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【人】 旅人 J[純白のドレスの上、纏う白皮の鎧を 繋ぎ合わせるのは黒いベルト。 まるで戒めのように 全身に這わされていた。 門出の祝福も、追悼も、 どちらも忘れるべきでないかのように。*] (1) 2022/03/13(Sun) 1:37:16 |
【人】 旅人 J[その街へ辿り着いた時 もう、日は傾いていた。 商いの盛んな、貿易都市。 モノクロームの装いの女は、 ペティコートで膨らませた裾と 腰に携えた刺突剣を揺らし歩く。] (2) 2022/03/13(Sun) 9:26:53 |
【人】 旅人 J[母が用意してくれた衣装。 父が与えてくれた武具。 両親からの贈り物は、もう増えることがない。 彼らの喜ぶ顔が見られないのだから、 婚約者のところへ行くのはやめてしまった。 どの道、こんな顔では 歓迎されなかっただろうけれど。 片側だけ伸ばした前髪の上、 重苦しいスティールの眼帯が、鈍く光る。] (3) 2022/03/13(Sun) 9:27:24 |
【人】 旅人 J[────生家は、嫁入りを目前に襲われた。 自由と平和を愛す祝日の夜。 しかし神は、いなかった。 高価なものは皆奪われた。 物盗りの犯行だという。 きっと、そうだった。 人生で一番、情けなくて堪らないのが、 対峙した相手の顔を憶えていないことだ。 恐怖とやらが、記憶を混濁させてしまったらしい。 父の教えてくれた剣で 辛うじて自らの命は守れたけれど 共に逝ってしまった方が 一層、よかったのかも知れない……。] (4) 2022/03/13(Sun) 9:28:20 |
【人】 旅人 J[父が母へ贈り 母から自分に受け継がれる予定だった 青い宝石 のブローチ。白銀の羽根が覆う意匠は 世に一つしかないものだ。 それだけは、奪還したい。 家族が笑い合った証。 指の間からこぼれ落ちていった日常が 取り戻せるような気がするから。] (5) 2022/03/13(Sun) 9:28:59 |
【人】 旅人 J[物も人も情報も行き交う街。 早速といきたいところだが、 指先に震えを感知する。] ……。 [二日前に野生のベリーを齧ったのが 最後の食事だった。 否、三日前? ────どうでも良い。 日に日に痩せて萎んでいく胸は 寧ろ邪魔にならなくなって良かった。] (6) 2022/03/13(Sun) 9:31:18 |
【人】 商人 J[ 長い年月を経てこの街は大きく発展した。 街道は北と南と西に延び、太陽が上る街の東には広大な海原が広がっている。即ち、全ての方角から人と物が流れ込むのだ。 そんな街は、歴史によると小さなバザーから始まったというが、今や大陸でも屈指の経済規模を有している。 ─── 貿易都市 或いは、自由都市と呼ばれる街。 ここには封建的な領主は存在せず、商人たちの寄り合い、つまり商人ギルドであるが、数年置きに選出されるギルドの代表が市長≠ニ呼ばれ、ギルドが実質的な統治機構となっていた。 ギルドの法が街の法であり、もちろん警察機構や裁判所などもあった。 軍事力は商人たちの私兵や傭兵に頼っていたが、この街を取り巻く政情は各国の絶妙なバランスの上に保たれ、確かな平和を維持していた。] (8) 2022/03/13(Sun) 10:47:53 |
【人】 商人 J[ そんな貿易都市の片隅。 治安のあまり良くない区画のその片隅に男は居た。 ケリオス商会のジュダス。 それが男が公の場で名乗る名だった。 取るに足らない小さな商会。 ギルドの末席にあり、収める組合費も小さく受ける恩恵もまた小さい。 扱う商品も何処にでもあるようなものばかり、使い捨ての武器であったり道具であったり、作りの粗末な日常品であったり。 それにしては商会の代表である男の身なりは、ギルドの上座に位置する商人たちと遜色のないものであった。] (9) 2022/03/13(Sun) 10:48:23 |
【人】 商人 J[ 繁栄という光の裏には澱んだ影がある。 ギルドの法、ギルドの目が届かぬ場所に、街の片隅に、色濃い影が落ちている。 所謂、闇商人。 物も人も情報も、明るい表通りを歩くだけでは手に入らないもの。 それらを扱う者たちはそう呼ばれていた。 彼らはギルドの締め付けを掻い潜り、しかしてギルドもまた本気で彼らを取り締まろうとはしないまま。 必要なのだ。 彼らのような存在もまた。 混沌であるよりも、悪であることの方が有益であるのだ。 ケリオス商会もまた、闇商人のひとつであった。] (10) 2022/03/13(Sun) 10:48:43 |
【人】 商人 J[ 金属の仕込まれたブーツの底が市場の石畳を叩く。 燻んだ銀というよりも灰色の髪、襟の高い黒い衣服に身を包んだ男は、色の濃い眼鏡をかけておりその奥の瞳を窺い知ることはできない。 薄い笑みを浮かべながら男は歩いていた。 それは別に面白い何かがあるわけではなく、そうしていることが男の常であった。 市場にはよく足を運ぶ。 それは市場の動向を知るためであり、商品≠フ仕入れのためでもあった。]* (11) 2022/03/13(Sun) 10:49:05 |
【人】 旅人 J[西端の領地を旅立ち、陸の上を進んできた。 銀行においていた財産から召使い達に退職金を出し 残ったぶんをすり減らしながら生きている。] (12) 2022/03/13(Sun) 13:22:26 |
【人】 旅人 J[────盗品を扱う者を教えて欲しい。 そんな風、馬鹿正直に訊ねて叶うわけがないのは 如何に世間を知らぬ女でも予想ができた。 迂闊に手を伸ばせば警戒されるだろう。 立ち寄る街では 闇屋の方から近づいてくれるよう 良い客、良い金蔓を演じるよう心掛けた。 出処を問わず金に糸目を付けぬような客を。 それで随分懐は軽くなったが 狙いの品が流れ着いたかも知れないという 雲を掴むような情報を得て此処に居る。 資金が尽きる時が、この旅のタイムリミットだ。 効率がいいのかわからない方法は、 改めるべきなのかも知れない。] (13) 2022/03/13(Sun) 13:23:07 |
【人】 旅人 J[表通りの市場は 都市の規模に相応しい賑わいを見せていた。 明るく活気のある場所に身を置くと女は、 自分だけが別の空間にいるような錯覚をおぼえる。 見えているもの全て、作り物のように思えてならない。 或いは自分だけが不出来な我楽多なのかと 人形のように整った冷たい表情の裏で考える。] 美しい装飾品を扱う店をご存じないかしら きれいなものには目がなくて ここには暫く留まるつもりだから 良いお店を思い出した時は教えに来て頂戴 [紙袋に詰めて貰った果実への対価としては過剰な 金貨を押し付けて品を受け取る。 足掛かりの足掛かり。 虱を潰す作業の一手目として。 まるで蜘蛛の巣を張り巡らせるように 真白な羽毛の髪の異邦人は彷徨きだした。*] (14) 2022/03/13(Sun) 13:24:02 |
【人】 商人 J[ 男はひとり、雑多に人々が行きかう表通りを歩く。 後ろに手を組んで、薄く笑みを浮かべながら。 表の仕事は所詮小さな商売だった。 これといって力を入れることも無ければ、手を広げることもない。 だからこうして商品を物色するのは主に闇商としてのこと。 商品とそれを売る者買う者。 この街を訪れる人間は百戦錬磨の商売人から歴戦の傭兵もいれば、右も左もわからないような新米や鴨にしかならない駆け出しもいる。 それを見抜く目こそが商売人としての才覚。 男はその才覚に関しては自信をもっていた、それこそ表の商売だってその気になればそれなりの成功を収められるだろう。] (15) 2022/03/13(Sun) 16:49:27 |
【人】 商人 J[ だが、男にその気はなかった。 仮りにあったとしてもそれは難しいことなのだ。 暗部を知ったものが、それを切り離して表に出ることは想像するよりもずっと難しい。 それこそ、全ての財産、そして自分の命を秤に賭けることにだってなりかねない。 だから、こうして表通りを歩くときはどうしても自分は異分子であると感じている。 もちろんそうであるという空気を纏っているつもりはないが。 活気に溢れ人々の笑顔の多いここよりも、街の片隅のほうがずっと居心地良く感じている。] (16) 2022/03/13(Sun) 16:49:46 |
【人】 商人 J[ そんな風に歩いているときだった。 目を引いたのは真白の髪の女だった。 ドレスのような衣服に鎧を身にまとう女。 冒険者のような出で立ちに見せているのだろうか、だがその身にまとうものの質は見逃せない。 目利きができるものならばこそだが。] 『美しい装飾品を扱う店をご存じないかしら』 [ この街の者ではない。 それは立ち振る舞いからも察することができる。] (17) 2022/03/13(Sun) 16:50:18 |
【人】 商人 J[ すれ違うとき、その顔に目を惹かれた。 美しい顔立ち、まだ幼さを残すそれは年若く思わせた。 そんな顔に張り付いた冷たい表情。 そして右目を隠す真白の髪と鉄製の眼帯。 それは、鎧を纏っていてさえも良家の人間と思わせる姿にあって、一際異彩を放っていた。 護衛はない。 ひとりで行動しているのが、そのままひとりでこの街に滞在していることにはならないが。] ( 訳あり……か ) [ それがどの様な事情かはわからないが、それは決して男にとって悪いことではなかった。] (18) 2022/03/13(Sun) 16:52:01 |
【人】 商人 J[ 蜘蛛を仕留めるにはどうしたらいいのか。 それは獲物を引っ掛けてやればいいのだ。 張り巡らせた白い糸の罠に、それに牙を立てようとした瞬間こそが機会となる。] (19) 2022/03/13(Sun) 16:53:48 |
【人】 商人 J[ 男はその気配をそっと人混みの中へと溶け込ませる。 充分な距離を保ちながら女の背中を追う。 男とは違って目立つその美しく白い髪。 追うこと自体は難しくはないだろう。 女がある程度の警戒をしていたとしても、それが特別なスキルでもなければ。]* (20) 2022/03/13(Sun) 16:57:11 |
【人】 旅人 J[幾つかの些細な買い物をして その度金貨を見せつけて 誰かに阻まれることがなければ そのまま宿屋の一つに堂々と入って行く。 W装飾品を求める 眼帯をした白い金持ちの女が 泊まる宿だW 人々にそんな印象がつくことを願い。 小さめの宿屋は2階の部屋を全て貸切にする。 自分に用のあるものがもしくれば 2階奥の部屋に直接通すよう主人に言い付けて。 十日分纏めて払えば決して悪い顔はされない。] (22) 2022/03/13(Sun) 19:16:35 |
【人】 旅人 J……ふぅ [一体、何日でこの街の闇商人と接触が叶うだろう。 何日で必要な情報を引き出せるだろう。 此処がもしもダメなら次は北か南か。 まさか海を渡って東か。 自分が途轍もなく小さな存在だと実感する。 そして問わずにいられない。 無為に遺産を喰い潰す己につけられる価値はあるのか、と。 散らす財は元は領民の血税だ。 路銀は出来るだけ節約しているが、それでも。] (23) 2022/03/13(Sun) 19:18:51 |
【人】 旅人 J[そんなことを考えながら、身体を動かすために 紙袋から出した果物を齧り咀嚼し嚥下する。 部屋の中、ひとり。 寝具と小さな机と椅子しかない部屋は 些か、ほんの些か、落ち着きを得られた。 補給を終えれば酒場のような場所へ 向かうことになるが、気は重たかった。*] (24) 2022/03/13(Sun) 19:20:49 |
【人】 商人 J[ そんな落ち着いた空気を破るように、女の耳に乾いた木を叩く音が三つ、その耳へと届いた。 扉の外にいるのは灰色の髪をした男がひとり。 女に護衛はない。 距離を取り、自分の他にも女を探る視線が無いか確かめたが、女に好奇以外の目が向けられてはいなかった。 女がひとりで宿を取っていることもわかった。 故に、接触することに危険はない。 少なくとも自分の側にはないと、そう男は判断した。 コン、コン、コン と、再び三度扉を叩く音。] (25) 2022/03/13(Sun) 20:33:03 |
【人】 商人 J[ 女が探しているものは装飾品の類。 それは彼女のあとを尾けることでわかってことだった。 だが、それは本当のことではないだろう。 彼女の金銭感覚が庶民ではないとその行動が示していたが、ならば金に飽かせて買い漁ればいい。目当てのものがあるときても、宝石商の元へ向かえばいいのだ。これ見よがしに金を持っていることを知らしめることはない。 つまり、女には何か目的があるということ。 それは決して表では解決できないことなのだ。 何を求めているのかはしらないが。 身なりのいい金を持った若く美しい女がひとり、闇商人である男が目をつけるのは必然であった。] (26) 2022/03/13(Sun) 20:33:22 |
【人】 商人 J[ 高級宿というわけではないにしても、フロアひとつを貸し切るなどどれほど金を無駄遣いするのだろうか。 そうしてまで何を探しているのか。 男にわかることは、女が金の使い方も、手の伸ばし方も知らないということ。 薄く浮かべていた笑みが大きく三日月を描く。 これは滅多にない、楽な仕事だと、そう深めた笑みを元の薄笑みに戻すと男は後ろに手を組みながら女の返事を待った。]* (27) 2022/03/13(Sun) 20:34:22 |
【人】 旅人 J[不在と思われて立ち去られるのも 部屋を荒らさんと扉を破られるのも嬉しくない。 態と硬いブーツの底で木製の床の上 足音を立てて扉の近くへと寄る。 まだ開けぬまま。 鍵もまだ、かけたまま。] (29) 2022/03/13(Sun) 21:08:19 |
【人】 旅人 J……どちら様かしら? [女の声でそう訊ねた。 ノック音だけでは何もわからない。 ただ金を奪いにきた暴漢という可能性もある。 周りに迷惑をかけたくなく話を聞かれたくもないから 同階は貸し切っており、 2階ならば窓から飛び降りて逃げる事も自分にはできる。*] (30) 2022/03/13(Sun) 21:10:15 |
【人】 商人 J[ 部屋の中から女の声が返る。 緊張を孕む音、それはそうだろう。今この場で女の身を守るのは女自身でしかないのだから。 だが男はすぐに答えない。 不安と緊張と、想像を掻き立てる時間を与える。 そうして、たっぷりと呼吸三つ分の間を空けて答えた。] ケリオス商会と言います。 [ 漸く答えたのはそれだけ。 また沈黙を以て間を空け、女の反応を待った。] (31) 2022/03/13(Sun) 21:29:39 |
【人】 商人 J[ さて、実際はどのような女か。 ひとりで裏道に足を踏み入れようとするのは豪胆の証か、それともまるで世間を知らないのか。 表と裏の違いがわかる程度には何も知らないということはないのだろう。 だが、場数を踏んでいるとは想像しにくい。 余りにも警戒が薄すぎる。 何か、身を守る術があるのか。 たとえば魔術師の類だとか、或いは奥の手のようなものが。 力任せというのは上手くないだろう。 そのような手を使うことはめったにないが。 いずれにせよ、容易な相手ならばそれに越したことはない。]* (32) 2022/03/13(Sun) 21:30:46 |
【人】 旅人 J[日の当たる場所で育った自分に 盗品を取り戻すすべを 教えてくれる者はいなかった。 然るべき届けは出したが待つ意義を感じなかった。 時折、考え悩む。 この方法で本当に届くのかと。] (33) 2022/03/13(Sun) 22:33:51 |
【人】 旅人 J[立ち去った気配はないが 問いかけに返事がなかった。>>31 隻眼を足下に向ける。 扉の隙間から届く影を確認できない。 目の前に人がいたらわかるように 廊下の明かりを強めておくべきだった。 普段ならそうした。 今日は細工をする時間もなかったのだ。 その事実とすぐに反応がないことに 焦燥して喉が乾く。 表通りの喧騒が嘘のように何の音もしなかった。 喉を鳴らす音すら扉越しに聞こえてしまいそうで 唾を飲み込むのを必死に耐えた。 弱さを、取引相手になるならば見せてはならない。 自分のような世間知らずは、 あっという間もなく飲み込まれてしまう。 どこまで隠し切れるかは謎であり、 既に色々と掴まれていることは想像もしていない。] (34) 2022/03/13(Sun) 22:36:16 |
【人】 旅人 J[永遠に感じられる沈黙のあと 一言だけの返事が返された。>>31 男の、どこか余裕の感じられる声だった。 ケリオス商会。 覚えがない。 尤も、覚えがないことだらけであるが……。 相手には、底知らぬものを感じた。 これまで対峙してきた者たちも 生きる世界が違い、理解しあえぬと思ってきたが 何であろう、それらとも次元の違いを感じる。 扉越しに一言受けただけで、 三日歩き倒したのと同じくらい 疲労を感じていることがその証左だ。 だがそれでも。 必要な情報をもつものなら拒む理由はなく 探し物を続ける資金だけが騙し取られてはならない。 身を守るすべは剣だけだが 肉体や命を軽んじていればこそ無謀なこともする。] (35) 2022/03/13(Sun) 22:38:27 |
【人】 旅人 J[刺突剣の柄から手を離し、 鍵を開け、扉を開き、 愛想のない顔を覗かせた。 平均よりやや低い身長で見上げた 灰色の髪、色の濃い眼鏡。 口許は笑みの形を作っているようだが 胡散臭さが感じられ、目が見えないのは不気味だ。] 何か、売りに来てくれたのかしら お仕事の話なら、こちらへどうぞ ケリオス商会の────何さん? [部屋の中に一つだけある椅子を薦め名を訊ねる。 隣の部屋から椅子を運ぶ時間もなかったのだ。 気丈に振る舞っているのが見抜かれぬとよいのだが。*] (36) 2022/03/13(Sun) 22:41:25 |
【人】 商人 J[ 失ったものを取り戻すことはできない。 神という存在がいて気まぐれに奇跡でも起こさない限りは。 それが、たとえ些細なものでも、命にも換えられない大切なものでも。 だが、奇跡というものは偶にやってくる。 気まぐれな神がこの世界に存在しなかったとしても。 奇跡というものは起こるのだ。] (37) 2022/03/13(Sun) 23:24:22 |
【人】 商人 J[ 扉が相手現れた相手、頭ひとつ分は小さな女を見下ろす。 真白の髪、鉄の眼帯。 愛想のない顔は、まるで人形のようだった。] ええ。 では、遠慮なく。 [ 女の薦めるままに部屋に中へ進む。 男が立ったのは窓際であり、椅子に座ることはなかった。 窓から差し込む光を背に、女へと向き直る。] (38) 2022/03/13(Sun) 23:24:32 |
【人】 商人 J[ 演出は大切だ。 特に場慣れしていないような者を相手にするときは。 光を背にしたまま、男は名乗りを上げる。] ケリオス商会のジュダスと言います。 身分証を確認しますか? [ ギルドが発行する公の証明書。 それを差し出すが、女がそれを確かめるには歩み寄ってこの手から受け取らラなければならない。]。 どうぞ。 [ 気丈な振る舞いも平静な表情も、その一枚下はどうなのだろうか。] (39) 2022/03/13(Sun) 23:25:04 |
【人】 商人 J[ 強い緊張は、極度の疲労を生み、疲労は思考を鈍らせ判断を誤らせる。 相手をそう陥らせることは交渉において非常に優位となるだろう。 女が確かめようと、そうでなかろうと、口調に緩急を付けながら、男は言葉をつづけた。] もちろん本物ですよ。 それだけではない、ということですがね。 [ 女が欲しているのがただの装飾品ではないということ。 そして裏の人間を探しているのだということ、それを、知っているぞと言外に伝えた。] (40) 2022/03/13(Sun) 23:26:29 |
【人】 商人 J探しているものが……あるのでしょう? [ 口元の薄い笑みを崩さぬまま、男は女を観察する。 色濃い眼鏡の奥で、見えない男の瞳が女を値踏みしていく。]** (41) 2022/03/13(Sun) 23:26:43 |
【人】 旅人 J[これまで、答えを出さずにきた問いがある。 自分は、思い出のブローチが見つかったとして それで満足が出来るのか。 売り付けた者が誰か、知ろうとするのではないか。 決して簡単ではないだろうが知れたとして──、 その者を*そうとするのではないか。 確かな情報に手が届いた時考えようと 先延ばしにしてきた。 あの日から感情の起伏がなくなったかのようで 私は、私自身の望みが、わからないの。] (42) 2022/03/14(Mon) 9:37:56 |
【人】 旅人 J[自分はいま、万全じゃない。 都市間の移動の疲れが残っているし 果実を二つばかり食べて 手指が震えるほどの低血糖からは 回復したばかり。 人と会うのはもう少し休んでからにすべきだった。 そんな言い訳じみたことを考えてしまうほど 相手のペースに飲まれている自覚と焦燥だけがある。 万全ならば大丈夫だったかときかれたら……、 やっぱりそれも自信は、ないのだけれど。 大陸を横断し裏の世界のことも 少しは知ったつもりになっていたが ほんの浅瀬に過ぎず 大きな事件に巻き込まれなかったことは ただただ幸運だったのだ。 あたまがぐらぐらする。] (44) 2022/03/14(Mon) 9:38:53 |
【人】 旅人 J[男は、ジュダスと名乗った。>>39 此処らでは意味が変わるかも知れないが 自分のいた地域では、裏切りの響きを持つ。] ジュダス、さん 身分証、は………… [本名だろうか。 否、区別がつきさえすれば良いと思い直す。 商人の名の真贋など気にしてこなかったし 己も、故郷を出てから本当の名を使っていない。 どうして、気になってしまったのだろう。 身分証、は公の機関が発行するものだ。 女が欲するのは、そういったものを使わずに 物と金のやり取りをする者たちだから、 余り強く興味の引かれるものではないけれど それよりも、迂闊に男に近づいてよいものかを、迷った。] (45) 2022/03/14(Mon) 9:40:02 |
【人】 旅人 J[得体の知れない男は、 光を背に、いまや天使か、神かのようにも見える。 いないと思っていたのに。 私の家族を、救ってくれなかったのに。 そんな風に見えてしまうのは 自分が弱っているせいなのか 男の技術か、なにかによるものなのかわからない。 わからないことは、恐ろしい。 曖昧になっている自分という輪郭が 彼に思うまま作り替えられてしまう気がしてならない。 そして、それを望んでいる自分も……いる。 ] (46) 2022/03/14(Mon) 9:40:45 |
【人】 旅人 J[悩むそぶりを見せてしまったのち、男に歩み寄る。 結局自分は、差し出されたものを 近くで検めさせてもらうことにした。 扉を開けて顔を合わせて話すし 好意を極力無碍にしない。 これまでもそうしてきた。 品は、金で取り戻せるかも知れない。 だけど売り付けた人物の情報はどうだろう。 商人自身の信頼と今後の活動に影響するだろうものを 易々と売ってくれるものか。 自分がどうしたいかまだ決めていないが……、 少しでも信用は得ておきたい。打算だ。 足取りはすこしふらついたものになった。 自分では真っ直ぐに歩いているつもりで、 できない。ああ、情けない。] (47) 2022/03/14(Mon) 9:41:56 |
【人】 旅人 J[ドクドクと心臓が強く脈を打つ。 求める前に与えられるのは 神の愛めいている。 何が正解なのかわからない。] ……はい。あります [か細い声で答えた。] (50) 2022/03/14(Mon) 9:43:47 |
【人】 旅人 J[身分証を返却し、白皮の鎧、 籠手とドレスの間から一枚の紙を取り出し 彼の前に差し出す。 家族の肖像画から写し取ったもの。 片翼に抱かれるデザインの青い宝石。 手に取るなら渡すだろう。] このブローチを探しています 心当たりは……ありますか? [盗まれたとは言わずに 願いの品を打ち明け、唇を結んだ。 群れから離れた羊のような心地。 心許ない隻眼が彼を見上げ、返事を待つ。*] (51) 2022/03/14(Mon) 9:46:34 |
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