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【人】 商人 J[ 長い年月を経てこの街は大きく発展した。 街道は北と南と西に延び、太陽が上る街の東には広大な海原が広がっている。即ち、全ての方角から人と物が流れ込むのだ。 そんな街は、歴史によると小さなバザーから始まったというが、今や大陸でも屈指の経済規模を有している。 ─── 貿易都市 或いは、自由都市と呼ばれる街。 ここには封建的な領主は存在せず、商人たちの寄り合い、つまり商人ギルドであるが、数年置きに選出されるギルドの代表が市長≠ニ呼ばれ、ギルドが実質的な統治機構となっていた。 ギルドの法が街の法であり、もちろん警察機構や裁判所などもあった。 軍事力は商人たちの私兵や傭兵に頼っていたが、この街を取り巻く政情は各国の絶妙なバランスの上に保たれ、確かな平和を維持していた。] (8) 2022/03/13(Sun) 10:47:53 |
【人】 商人 J[ そんな貿易都市の片隅。 治安のあまり良くない区画のその片隅に男は居た。 ケリオス商会のジュダス。 それが男が公の場で名乗る名だった。 取るに足らない小さな商会。 ギルドの末席にあり、収める組合費も小さく受ける恩恵もまた小さい。 扱う商品も何処にでもあるようなものばかり、使い捨ての武器であったり道具であったり、作りの粗末な日常品であったり。 それにしては商会の代表である男の身なりは、ギルドの上座に位置する商人たちと遜色のないものであった。] (9) 2022/03/13(Sun) 10:48:23 |
【人】 商人 J[ 繁栄という光の裏には澱んだ影がある。 ギルドの法、ギルドの目が届かぬ場所に、街の片隅に、色濃い影が落ちている。 所謂、闇商人。 物も人も情報も、明るい表通りを歩くだけでは手に入らないもの。 それらを扱う者たちはそう呼ばれていた。 彼らはギルドの締め付けを掻い潜り、しかしてギルドもまた本気で彼らを取り締まろうとはしないまま。 必要なのだ。 彼らのような存在もまた。 混沌であるよりも、悪であることの方が有益であるのだ。 ケリオス商会もまた、闇商人のひとつであった。] (10) 2022/03/13(Sun) 10:48:43 |
【人】 商人 J[ 金属の仕込まれたブーツの底が市場の石畳を叩く。 燻んだ銀というよりも灰色の髪、襟の高い黒い衣服に身を包んだ男は、色の濃い眼鏡をかけておりその奥の瞳を窺い知ることはできない。 薄い笑みを浮かべながら男は歩いていた。 それは別に面白い何かがあるわけではなく、そうしていることが男の常であった。 市場にはよく足を運ぶ。 それは市場の動向を知るためであり、商品≠フ仕入れのためでもあった。]* (11) 2022/03/13(Sun) 10:49:05 |
【人】 商人 J[ 男はひとり、雑多に人々が行きかう表通りを歩く。 後ろに手を組んで、薄く笑みを浮かべながら。 表の仕事は所詮小さな商売だった。 これといって力を入れることも無ければ、手を広げることもない。 だからこうして商品を物色するのは主に闇商としてのこと。 商品とそれを売る者買う者。 この街を訪れる人間は百戦錬磨の商売人から歴戦の傭兵もいれば、右も左もわからないような新米や鴨にしかならない駆け出しもいる。 それを見抜く目こそが商売人としての才覚。 男はその才覚に関しては自信をもっていた、それこそ表の商売だってその気になればそれなりの成功を収められるだろう。] (15) 2022/03/13(Sun) 16:49:27 |
【人】 商人 J[ だが、男にその気はなかった。 仮りにあったとしてもそれは難しいことなのだ。 暗部を知ったものが、それを切り離して表に出ることは想像するよりもずっと難しい。 それこそ、全ての財産、そして自分の命を秤に賭けることにだってなりかねない。 だから、こうして表通りを歩くときはどうしても自分は異分子であると感じている。 もちろんそうであるという空気を纏っているつもりはないが。 活気に溢れ人々の笑顔の多いここよりも、街の片隅のほうがずっと居心地良く感じている。] (16) 2022/03/13(Sun) 16:49:46 |
【人】 商人 J[ そんな風に歩いているときだった。 目を引いたのは真白の髪の女だった。 ドレスのような衣服に鎧を身にまとう女。 冒険者のような出で立ちに見せているのだろうか、だがその身にまとうものの質は見逃せない。 目利きができるものならばこそだが。] 『美しい装飾品を扱う店をご存じないかしら』 [ この街の者ではない。 それは立ち振る舞いからも察することができる。] (17) 2022/03/13(Sun) 16:50:18 |
【人】 商人 J[ すれ違うとき、その顔に目を惹かれた。 美しい顔立ち、まだ幼さを残すそれは年若く思わせた。 そんな顔に張り付いた冷たい表情。 そして右目を隠す真白の髪と鉄製の眼帯。 それは、鎧を纏っていてさえも良家の人間と思わせる姿にあって、一際異彩を放っていた。 護衛はない。 ひとりで行動しているのが、そのままひとりでこの街に滞在していることにはならないが。] ( 訳あり……か ) [ それがどの様な事情かはわからないが、それは決して男にとって悪いことではなかった。] (18) 2022/03/13(Sun) 16:52:01 |
【人】 商人 J[ 蜘蛛を仕留めるにはどうしたらいいのか。 それは獲物を引っ掛けてやればいいのだ。 張り巡らせた白い糸の罠に、それに牙を立てようとした瞬間こそが機会となる。] (19) 2022/03/13(Sun) 16:53:48 |
【人】 商人 J[ 男はその気配をそっと人混みの中へと溶け込ませる。 充分な距離を保ちながら女の背中を追う。 男とは違って目立つその美しく白い髪。 追うこと自体は難しくはないだろう。 女がある程度の警戒をしていたとしても、それが特別なスキルでもなければ。]* (20) 2022/03/13(Sun) 16:57:11 |
【人】 商人 J[ そんな落ち着いた空気を破るように、女の耳に乾いた木を叩く音が三つ、その耳へと届いた。 扉の外にいるのは灰色の髪をした男がひとり。 女に護衛はない。 距離を取り、自分の他にも女を探る視線が無いか確かめたが、女に好奇以外の目が向けられてはいなかった。 女がひとりで宿を取っていることもわかった。 故に、接触することに危険はない。 少なくとも自分の側にはないと、そう男は判断した。 コン、コン、コン と、再び三度扉を叩く音。] (25) 2022/03/13(Sun) 20:33:03 |
【人】 商人 J[ 女が探しているものは装飾品の類。 それは彼女のあとを尾けることでわかってことだった。 だが、それは本当のことではないだろう。 彼女の金銭感覚が庶民ではないとその行動が示していたが、ならば金に飽かせて買い漁ればいい。目当てのものがあるときても、宝石商の元へ向かえばいいのだ。これ見よがしに金を持っていることを知らしめることはない。 つまり、女には何か目的があるということ。 それは決して表では解決できないことなのだ。 何を求めているのかはしらないが。 身なりのいい金を持った若く美しい女がひとり、闇商人である男が目をつけるのは必然であった。] (26) 2022/03/13(Sun) 20:33:22 |
【人】 商人 J[ 高級宿というわけではないにしても、フロアひとつを貸し切るなどどれほど金を無駄遣いするのだろうか。 そうしてまで何を探しているのか。 男にわかることは、女が金の使い方も、手の伸ばし方も知らないということ。 薄く浮かべていた笑みが大きく三日月を描く。 これは滅多にない、楽な仕事だと、そう深めた笑みを元の薄笑みに戻すと男は後ろに手を組みながら女の返事を待った。]* (27) 2022/03/13(Sun) 20:34:22 |
【人】 商人 J[ 部屋の中から女の声が返る。 緊張を孕む音、それはそうだろう。今この場で女の身を守るのは女自身でしかないのだから。 だが男はすぐに答えない。 不安と緊張と、想像を掻き立てる時間を与える。 そうして、たっぷりと呼吸三つ分の間を空けて答えた。] ケリオス商会と言います。 [ 漸く答えたのはそれだけ。 また沈黙を以て間を空け、女の反応を待った。] (31) 2022/03/13(Sun) 21:29:39 |
【人】 商人 J[ さて、実際はどのような女か。 ひとりで裏道に足を踏み入れようとするのは豪胆の証か、それともまるで世間を知らないのか。 表と裏の違いがわかる程度には何も知らないということはないのだろう。 だが、場数を踏んでいるとは想像しにくい。 余りにも警戒が薄すぎる。 何か、身を守る術があるのか。 たとえば魔術師の類だとか、或いは奥の手のようなものが。 力任せというのは上手くないだろう。 そのような手を使うことはめったにないが。 いずれにせよ、容易な相手ならばそれに越したことはない。]* (32) 2022/03/13(Sun) 21:30:46 |
【人】 商人 J[ 失ったものを取り戻すことはできない。 神という存在がいて気まぐれに奇跡でも起こさない限りは。 それが、たとえ些細なものでも、命にも換えられない大切なものでも。 だが、奇跡というものは偶にやってくる。 気まぐれな神がこの世界に存在しなかったとしても。 奇跡というものは起こるのだ。] (37) 2022/03/13(Sun) 23:24:22 |
【人】 商人 J[ 扉が相手現れた相手、頭ひとつ分は小さな女を見下ろす。 真白の髪、鉄の眼帯。 愛想のない顔は、まるで人形のようだった。] ええ。 では、遠慮なく。 [ 女の薦めるままに部屋に中へ進む。 男が立ったのは窓際であり、椅子に座ることはなかった。 窓から差し込む光を背に、女へと向き直る。] (38) 2022/03/13(Sun) 23:24:32 |
【人】 商人 J[ 演出は大切だ。 特に場慣れしていないような者を相手にするときは。 光を背にしたまま、男は名乗りを上げる。] ケリオス商会のジュダスと言います。 身分証を確認しますか? [ ギルドが発行する公の証明書。 それを差し出すが、女がそれを確かめるには歩み寄ってこの手から受け取らラなければならない。]。 どうぞ。 [ 気丈な振る舞いも平静な表情も、その一枚下はどうなのだろうか。] (39) 2022/03/13(Sun) 23:25:04 |
【人】 商人 J[ 強い緊張は、極度の疲労を生み、疲労は思考を鈍らせ判断を誤らせる。 相手をそう陥らせることは交渉において非常に優位となるだろう。 女が確かめようと、そうでなかろうと、口調に緩急を付けながら、男は言葉をつづけた。] もちろん本物ですよ。 それだけではない、ということですがね。 [ 女が欲しているのがただの装飾品ではないということ。 そして裏の人間を探しているのだということ、それを、知っているぞと言外に伝えた。] (40) 2022/03/13(Sun) 23:26:29 |
【人】 商人 J探しているものが……あるのでしょう? [ 口元の薄い笑みを崩さぬまま、男は女を観察する。 色濃い眼鏡の奥で、見えない男の瞳が女を値踏みしていく。]** (41) 2022/03/13(Sun) 23:26:43 |
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