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【人】 灯守り 立春[大寒さんから前日に受け取った鍵を挿し入れ、 ふたりの頼もしい蛍さんとともに 灯宮の中へと足を踏み入れる。 一年前に来た時と何も変わっていない。 厳かな空気の流れる薄暗い空間も、 揺らめきながら移ろうように色を変えてゆく灯りも。 ここは、魂の還るところ。 そして、魂の生まれ出ずるところ。 ひとつ、またひとつとカンテラへ還る灯りを見届けて 導の灯りから両手でそうっと灯りを掬い取る。 いつか見送ったあのひとは、もう 新たな生を受けて旅立ったろうか。 それともまだ、この手のひらの中に居るだろうか。] ────…… 行ってらっしゃい! [どうか幸せな一生を送れますように。 良縁に恵まれて、困難にも打ち勝てますように。 小さな祈りを込めて灯りを解き放てば、 無数の煌めく 花びら は風に流されて冬至域の方へと旅立って行った。] (324) 2022/01/30(Sun) 23:49:46 |
【人】 灯守り 芒種[ 帰り際、大袈裟に別れを惜しむ妹を抱きしめる。 いつ突然そうなるか、わからない能力を継いだこの子に 今生の別れでもあるまいに、なんて気安くは言えない。 何度わたしが「また遊びに来る」を繰り返しても 「帰らないで」ではなく「行かないで」と泣きついた 小さな頃と何にも変わらない寂しげで 不安いっぱいの双眸を覗き込んで、 頬を撫でて、こみ上げる愛おしさのまま 昔と変わらぬ所作で、前髪の上から そっと額に唇を押し当てた。 眠るのを嫌がる幼い子供に、彼女の両親を真似て 何度も繰り返した、寂しさを吹き消すおまじない。 ] しばらくは忙しいでしょうけれど 手が空く季節になったら、またいつでも遊びに、…… [ 何度も繰り返した「また遊びに来る」の言葉は この子が先代立春に弟子入りして 「また遊びに来て」に変化した。 この子の帰る場所はもう、芒種域ではないから。 理解している。今更言い澱む言葉でもない。 なのに もう何度も繰り返してきた言葉が 喉に痞えて出てこない。 ] (330) 2022/01/30(Sun) 23:59:12 |
【人】 灯守り 芒種[ やられた。頭を抱えたくなる衝動と 不自然に途切れた言葉に心配性の妹を 心配させてしまうのとを 掛けた天秤は一瞬で後者に傾いた。 犯人はどうせこの場にはいないのだから お仕置きをするのもどうせ帰ってからだ。 なら今すべきことは、 この場をどうにか取り繕う事だけ。 ] (332) 2022/01/30(Sun) 23:59:36 |
【人】 灯守り 芒種[ 飼い猫はちょっとした能力を持っていた。 どんな能力なのか問いただしたことはないので 正確な能力も、いますぐ解除する術もわからない。 関心を向けなかったツケだ。 今かろうじてわかっていることは、猫の能力が 『ほんの一言の指定した言葉をしばらくの間封じる』 だとか、そんな感じの能力であるということだけ。 そういえば出がけになにかぐずっていた 「その気もないくせに無闇矢鱈にひとを誘うな」と 社交辞令で紡ぎかねない「遊びに来て」を封じたようだ。 社交辞令で紡ぐのなら「遊びに いらして 」を使うけれどそのへんの些細な違いは理解していないのかもしれない。 「遊びに いらして 」なら言えるのか?茉莉にいうの?そんな他人行儀に? 「来て」がだめなら「来る」で 何かしら言い換えれば……? どうすべきか悩んでいる間にも沈黙は過ぎて、 なんだかなにもかも面倒になってきた。 いいか、もう、言ってしまっても。 べつになにも間違ってはいないのだから。 ] (333) 2022/01/30(Sun) 23:59:51 |
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