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【人】 魔法使いの弟子 オペラ[閉め切られた部屋の窓を開くと、 やわらかな風が春の香りを運んでくる。 埃っぽい空気の代わりに、 私はそれを、思い切り吸い込んだ。 机の上の資料は、きっと大丈夫だと思うけど 風で飛んでしまわないよう、 重しを乗せておきましょう。 ついでに覗いたカップの中身は、三分の一ほど。 もうすっかり冷めてしまっているから、 新しいものに入れ替えようと手を伸ばす。 ここまで一切無反応。 カップも机も、この部屋も 全部私のものじゃないのに。 元々無口な人だけれど、 作業に没頭すると寝食まで忘れてしまうのが 私の師、その人だった。] (1) 2022/03/26(Sat) 1:51:21 |
【人】 魔法使いの弟子 オペラあ…手紙が届きましたよ、師匠。 [湯気を立てるカップを、いつもの定位置に戻して。 ふと吹き抜けた風の軌跡を目で追えば、 魔法の掛けられた手紙が一通>>n0 机上に着地していた。] 師匠……師匠。 [三回呼んでも駄目な場合、 完全に聞き流されている、というのは経験則。 師いわく、無視をしているわけではないらしい…が。 確かに私は、声の大きな方じゃないけれど。 環境音と一緒にされるほどでも、 ないと思うんだけどな……。] (2) 2022/03/26(Sat) 1:51:26 |
【人】 魔法使いの弟子 オペラ[ふう、と吐き出す溜息も 慣れてしまえば無遠慮に、かつ短くなった。 こういう時、何と言えば返事があるかも 私はもう、知っている。] …ヴィスマルト、お、じ、さ、ま。 (3) 2022/03/26(Sat) 1:51:31 |
【人】 魔法使いの弟子 オペラ[…ほらね? と、いうわけなのです。 一音ずつ区切ったのは、少し意地悪が過ぎたかな。] 呼びましたよ、三度も。 それよりアガーテ様のお手紙です。 早く読んだ方がいいのでは? [見覚えのある虹の封蝋を指してそう言うと、 カップを運んできたお盆を抱えて、一歩下がった。 こんなやり取りでもなければ、私はきちんと 叔父様のことを師匠≠ニ呼んでいる。 …実の叔父なのだから、そう呼んだって ちっともおかしくないはずだけど。 微妙なお年頃なのかしら。 それとも、別の理由なのかしら。 ここでの暮らしには、すっかり慣れたつもり。 でも、そこまで突っ込んだ話ができるほどには、 この関係に、いまだ馴染めていなかった。]** (5) 2022/03/26(Sat) 1:53:08 |
魔法使いの弟子 オペラは、メモを貼った。 (a0) 2022/03/26(Sat) 1:54:29 |
【人】 魔法使いの弟子 オペラ[はい、と頷いてご所望の品を渡す。>>46 自分で取った方が早いのに、と思っても それは口にしないまま。 こちらが馴染めないのと同じように、 あちらも距離感を掴みかねているような。 そんな雰囲気は、ずっと感じていた。 私もあまり、社交的な方ではないと思っていたけど あの人ほどではないのかもしれないと。 そんな気付きを得たのは、ここに来てからのこと。 だからといって、 踏み込むわけでもないのだけれど。] (51) 2022/03/27(Sun) 6:00:29 |
【人】 魔法使いの弟子 オペラ[どう見ても、通いの家政婦だけじゃ 手の足りていない家。>>47 行き届かない家事を手伝っては、 魔法使いの弟子って何だろう…と考えた。 でもまあ、最初はみんな、雑用から始めるものかな。 私もそのくらいが丁度いいんだろう。今はそう思う。 そうしているうちに慣れるもの、だから。 気まずい静寂も、いつの間にか解けて。 今はただ、そこに横たわっているだけ。] (52) 2022/03/27(Sun) 6:00:34 |
【人】 魔法使いの弟子 オペラ[名門、シュバルツシルトの娘として生まれた。 黒い盾の紋章を背負う一人として。 両親の才能を受け継ぎ、 魔眼という天賦の力まで与えられ。 祝福を受け生まれてきたのだと言われれば、 幼い私は、期待に応えたいと願った。 今は。 誇っていたのか。驕っていたのか。 何も、わからない。] (53) 2022/03/27(Sun) 6:00:44 |
【人】 魔法使いの弟子 オペラ……アガーテ様はなんと? また、家の方で何かありましたか…? [手紙に目を通して、わずかに眉を顰めた師匠に つい、横から声をかけてしまう。 『家のことはそっちでやって頂戴』などと言うが、 今も一族の頂点に君臨しているのは、あの方だと。 それが私達の共通認識だったから。 交流がある、というほどではないけれど 私もお世話になっている。 この片眼に魔法をかけてくださったのも、 あの方だと聞いた。おかげで、本物と遜色なく動く。 だから、仮面をつけているのは…… ] (57) 2022/03/27(Sun) 6:01:10 |
【人】 魔法使いの弟子 オペラ[手紙は、考えていた用件とは違ったようで。 それに安心していたら、] えっ…二人分ですか。 [師匠の声に驚いて。 思わず、聞き返してしまった。 短い旅の支度なら、何度か手伝ったことがある。 けれど、いつも師匠一人分だった。 それに文句を言ったこともないし、 連れて行ってくれと頼んだこともない。 ……ないのだけれど。 遠出なんて、いつぶりだろう。 外を出歩くのは苦手なままだ。 だけど私は18で。隠者になるには早すぎる。 ちらりと、開けたままの窓を見た。 春の陽気は穏やかだ。] (61) 2022/03/27(Sun) 6:01:45 |
【人】 魔法使いの弟子 オペラ[それに、私は。 家事手伝いについてはともかく、 師匠が教えてくれることに、 不満を持った覚えはなかった。 自ら望んで、ここに来たのだし。 蒼鉛のように――蒼鉛とは、他の魔術師が 師匠を指して呼ぶ言葉だ――冴えない仕事は、 お前がやるべきことじゃないと。 そう言う人もいるけれど。 薬を作ったり。道具を作ったり。 作業台の上での静かな仕事は、 私にとって、好ましいものだった。] (62) 2022/03/27(Sun) 6:01:54 |
【人】 魔法使いの弟子 オペラ[師匠は私の叔父様で。 当然、私の事情も知っていて。 それでも、慰めのために外に連れ出そうとか そんなことは、今までなかったのだから。 連れて行くというのは、つまり、 弟子として同行させるということ。 しかも、難しいお仕事に、だ。 つまりそれって―― 弟子として、少しは当てにしてくれている、 っていうことなのかな。] (63) 2022/03/27(Sun) 6:02:05 |
【人】 魔法使いの弟子 オペラ[久しく味わっていなかった高揚感を覚えた。 もちろん、そうでなくとも、 弟子としてNOと言う選択肢はないのだけど。] わかりました。出発はいつですか? 行き先は? 手持ちの路銀は足りてます? ミュラーさんへは連絡しておきますね。 あとお休みするのは、牛乳の配達と、それから… [ミュラーさんとは、通いの家政婦さんのことだ。 家政について、私に仕込んだのは 師匠ではなくミュラーさんの方。 師匠は、私の勢いにすっかり押されている。] (64) 2022/03/27(Sun) 6:02:12 |
【人】 魔法使いの弟子 オペラ[色のない空から降りしきる雨。 誇りではなく、喪に服すための黒。 手向けられた花々も。 奪われた目にはもう、何一つ映らなかったけど。 残された眼が映す色は、うるさいほど鮮やかだった。 片割れを欠いた魔眼の力が、制御できなくて。 不安定になったのは、心のせいだったかもしれない。 過敏反応で勝手に知覚してしまう、見えざるもの。 叔父の抱える白い花に、ほんのわずか。 移り香のように残った、紅。] (97) 2022/03/28(Mon) 6:42:10 |
【人】 魔法使いの弟子 オペラ紅玉の魔女… [その名は聞いたことがあった。 確か、師匠を尋ねてきたアガーテ様の世間話で。 ううん、他にも聞いたことがあったかしら… たとえば、高名な魔術師として。 あるいは、古城に住む魔法使いの話。 師匠の家は静かなものだけれど、 私の家はそうじゃなかったから。 魔術界のことなら、色々な噂が飛び交っていた。 でも、それらが、 紅玉の名で結び付くほどのものだったかは…さて。 何にせよ、もし教えを受けられる機会があるなら… 受けたいと思うかは、どうだろう。 師匠の言い分を聞くなら、 本当に信頼できる方なんだろうけど。 怖い方かしら…… ] (105) 2022/03/28(Mon) 6:43:09 |
【人】 魔法使いの弟子 オペラ[出発前に、そんなことを考えていたせいか。 旅の緊張もあったと思うけど。 辿り着いた目的地で、いざその人に会うとなったら 私は緊張で固まってしまって。] し、師匠…お迎えは、 本当にここでいいんですか。 思い違いで、お待たせしては 失礼に…… [なんて、お顔を見る前からオロオロしている始末。] (106) 2022/03/28(Mon) 6:43:18 |
【人】 魔法使いの弟子 オペラ[あれから。 ぽっかり空いた眼窩には、新しい眼を埋め込んで。 顔の傷だって、すっかり癒えて。 今はもう、いたずらに 視 てしまうことはないけれど、それでも紅玉の名を冠するその人に会えば。 それに相応しい色を、肉眼でも認めたなら。 私は知らず、同じ 言葉 を漏らすのだろう。] (107) 2022/03/28(Mon) 6:43:22 |
(a4) 2022/03/28(Mon) 23:00:36 |
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