |
【人】 時雨――そうか、ぼくはもう食事になるのか。 [ どこかで望んだ事なのに。 いざ来ると あっけないのだななどとも 先ほどまでそこにあった体温がなくなって。 濡れた衣服がぽたりと 村では作り出すことのなかった、 水の染みをつくりだす。 ] (30) 2024/04/05(Fri) 23:40:11 |
【人】 時雨[ これからどうなるのか 示されたのは大きな……風呂? ここに、ひとりで? 僕が入る? ] まっ、て。 僕一人でどうすればいいのか わからないんだ [ 濡れた服のまま、神立の手を掴んだ。 雨の中歩いたし、 神立も僕を運んだのだから、濡れてる ]* (31) 2024/04/05(Fri) 23:45:48 |
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