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【人】 葉山 裕太郎[しかしつけてしまった以上は仕方ない。 たまごサンドを食べてもう現実逃避でもしよう。 寒さで悴む手をポケットに突っ込んでマンションを出ると、朝の光が灰青色の空に煌めいていた。 人は案の定ほとんど歩いてはおらず、やはり冬は安息の室内で暖を取るのが大半なのだと直ぐにわかる。葉山もまた、願わくばそうしたいと思っていた一人なのだから。] (21) 2024/01/07(Sun) 0:32:12 |
【人】 葉山 裕太郎[こんな時間なら歩きタバコも許して欲しい。 そう思って火をつけながら、一週間後のイベントに悩みながら横断歩道を待つ。 スーパーまで、もう少しだ。]* (22) 2024/01/07(Sun) 0:34:39 |
【人】 葉山 裕太郎[葉山にとってのサイン会開催とは本来望んでいたミステリージャンルとの決別を示している。 官能小説家(他称)が書いた作品など色眼鏡をかけて見られるのは明白だ。 それが同一人物であると悟られてはいけない以上、晒せるのは片方の顔のみ。 もうミステリー作家の葉山裕太郎が表に出ることは無いだろう。いままで通り細々と活字の仮面を被っていくことになるのだから。 だが実態は至極単純で、ミステリーの世界では腹は満たせなくなっていっただけのこと。 生業とするか趣味に留めるか、葉山もまたその選択を迫られた一人でしかなかった。] (30) 2024/01/07(Sun) 22:01:05 |
【人】 葉山 裕太郎[あの時の企画で書いたものは短編と称してかなり長くなった。なにしろシチュエーションが奥深いものだったおかげで着想が止まらなかったのだ。 当然その小説はメンバーシップに登録していれば誰でも見れるものだが、感想のコメント欄に「何食べてきたら思いつくんだろう」とか、「相変わらずエグくて推しです」とか、散々な言われようだったのは今でも覚えている。] (32) 2024/01/07(Sun) 22:07:48 |
【人】 葉山 裕太郎[古き良き恋文、熱いファンレターは昔から胸が高鳴る。今はそれがDMに置き換わっただけで創作に勤しむ人間にとって、好意的な感想はいつだって活力の元だ。 誰からも感想を言われなくなった時に創作家は死を迎えるという持論がある葉山にとっては、時に否定的な感想さえ有難くもあるというのに。 その感想をどうやって否定的に捉えろというのだろうか。 それが作品の感想であるのなら常にリアクションを返すのが葉山流だ。] (39) 2024/01/08(Mon) 22:00:25 |
【人】 葉山 裕太郎[とはいえ、作品の内容が内容なのでこの短編小説にこうも丁寧な感想をいただいてしまうと、この読者の方はいい意味で官能小説を読む才能があるのだとそう思わざるを得ない。 倫理観が適度に欠けていなければ、この手の小説を素直に受け入れることはできないだろうから。 もしもこの人がオタクなら、間違いなく将来有望だ。]** (40) 2024/01/08(Mon) 22:04:38 |
【人】 葉山 裕太郎[理想を崩さないようにただの村人Aに徹そうとした葉山は白々しくも知らないふりをしたのだった。 その白々しさが露呈すると知るのは一週間後のこと。 ]* (44) 2024/01/08(Mon) 22:06:15 |
【人】 葉山 裕太郎*** [サイン会の当日は裏口からこっそり入場することがほとんどだ。昔は無名ということもあり表立っても目立たなかったのだが、一時を境にやけに目立つようになってしまった。 しかも、ジャンルの影響か分からないが、何故か女性の読者が増えた気がして葉山には不思議でならない。 顔が良いアイドルでもあるまいし調子に乗るなという自分への戒めのため、サイン会は他の人の視線に晒されまいと書店の奥にブースを構える。 しかし日に日に列は長くなるのでまるで意味が無い。] (45) 2024/01/08(Mon) 22:38:22 |
【人】 葉山 裕太郎[今は設営が一段落し、サイン会まで二次会を切るった頃。緊張という程では無いが今のうちに済ませるものを済ませておこうと、葉山はフロア内のトイレへと向かう。 まさかあの時の彼女がここを訪れているなんて気付かず、一人の客のように裏方から出てくる姿は、もしかしたら彼女にだけは目撃されていたかもしれない。 来ていると知っていればもう少し見つからないように動くのだが、それも気付けない以上は無理な話だ。] (47) 2024/01/08(Mon) 22:39:35 |
【人】 葉山 裕太郎[彼女がこのサイン会にやってきたと知ったのはサイン会中にちょうど列が進んだ時か、それともサイン会が始まる前か。 なんにせよ色々な意味で驚かされることになるのだろう。 まさかこんな近くに、自分の熱烈なファンがいて、しかも最古参だなんて。]* (48) 2024/01/08(Mon) 22:42:50 |
【人】 葉山 裕太郎[アイドルともなれば人の目に気を使う。 自分のように人目が気になるのではなく、そうしなければ命の危険さえあるからだ。 裏返せば葉山の危機管理はアイドルのそれからは大きく劣るもの。要するになめているということに他ならない。] (62) 2024/01/09(Tue) 20:20:07 |
【人】 葉山 裕太郎[サインを書いていると、後ろのスタッフが差し入れは禁止だったはずと耳打ちをしてくる。その声はきっと彼女にも届くだろう。しかし葉山はというとスタッフに微笑み。] たまにはいいじゃないですか。 こうして足を運んでくれたわけですから。 [そう言って差し入れを受け取るのである。 全員から受けとっていたらもちろんキリがない話なのだが、差し入れなんて元々そんなに多くもないし困らないだろうという判断をしただけのこと。 中身を相手の前で見るのはマナー違反と思い、今は確認することはしない。] (65) 2024/01/09(Tue) 20:23:54 |
【人】 葉山 裕太郎[一番手に並んでくれた彼女に作者としてのお礼を伝えると、葉山は握手を求めて手を差し出す。 この機会に、改めて作者として一読者へ、最大限の謝意を込めたのだった。] (67) 2024/01/09(Tue) 20:25:03 |
【人】 葉山 裕太郎*** [サイン会も無事に終わり自宅へ向かう。 今日のサイン会も読者たちには喜んでもらえたようだと安心したのもつかの間、煙草を切らしていることを思い出して近くのコンビニに立ち寄る。 お気に入りの煙草をカートンで複数、バラで何個か購入すると店の前で煙草に火をつける。 歩き煙草は今どき風当たりも厳しいし、灰皿も今じゃここくらいにしかない。 人のいない夜の今なら少しは許してくれるだろう。いや、もう許して欲しい。] (76) 2024/01/10(Wed) 0:40:05 |
【人】 葉山 裕太郎[気の所為だろうか。 ライターで煙草に火をつけているとふと誰かに見られているような気がして、辺りを見渡してみたものの誰もいない。 頭を掻きながら煙草を吸い終えると灰皿に吸殻を刺して、また家へと歩き出す。] (77) 2024/01/10(Wed) 0:41:42 |
【人】 葉山 裕太郎[そういえばサイン会の後、差し入れには何か危ないものが入っているかもしれないとスタッフの一人が心配していたことを思い出す。 とはいえ、そんなことをするのは悪意がある人くらいだろうしわざわざここまでファンでいてくれる読者に要らぬ疑いはかけたくない。 それに興味の対象は自分の書いた小説であって自分ではないのだから、そこまで警戒をする理由もない。 葉山は自分を案ずる彼らの言葉を聞き入れることはせず、そのまま持ち帰ってしまった。] (78) 2024/01/10(Wed) 0:42:17 |
【人】 葉山 裕太郎[マンションはオートロックがあるタイプのもの。万が一にでも不審者は入って来れない。たとえほかの居住者に紛れたところで、24時間交代で常駐している管理人達がそれを許すことがない。 高すぎるセキュリティは自身の意識を弛めてしまうもので、葉山は家の鍵を開けて部屋に入ると、そのまま貰ったぬいぐるみを執筆用のデスクのそばに置くのだった。 葉山の頭の中はいただいた紅茶を明日の朝に嗜むことでいっぱいだ。]** (79) 2024/01/10(Wed) 0:45:40 |
【人】 葉山 裕太郎[あれから数ヶ月経った頃、いつも良くしてくれている管理人さんとばったり会って挨拶をした時にお隣の住人の話を聞かされた。 このマンションは元々あまり引越しなどで人が出入りすることもなく、インターネットを探してもいつも空室がなく出たとしても一度に一部屋くらいという人気ぶりだ。 だからそれ自体が珍しいことだったのだが。] え。お隣さん、引っ越したんですか? [管理人さんが教えてくれたその事実に葉山は目を丸くする。 お隣さんは確か女性で、引越し挨拶をした以外の関わりはほとんどなかった。 詳しくは知らないがどうやら交際していた男性とのトラブルのせいで、住む場所を変えなければならなくなったようだ。 自分には無縁のような話だけに、その時は大して重くは受け止めていなかったのだ。 隣が空室になったところで何の影響もないのだから……。]** (80) 2024/01/10(Wed) 0:52:30 |
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