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【人】 魔術師 ラヴァンドラ魔術師は、少女の吐露を静かに聴いていた。 言葉を挟めば消えてしまう気がして どんな慰めも傷付けるのではと恐れて。 虚 偽 欺瞞 絶望 喪失後悔 切望 諦観 渇望 綯い交ぜの感情は嵐に荒れる海さながらで 少女が溺れてしまわぬか、些か不安だが。 ―――― けれど女の心配を横目に 雛鳥は、きちんとその言葉を、口にした。 (162) 2021/12/16(Thu) 13:44:20 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ撒いた種から 花が咲くように 月が沈んだ後 太陽が昇る様に 夜が終われば 朝が来るように 雪 が解ければ、―――― 春 になる (163) 2021/12/16(Thu) 13:44:35 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ少女の唇が確かに紡いだ、その三音。>>155 パイ屋で出会ったフェレスでも 依頼主のテテルでもない その名を拾い上げた女は、小さく呼んだ。 それから――少女の反応を待つことなく、 す … と顔を近づける。 「 …… ごめんね? 」 謝罪が受け入れられるかは兎も角として、―― 魔術師は、薄い薄桃の唇を 少女にそうっと重ね合わせ。 (164) 2021/12/16(Thu) 13:44:43 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラそれは、――彼女の名前を呼んだ時点で ある程度まで解けていた呪いだったかもしれないし 過ぎた時間の長さ故に強固で、 容易には解けてくれないものだったかもしれない。 どちらにせよ魔術師は、 少女を不安がらせないよう、微笑んで。 「 …… ね、ほら、 大丈夫だったでしょ? 」 そう言ってもみせるのだけれど、 ―― あまり余裕ぶってもいられないものだから。 (166) 2021/12/16(Thu) 13:45:22 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ「 私の近くにいると、 …… まだ、呪いの影響 出ちゃう、かも。 だから、また明日にでも おいで。 ―――― それで依頼はおしまいだから 」 少女が頷いてくれるのならば、 魔術師は冷えた指先をどうにか動かして 奥に引っ込んだままの人魚へ声を掛けよう。 (167) 2021/12/16(Thu) 13:48:03 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ依頼が終わった旨と、 少女の見送りを頼みたいことを伝えれば 人魚は果たしてそれを受け入れてくれただろうか。 魔術師は少女に影響が及ばないよう、 一定の距離を保ちながら 生きたいと願った少女のことを、見詰めるのだけれど。* (168) 2021/12/16(Thu) 13:51:00 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ―――― 夕刻/自宅 ―――― 彼が見送りの役割を請け負ってくれたのなら>>171 魔術師は礼を告げて、柔く微笑もう。 少女の姿と、人魚の背中も一旦は見えなくなれば 椅子へ座り直し ――――息を吐く。 やはり、呪いなんて碌なものではない。 彼女が長年抱えていたものは、本質的には人の恨みだ。 怨恨、苦痛、――復讐。 呪いが当人にどんな効力を齎すにせよ、 あの小さな体でよく耐えていたものだ。 ―― いや、魔術師も身長は人のことを揶揄えないが。 (199) 2021/12/16(Thu) 22:23:12 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ呪いを体内で解呪するには、 術者の魔力をぶつけ、調和する以外に道は無い。 込められた負の感情と、呪った本人の記憶の幾らかを ――― その全てを文字通り受け入れ、消し去るのだ。 はふりと息を零し、冷えた指先を握り締めた。 愛した人に捨てられた魔女の恨みも 愛した物を奪われた、魔女の嘆きも …… その辛さは痛い程に良く分かる。 (200) 2021/12/16(Thu) 22:23:17 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ傷付けられたら、同じだけ傷付けてやりたい。 自分の手を離した相手を赦せない。 故に呪いという道を選んだ魔女のことを、 魔術師は責め立てる権利を持たない。 ―――― 同じことを考えた過去故に。 (201) 2021/12/16(Thu) 22:23:21 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ「 ねえ、ママ 私のどこがいけなかった…? 」 「 ねえ、パパ 普通の子なら、愛してくれた? 」 振り払われた手の痛みごと。 ―――― 思い出しては、眉を顰める。 復讐がしあわせに繋がると信じてしまうのも 故に人を呪う気持ちも、 … 理解ってしまうから (202) 2021/12/16(Thu) 22:23:25 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ…… けれども。 「 ―――― だからって、 関係ない子を苦しめるのは、 …… それは違うでしょ……! 」 傷付いても、誰も助けてくれない苦しみは ―――― 誰だって識っているだろうに。 魔術師は恨みを訴えてくる呪力を飲み下し、 文字通り、魔力で呪いを押し込んだ。 (204) 2021/12/16(Thu) 22:23:53 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラそうしている間に、人魚が役目を終えて帰って来たなら おかえり――と迎えようとして。 許可なく手を取られ、不服を訴える海色の右目を見るに 女の行いは、説明するまでもなくバレているようで。 「 …… えへ。 ごめんね、……怒らないで……? 」 なんて、可愛い兎の真似事をして許しを乞うけれど さしもの彼も、この甘えを受け入れてくれるかは―― …… あまり自信がない。 (205) 2021/12/16(Thu) 22:23:59 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ「 …… 大丈夫だよ。 テレベルムのおかげで、……平気だから…… 」 ―――― あの、猫のような少女は。 女が誰かを本当に呪ってしまった未来の体現みたいで。 …… それがどうにも居心地悪くて、 だからこそ、こんな手段を取ってしまったけれど。 自分を抱き締める彼が気を病んでしまわないよう、 そっと背中へ腕を回し返した。 変わらず命を刻み続ける心音が聞こえるように 何の隙間も生まれないよう、―― ぎゅう、と。* (206) 2021/12/16(Thu) 22:24:44 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ―――― その後の噺 ―――― 祝祭が終わっても、女は結局人間には成れなかった。 垂れた兎の耳は変わらず毎日風に揺れて、 尻尾は驚いた時にぽふんと膨む。 溢れそうな魔力を消費し、道端の猫と睨み合って 変わらず誰かの世話を焼いての繰り返し。 呪いに苦しんでいた子猫の少女は、 あの後どんな様子で魔術師を訪っただろうか。 ―――― 無様でもいいから生きたいと叫んだあの願いが どうか何の柵も無く叶えばいいと、願って。 (282) 2021/12/17(Fri) 21:43:28 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ淫魔の友人がこの街を再び発つ前に、 女は彼の元を訪って、パイ屋の特大パイを御馳走した。 もしかすれば彼は驚いたかもしれないし、 ―― 等価交換ではないと言われたかもしれないが。 「 メレフ、あのね …… ありがと。 私は御伽噺の女の子にも、人間にもなれないけど あの時助けてくれたの――嬉しかったよ。 」 唯のラヴァンドラを、友人として慈しんでくれた ―― 彼の不器用にも思える優しさは けれど確かに、寂しがりの兎を助けてくれたから。 (283) 2021/12/17(Fri) 21:43:32 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ―――― 少し時間を置いてから、魔術師は暫くの間 人魚を伴って姿を消した。 目的地は極少数の友人にだけ伝え、 旅には向かない身の上で、それでも彼と歩くことを選び。 街から出たことのない女は、あちこちへ興味を示し けれど逸れることを恐れて人魚の手は離さなかった。 「誘拐されたら困る」と本気の顔で告げて、 そしてその誘拐対象は女ではなく人魚であることも 付き合いの長い彼には理解るだろう。 (284) 2021/12/17(Fri) 21:43:37 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ彼は妹を見つけられただろうか。 無事に――使命など関係のない、家族の再会を果たせたなら その時ばかりは女も彼から手を離し 家族のみの空間にしてあげようとしただろうけれど。 …… 本当は。 女の知らない、温かいだけの家族の形を見るのが怖くて 妹に再会した彼が どんな道を選ぶのかが分からなくて 見ないフリをしようとしただけ。 識らなかった頃には帰れないから。 (285) 2021/12/17(Fri) 21:43:40 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラけれども結局女の危惧とは裏腹で、人魚は女と共に 住み慣れたエオスの街へと帰って来てくれた。 ―― それがどれだけ嬉しいことなのか、なんてこと 彼はずっとずっと知らない儘で、良いのだけれど。 「 リル! 」 兎は月を見て跳ねる、――と東の国では歌われるが この街の兎は、訪った親友を見て跳ねる生き物だ。>>262 ぱっと顔を輝かせ、自宅の扉を開き そこに立つ彼女をぎゅうと抱きしめよう。 (286) 2021/12/17(Fri) 21:43:44 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ私の大切なお友達。 人間になりたいという願いも、私の存在も 初めて肯定してくれたかわいい貴女。 世界への復讐を希っていたと、もし私が識れたなら ―― 私もきっと彼女の全てを受け入れる。 それが誰かを傷付ける結果になることでも、 それで彼女の全てが掬われるのならば、と。 復讐に心を堕としても、誰かを殺めても …… 貴女は、私の。 (287) 2021/12/17(Fri) 21:43:46 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ…… なんて、沢山の手土産を持参してくれた彼女へ いたずらっぽく囁いてみせれば。 あの時のように可愛い反応を見せてくれるのか、 或いは受け流されてしまったか。 「 リル、こっちきて! 一緒にご飯食べよっ 」 どちらにせよ女は、彼女の腕を逃がさないように抱き締め 家の中へと招き入れた。 …… やや過剰に思えるスキンシップの理由は、 いつの間にか彼女が傍へ置き始めたホムンクルスなのだが。 そんな子供じみた嫉妬心は隠してしまって。 (288) 2021/12/17(Fri) 21:43:56 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ「 …… ねえ、その子の名前は? 甘いもの用意してるんだけど、好きかなぁ。 」 ―― 兎は出来る兎なので。 そんな風に、可愛いばかりの友人へ尋ねてみては 恐る恐る交流を計ることも、あっただろう。* (289) 2021/12/17(Fri) 21:44:00 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ――――― 途中からの記憶が無い。 いつの間にか気を失っていた女が目を覚ます頃には、 すっかり身体は清められて 気に入りの部屋着を着せられていた。 ( …… 丁寧に下着まで履かせられているのは 顔をやや赤く染め、思わず俯いたが。 ) そのままゆっくりとリビングへ足を運べば、 四角形の匣を――実験中の魔術師めいた真面目な顔で 見詰める人魚がいるものだから。 (316) 2021/12/17(Fri) 23:21:39 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ「 ………… 、 …… おは、よ? 」 頭でもぶつけたのかと真剣に心配したけれど どうやら魔道具のひとつらしい、と思い至って いややっぱり何を……と首を傾いだけれど。 >>291 視線を流した先、 テーブルに並べられた昼食へ気付けば きょと … と目を見開いた。 (317) 2021/12/17(Fri) 23:21:43 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラそれから、すこしだけ照れたように言葉を紡ぐ人魚へ 女にしては珍しく思考が追い付かないような様子を見せ、 …… 温められた甘いオムレットと 不格好に笑う彼を見比べては、へにゃりと眉を下げた。 「 ―――― … ほんと? 私と家族になってくれる……? 」 目覚めれば愛しいひとがいる朝も、 共にご飯を食べる毎日も、――独りで街を見下ろす夜も もう何もかもを諦めなくて、いいのだろうか。 どこにもいかないで、と縋った私の指先で 貴方をずっと抱き締めても、許される? (318) 2021/12/17(Fri) 23:21:48 |
【人】 魔術師 ラヴァンドラ「 ――――― ありがとう、テレベルム 貴方に会えて、良かった。 」 私は愛しいばかりの貴方の頬へ触れ、 それから重ねるだけのキスを落とした。 (320) 2021/12/17(Fri) 23:22:08 |
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