212 【身内村】桜色のエピローグ✿
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| …… 知らない人の家。 というのは、表現を失敗したかもしれません。 2度繰り返した禎光の顔を見て。 >>0:38 私は言葉を取り繕おうとして。 やっぱり上手い言い方を思いつかなくて。 人魚みたいに、口をパクパクさせました。 ええと、ですね。 そうですね。正確ではなかったんです。 ただ、全くの嘘でもないのです。 その家は、父方の祖父母の家です。 ただ、今は誰も住んでいません。 私達が物心つく前に、どちらも亡くなったので、 顔も知らないと言えばその通りなんです。 (4) 2023/05/03(Wed) 22:12:39 |
| 権利がどうなっているのかも分かりませんが。 一度だけ、父が掃除に行くのについて行きました。 鍵の場所も、その時に知りました。 それ以来、一人でいるのが都合が良い時。 私はその家を訪れていました。 歌うのにも、ちょうど良い場所でしたから。 二人に伝えなかったのは …… どうして、でしょうね。
人に見られたら都合の悪い日記帳。 記すのも、その場所でだったでしょう。 >>0 今となっては海水で濡れていないのを祈るばかりです。 (5) 2023/05/03(Wed) 22:13:58 |
| つまりその場所は、 人に見られたくないことを行うのにも 同じく都合の良い場所なのです 。 (6) 2023/05/03(Wed) 22:14:21 |
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「 人が住んでいない廃屋なのですが。
なんでもヒトデが出るとかで。
流行のスポットになっているんです。 」
(7) 2023/05/03(Wed) 22:14:34 |
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「 その、掃除は定期的に行っているので。 埃っぽくもないです。
ベッドのシーツもちゃんと洗っています。 」
これは、身体の弱い禎光に向けて。
気管支などに影響を与える場所ではないし、 彼が体調を崩しても、 休める場所はあるというアピールです。 しかしながら興味を誘うために口にしただけで。 噂になっているのは確かですが、 ヒトデ云々に関しては眉唾物です。 そんな存在がいるとは到底思えません。
(8) 2023/05/03(Wed) 22:15:15 |
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超常的な存在なんて、 神様だけで充分ですから。**
(9) 2023/05/03(Wed) 22:15:27 |
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「 ありがとう。 そうですね。傘を持って行った方が よいかもしれません。
…… 今日は雨が降りそうですから。 」
今朝の天気予報を思い出すと、空を仰ぎました。
…… 春の冷たい雨に晒されてしまえば、 まだ淡い色で目を楽しませてくれる桜達も、 くすんだ色で、コンクリートに散るのでしょう。
(18) 2023/05/04(Thu) 10:16:24 |
| 生まれる前から隣にいた。 >>16 私の 瀬名へと微笑みかけます。 どうしましょう。 どうか最後までバレないといいのですが。 (19) 2023/05/04(Thu) 10:16:44 |
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私が貴女を█████こと。
(20) 2023/05/04(Thu) 10:16:49 |
| …… かつて私は貴女で、貴女は私でした。 いつも一緒にいて、顔も声も同じ。 そうですね。親が同じ服を好んで着せてしまえば、 私達を見分けるのは難しかったでしょう。 それはきっと、私達自身にも当てはまることで。 確立しない自己を前にすれば、 瀬名は七瀬で、七瀬は瀬名でした。 いつからでしょう。 貴女と私が、別の人間なのだと知ったのは
(21) 2023/05/04(Thu) 10:18:14 |
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「 …… 禎光くん? はじめまして。
わたしの名前は ──── 」
(22) 2023/05/04(Thu) 10:18:20 |
| ある日2人の世界に現れた、3人目の男の子。 >>0:36 私でも 瀬名でもない存在が、 私と名瀬を別の人間にしたのです。 少なくとも、私の始まりはそこからで。 (23) 2023/05/04(Thu) 10:18:31 |
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言葉遣いを敬語へと改めたのも、 私と瀬名がべつべつ≠セと知ったからでした。
どうしたって、私と瀬名を間違える人は 存在しましたから。
服装や髪形などで違いを出すこともできたでしょうが。 私にとっては言葉遣いが、 どんな状況でも、何を用いずとも使える、 私達を区別するための装飾品だったのです。
(24) 2023/05/04(Thu) 10:19:01 |
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「 そういえば、禎光。 今日はホワイトデーですが。
瀬名にお返しは用意していますか? 」
(25) 2023/05/04(Thu) 10:26:43 |
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当然です、という顔をして。 彼の耳元へと、そっと内緒の話を寄せたのは 目的地に向かって歩き始めて、 少し経った頃合いだったでしょうか。
丁度1ヶ月前にあったバレンタインデー。 私はそうですね。 禎光へと友チョコを渡していたと思います。
此方へのお返しへの頓着はしていませんが、 大事な妹へのお返しを蔑ろにされてしまうのは …… そうですね。駄目ですね。 彼が大切な幼馴染と言えど、許してはいけないことです。
(26) 2023/05/04(Thu) 10:28:16 |
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………… ひょっとしたら、 瀬名は禎光へとバレンタインの贈り物を していない可能性もありますが。
その、別に貰えていなくたって、 お返ししてもいいじゃないですか! ホワイトデー。**
(27) 2023/05/04(Thu) 10:28:29 |
| 「 ここにいたのですね、瀬名。 もうすぐバレンタインデーですよね。 今日は一緒に禎光へのチョコを作りませんか? ああ、…… そうなのですね ──── 」
(42) 2023/05/05(Fri) 20:56:24 |
| (43) 2023/05/05(Fri) 20:56:33 |
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お菓子作りを趣味にしているわけではありません。 私は例年通り、初心者でも失敗しないレシピで、 友チョコの名に恥じない味を贈ったでしょう。
…… 私にとっては、 普段と変わらないバレンタインデー。
エプロンを付けて、湯煎をする私の隣に。 揃いのエプロンを纏う瀬名がいないことを除いては。
(44) 2023/05/05(Fri) 20:57:18 |
| 「 …… それを聞いて、安心しました。 」 瀬名が禎光にチョコを渡さなかった可能性。 彼の言葉で否定されました。 >>40 ならばどうして彼女は、 私と同じものを贈ることを避けたのでしょうか。 …… どうして私達は、並んでキッチンに立ち、 冬の寒さに震えながら、 頬についたチョコを見て笑い合うような。 そんな時間を過ごせなかったのでしょうか。 (45) 2023/05/05(Fri) 20:57:57 |
| どうして。 変わらないままでいられなかったのでしょうか。 >>40 (46) 2023/05/05(Fri) 20:58:13 |
| 「 …… 雨、降ってきましたね。 」 きっとそれは、小雨も小雨で。 地面を1,2滴の粒が叩いた程度。 ヒトデには物足りなかったでしょう。 なのに私は、幸いとばかりに持っていた傘を広げて 曇天の下に、薄紅色の花を咲かせました。 (47) 2023/05/05(Fri) 20:58:58 |
| 「 はい。 ──── 帰ったら。 」 その時の私がどんな顔をしていたかを、 覆い隠してしまうように。 >>40 (48) 2023/05/05(Fri) 20:59:05 |
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「 ああ、駄目ですよ瀬名。 流行っているからと言って、 賭博場や怪しげな店に出入りをするのは。
貴女は昔から、少々危なっかしいんですから。 」
…… 次に傘を小さく揺らす頃には、 私はお姉ちゃん≠フ顔をして。 妹を見守る眼差しを浮かべていたでしょう。**
(49) 2023/05/05(Fri) 20:59:20 |
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「 大丈夫ですよ、瀬名。
何があっても。 お姉ちゃんが貴女を守りますから。 」
禎光に出会い、私と瀬名が別々の人間だと知って。 それと時を同じくしてでしょうか。 自分が姉だと気付いたのは。
私にとって当然となる言葉を繰り返せば、 貴女はやはり、 納得のいかない表情を浮かべたのでしょうか。 >>54 (59) 2023/05/06(Sat) 10:40:46 |
| (60) 2023/05/06(Sat) 10:40:50 |
| 「 …… そうですか。 」 怪しげな店には出入りしてほしくないし、 自宅へはひとりで行けてほしい。 そんな思いは飲み込むしかなかったでしょう。 最初に手を離したのは私なのですから。 >>0:30 (61) 2023/05/06(Sat) 10:40:59 |
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全身を濡らすには及ばない雨。 それでも互いに傘を開いた分、 私達の距離を開かせるのには十分で。
「 …… 禎光? ああ、それは。 仕方がないですね。
禎光は ─── 身体が弱いのですから。 」 だから、瀬名の手から傘が離れて、 唐突に彼女が私の隣へと飛び込んでくれば。 縮んだ距離に、思わず心臓を跳ねさせました。
(62) 2023/05/06(Sat) 10:41:42 |
| 不意に思い出したことがあります。 確かあの日もこんな風に、 今にも落ちてきそうな曇天の下でした。 瀬名と禎光の遊びのこと。 >>50 知ってはいましたが、自ら参加はしていませんでした。 微笑ましいと、少し呆れた表情で見守ること。 それが姉の役割だと思っていましたから。 不意にむくりと沸いた悪戯心だったのです。 (63) 2023/05/06(Sat) 10:42:22 |
| 「 禎光、今帰り? 雨降りそうだけど、傘は持ってきた? 」 ある日の放課後の昇降口。 たまたま瀬名が隣にいない帰り道でした。 私はそっと、自らの装飾品を外してみたのです。** >>24 (64) 2023/05/06(Sat) 10:45:44 |