人狼物語 三日月国


45 【R18】雲を泳ぐラッコ

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視点:


【人】 二年生 早乙女 菜月

[家に帰ってからも、私たちはやりとりを続けた。
 スマートフォンと違って、通知も一切なかったけど、
 時々、友君が書いている瞬間に立ち会えた。

 そういう時は、椅子とコップをもう一つずつ。
 一人用の勉強机に二人分並べて、
 頬杖をついて便箋を眺めた。]
(26) 2020/10/07(Wed) 6:16:23

【人】 二年生 早乙女 菜月

[青インクと黒炭の染み込んだ便箋に、
 赤いハートが浮かび上がる。>>22
 可愛いの。見ちゃった。
 すぐに消そうとするのも可笑しくて、
 くすっと笑いが漏れる。

 自分のもろさをさらけ出す私に、
 友君はたくさん寄り添ってくれる。
 友君との会話が楽しすぎて、永遠に続いてほしくて。
 だから便箋はぼろぼろで、
 いつか破れてしまうことは分かっていたのに、
 目を逸らし続けてしまった。]
(27) 2020/10/07(Wed) 6:17:42

【人】 二年生 早乙女 菜月



[終わりの時間は、唐突で。]


 
(28) 2020/10/07(Wed) 6:18:40

【人】 二年生 早乙女 菜月

[世界の破ける音がした。]


 ……あ!?


[友君、破っちゃったのか。
 便箋、薄くなってるもんね。
 分かっていても、大きな裂け目がメッセージを破くのは、
 ショックな光景だ。

 ちぎれた断面を合わせると、
 もう一度、びり、と破けた。]


 え、うそうそ、 やだ、


[びり、びり、紙がひとりでに破けていく。
 便箋を押さえつけると、手と机の間から、
 一羽の蝶が飛び立った。
 青いはねを一心に動かして、
 透き通った美しい翅脈が見えるほど近くを通り過ぎる。]
(29) 2020/10/07(Wed) 6:20:42

【人】 二年生 早乙女 菜月

[もう一羽。もう一羽。
 するり、するりと手のひらの下から、
 蝶の群れがあふれ出す。
 友君と私の言葉を含んだ蝶は、
 青い翅をきらめかせ、
 銀の鱗粉を振りまきながら、
 窓から空へを昇っていく。

 月が二つに分かれた。違う、涙でぼやけているだけだ。

 ねえ、待って。
 もう一度だけ時間が欲しい。

 だって私まだ、好きってことさえ言えてない。

 そう蝶に訴えても、一羽だって振り向いてくれなくて、
 
 私達は、ちゃんとお別れさえできなかった。]**
(30) 2020/10/07(Wed) 6:21:25

【人】 二年生 早乙女 菜月


「せーの!」「あ、い、う、え、お!」「せーの!」「か、き、く、け、こ!」……

[グラウンドに響く声は大きい。
 ちなみに体育館では発声練習禁止です。つば飛んじゃうから屋内はちょっと。
 肺一杯に空気を詰め込んで、おなかの底から声を出していると、頭がぼうっとかすんでくる。華やかさとは裏腹に、チアは地味な反復練習が多い。頭で考えなくても動けるように、ひたすら体に覚え込ませる。何十分も同じ動きをしていると、頭が白く溶けていく。
 そういう時間が、今の私には必要だった。]

「菜月、笑顔! みんなを元気にするのがチアなんだから!」

[指摘されて、にっと口角を上げる。
 笑ったんじゃなくて、口角を、上げた。

 皆を元気に、なんて、私にできるはずがない。
 友君に勇気づけられてばっかりだったんだから。

 細くなった筋肉に、必要以上に負荷をかける。
 生まれたての小鹿みたいに、歩くたびに膝が折れる。]
(41) 2020/10/08(Thu) 5:58:07

【人】 二年生 早乙女 菜月

「ナツキ……戻ってきたのは良いけど、正直、怖いよ。
 前はもっと、休憩時間も騒いでたのに。
 今のナツキは、練習だけしに来てるみたい」


心配してくれるのはわかるけど……ってこと
  俺もよくあるよ。

 友君の言葉がいつも、頭をよぎる。

 なにそれー私すんごい熱心じゃん! なんてはやし立てる。
 笑い飛ばして、無かったことにしようとする。]

「ろくに食べてないよね。
 いくらトレーニングしても、食べなきゃ意味ないでしょう。本当にやる気あるの?」

[そう言ってきた先輩もいた。さすが上級生、よく見ている。
 ウス、先輩ご馳走してくれるんスか? ありがとうございます、なんてへらへら笑ったら、もっと怒られた。
 あーあ、失敗しちゃった。]
(42) 2020/10/08(Thu) 6:00:17

【人】 二年生 早乙女 菜月

[柔軟体操をしていると、アキナと目が合った。
 アキナは一瞬、なんとも言えない表情を浮かべると、何かを言いかける。
 けど、その言葉が出てくる前に、他の部員に話しかけて、結局何も話さなかった。
 復帰しても結局、こんな感じだ。
 あれからうまく話せていない。
 ペアも外されてしまった。

もしかしたら自分の中に
汚い気持ちがあるかもしれない、って
菜月は言うけれどもさ
少なくとも「今」の菜月は
そんなことしないだろ。


「今」の私はどうだろう。
 優しい老夫婦が人魚を売ったように、表と裏はくるくる変わる。
 きっと私もたやすく、良くも悪くも転ぶ。

 チアリーディングはスポーツだ。
 グラウンドの外の花じゃない。技を競う真剣勝負。
 勝利の証は、会場に溢れる笑顔。
 誰かを応援するために、競い、高め合う。

 だから、応援したい人を失ったら、強くなれないのは当然のことで。]
(43) 2020/10/08(Thu) 6:01:13

【人】 二年生 早乙女 菜月

[そんなことは分かっていても、私は必死にチアに打ち込む。
 そうしていないと、友君のことを思い出してしまうから。
 線路や、紅葉や、月や。
 何気ない風景を見るたびに、友君の言葉が思い浮かぶ。

俺も、絵があるのも好き。
  けど、この本は写実的っていうか……
  読んでるうちに頭の中に風景が浮かぶんだ。


 そうだね、友君。
 世界にはこんなにも、友君と拾い集めた風景が散らばっていて。
 何もしないでいると、空を眺めるだけで泣いてしまう。

 自分の体を苛め抜いて、泥のように眠る。
 だけど夢の中では、いつもあの図書室にいて。
 目を覚ませば、友君ともう会えないことを思い出して、べそべそと泣いた。]
(44) 2020/10/08(Thu) 6:02:06

【人】 二年生 早乙女 菜月

「また延長ですか」

[司書の先生が呆れたように言う。
 あれから、図書室と友君の世界は断ち切れてしまった。それでも二週間に一度は足を運ぶ。
 小川未明童話集、「赤いろうそくと人魚」。私が唯一借りた本を、何度も延長する。
 「何か月借りるつもりですか」「卒業する時に買います」「これ備品だから高いよ。アマゾンの本が安いですよ」「この本が良いんです」「もう読み飽きたでしょう」「まだ読み終わってません」
 そう、まだ私はこの本を読み終えていない。
 友君と一緒に読もうと思っていたから。

 きっと、この本を読み終えることは、無い。]**
(45) 2020/10/08(Thu) 6:03:03