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【人】 軍医 ルーク[ 外壁の階段を、ぺんぎんと共に降りてゆく。 基地の内部、建物からばらばらと出てくる武装兵たちが 遠目に見えた。 総攻撃に対して、出来る限りの戦力が投入されている。 けれど、基地を完全に手薄にしたわけではない。 基地を守る防衛部隊も、此処には残っているのだ。 一歩足を踏み出せば、 外壁がぐらりと揺れて足を踏み外しかける。 ずるりと足が滑り、そのまま転げ落ちそうになる。 咄嗟に石壁にしがみ付くようにして身体を支え、 一歩、一歩下へと降りてゆく。] (48) 2020/05/27(Wed) 23:53:34 |
【人】 軍医 ルーク[ きゅい! と切羽詰まった鳴き声。 がらがらと落ちてくる何かの音に耳がぴくりと動き、 咄嗟にぺんぎんを抱え込み、壁面に身を寄せれば、 爆ぜ割れ、弾け飛んだ壁面の瓦礫が足元を掠め、 人の頭など砕いてしまいそうな勢いで、 下へと落ちていった。 砲声の向こうから金属の咆哮が響き、大気を揺るがす。 火薬の匂い、煙、破壊音、 そのひとつひとつが、五感に突き刺さり、 白い耳が、ふる、と本能的に震える。 動けなくなる、脚が竦む。 そのまま頭を抱えて屈みこみたくなるのを、 ぶん、と強く首を振って振り払う。] ……、逃げよう、 下に防衛部隊が、いる、 [ ぺんぎんに言い聞かせる声は、 自分にも言い聞かせるように。 以前、この脚が生身であったころは 一息に駆け下りられたに違いない階段を、 時折鳴り響く爆音に追い立てられるように、降りて行った。] (49) 2020/05/27(Wed) 23:56:04 |
【人】 軍医 ルーク[ 外壁を降り、基地の内部――東棟の中へ。 まだこの建物の中にいたぺんぎんたちが、 慌ただしく駆け回りながら、 ぱたぱたと必死で羽をはばたかせ、 窓から首を出して外の様子を見ている。 きゅきゅいと鳴き交わし、跳ねまわる一羽に声をかけた。] 外に三体いる! 昆虫型――形状は蟷螂に似てる、 詳細は確認できなかったけれど、新型だ、 恐らく以前の型から類推するに、 脚部に複数の火器――…! 蟲型の特徴は規格外の脚力と、 触覚による索敵能力、 外壁を飛び越える恐れがある、 奴らの目的は基地だ! [ 早口でそう告げる。 恐らく、あれを見た者は自分だけではない。 司令部では戦況も確認されているはずだ。 それでも、情報はあるに越したことはないだろう。 以前研究所で見た蟲型の装備を頭の中に並べ、 類似点を絞り出す。] (50) 2020/05/27(Wed) 23:57:37 |
【人】 軍医 ルーク司令部――それか、然るべきところに伝えて、 君たちも奥に避難をして! [ ぺんぎんたちにそう告げる。 耳がぴくぴくと動き、 基地内に鳴り響く新たなサイレンを捕える。 襲撃が迫っていること自体は、やはり把握され、 情報が行き届いているらしい。 先程外壁から逃げるときに見えた防衛部隊の動きも、 統率が取れたものだった。 パニックになっていたぺんぎんたちは、 “おてつだい”のお仕事にはっと我に返ったようで、 四方八方に散ってゆく。 中の一羽が、自分と一緒にいる一羽に、 がんばれ! とでもいうようにぱたぱたと羽を動かし、 飛んでいった。 どうすればいい、どこに行けば? 思考は一瞬だった。 いまは基地の奥、非戦闘員の避難区画まで行くべきだ。] (51) 2020/05/27(Wed) 23:59:40 |
【人】 軍医 ルーク[ 此処に奴らが押し寄せてきたなら、 どこにいたって逃げ場なんてない。 どれほど基地の奥、堅牢な一画に身を寄せようと同じこと。 けれど――… 敵は近づけさせないと、そう彼は言ってくれた。 外壁から見えた敵の数がどれ程多く、 その一体一体が、どれだけの力を有していたとしても、 その言葉を、何よりも、強く信じている。 歩き出そうとした、そのとき。 ぴしり 、と、乾いた音を立て、 足元の床を、 銃弾 が穿った。] (52) 2020/05/28(Thu) 0:01:31 |
【人】 軍医 ルーク『何処に行くつもりだ?』 [ その声に、振り向く。 開いた扉の前、銃口を真っすぐに此方に突き付け、 戸口を塞ぐように佇んでいる人影がある。 ――覚えのある犬耳が、逆光の中、揺れた。] (53) 2020/05/28(Thu) 0:01:53 |
【人】 軍医 ルーク[ ぺんぎんを後ろに庇い、男を睨みつける。] そんなことをしている場合か? 外に何がいるか、分かっているだろう、 確か防衛部隊の所属だったな、 何故いま、こんなところにいる? 『その言葉、そっくりそのまま返そうか? お前が外壁から降りてくるのが見えたんでね。 ああ、やっぱりそうか。 そういうことなら、 もう答えを聞く必要も、ないよなあ』 [ こつり、軍靴が鳴る。 一歩の距離が近づく。 自然と後ずさろうとする足を、 “動くな!”と吼えるような恫喝と、 かちゃりと鳴らされた銃が遮る。] (54) 2020/05/28(Thu) 0:02:49 |
【人】 軍医 ルーク・・・・・・・・・・・・・・・・・ 『またお前があれを呼び込んだんだろう? 第二研究所がああなったのは、 機獣の武装が暴走したから―― そんなことは大嘘だ。 お前が、スパイを呼び込んだ。 あの研究所には“何か”がいた、そうだろう?』 [ なにを、と聞き返そうとして――… 思考が奔る。 いま漸く、この男の耳まで届いた『噂』が どのように捻じれていたかを、察する。 何処から嗅ぎ付けたか、この男は上が想定しているよりも、 真実に近づいているのだろう。 けれど、それは違う。 また、一歩。 逆光の帳から踏み出した男の顔が、露になる。 其処に深く、昏くぎらついているものは―― 焦燥と、“恨み”] (55) 2020/05/28(Thu) 0:03:58 |
【人】 軍医 ルーク違う。 [ これまで何を言われても、否定することはしなかった。 “天の向こうには、機獣を送り込んでくる者たちがいる” その真実を、人に知らせてはならないと、 そう言われていたからだ。 上は恐らく、彼らの目的をいくらかは察しているのだろう。 ――“彼女”から、血肉と命ごと毟り取った情報で。 探ろうとする相手に何をされたところでどうでもよいと、 踏みつけられる人形を他人事の目で見るように、 そう思っていたからだ。 けれど、いまはもう、駄目だ。 明確に否定の声を上げ、男に向き直り、睨みつける。] (56) 2020/05/28(Thu) 0:06:00 |
【人】 軍医 ルーク『警告は終わりだと言ったはずだ』 [ 男はそう言って、引き金に指をかける。 怒りに煮えながら、それゆえにどこか平坦な口調で。 そうして、引き金をひとつ、引いた。]* (57) 2020/05/28(Thu) 0:06:17 |
【人】 軍医 ルーク[ 脚部に走る強い衝撃に、痛みはない。 けれども、武装でもなければ機能にも劣る義足の何処かが、 ばきりと嫌な音を立て、何かが砕ける感触が伝わる。 片足からかくりと力が抜け、揺らぎかけた身体を、 咄嗟に手近なドアの枠に手をついて支えた。] 少し考えれば分かるだろう、 もしわたしが天の向こうとの内通者で、 そのせいで研究所の事故が起こったとするなら、 上が放っておくはずがない。 前線送りで済むどころか 即処刑がいいところだ。 [ そう、男が疑っているのはそういうことだろう。 “自分が機獣から回収された部品の扱いを誤り、 事故を起こしたという噂” ――真相を隠すため、意図的に広められたそれではなく。 どこからか、カイキリアの存在を嗅ぎ付けて。 自分が彼女とかかわりがあったことを知り、 爆破事故に結びつけたに違いない。] (65) 2020/05/28(Thu) 1:37:57 |
【人】 軍医 ルーク『だったら説明をしてもらおうか? 研究班の奴らが言っていたな、 お前は、誰も知らない、知りようがない 機獣の通信機を、一度の捜索で見つけてきたと。 それにな、見張り台で不審な動きをしていたお前を 見かけた見張りがいるんだよ。 大穴の調査? 確認したが、お前にそんな任務はないはずだ。 そのとき、一体何をしていた?』 [ その問いに―― 一瞬のこと、口を噤む。 通信機を見つけることが出来たのは、 嘗て研究所で同じ部品を見たことがあったと、 そう話すことも出来ただろう。 けれどもその一瞬のうちに、どうしても、 それを本当に見つけたのが“誰”であるかを このような男に知られてはならないと、そう過ったから。 見張り台でのことを問われたなら、 懐に大事に抱えたままの赤い袋に、指が伸びる。 その一瞬の沈黙をどう捕らえたか、 男が再び引き金に指をかけようとした、そのとき。] (66) 2020/05/28(Thu) 1:38:35 |
【人】 軍医 ルーク[ そして、外壁の“もう一か所” 三体の前方からの進撃に紛れるように、 周りこんで後方へと迫っていた “もう一体” が遂に行動を開始する。>>3:298 迷彩を施した鱗に覆われたその体躯は、 例えるなら蛇に似ているだろう。 それは基地の側面に迫り、鎌首を擡げ、 蟲型が破壊されると同時に、その巨大な口を開く。 放たれた砲弾が、外壁の一画へと直撃した。 外壁の上部、見張り台が傾ぐ。 がらがらと崩れ落ちてゆく石壁、 ひとなど容易く押しつぶしてしまう程に巨大な瓦礫が、 中庭に雨のように降り注ぐ。 最後に、ずん、と音を立て、 見張り台の残骸が、地に突き立った。 そして、間を置かずに次の攻撃が放たれる。 基地内部の建物へと砲撃が撃ちだされるその寸前、 防衛部隊の反撃が蛇の横腹に突き立ち、 その軌道が逸らされた。] (68) 2020/05/28(Thu) 1:41:35 |
【人】 軍医 ルーク [ 砲弾が、炸裂する ] [ 音も、視界も、すべてが真っ白に染まる。 すべての瞬間が、ひどく引き伸ばされるようだった。 目の前にいた男が振りむこうとしている、 その動きがひどくゆっくりと見える。 ぱきり、と、 砕け散る窓ガラスの最初の罅すら、 見えるほどの一瞬だった。 咄嗟に、身体が動いた。 まだ動く片足、両腕、その全部を使って、 ぺんぎんを掻っ攫うように抱きしめ、 手をついていたドアの枠の内側へと滑り込む。 全てが飲み込まれて行くような、真っ白い一瞬の中で、 全身で抗いながら、手を伸ばしてくる死から逃れようと。] (69) 2020/05/28(Thu) 1:42:40 |
【人】 軍医 ルーク[ 考えていたことは、ひとつだけ。 絶対に死なない、死ぬものか、 ここで待ってるって約束したんだ、 これから何が起こるとしても、何処に行くとしても、 決して離れない、君の手を離さないって。 そうだ、わたしは――… ] (70) 2020/05/28(Thu) 1:43:20 |
【人】 軍医 ルーク[ 銃を突き付けられ、兵士たちに拘束され、その少女は] 『――、 あーあ、ばれちゃったか。 折角上手く行くと思ってたのに』 [ くすり、あざ笑うように笑った。] 『本当にね、“案内ご苦労”―― わたしも、もう少し警戒するべきだったかなあ。 こんな甘い子を一人で担当にして、 泳がされてるに違いない、って』 [ 彼女は、別人のような眼差しを向ける。 その視線に、ぞくりと背筋が泡立つ。 まるで機械のように、虫のように、 感情のないまなざし。 上司の男は彼女を見下ろす。] (72) 2020/05/28(Thu) 1:44:45 |
【人】 軍医 ルーク『機獣とともに此奴が回収されたのは僥倖だったな、 戦闘要員というよりは、情報を集めるために 人に取り入る術を叩きこまれた諜報員だろう。 病原菌のようなものだよ、 放っておいては酷い被害が出ていたに違いない。 さて、君らの処分はまた考えねばならないとして―― これが通信機か? 記録が残っているなら、これは役に立つな、 十分な成果だ』 [ 次の瞬間だった。 彼女――カイキリアが、息を呑む。 顔色を失い、目を見開き、 自分に銃を突きつける兵士たちの“向こう側”にある ひとつの部品を凝視して。 彼女の視線を追い、気づく。 その部品に、赤いランプが灯っている。 ちか、ちか、と規則正しく点滅しながら。] (73) 2020/05/28(Thu) 1:46:03 |
【人】 軍医 ルーク『……嘘、どうして?』 [ 彼女の口から零れたその声は、 先ほどまでとは打って変わって、 凍り付いたような恐怖を露にしている。 彼女はもがき、兵士たちから逃れようとする。 がつりと殴りつけられ、顔を上げ、叫んだ。] 『爆発する…!! いやだ、やだ、 此処から逃がして、逃げないと…!!』 [ 僅かな間のこと――奇妙な静寂が、その場を支配する。 そのような馬鹿な、と、口にしかけた上司の口が、 言葉を発せず噤まれる。 ひい、と引きつるような息をしたのは、 自分たちを抑えていた兵士だ。 彼らは顔を見合わせ、銃を放り投げ、 ばらばらと勝手な方向に駆けだしてゆく。 そして、最後まで残った上司の男もまた、 彼らの後を追って走り出す。] (74) 2020/05/28(Thu) 1:46:48 |
【人】 軍医 ルーク――、 逃げるよ! [ 茫然と立ちすくむ彼女の手を取り、駆け出す。 どれだけの時間があるかは分からない、 一分? 数十秒? それとも―― 格納庫を駆けだし、あたりを見回す。 どこまで余裕があるだろう、 視線で問うた彼女の目を見て、 もう本当に猶予がないのだと知る。 背後から迫って来るそれは、確実な死だ。 限界まで足を動かして駆け抜け、 手近な部屋へと駆けこんだ。 倉庫のようだった。 少しでも奥へと、彼女の手を引いて、 物陰へと身を潜め、身体を丸める。 がたがたと指が震える。 耳も、尾も、何一つ現実味のない圧倒的な恐怖の中で、 破裂しそうに早鐘を打つ鼓動の音を聞きながら、どくどくと。] (75) 2020/05/28(Thu) 1:47:36 |
【人】 軍医 ルーク『……きらいだった、 あんたたちなんか、大っ嫌いだった、 笑ったり、怒ったりしてもいい、 悲しんだり、楽しんだり、なんでも持ってる、 当たり前みたいに、“感情”があって、 わたしに酷いことをする、あんたたちが』 [ そう言いながら、彼女は、 ――… この手を離そうとは、しなかった。 強く、固く、互いの手を握りしめる。 この手もまた、震えていた。 彼女の言葉のすべてを受け止めるように、頷く。 その憎しみは、きっと、わたしの中にもあるものだ。 天の穴の向こうに居る者たちと会ったなら、 どうして父を殺したのかと、 一片も思わずにいることが、できるだろうか。 彼女にその影を重ねようとは、思わなかったけれど。 それでもどうしても、自分たちは、 世界の外と内で殺し合う場所に立ってしまっていたのだ。] (76) 2020/05/28(Thu) 1:49:30 |
【人】 軍医 ルーク[ 視界のすべてが赤かった。 炎は消し止められたようだ。 耳音で滴る水の音に、 ああ、流れている血だなと――そう思った。 辺り一面の瓦礫の山、 吹き飛んだ天井の向こうは、一面の闇だ。 誰かの声が聞こえる、誰かの動き回る音、 瓦礫をかき分ける音。 彼らの声が、ひとつも意味を為さない。 頭の中はぐらぐらと揺さぶられて、 目に飛び込んでくる景色も一秒後には捻じれ、 水にぬれて絞られる布のような心地がした。 身をよじり、身体を動かそうとする。 けれど、からり、と手元の破片が音を立てた、それだけで。 そうだ、繋いでいた手が、あったはずだった。] (78) 2020/05/28(Thu) 1:50:36 |
【人】 軍医 ルーク[ 首を傾ける。 小さな傷だらけの手は、確かにそこにあった。 自分の右手と、つないだままだった。 ――その手“だけ”が、あった。 動いた視界の先に、大きな瓦礫がある。 その下にあるものは――ああ、位置的にはわたしの脚か、と、 他人事のように、思う。 音のすべてが遠ざかる。 けれど、鼓膜は大丈夫。 視界に問題はない、赤いのは、血が入っているから。 そんな風に淡々と分析しながら、 駆け寄ってくる誰かの足音を聞きながら、 まるで、ピアノを弾いている指の上に 蓋を思い切り閉められたように、 自分の中に『何か』が致命的に断ち切れたということに、 気づいては、いた。 そのときは、それは両脚のことだと思った。 切れてしまった糸はそれだけではなかったということを、 病室で自分を診察した医師のカルテを盗み見て、知る。 ―― そのときも、もう、何も感じなかった。] (79) 2020/05/28(Thu) 1:51:11 |
【人】 軍医 ルーク[ ――… ] [ 身を起こす。 起こそうとする。 意識なんて、あるかないかすらもう分からないけれど。 自分が確かに『生きている』ということだけは、 はっきりと、分かっている。] ……死ぬもんか、 [ そうだ、絶対にだ。 わたしは、待ってる。 君が帰って来るのを、君にまた会うのを、 そして――… これからもずっと、一緒に、いるんだ。] (80) 2020/05/28(Thu) 1:52:15 |
【人】 軍医 ルーク[ きゅいきゅいと、腕の中で声を上げる温もりがある。 額が割れ、血が流れ込んだ右目の視界が、 赤く覆われていく。 ぽたり、血が頬を伝い、床へと滴り落ちる。 少し離れた場所に、あの男がいる。 銃を落とし、意識はないが―― 見たところ、生きている、大丈夫だ。 どうやら砲撃の直撃は避けられたらしい、 だとしたら、逃げないと。少しでも遠くへ。 足に力を込めたそのとき、 がくり、引っ張られるように身体が床へと落ちる。 義足の片方――先ほど撃ちぬかれた足を、 倒れた棚が押しつぶしているのに気づいたのは、その時だ。 ぺんぎんが腕を抜け出し、必死で持ち上げようとするが、 到底動く重さではない。] (81) 2020/05/28(Thu) 1:53:21 |
【人】 軍医 ルーク――、っ。 [ 切り離してでも抜け出そう、 此処から逃げないと。 何か使えるものはないかと、 身を起こし、辺りを見渡す。] [ 建物の壁面が崩れ、中庭が見える。 ず るり、と、ひどく重い何かが、土を這う音がした。 蛇型の機獣の巨大な目が、 真っ直ぐに此方を見ていた。] (82) 2020/05/28(Thu) 1:54:59 |
【人】 軍医 ルークあ……、 [ 機獣が、口を開ける。 外壁を砕いた砲撃だ、 放たれたなら、建物はひとたまりもない、 自分たちもまた、骨一つ残さず消し飛ぶだろう。] [ 脚にどれほど力を入れて瓦礫から引き抜こうとしても、 瓦礫も、脚も、動かない、動けない。 機獣の口の中に、あかい光が灯るのが見える。 ――指先が、懐に触れる。 こつり、触れた感触は、 そうだ、此処に来る前に彼から渡された――] (83) 2020/05/28(Thu) 1:55:47 |
【人】 軍医 ルーク――… ット、 “ ルークの声は、絶対に聞き逃さないから。” シュゼット!!! [ 残されたすべての力を振り絞り、叫ぶように、 ―― その名を、呼んだ。]** (85) 2020/05/28(Thu) 1:57:37 |
【人】 軍医 ルーク[ 蛇型が開いた口の中に、赤い光がぎらりと輝く。 それは煮え立つように煌々と光を集め、放ち、 その光は徐々に、赤色から白色に変わってゆく。 ひどく異様な色をした光だ。 その威力は分からずとも、本能的な恐怖が全身を貫き、 瞬間が凍り付く。 瓦礫に挟まれた足が動かない。 もし今この足が抜け出せたとしても、 あの砲撃から逃げ出すことは敵わないだろう。 そのとき――…、 聞こえてきた“ 声 ”に、目を見開いた。それは、一瞬のこと。 触れれば直ぐに飛び去ってしまうほどの、ほんの刹那。 ずっとずっと聞きたかったその声が呼んでくれた、 自分のほんとうの名前。 その音が心臓を強く揺さぶり、 鼓動がひとつ、全身を貫くように強く脈打つ。 身を起こし、その声の聞こえた方角を、真っ直ぐに見た。] (128) 2020/05/28(Thu) 23:10:01 |
【人】 軍医 ルーク[ 離れているはずの距離が、ひどく間近に感じられて、 遠くにある赤い目が、直ぐ目の前にあるようで。 いつかの医務室で、互いの鼓動が聞こえる距離で、 その目を見つめていたときのことを、思い出した。] [ 彼の義手の右腕が、 機獣へと真っ直ぐに、突き出される。] その唇が、“ごめん”と紡ぐ。] [ その瞬間、理解した。 だめ、と、青ざめた唇が震える ] (129) 2020/05/28(Thu) 23:11:13 |
【人】 軍医 ルーク[ 幾つもの記憶が過る。 それは、この戦いが始まるとき、 外壁にいる自分に向けて、ここに居ると教えてくれるように、 大剣を掲げてくれた、姿だとか。>>31 医務室で、通信機を探しに行く道行きで、 幾度となく感じているようだった、 記憶の予兆の頭痛。 義手を使えば、どうなってしまうか分からない。 それなのに、彼は最後まで、 『使わない』と言おうとはしなかったんだ。] 駄目…!!!!! [ 喉を引き裂くほどに強く、強く叫ぶ。 その叫びすらかき消すように、飲み込むように、 義手へと収束した光が膨れ上がり、 視界を白く染め上げてゆく。 そして、開かれた機獣の顎から光が放たれる、その寸前、 義手から放たれた一撃は、 過たずそのコアを一閃に穿った。] (130) 2020/05/28(Thu) 23:11:56 |
【人】 軍医 ルーク[ ぺんぎんを抱え込み、身を伏せた背の上を、 爆風が吹き抜けてゆく。 目は白い光に眩み、何も見えない。 爆風に吹き飛ばされた瓦礫が、 先程の攻撃で崩れかけていた建物の外壁を打ち、 がらがらと破片が崩れ落ちる音がする。 けれど、それは耐えられない衝撃ではなくて、 なにひとつ、自分の周囲に、落ちてくることはなかった。 顔を上げる。 眩んだ視界の中、影絵のように蠢く大蛇の姿がある。 それはゆらり、と大きく左右に揺れて、 コアを貫かれた機獣はのたうつことすらせずに、 その鎌首を建物の一つに預けるようにして、傾いてゆく。 ズ ン…、と、ひどく重いものが斃れる音が、聞こえた 最早動くことのない残骸となったそれの行方を 目で追うことすらせず、 辺りを見回し、必死で赤い姿を探す。] (131) 2020/05/28(Thu) 23:13:19 |
【人】 軍医 ルーク――…! [ 此処からは遠く離れた場所に、倒れ伏す赤い姿を見つける。 ぴくりとも動く様子はない。 どきり、と、また一つ鼓動が跳ねる。] 嘘……、 [ 茫然と、音を吐き出して。 這うように、両腕に思い切り力を籠める。 一つだけ幸いしたのは、 今の衝撃で足を挟んでいた瓦礫が再び動いたことだ。 挟まれていた義足を引き抜けば、 折れて捻じれたそれは足としての体を為さず、 動かそうとしても、棒切れのように動かない。 残った片足で歩こうとしても、 直ぐに足を取られてぐしゃりと土に転んだ。 この調子で歩いていくよりは――、と、 両腕と片足で、這うように前に進む。 基地の喧騒が遠くに聞こえる、 まだ遠くに響く戦闘の破壊音も、何もかも。] (133) 2020/05/28(Thu) 23:15:05 |
【人】 軍医 ルーク[ 飛び散った硝子の破片が、砕けた瓦礫が、 ずるずると這う両腕を裂いていくつもの傷をつけてゆく。 痛みも、何一つ気にならなかった。 この手足の歩みの遅さが、 これほどまでに歯痒かったことはない。 心臓を鷲掴みにされたような恐怖の底で、 懸命に這って近づく。] シュゼット!! [ 漸く近くに辿り着き、肩に手をかける。 消された日記の内容を知ることはない。 けれど、ひどく不吉な予感が黒雲のように心に広がる。] (136) 2020/05/28(Thu) 23:17:21 |
【人】 軍医 ルーク[ 彼は最初の襲撃で、義手を使って機獣を葬った。 そのことは、話してくれた通りだ。 そうだ、そして、 “そのあと記憶を失った状態で発見された”。 その後も義手を使った反動は、 その都度大きなダメージとなっていたはずだ。 過去の記憶を運んでくる頭痛は、今もその身を蝕んでいる。 そのような状態で、あれほどの威力の一撃を放ったなら? かたり、震える手。 白く色を失った唇が、声を失う。 言うことを聞かない全身が、崩れ落ちそうになる。] (137) 2020/05/28(Thu) 23:17:34 |
【人】 軍医 ルーク嫌…、やだ、 [ いなくならないで。 置いていかないで、お願いだから、 泣き出して、縋りつきたくなる。 恐怖は別離の姿をしている、 それは、ひと一人の亡骸にしてはあまりにも小さく軽い 遺体袋の傍にあった、一枚だけの家族写真のかたち。 赤く染まった小さな手のかたち。 赤く、赤く、広がってゆく血の沼の底に手足を絡めとられ、 叫び出しそうになる。 ――それでも、] (138) 2020/05/28(Thu) 23:19:23 |
【人】 軍医 ルーク――、 君は、医務室から救急キットを持ってきて! 前線に従軍する連中が持ってる奴だ、 三番の棚にある! [ ぺんぎんにそう頼み、全身の力で彼の身体を仰向けにして、 口元に耳を寄せ、呼吸を確かめる。 此処まで手当一つすらせず駆け抜けてきたのだろうか、 全身が傷だらけで、血まみれで、>>103 今は吹き飛ばされた衝撃で打ち付けた傷もあるだろう。 呼吸は問題なし、 続いて直ぐに止血が必要な傷の有無を見てゆく。 ぺんぎんが戻ってくるまでは当座の応急処置で問題ないだろう ――体のほうは。 フードを、ローブを脱ぎ捨て、引き裂き、 手早く止血をしてゆく。] (139) 2020/05/28(Thu) 23:19:32 |
【人】 軍医 ルーク ……、 約束した、そのときは、手を握ってるって。 起きて。 [ 震える手を励まして、動かない左手を取る。 この両手で、包むように。 ――… どうしようもない恐怖に、飲み込まれそうで。 出来るなら、自分のすべてで、 繋ぎ止めることが出来たならと、そう思うほどだ。 ごめん、と、悲しそうに笑った笑顔が瞼に蘇る。 これまでにくれた、幾つもの笑顔だとか、 医務室で過去を告げてくれた日の泣き顔、 手を握ってくれた、穏やかな笑顔、 いつもの医務室で自分が脅かしたときの、 何をされるのかと震える耳だとか――… 通信機を探しに行ったあのとき、 飴をくれたときのこと。 そのような、ひとつひとつの瞬間まで。 この身体を、伽藍洞だった心の中を、 いつの間にかこんなにも、君が満たしていた。] (140) 2020/05/28(Thu) 23:21:08 |
【人】 軍医 ルーク[ その一つ一つの瞬間が、かけがえがなく、 失うことなんてもうとっくに考えられなくなっていて―― 心にも命があるのなら、 途切れて失いかけた心に灯されたそれはきっと、 わたしの命だったことだろう。 一緒にいたいと望んだ心に名前なんて付けられないと、 いつかのわたしは日記に書いた。 自分のすべてのように心を満たし、溢れ、 あたたかく、時に失う恐怖に慄き血を流す感情に、 名前なんて付けられずにいた。 けれど。 ――… その“名前”が何だったか、 “気付いた”いま、 もう遅かったなんて、絶対に絶対に、認めない。 途切れた心が、糸を結ぶ。] (142) 2020/05/28(Thu) 23:22:06 |
【人】 軍医 ルーク起きないと、苦いもの、飲ませるって言った。 ぺんぎんの持ってきてくれる 救急キットに入ってるかな。 それか、甘いシロップの方がいいのだっけ? 残念、いま、ここにはなくて。 ……この感情に名前なんて付けられないって、 わたしは言った。 でも――… いまは、そうじゃない。 [ かみさま、という存在は知らない。 祈りをささげるものはいない。 けれど、いま、願うことはひとつだけ。 眠る頬に、片手を当て、そっと屈みこむ。 ――さあ、ほら、早く起きないと、 酷いことをしてやる。] (143) 2020/05/28(Thu) 23:22:53 |
【人】 軍医 ルーク[ 義手を使ったのだ、今までのことを思うなら、 身体もろくに動かないに違いない。 頬に当てていた片手を今度は背に添えて、 身体を支え、地面にそっと寝かせる。 そうして、自分もすっと体を落とし、 胸の上――心臓の辺りに、白い耳を寄せた。] ……よかった、本当に。 [ その鼓動の音ひとつ一つを、大切に、確かめるように。 白い尻尾が嬉しそうにゆらり、と大きく揺れる。 そうしているうちに――こう、 自分が何をやらかしたのか、不意に、実感が。 ] (198) 2020/05/29(Fri) 21:26:01 |
【人】 軍医 ルーク[ あまりにも必死だったし、 あまりにも、こう、 好きでどうしようもないというのが溢れたというか。] ――… ! 顔、絶対、今見ちゃだめだ [ 心臓が早鐘を打つようにどきどきと走り始めて、 頬に血が上り、かっと赤くなる。 顔を隠すように、その胸に顔をさっと埋めたけれど、 尻尾は大きく忙しなく振れて、 ぴたんぴたんと左右の地面を打っている。 自身の鼓動の音も、 これ外に聞こえてしまっているのでは――? というありさまだから、 自分がどんな状態であるかなんて、 きっと、筒抜けだったことだろう。] (199) 2020/05/29(Fri) 21:27:34 |
【人】 軍医 ルーク[ 暫くぴたんぴたん言っていた尻尾がようやく落ち着いたころ、 顔を上げ、辺りを見渡した。 中庭まで侵入を果たした蛇型が撃退された今、 防衛部隊は外壁の防衛に総員で当たっているようだった。 前線の戦いもまだ、終わってはいないだろう。 崩れかけた建物からわらわらと出てきたぺんぎんたちが、 互いの無事を確認するように、 駆けまわっては鳴き交わし、 中の何羽かが、崩れた外壁の隙間から、 鈴なりになってひょこっと外を覗く。 やがて中に振り返り、ぐっ、と片方の羽根を上に突き出した。 中にいたぺんぎんたちが、歓声を上げて跳ねる。] 状況は、悪くないみたいだな。 良かった。 [ 外にいた虫型がここまで入って来ることがあったなら、 足が動かなかろうと、例え千切れようと、 彼を引っ張って、 一緒に安全な場所まで動こうと思っていたけれど。 あの様子なら、その心配はなさそうだ。] (200) 2020/05/29(Fri) 21:29:19 |
【人】 軍医 ルーク医務室まで運べればいいんだけど、 わたしも足が動かないんだ。 いま、ぺんぎんに 救急キットを持ってきてもらってるから、 それが届いたら、ちゃんと手当てする。 [ そうして、ぺんぎんの一羽を呼び寄せる。] 頼まれてほしいことがあるんだ。 倉庫の方に詳しいぺんぎんがいたら、 直ぐに使えそうな義足を調達してもらえないかな? いまだけ使えればいい、どれだけ旧式でも、 兎に角歩ければ。 [ 医務室でちゃんと彼の手当てをしたい。 それに、戦闘が終わったなら、そこからが自分の仕事だ。 これだけの規模の戦闘だ、 被害を楽観するわけにはいかない。 基地内の損害も相当なもののはず。] (201) 2020/05/29(Fri) 21:31:24 |
【人】 軍医 ルーク前線の方もあの様子なら大丈夫そうだ。 もし君の部下にケガなんかあったとしても、 そのときは、治すから。 まあ、葬儀屋に担当されたら 悲鳴上げる奴も多いかもしれないけれど、 この格好なら、誰かも分からないだろうな。 [ いつものローブは脱ぎ捨てて、耳と尻尾を露にして、 長い豊かな、赤みがかった金の髪が 背中にゆったり流れている。 医務室の“葬儀屋”とは簡単には結びつかないだろう。] (202) 2020/05/29(Fri) 21:33:00 |
【人】 軍医 ルーク……覚えていてくれて、 ほんとうに、良かった。 信じてた。 [ 帰ってきてくれるのだと、そう信じていた。 けれど、それでも、義手砲を使った彼の、 ごめんと告げた表情は、動かなかったその姿は、 凍り付くような、耐えられないほどの恐怖だった。] 一緒にいられることが、 わたしの幸せだから。 [ もし万一、彼の記憶が失われていたとしても、 自分はきっと、変わらずにずっと傍にいて 支えたいと願っただろう。 それが、自分の心まで一緒に、 砕けてしまうほどの悲しみだったとしても。 静かな水の底で、呼吸が出来ずとも、寄り添うように。 いま失われずに傍にいてくれる幸福を、 かみしめるようにつぶやく。] (203) 2020/05/29(Fri) 21:35:00 |
【人】 軍医 ルークでも、それだけじゃなくて。 君がここで手に入れた大切な記憶を、 無くさずに、持っていられたことが。 良かった…… もう、二度と寂しい思いなんて、 してほしくなかったから。 [ ひとりきりで、人が死に絶えた世界を歩き、 大切なひとたちを守っていた兎の写真を宝物にして、 何処かに、生きているひとたちが暮らしている、 そんな場所を夢見ながら、 辿り着いたこの場所で、皆を守り続けた、そんな君が。 その大切な思い出を、今もその両手に持っていることが。 またひとりきりになってしまうことなく、 なにひとつ手放すことなく帰ってきてくれたことが、 泣きたくなるほどに、嬉しくてたまらない。] (204) 2020/05/29(Fri) 21:35:53 |
【人】 軍医 ルーク[ 医務室の、いつも一緒にいるぺんぎんが、 救急キットを持って駆けてくる。 飛べないぺんぎんは、いつも基地を走り回るうちに、 いつの間にか足が随分強くなっていたらしい。 瓦礫や尖った破片を器用に避けながら、 ぴょんぴょん跳ねてこちらにやって来る。 救急キットを受け取り、わしゃりと頭を撫でた。 自分の傷は、不衛生にならないように 血や埃をぬぐって止血を施して。 手早く彼の手当てに取り掛かる。 先程は当座の止血を施した傷を、ひとつひとつ、 消毒してガーゼで覆って包帯を巻いて。 そうして治療を終えたなら、ようやくほっと息をついた。] あとは、戦闘が終わるまで… [ ここで待つしかない。 外壁の向こうから聞こえてくる音は、 徐々に戦況の変化を告げている。 機獣の攻撃と思しき破壊音が、減っていた。] (205) 2020/05/29(Fri) 21:37:14 |
【人】 軍医 ルーク[ 基地に人が戻ってくるまで、 自分の力で医務室まで運ぶのは無理だから、 少しでも楽な態勢を――と、辺りに視線を落とす。 普通の脚なら、枕にということも出来たのだろうけれど。 生憎金属だし、片方は壊れているし。 ローブもずたぼろに裂けて血と埃に塗れている。 タブレットはローブの懐にあって、 壊れてはいないはずだった。 そこで、ふと。] …… [ ゆらりと揺れる、自分の尻尾が視界に入る。 互いの身体を動かし、彼の首から上を支えるように、 よいしょ、と自分の白い尻尾の上に乗せた。 抑々狐はよく尻尾枕をする生き物である。 重くても、大丈夫。 尻尾に触れられることに慣れていない頬は、 微かに赤くなりはしたけれど。 ふかふかでふわふわの尻尾は、 地面でそのまま休むよりは、身体が楽になることだろう。 兎に角それが一番の理由ではあったけれど、 ――… 自分もそうしたかった、というのは、 内緒だ。]* (206) 2020/05/29(Fri) 21:39:10 |
【人】 軍医 ルーク―― 司令室 ――[ ――それから、いくらかあとのこと。 最後の機獣を遂に破壊したとの一報を受け、 司令室は沸き立った。 蛇型が外壁を破壊し中庭に至ったときには、 窓から見える建物の向こうに首を擡げる巨大な影に、 これまでかと悲壮感を漂わせていた兵士たちも、 互いに肩をたたき合いながら、歓声を上げている。 彼らが存分に喜び合うのを暫くの間眺め、 やがて、総司令はゆるりと口を開く。] 諸君、我々の勝利だ。 [ その声に、再び大きな歓声が上がる。 それを片手で制し、部屋に居る者たちを見渡す。] (248) 2020/05/29(Fri) 23:59:27 |
【人】 軍医 ルークさあて、もう一仕事頼むよ。 これから前線の兵士たちが戻って来る。 命令は一つだ、 いま生きている者たちを一人も死なせるな。 念のため、大穴の観測も継続して行い、 破壊した機獣に爆発や再起動の兆候がないかは 念入りに確認するように。 [ 沸き立っていた空気が、その言葉に再び引き締まる。 三々五々に散ってゆく部下たちの後姿を眺めながら、 彼は、机の中から一冊の書類を取り出す。 ぼろぼろの紙束を、指の先でぺらりと捲った。 その場にいた技術班長に、振り返らずに話しかける。] (249) 2020/05/30(Sat) 0:00:12 |
【人】 軍医 ルーク これでようやく 次の段階への“前提条件”が整った、 ――と言っていいかな? これだけの攻撃を行った後だ、 同規模の戦力の投入は暫くは可能性が薄い、 合っているかい? [ 口を開いて勢いよく喋り出すジルベールの表情に、 その予測があっていることを確認し、 紙束に視線を落とす。 (つまり、長話は聞き流した)] (250) 2020/05/30(Sat) 0:00:49 |
【人】 軍医 ルーク 『 我々はこの地下世界を開拓するために作られた。 そして今、彼らは我々を滅ぼそうとしている。 目的は、まあ、想像がつくところだ。 しかし機獣の逐次投入とは随分と効率が悪い。 より効率を求めるなら―― “作った段階で殺す手段を組み込んでおくのが正しい” 実際、そういった計画はあったようだと、 この文書は類推している。 ナノマシン、というのだっけ? 組み込んだ因子に反応するそれを散布すれば、 労せずして彼らは、我々を皆殺しに出来た。 散布自体はあったらしいと、 第二研究所に収容された“訪問者”は語ったそうだ。 けれど、それは効力を発揮しなかった。 地下の住民が設計段階で時限爆弾が組み込まれることは なかった、ということだね。 』 (251) 2020/05/30(Sat) 0:02:37 |
【人】 軍医 ルーク[ 爆風に罅割れた窓越しに、天の大穴を見上げる。 そこには闇があり、その向こうは計り知れない。] 『さて、岩盤の上の世界も一枚岩ではならしい。 そうとなれば―― 総攻撃を凌いだ今、動きようによっては、 “交渉”の余地がある者を探すことも、 出来るのではないかな? そうなれば問題は、 誰を送り込むか、ということだが』 [ 心当たりはあるかな? と揶揄えば、 ジルベールは目を輝かせて両手をぶんぶんと上げる。 余程天の向こうに興味があるようだ。 君には此処で働いてもらわなければ困るよと苦笑して、 書類に再び視線を戻し、背もたれに背を預ける。 最初の襲撃の後、この拠点から発見された文書だ。 まだ論文の体すら成していない装甲、走り書き。 けれど、此処にいた調査員であり、 研究者である男が残したものだった。 候補や手段、あるいはこれからの道筋も、 考えている方策は一つ二つではない。 その中のどれを取るかは状況次第だ。 先程蛇型が攻撃態勢に入った際、 窓の外を染め上げた白い光。 それを思い出すように、黒眼鏡の奥の目を細めた。>>-314]* (252) 2020/05/30(Sat) 0:04:34 |
【人】 軍医 ルーク――… 君がひどいやつなら、 わたしだって、そうだ。>>266 [ 義手を使ってまともに動くことも出来ない様子を、 いつもなら心配でたまらなくて、 居てもたってもいられなくなるところ。 今だって、直ぐにでも出来るだけの手当てをしたいとは 思っているけど、 それでも、いまこの胸を満たすのは、 無事に戻ってきてくれたという喜び。 彼が彼のまま、大切なものを失うことなく、 傍にいてくれるということへの、どうしようもない幸せだ。 それに、泣かせてしまっているというのなら。] 泣いてるのは――嬉しいから。 だから、いいんだ。 それに、嬉しい、とか、悲しいとか、 分からなくなっていたことだから。 …わたし、こんな風に泣けたんだなって。 (276) 2020/05/30(Sat) 19:29:17 |
【人】 軍医 ルーク[ 断ち切れたまま戻ることはない、取り戻す必要もないと、 置き去りにしていたことだった。 それなのに、いつの間にか。 結びあわされた糸が、手を伸ばして再び色彩を編むように、 取り戻されていくのを感じていた。] 笑ったり、泣いたり―― 幸せだと思ったり。 君がくれたもの、 君を大切だと思うわたしが、取り戻したもの。 だから、嬉しいって思ってくれる方が、 わたしは嬉しい。 [ 泣きながら、息を詰まらせながら、 子供みたいな拙い精一杯の言葉で、そんな風に伝える。] (277) 2020/05/30(Sat) 19:29:37 |
【人】 軍医 ルーク[ 腕力はないが、患者の身体を動かすコツは心得ている。 さすがに義手の重さはどうにもならないから、 それ以外の部位を動かすことにはなったけれど。 先ほどまでより落ち着いた呼吸を聞き、 此方もほっと安堵の息をつき、胸に耳を当てて蹲る。 ――で、今になって照れが来て、 尻尾をぴたぴた言わせていたわけだが。] ひどい、とか、尻尾とか……! そういうことを、君は…!! [ 聞こえてきたくすくす笑いに、益々顔が赤くなり、 尻尾がぶわりと膨らんだ。 絶対に顔を上げるものかと、服にしがみ付きながら 聞こえてくる鼓動の音は早足で、 それを意識すると、また頬にかっと血が上る。 尻尾の揺れる動きはまた少し早くなったけれど、 嬉しそうな尻尾、と言われたなら、 その動きも止まって、ぴーんと張りつめ、 ぎこちなく、そろり、地面へと降りてゆき。] (278) 2020/05/30(Sat) 19:31:31 |
【人】 軍医 ルーク…… 莫迦、 あとで、覚えてろ。 [ 恨めし気に顔を上げ、じーっと睨んだ。 顔は真っ赤だし、 口元は綻びたいのかぎゅっと結びたいのか ひどく難しい表情になっているし、 まったく迫力なんてなかっただろうけれど。] (279) 2020/05/30(Sat) 19:31:53 |
【人】 軍医 ルーク[ それでもどうにかこうにか立ち直り、 状況を確認する頃には、大分落ち着いてきて、 ぺんぎんに義足の調達を頼む余裕も出てくる。 動けなくてごめんと謝る声に、首を横に振った。] 大丈夫。 君は、あの機獣から守ってくれた。 わたしだけじゃなく、皆のことも。 [ あのまま蛇型がここで暴れていたなら、 どれだけの被害が出ていたか想像もつかないほどだ。] だから、此処から先は任せて。 ……さっきも、今までも。 戦えなくて、君が危険な目に遭っているときに、 近くにいられないのが、怖かった。 だから、出来ることがあるのは嬉しい。 それに、彼らは君にとっても大事な連中だろう? [ 医者として、戻って来る者たちを治すという使命感は、 元よりあるけれど。 それだけではなくて、力になりたい、 出来ることがあるなら何でもしたいという望みでもある。 だから、此処からは自分の仕事。] (280) 2020/05/30(Sat) 19:32:47 |
【人】 軍医 ルーク[ いまはゆっくり休んでいてほしいと、 尻尾をそっと頭の下に差し入れて。 だいじょうぶだよ、おやすみ――と、そっと耳を撫でる。 その穏やかな表情に、あの頭痛は感じていないのだろうと、 安堵を深くした。 ずっと、不安だった。 手を繋いでいると、忘れさせたりなどしないと誓っていても、 いなくなってしまうかもしれないと、そう思うだけで、 心臓が握りつぶされるような恐怖を感じていた。 だから、水の中の夢の話を聞けば、 いまでもどきりと鼓動が悲鳴を上げる。 ――本当に、ほんとうに、 帰ってきてくれて、よかった。] ……どこまでだって、行くよ。 世界中のどこだって、水の中だって、 ううん、世界の外だって。 (281) 2020/05/30(Sat) 19:33:54 |
【人】 軍医 ルーク[ 温もりというには冷たいけれど、 この手の温度を、感じていてくれたこと。 彼の言葉のひとつひとつが、嬉しくて幸せで、 あたたかくて、どうしようもなくて。 “僕と、一緒に” その言葉の続きに耳をすましたのだけれど―― 続きの代わりに聞こえたのは、 すー、と穏やかな寝息だったものだから。] ……、 [ そこは! 最後まで言ってほしかった!!! 莫迦ー! と思わず声を出しそうになるのを、何とか噤み、 そっとその耳を撫で、おやすみ、と言った声は、 自分自身でも聞いたことがないほどに、 愛おしさを隠せずにいる、やわらかな声だった。] (282) 2020/05/30(Sat) 19:35:32 |
【人】 軍医 ルーク[ 最後の機獣が倒されたという一報が基地を駆け巡り、 前線の兵士たちが帰還し、 怪我人の搬送や戦闘後の機獣の処理が始まる。 第二研究所の爆発を受け、爆発物等の確認は 極めて入念に行われることになっている。 ぺんぎんが運んできてくれた旧式の義足を取りつけながら、 誰か手が空いたものに担架を持ってきてもらい、 彼を医務室に運ぼうとしたのだが。] ん? [ くいくい、と服の裾を引っ張られる。 そこには、ずらりと並んだぺんぎんたちが、 決意に満ちたきらきらした眼差しで此方を見上げていた。 じい、と医務室のぺんぎんに視線を送れば、 羽でしゅたっと彼を指す。 先ほどの蛇型から自分たちも守られたと理解しているのか、 それとも普段から仲の良いうさぎを運ぶお手伝いをしたい! というところか。>>0:39] (283) 2020/05/30(Sat) 19:36:21 |
【人】 軍医 ルーク多分、君たちには重いぞ? この義手とか。 人間が運ぶにしても何人かは要ると… ―― うわあ…? [ 思わず変な声が出たのは、そう言っている間に、 さらにわらわらっとぺんぎんが増えたからだ。 近くの建物で息を潜めていた連中だろう。 医務室の方角から担架を担いできた数羽が見えるに至り、 まあいいか……と諦めた。 この規模の戦闘なら、怪我人の搬送には鳥の手も借りたい。 そのようなわけで、帰還した第一攻撃部隊隊員は、 中庭で破壊され、停止した蛇型機獣の残骸を見て、 彼らの隊長が基地を守ったということを知るだろうし。 ―― タイミングによってはそれに加えて、 見慣れない白狐に先導されたぺんぎん達に運ばれて行く、 赤いうさぎを目撃してしまうことも、 もしかしたら、あったかもしれない。>>269] (284) 2020/05/30(Sat) 19:37:14 |
【人】 軍医 ルーク ―― 医務室 ――[ それから暫くの間、 医療班は負傷者の治療に総出で取り組むこととなる。 出来るならずっと付き添っていたかったのだけれど、 彼が目を覚ますまで、自分は自分のするべきことを――と、 職務に打ち込んだ。 それでも空き時間を見つけるたびに、 臨時の医務室に顔を出し、様子を見ることは忘れない。 人見知りのぺんぎんも、今回ばかりはと人前に出て、 “おてつだい”業務に大忙しだった。 自分が担当になった兵士は、 相変わらず顔を青くする者もいれば、 非常時にえり好みをしていられないと腹を括る者もあり。 あるいは、フードを取った姿を見て、 えっ…と固まっているようなのもいたが、 あれは何に驚いていたのかよく分からない。 逃げようとするやつには、 逃げたらその腕の捻挫治すついでに四本位に増やすぞ? と、 念入りに脅してやったものだ。] (285) 2020/05/30(Sat) 19:38:40 |
【人】 軍医 ルーク[ それで、だ。 目を覚ましたと聞いて駆けつければ、そこに見えたのは、 穴に潜り込んでも、どう見ても隠れ切れていない感じの、 ふわふわぷるぷると揺れている、赤い尻尾。>>275] …… [ ひとつ、ふたつ、瞬き。 どういう状況だこれ――? ぺんぎんと顔を見合わせて数秒後、なんとなく察する。 ( 自分もここしばらくの間仮眠をとるときなんかに、 あのときのことを、何度も思い出しては赤くなり、 尻尾がぱたぱたと動いてしまうことなんかが、 あったものだから。 ) それでも、あれから時間をおいている分、 自分の方は彼に比べて“心の準備”が出来ているのだろう。 ああ、そういえば、 “後で覚えてろ”と言ったっけかなあ――と思い出し、 寝台を指さし、うずうずしているぺんぎんに ゴーサインを出した。] (286) 2020/05/30(Sat) 19:40:45 |
【人】 軍医 ルーク [ ぺんぎんはきらきらした眼差しで嬉しそうに、 ててて、と寝台に飛び乗り、 足元からもぞり、布団に潜り込む、 以前義手を使った彼が運び込まれてきた時と同じように、 顔の近くまでもぞもぞと這ってゆき、ひしっとくっつく。] 起きたって、聞いたから。 身体の具合は? 薬を持って来たんだ。 残念ながら薬は苦いから、 また苦いものと苦いものの選択になるね。 抵抗したら、また全部混ぜて口に突っ込むよ? [ そう言いながら、布団に手をかけ、 それはもう情け容赦なく、一秒も待つことはせず、 べりべりと引っぺがそうとする。 自分の力では剥がせないかもしれないし、 案外剥がせてしまうかもしれないし、どうなるだろう。 いずれにしても、もしうさぎが穴から顔を出したなら、 微笑みを浮かべた紫の双眸が、 すぐ近く、目と鼻の先にあるだろう。 そうして、言ってやるのだ。] (287) 2020/05/30(Sat) 19:42:14 |
【人】 軍医 ルークおはよう、シュゼット。 “これからも、僕と一緒に”の、 続きを聞かせて? [ そう、つまり。 感情が戻ろうと、自覚しようと、 やっぱり意地悪はするのである。 ( ―― ほんとうに聞きたかったからだ。 とても ) でも、そう言いながら、やっぱり自分の頬も、 心の準備なんてどこに行ったとばかりに赤くなっているのは、 これはもう、仕方がない。 運んできた薬瓶が苦いのも、どうしようもないことだけれど、 それに加えてもう一つ、 後に飲めば苦みを消し去ってくれるような、 甘い苺味のジュースを作って持ってきていたのも、 まだ、言ってやらない。 手に持っているのは、あのタブレット。 自分が書いた返事を、まだ読んでもらっていない。 そちらはそっと枕元に置き、まずは返事を待つ。]* (288) 2020/05/30(Sat) 19:44:34 |
【人】 軍医 ルーク[ 右腕がまた動かない、のところで ぐっと表情を曇らせはするけれど、 義手を使って全く反動がないということはないだろうと 予測はしていた。 “いつもと同じ感じ”ならば近々動くはず――と 自分を納得させる。 赤くなってしどろもどろになっているところを見ると、 いつもの自分なら、さらに追撃――なんて、 考えてしまうかもしれないのだけれど。 間近に目を見れば此方の頬もかっと赤くなってしまうのは、 どうしても数日前のあのときのこと――、 触れあった感触を、克明に思い出してしまうので。 心の準備どこに行った。 それでも、“聞きたいこと”は聞きたいのだ。 続きを聞かせて、と問うときも、 仕切りの向こうの他の患者には聞こえないように そっと声を潜めていたりもする。] (332) 2020/05/31(Sun) 14:20:32 |
【人】 軍医 ルーク約束してくれて、ありがとう。 [ “あんな威力の義手砲は”撃たない―― 彼自身が失われる恐怖に怯え続けていた自分にとって、 それは何よりも嬉しい約束だ。 撃つこと自体はやめないと言ったのは、 これから何が起こるか分からない以上、 言えないことだったのだろう。 本当は、身体に負担がかかることはやめてほしいと、 そう思ってしまうのだけれど。 出来ないことを言わないのは、その言葉が“本当”だからだと、 分かってる。 それなら、自分も出来ることを探したい。 あのとき彼は、蛇型に襲われていた自分を、基地の者たちを 助けるためにその力を使った。 あのようなことが、二度と起こらないように。 義手砲を使わなければいけないことが、なくなるように。 ――そして、そうだ。] (333) 2020/05/31(Sun) 14:26:04 |
【人】 軍医 ルーク撃たなくても良くなることが、 何より一番だけれど。 どうしても使わなければいけないことがあったとしても、 体に影響が出ないように改良していく方法を、 見つけたいと思ってる。 わたしは技術者じゃないけれど、 専門外だなんて言ってられない。 これから探すし、考えるし、 絶対に見つけるんだ。 [ いま布団の中でもぞもぞ言っているぺんぎんの、 飛べない羽のこともある。 自分の持つ技術の幅を広げてゆくことは、遅くないはずだ。 もしかしたら、天の向こう、 この義手が作られたであろう場所なら、 そのヒントもあるのかもしれないと―― そのようなことも、薄っすらと考えながら。] (334) 2020/05/31(Sun) 14:27:20 |
【人】 軍医 ルーク[ やがて、名残惜しそうに身体を離し、 ベッドの横に椅子を持ってきて腰掛ける。 基地に流れる噂は、彼の耳にも入っていたようだ。 なお、ぺんぎんに纏わる噂の方は、 尾ひれがついて不思議なことになっているようだったが、 面白いからそのままにしておいた。>>297 医務室のぺんぎんは、患者に甘いものを差し入れされて、 頭の上にハテナを浮かべて不思議そうにしていたけれど。 食べきれない分を机の上に並べて困っていたから、 仕事の合間にポシェットを縫って肩から下げてやった。 というわけで、 いま布団の中に潜り込んでいるぺんぎんのポシェットには、 飴やキャラメルといった菓子が入っていて、 “おすそわけのおみまい”を渡すタイミングを、 いまかいまかと待っている。 そして、“地上との交渉”という噂。] ああ、本当らしい。 今は中央との折衝中だと聞いたけれど、 近いうちに決定が出るはずだ。 次の襲撃までは間があるだろうけれど、 それもいつまでかは分からないし、 早いに越したことがないから。 (335) 2020/05/31(Sun) 14:28:45 |
【人】 軍医 ルーク[ 彼が話そうとしている話の内容については、 タブレットの話を聞くなら、過るものはある。 こちらから口に出そうとはせずに、 タブレットを見てくれたかという問いには頷きを返した。] 総攻撃の前に、読んでた。 その場で返事も書いたよ。 いつ渡せるか分からないけれど、 なんだか、黙っていられなかったから。 どうしてもその場で書いてしまいたかったんだ。 壊れてないし、動作も確かめたから大丈夫。 東の外壁に置いておくいつもの方法だったら、 巻き込まれて壊れていたかもしれない。 ぺんぎんに渡してもらって良かった。 [ もしかしたら、あのときは。 “いつかはちゃんと届けられる”と信じたいがために、 願掛けをするように、返事を書いていたのかもしれない。 枕元に置いていたタブレットを取って、彼に手渡す。 書かれていた返事の後半は、地上に行く話。>>3:$14 自分は当たり前のように、 “一緒に行く”場面を想定して書いていた。 それは、口調の端々から伝わることだろうけれど、 そういえば『一緒に行く』と書いてはいなかったことに、 いま気付く。 一人で行かせるなんて想像もしていなかったことだから、 すっかりそこに自分もいる想定で描いていた。] (336) 2020/05/31(Sun) 14:30:59 |
【人】 軍医 ルークさて、と。 話をしながらでも、まずはこっちだ。 “パスワードをあけて”もらおうかな? もう何日も眠ってたんだから、体力を戻すのが先。 [ 当たり前のような顔をして、すーっと押し付けるのは、 件の苦い、苦い薬。 タブレットのパスワードだったAME015。 何はともあれ、薬瓶を空けながらだ。 自分も昼夜を問わず走り回っていたものだから、 以前の飲食睡眠を忘れていたような状態よりましとはいえ、 疲れはある。 以前飲んで効いたなこれ、と覚えていたから、 ポケットから自分の分も取り出して、 至極平気な顔でくいっと飲んでみたり。 話が先か、薬が先になるかは本人に任せるところだが、 布団の中のぺんぎんは、 がんばれ…! とエールを送っている。]* (337) 2020/05/31(Sun) 14:32:37 |
【人】 軍医 ルーク[ ぺんぎんがポシェットから取り出した苺飴に 目を輝かせている様子を見ていれば、 こんなささやかなことも、取り戻された平穏を感じさせて、 思わず口元が緩んだ。 地上に行く話のことは、自分でも色々と情報を仕入れていた。] 前に何度も襲撃があって、 残骸が回収されただろう? 第二研究所に運び込まれた残骸は もう残っていないけれど、 他の残骸は今も解析が進められていて、 その中には、記録媒体も残されていたみたいだ。 これまではそのほとんどが ブラックボックスだったのだけれど、 通信機を解析する際に技術班が解いた暗号と 同じ方式で解読できるデータがあって、 地下に諜報員を送り込む際の『帰り道』についても、 記載があったらしい。 それを、遺失技術が発掘された地域の 地殻調査のデータと照合して、 二、三か所、それらしい箇所に当たりがついた。 使用可能か調査も進んでる。 詳しい話はジルベールに聞けば、 多分、必要な情報の三倍くらいの分量を 話してくれると思うから、 おすすめ――はしない… (414) 2020/06/01(Mon) 0:31:27 |
【人】 軍医 ルーク[ 迂闊に詳細を尋ねてしまったところ、 患者の治療があるからと去ろうとしても医務室に着いてきて 最後まで喋り倒していたジルベールの早口を思い出し、 遠い目にもなる。 つまりは、この地下世界から地上に通じる抜け道が、 今も残されているということだ。 地上も把握している道であるから危険もあるが、 いま直ぐに見つかるルートは他にないだろう。 上下に物資を搬送する装置が備え付けられているのか、 はたまた長い長い階段や梯子が嫌がらせのように 据え付けられているかは、 蓋を開けてみなければ分からない。 後者の場合は、自分の脚について何か対策を――なんて、 あの日記を読んでいる自分は、もうすっかり “地上に行く”という思考で考えているのだ。] (415) 2020/06/01(Mon) 0:32:48 |
【人】 軍医 ルーク[ タブレットの場所を示し、いつもの栄養剤を差し出せば、 いつものように後ずさりするうさぎ。 自分も飲んでは見せたけれど、 苦みも味も感じないものだから、実は公平じゃない。 あの日記に、いつか自分は書いた。 情緒面と“感覚”に異常がある、と。 きっともう、彼も自分の味覚のことは気付いているのだろう。 ――失われたものが感情と味覚であったことの理由は、 いまは、自分でも分かってる。>>2:178 >>76 きっと最初から自分は、美味しい物や苦いもの、 いろいろなことに感情を見せる彼を見ていたのだろう。 それが最初は持っていなかったものとは知らずとも、 惹きつけられるように――ずっと見ていた。 なお、薬を飲みながら日記を読み進める彼が、 また涙目になってぷるぷるするのを見ている自分の顔は、 多分こんな感じだ(=x=)] (416) 2020/06/01(Mon) 0:34:27 |
【人】 軍医 ルーク[ けれど、ぺんぎんが取り出したジュースに ぱっと表情を明るくする彼の表情を見ていると、 自分もまた自然と口元が綻んで、 スツールの後ろに零れて床にまで届く長い尻尾が、 ゆらゆらと楽しそうに揺れる。] この間とは砂糖を変えてみたんだ。 ぺんぎんも、喜んで味見してた。 苦い薬――は、 飲む機会も、もうなくなればいいと思う。 [ 義手や強い栄養剤を使う機会がなくなるよう、 あったとしても極力少なくなるように。] ああ、でも、もし 風邪をひいたり何か体調不良があったら、 薬って言うのは大体不味いものだから、 そのときはまた、苦い目に遭うよ? [ 脅すように、わるいえがおをしてみせる。 そんな風に口うるさく言ってしまうのは、性分のようなもの。 ――けれど、] (417) 2020/06/01(Mon) 0:36:24 |
【人】 軍医 ルークけど―― 君が美味しそうに食べているのを見ていると、 食べるのは悪くない、って思えるから。 美味しそうにしている顔を見たいから。 だから、君が好きだと思うものを沢山覚えたい。 手先は割と器用だよ? ああ、ただ、塩と砂糖間違えても気付かないから、 そこは味見係の勤務状況に賭けてくれ。 [ 分量や手順通りに物を作るのも、得意とするところ。 以前は口に物を入れるたびに吐き出したくなって、 栄養剤ばかり口にしていたようなものだった。 けれど、通信機を取りに行った道すがら、 飴を貰ったときのこと。 自分は味一つ感じられなくとも、 彼やぺんぎんが嬉しそうにしているのを見て、 それが何より“嬉しかった”。 自分にとって、“食べる”は――いまは、そういうこと。] (418) 2020/06/01(Mon) 0:38:31 |
【人】 軍医 ルーク[ ベッドに起き上がった体勢で、 彼はタブレットを読んでゆく。 無理な体勢にならないように、 クッションを調達してきて背凭れにして、 そのあとはじっと、椅子に腰掛けて待っていた。 微笑みが返されたなら、笑い返す。 自分が書いたものは日記というよりはむしろ―― という自覚はあったものだから、 照れが隠せない、はにかむような笑顔になる。 タブレットに文字を綴ってゆく指先を、目を細めて眺め、 やがて打ち終え、画面を示されたなら、 横合いから覗き込んだ。 この日記を読むときは、いつもそうしていたように、 一語一句読み落とさないように、丁寧に、だいじに。 “断られた後のことなんて考えてない”―― 信じてくれると思ってる、と、 そう書いてくれたことが、とても嬉しくて。 大好きな人と記してくれたことが、何より嬉しくて。 じいっと目を見て、笑顔で頷く。 そっと耳元に唇を寄せて、囁いた。] (419) 2020/06/01(Mon) 0:39:46 |
【人】 軍医 ルーク君が傍にいない今も、未来も、考えてない。 ずっと傍にいる、傍にいて。 何があっても、わたしは君を守る。 わたしが君を信じていると、 分かってくれていて嬉しい。 ――… 幸せすぎて、怖いくらいだ。 これ以上嬉しいことなんてないって思っても、 こうして隣にいて、言葉を交わして、 笑ってくれるたびに、 幸せだと思うことが増えてく。 [ 同じものを見る、同じ場所に立つ、 一緒に時を過ごし、新しいことを知る。 何があっても、乗り越えられる。 それはきっと、“互いの中に色んなものを増やしていく” ――そういうこと。] (420) 2020/06/01(Mon) 0:40:49 |
【人】 軍医 ルーク……わたしにも、一つだけ、 君に言っていなかったことがある。 長い話になるから、そうだな、 君がもう少しちゃんと回復したときに。 …天の向こう、君と同じ場所から来た子がいた。 第二研究所にあった残骸が爆発した時に、 助けられなかった、 何もできずに死なせてしまった子のこと。 後悔が、ずっとずっと、消えない。 [ 互いに、失くしたことがある。 悔いもある。 この過去もまた、今の自分を形作る記憶だ。 過去は過去として受け止めて、前に進むには、 やはり自分はどうしても時間はかかるのだろうけれど―― 止まっていた時間は、もう動き出している。] (421) 2020/06/01(Mon) 0:41:49 |
【人】 軍医 ルーク でも、止まっているのはやめにする。 君はこれからも歩いて、 わたしはその隣にいるんだから。 いまも、これからも、ずっと。 一緒に、行こう。 君が書いた日記を読んでから、 わたしも、上に行くことについて考えてたんだ。 たとえば―― [ そう言って指さしたのは、彼の懐に収まっているぺんぎん。 よばれた! と両手を上げて、自分の存在をアピールする。 そのお腹の所には、いま菓子が入っていたポシェット。 荷物袋はそれでいいかと思ったら、 もう少し大きいのがいい、とでもいうように、 医務室の緊急持ち出し袋の所で強請られたから、 いま、新しいリュックを縫っているところ。] 一緒にいる。 この戦争を止めようと思う、君の力になる。 わたし自身も――そう望んでる。 それに、ね。 [ 窓の向こう、“天”に輝く灯りに、目を細めた。] (422) 2020/06/01(Mon) 0:43:26 |
【人】 軍医 ルーク ―― 地上のどこかで ――[ 土色のブーツが、地面に落ちた小枝をぱきりと踏む。 周辺の調査を一通り終えて、木陰に戻ろうと。 互いの目の届く範囲にいるから、 此方がどこにいるかなんて承知の上だろうけれど、 タブレットで作業をしているようだから、 しーっとぺんぎんに合図をして、 こっそり後ろに回り込んでみたり。 けれど、邪魔になることもしたくはなかったから、 樹の後ろからひょいと顔を出し、 “ただいま”と耳元でささやくにとどめた。 うん、本当に、耳が良い彼のことだから、 こんな悪戯にもならない悪戯は気付いていただろうけど。 地上の沢山の土地を回る。 新しい景色を見る。 子供の頃に本で読んだ、天の上の世界。 “星”、あめ”――…、 そして、あの日記で想いを馳せた、 白く凍った世界、硝子の絵が描かれたの瓦礫の建物。 生きているひとの、どこにもない世界。] (424) 2020/06/01(Mon) 0:46:27 |
【人】 軍医 ルーク[ 足を踏み出した当初は、そのあまりの広さと、 耳鳴りがするような静けさに圧倒されて、 何処までも広がる空に、雲に、 世界そのものに押しつぶされそうで、 このような場所をひとり、調査して歩いていたのかと、 そのことをどうしても、思い出した。 音を、空気を、世界を懸命に受け止めて 感じ取ろうとするかのように、 耳と尻尾がぴんと張りつめ、ふるりと震え、 なんとか呼吸を整えて、 手をつないでいて、と頼んだものだ。 そうして踏み出した最初の一歩を、 いまでも、よく覚えている。 あちこち旅をするうちに、 地上の人間が生きているシェルターを訪れる機会もあった。 耳も尻尾もない人間たちには、自分の形は珍しいようで、 子どもにぐるぐる囲まれて、目を回すこともあった。 (敵対的な人間については――そもそも地下でも 基本的に否定されていたので、 個人的にはさっぱり気にはならなかったのだが、 彼にそういう目が向けられたときは、むう、と睨んだり)] (425) 2020/06/01(Mon) 0:48:45 |
【人】 軍医 ルーク[ 何より安心したのは、義手を改良してくれる者たちが いたということ。 最初に彼らと接触した際に、義手の構造を知りたい、 出来るなら装着者の身体に影響が出ないように 改良の手段はないか――と頼み込み、 その時点でのデータを貰ってはいたのだが、 改良に成功したとの知らせを受けたときには、 飛び跳ねて喜んだものだ。 “わたしを調べる? それくらいなら全然かまわないけれど――” ぐるぐる回されようと細胞を取られようと まあいいか――と、頷こうとしたのだけれど、 彼が義手砲なんて向けようとしたものだから、 ばかー!! とぎゅうぎゅう抑え込んだ。 (そう言いながら、尻尾の方は、 心配してくれて嬉しいという気持も隠せずに、 慌てるやら嬉しそうにするやら、 忙しいことになっていたのだけれど)] (426) 2020/06/01(Mon) 0:50:30 |
【人】 軍医 ルーク[ とはいえ、そういう自分も、彼らが 『いやいや悪かった、 ……でも良かったら、ほんの少し、 地上と地下を行き来していた シュゼット君のことを調べて 過去のデータとの比較をさせてもらっても いいかなあ、とか――』 など言い出したときには、 地上人は耳の代わりにどこを結べばよいのかな? と、身を乗り出して、 ぺんぎんが止めなければいけない相手は 二人に増えた。] (427) 2020/06/01(Mon) 0:51:30 |
【人】 軍医 ルーク[ 自分の義足も、地下を出発する際に、 新しいものに付け替えられている。 これまでは基地内を歩き回れば十分ということで、 旧式の性能の低いものを支給されていたのだが、 地上に向かう使節への餞別だとばかり、 技術班が張り切った。 何か面白いものを見つけたら報告するようにと、 相変わらずの早口で頼んできたジルベールは、 最後にこう言って手を振った。] 『シュゼット、ルーク! 君たちの旅路に幸運を!!』 (428) 2020/06/01(Mon) 0:52:34 |
【人】 軍医 ルーク“山”か…… 地上は、ほんとうに広くて仕組みが不思議だ。 火山活動、というものによって 地形の変化があったのだっけ。 植物の分布なんかも、過去のデータを調べて あとで照合してみるね。 [ 木陰に腰を下ろし、何を書いているか覗き込む。 尻尾に触れてくれた手の感覚に、 嬉しそうにふるりと尾が揺れて、 そっと身を寄せる。 タブレットに増えているものは、調査記録だけではない。 写真をたくさん取るようになった。 地上の様々な場所、様々な景色。 写っているのは、自分が写すときは彼とぺんぎんであったり、 操作を覚えたぺんぎんが頑張って、 自分たちふたりで映っている写真を写すこともあり、 タイマー、というものの存在も発見したものだから、 皆で写っていることもある。] (429) 2020/06/01(Mon) 0:54:51 |
【人】 軍医 ルーク[ 一緒にいる景色を、記憶を、 積み重ねて形にしていくそれは、 ひとつひとつが自分にとっての宝物だ。 その写真に残る表情は、次第に増えていって、 嬉しそうな顔、幸せそうな顔、 新しく訪れた土地の状況によっては 不安げにも悲し気にもなり、 時には驚いたり怒ることもあり、 先程のように悪戯っぽい笑顔だとか、 以前と変わらず時折意地悪をするときの表情だとか、 様々な顔で、画面に映っている。 (後で纏めて見返せば、我ながらこう、 一緒に写っているときの写真の自分は、 我ながらだれ…? と思うほどに幸せそうで、 思わず蹲ってしまったりもする) そんな“一緒”の写真たちは、 もう決して、どこに消えてしまうこともなく、 鮮やかに、タブレットの中に収められていく。] (431) 2020/06/01(Mon) 0:56:23 |
【人】 軍医 ルークリンゴ――…、 果実の一種かな、木は落葉高木樹。 甘味があるなら、 これもジャムにしてみようか? そうすれば暫く持って歩ける。 [ シェルターに立ち寄ったときなどには、 いつもいちごを調達するけれど、常備するのは難しい。 加工して持ち歩くのが主になる。 最近は作れる料理も大分増えた。 ひとつひとつ、味を教えてくれる言葉に、 うなずきながら一口齧り、 口の中に広がる水気と歯触りを確認する。 少しでも感じられるものがないか、真剣に考え込み、] ん――…、硬くて少し驚いた、 でも、水分があって、歯触りがいいね。 赤い色――ああ、この色が好きだな。 [ そう言って笑う視線の先にあるのは、 自分の言葉を聞いてくれているだろう、赤い耳であったり。 取り戻すことは出来ないだろうと思っていた感覚を、 いつかは取り戻したいと思えるようになったのは、 それを望んでくれていると、知ったからだ。] (437) 2020/06/01(Mon) 0:58:47 |
【人】 軍医 ルーク[ 自分たちも、この世界も、たくさんのものを失って、 つぎはぎだらけの今を生きている。 けれど、手を伸ばすことを、 歩き続けることを辞めずにいるなら、 いつかは取り戻される日も来るのだと、 いまなら、そう思う。 父の言っていたことは、半分正しくて、半分間違い。 天の向こうには世界がある、 どれだけ手を伸ばしたって、 決して触れることが出来ないものがある―― それはきっと、“空”のこと。 そう、手を伸ばしたって、あの青色は遥か遠いけれど、 それはこの地上まで繋がって、 いま、自分はその下にいる。 この手で、空に触れることだって出来るのだ。] (439) 2020/06/01(Mon) 0:59:37 |
【人】 軍医 ルーク[ 傍らにいる彼が立ち上がり、 伸ばしてくれる手を、ぱしりと取って、立ち上がる。 晴れた空のような笑顔で、笑いかけながら。 そうして、再び歩き出す。 この先がどのような道でも、道など無い場所でも、 これからもずっと一緒に、 決して離れることはなく。 ――… 遠ざかってゆく足音を見送るように、 木陰に揺れる、赤と白の二輪の花が、 空を見上げ、風に揺れていた。 芽吹き始めた小さな吐息を、 空へとうたいながら。 ]** (440) 2020/06/01(Mon) 1:01:48 |
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