【人】 生贄 セレン[ 静謐とした夜の空気。 朧とした光源が雲間の月だと知るには、 異色の双眸は郊外に続く道しか見ず、 フードから零れた銀だけがその光を映していた。 その丁寧に梳られたプラチナブロンドからは 上質な甘い花の香が仄かに漂っている。 結ばれた唇にも花の彩が引かれて艶やかに、 熱心に磨かれた肌もまた、滑らかな白磁のようで] (132) 2019/04/08(Mon) 20:40:02 |
【人】 生贄 セレン[ 子供を各地から安く買い叩き、 成人までは傷一つなく育て、化け物に捧げる。 世界に満ちた悪意を煮詰めて凝縮し、 それを甘く誤魔化した安寧の地は蠱毒に他はなく、 そこにしか居場所がない子供は選ばれ、 こうして捧げ物として運ばれていくだけの話だ。 それを真に理解したのは昨夜の話で、 孤児に逃げ場などなく、唐突に未来は閉ざされ、 こうして大人に囲まれ郊外の道を行く。 ] (135) 2019/04/08(Mon) 20:42:47 |
【人】 生贄 セレン[ 何が待ち受けているのかを知らされてはいない。 けれど間違いなく、 己の意志は関係なく物事は流れていくのだろう。 着飾られた衣装は殆どが上質な絹物で、 身じろぎするたびさらさらと衣擦れが響くけれど、 それすら身動きを封じる悪意の鎖のようで ] (136) 2019/04/08(Mon) 20:43:51 |
【人】 生贄 セレン[ やがて、森林を切り裂く道。 ひっそりと建つ古城は目を瞠る大きさで、 その門を潜らされればぽつんとひとりきり。 背後で閉じる門の音に、真に退路を断たれた。 前へ進むしか道はなく震える足で扉の前へと赴くと ] …………。 [ 扉を叩く勇気などなく、 辛うじて扉に掌をぺたりと触れさせて。 俯いた頬を濡らす雫を一つ零し、白く煙る息を吐く。 死ぬ為に、奪われる為に、未来を無くす為に。 ] (138) 2019/04/08(Mon) 20:53:25 |
【人】 生贄 セレンあなたの、もの です。 [ 恐ろしいのだろう、きっと。 乾いた心で村人に生贄となる未来を告げられ、 抗うこともできずにここに居るだけのただの人間は、 人間であることを捨てものだと言い切った。 死にたくはない。 捨てられたくもない。 もう飢えるのも裏切られるのも嫌で、 生贄としての未来しかないのならば、いっそ。 踏み出す姿にすら動けぬままだった仕草は、 漸く焦点を合わせて、古城の主を見つめる。 映すでなく、見て、夜空の断片に瞬いた。 血の彩りを宿した瞳を持つ、美しい化け物を。 牙を覗かせる微笑みを描く、恐ろしい男を ] (204) 2019/04/08(Mon) 22:49:04 |
【人】 生贄 セレン[ 玲瓏たる声音で告げた名を棚引くように、 男の前で頭を垂れる──には、 紅い眼光に許されざる意を汲んで視線は逸らさずに。 震える指先でフードだけではなく外套を脱ぎ、 すらりと靭やかな身体を晒してみせる。 生贄にされるためだけに整えられた肢体は、 お嬢さんと呼ばれるには程遠く、 主の勘違いを言葉ではなく視界で紐解くようにして ] (205) 2019/04/08(Mon) 22:54:58 |
生贄 セレンは、メモを貼った。 (a22) 2019/04/08(Mon) 22:57:29 |
【人】 生贄 セレンぅ、……裏切るのは、 ぼくが、嫌……なんです。 [ 人の感覚を古城の主も抱くとは考えてはいない。 ただ、裏切られ続けた過去を振り返り、 疵を刻まれたからこそ滲む言葉を素直に告げて。 そっと息を吐き、惑う視線を再び主へ向けた。 忌まれた瞳を射抜く紅に自ら絡め取られて、 その顎から逃れる気など欠片もないと示すように] (229) 2019/04/09(Tue) 0:08:39 |
【人】 生贄 セレン[ 頬へ伸びる指にも抗わず、 涙の筋を撫でる指先に温かな体温を返して。 染まった頬をなんと思うのだろうか。 主の指は夜のせいか種のせいか冷たくて、 瞬きを数度――それから、唇をまた震わせ紡ぐ ] (231) 2019/04/09(Tue) 0:20:57 |
【人】 生贄 セレン望むことを [ 今までもそうして生きて来た。 産まれることすら望まれないままの己を自覚して、 その穴を埋めるように自らを殺して生きてきた。 重石に縛られゆく感覚は、故に、ない。 そんなものはもとより諦めが蝕み麻痺して、 当然のように受け容れる子供は今もまた。 蕩ける微笑に蠱惑されるでなく、 ただ、満ちていく悲哀に瞳を曇らせて ] (232) 2019/04/09(Tue) 0:21:30 |
【人】 生贄 セレン[ 貴人を悦ばす知識は、詰め込まれていた。 古城の主のために―― 生贄が気に入られればそれだけ村の滅びが遠ざかる、 たったそれだけの理由で、子供には相応しくない知識を。 だからこそ、差し出された指へ生贄らしく。 その指先を迎えた唇は柔らかな感触で、 そっと触れるだけに到らず舌を覗かせちらりと舐めて ] (235) 2019/04/09(Tue) 0:35:34 |
生贄 セレンは、メモを貼った。 (a28) 2019/04/09(Tue) 0:45:00 |
【人】 生贄 セレン……たとえ困らなくても、 それが……ぼくが、貴方にあげられるものだから。 [ 耽溺に堕ちる淵で溢した言葉に意志を籠め、 きゅっと両手を握って頑なに踏み止まりながら。 己の価値という難しい思考までは至らず、 ただそれだけを主張し、訴える。 けして裏切らない、純粋なまでに嘘もない。 大人に纏わされた虚飾も剥いで示したように、 己の所有者への隷従を――─囀る響きは真摯に。 ] (284) 2019/04/09(Tue) 15:21:09 |
【人】 生贄 セレンぼく、自身…… [ 溢した言葉は吐息交じりに、 熱い音を響かせ、緩やかに繰り返す。 自分自身──それを望まれている。 けれどそんなものを知るようならば、 己はここに居ずにとうに親元で死んでいただろう。 己に出来る事と言えば、 食べられる野草の見分け方とか貴人には無縁の知識と 村で詰め込まれた夜伽の術しか持ってはいない] (286) 2019/04/09(Tue) 16:13:55 |
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