情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新
【人】 奏者 イルムヒルト― 後日譚 ― [寝台で眠る壮年の男を、女は見ていた。 時折サイドテーブルに置かれたハンカチで汗を拭き 時に柔らかな小夜曲をリュートで奏で あの美の競演から数日 かの人は未だ目覚めない。 刃の美、音の美。美へ飽くなき欲を持つ者同士の交わりは 互いの美を喰らいあい、昇華しあった夢のような時間。 あれ程に昂り、鮮やかで、満たされる時間を 過ごせた幸運を噛みしめ。 持病があるのだろうか、或いは。 満足そうな顔をし、体調を崩し未だ眠る男もまた そうであったのだろうか。満足する時間を――……] ……まだ、ですわ。 目を覚まして まだ、満足してませんの。 ただ、一緒にいたいのです [もしも美の女神がいるのなら。1つ願いが叶うなら願うのは。] (3) 2022/11/28(Mon) 19:47:08 |
【人】 奏者 イルムヒルト[幾夜、付き添い看病をしていたからか。 貴方の寝台に上半身を突っ伏して 転寝をしかけていた己の意識を浮上させたのは、 名を呼ぶ声と、髪に触る指の感触で。] ――……シメオン、さま。 [思わず縋るように、 抱きしめることは許してもらえるでしょうか。 視界が潤むままに、 おはようございます。 と囁く私の声はきっと震えながらも、嬉しそうな音で。 ――まだあなたから、すべての美を頂いていません。 これからのあなたの、美しい生き様を。 だから、強欲な私はまだまだ満ち足りませんの。 貴方もそうであると聞けたなら。 眦に溜まった雫が一筋、頬を流れたことでしょう。*] (4) 2022/11/28(Mon) 19:47:49 |
【人】 奏者 イルムヒルト[足りません。まだまだ、足りないのです。 命だけでなく、未来も。あなたのすべて。 頂くまでは足りません。 貴方だって、足りないでしょう。 私の時間を未だ、全て渡せていない。 まだ喰らう物は、残っているのです。 ――強欲な貴方。] ……寝坊、なんて。 よくお休みになっておられたから。 寂しかったわ? [生まれも、境遇も。歩んだ道程も、性別さえ 違う私達の共通点が。 私達の魂を屈み映しにしたかのように あなたでないとだめなのだと、訴える。] (9) 2022/11/28(Mon) 21:57:22 |
【人】 奏者 イルムヒルト だって、だって。 [溢れる雫が子供のように、止まらないわ。 ――寂しさじゃなく、嬉しさで。 その感情の名前を、今迄抱いたことがなかったそれを ――名付けたのは果たして、何方が先なのでしょう] (10) 2022/11/28(Mon) 21:57:34 |
【人】 奏者 イルムヒルト[貴方に、飢餓を自覚させられた。 私の音。飽くなき美への渇望を。 貴方に、美を見た。 その鮮烈な、ただひとつを極める道を歩む崇高さ。 貴方に、花開かれた。 女であることを、身をもって知った。 女は、そして限りない欲を男へ向ける。 心のまま求めたのは、貴方だけ。 その心の名は。] (15) 2022/11/28(Mon) 23:06:11 |
【人】 奏者 イルムヒルト[その心が生まれたのも、育まれたのも、 貴方であったこそだった。 喰らいながら喰らわれて。 それに歓びを見出だしたのは、 自分の美を磨かれるだけではなく。 貴方に見つめられ、触れられるからでもあったのだと。 頬を撫でる手に、自覚する。 何時か貴方は私のもとを去るのは理解している。 年の差は、神様でさえどうしようもない。 でも、貴方の残りの人生ごと 私は、ほしい。] (16) 2022/11/28(Mon) 23:06:51 |
【人】 奏者 イルムヒルト[終わりがなければ次はない。 永遠に続く命はないのを知っている だからこそ、貴方との一瞬が。 ひとつひとつがいとおしい。 終わりの続きも、貴方とならば。 貴方とだけ。 私は紡いでゆきたいのです。] (32) 2022/11/29(Tue) 0:06:54 |
【人】 奏者 イルムヒルト[命が尽きるその日まで、 戦い続ける貴方に見惚れぬことがあろうか、いやない。 貴方と過ごすたびにより貴方への愛が深くなり 心を奪われて、同時に腹に宿る命を 貴方に逢わせてあげられそうにないことに心を痛ませる。 それでも、私達は出逢えて、幸せだった。 私は、幸せだった。 貴方によって美を花開かせ その指で、眼差しで愛されたことで 私の美は、満たされながら狂おしく叫ぶ。 それほどまでに渇望するものと出会えた幸福よ。 1年という短い期間の貴方との蜜月は濃密で、熱く、穏やかで。 最後の瞬間まで、貴方は誰よりも美しい>>86 誰よりも私を、魅了する。 未練はあるし、もっと共にありたいと願うけれど。 同時に、限りあるからこそ貴方はその命を燃やし尽くし 美しくあり続けたのだろうとも、思うのだ。 もっとともに居たかった。愛しい、貴方 貴方の躰は朽ちようとも、100年。貴方の存在は 私の、人々の記憶に残り続けるでしょう 私の紡ぐリュートの調べに合わせ、貴方の名はきっと千年、万年。*] (87) 2022/12/01(Thu) 18:43:24 |
【人】 奏者 イルムヒルト― 終幕 ― 「お母様、あの曲を弾いて。」 [幼い息子が、目を輝かせて強請る曲がある。 舞台での演奏や、酒場で踊り子と――偶にその庇護者の歌声とともに演奏するときはあるが その時は一節だけ。旧いリュートを爪弾いて 貴方の若き日の英雄譚を奏でるけれど この子と2人だけの時は、 貴方の狂おしい程の美への思い、貴方と紡いだ愛の日々を。 貴方の父親がいかに美しく、尊かったかを奏で、歌う。 我が子は、2人きりのときはよくせがんで 顔も知らぬ父を追憶するのを、母は知っている。 生まれる前に貴方は女神のみもとへ旅立ち、 貴方がこの子に残した名を、愛しげに私は呼んで 子の頭を、柔らかく撫でる 貴方と交わした音と刃の演舞の時に見た若き日の姿に瓜2つのこの子は、 画術師に描いてもらった父の肖像のように育つのでしょうか。 或いは、この子も、この子だけの「美」を見つけるのでしょうか。 そのために、飢えながらも希求していくのでしょうか。 今の私や、貴方のように] (88) 2022/12/01(Thu) 18:44:09 |
【人】 奏者 イルムヒルト 「お母様。お父様ってすごいねぇ。」 [無邪気に。歌われる父に思いを馳せる我が子へと 私は微笑み、頷く。 この街で有名な奏者ではなく、母としての。妻としての顔で。 もしも私までこの子を置いていくことになったら 私は母を失ったあの日のように、魔女の店に願いを告げに行くかもしれません 愛しい人との結晶を。守れなくなったら。 辛くて胸が張り裂けてしまいそう。 母も、私に対してこの様な気持ちだったのでしょうか。 ――あなたも、私や、腹で育まれていたこの子を置いていくとき。 そんな気持ち、だったのでしょうか。] (89) 2022/12/01(Thu) 18:44:26 |
【人】 奏者 イルムヒルト ええ。お父様は凄いのよ。 ――誰よりも美しくて。素敵な人なのよ。 ね、シメオン様。 [愛しい人。私は貴方のいない世界で、 貴方を心に抱いて生きていく。 友人や、我が子と共に過ごす日々の中でふと、 音とともに華麗に舞う、浮かぶ刃の軌跡を思い浮かべれば 傍で貴方が微笑んでいる、気がして。 私の口元も小さく笑みを、零すのでした**] (90) 2022/12/01(Thu) 18:45:04 |
情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新