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【人】 環 由人[ 問いかけられたことにそっと目を伏せて、 それから小さく、頷いた。 嘘はついてない。 たぶん、今日は眠れない。 明日も、明後日も、もしかしたら─── 伏せた瞳を覗き込まれるから、 ゆっくりと瞬きをしながら視線をあげた。] (60) 2020/09/13(Sun) 0:48:04 |
【人】 環 由人───ごめん、 変なこと言った、忘れて。 コンビニ行ってくる、 [ そう落として部屋から出る。 居た堪れなかった。 俺と彼はただの同居人。 友達でもなければ、もちろん恋人でもない。 知り合いの延長線上の、否、ほんとは─── その先を望むのが、怖かった。]* (62) 2020/09/13(Sun) 1:02:16 |
【人】 環 由人[ 秋の夜は、思っていたよりも寒い。 さっきまで火照っていた体が、 風にさらわれて熱ごと奪われていく。 徐々に頭がはっきりしていく。] バっ…カだなぁ…… [ どうせさらわれて消えるから、 小さな声で呟いて、自嘲するみたいな 笑みを浮かべた。 なにも持たずに飛び出したから、 コンビニには行けなくて、ぼんやりと 歩いていたら辿り着いたのは、 あの日彼を見つけた公園だった。] (114) 2020/09/13(Sun) 19:16:41 |
【人】 環 由人[ 外灯が照らす砂利がぼんやり、 浮かび上がるみたい。 なんとなくそちらに足を向けて─── あの日と同じブランコに腰かけたら、 鎖がまた、ぎぃ、と小さく音を立てた。 あの距離感が必要だったんじゃないのか。 ただ、一緒に飯を食って、 隣で眠るだけの関係でよかったんだろ。 それ以上を求めるつもりなんてなくて、 ───ちがう、結局自分本位なんだ。 一度知ってしまった熱をまた 求めてしまいそうになるのが怖い。 期限が、すぐそこまで迫ってるのに、 今更関係を変えてしまうのが怖い。] (115) 2020/09/13(Sun) 19:17:08 |
【人】 環 由人[ ───離れたくないだとか、 ここにいてくれだとか、 そんなことを言える立場じゃない。 救われたのは───俺だったから。 結局コンビニには寄らずに、 しばらくぼんやりしたあと、 夜風の冷たさに震えが走ったから 自宅に帰った。 リビングにある背中に、唇を結ぶ。 声をかけてはいけない、きっと。 ごめんって声をかけそうになったから、 飲み込んだ。その意味を悟られることは きっとないのだろうから。] (116) 2020/09/13(Sun) 19:17:35 |
【人】 環 由人[ ひとりぼっちでベッドに入った夜は、 やっぱり思った通り、寝られなかった。 朝起きたら寝不足で気分は悪いし、 なんだか頭は痛いし───散々で。 それでも店は開けなきゃいけないし、 接客もしなければいけない。 おばさま方には「顔色悪いわよ」と 言われてしまったけれど笑って誤魔化した。 それからも、ずっとWいつも通りWだ。 相変わらず美味いとはいわない男に 余り物の処理を手伝わせて。 あの日のことには触れないまま。 ただ一つ変わったのは、あの日からずっと、 狭いベッドの右側をあけたままひとり、 丸まって眠るようになったことだけ。] (117) 2020/09/13(Sun) 19:18:14 |
【人】 環 由人[ 季節が変わっていく。 白菜と鳥もも肉とジャガイモのクリーム煮 ベビーほたてのしょうゆ炊き込みご飯 鮭のちゃんちゃん焼き 大根とえのきの肉巻き照り焼き とうふのあんかけそぼろ かぶと鶏団子のとろとろ中華スープ ごぼうとにんじんのサラダ ピリ辛ネギチャーチュー レンコン入りしゃきしゃきつくね ほかほかあったかい料理に変わる 惣菜のラインナップとは裏腹に、 どこかぎこちなくなってしまったけれど、 それでも旅行は楽しみだった。 ───いつあの茶封筒の話を 切り出されるのだろうかと、 半ば生殺しのような気持ちは 拭えないままだが。] (118) 2020/09/13(Sun) 19:18:41 |
【人】 環 由人[ 海外用のでかいスーツケースは さすがに邪魔だなと思ったから、 小さなボストンバッグに詰めた、 いつもの服や下着。 チケット類は忘れないように 手持ちの鞄に詰めた。 出発前夜。 またいつもと同じほうじ茶をいれる。 なんとなく、本を読むのはやめて、 彼が食べている様子を見ていた。 別に意味はない。ただ、見たかっただけ。 だから、なにを聞かれたって「別に」と しか答えることはしないだろう。 空になった器を片して、 今日もまた、あのベッドの左側で眠る。] (119) 2020/09/13(Sun) 19:19:24 |
【人】 環 由人* [ 新千歳空港までは1時間30分。 最大で350トンにもなるという 人と貨物を乗せた金属の塊は、 白い雲を抜け、青い空を横切って 北の大地に降り立った。 光の差し込む近未来的な建物に、 「おお」と小さく声を漏らして。 予約していたレンタカーを借りに 受付のカウンターまで向かう。 借りるのはブルーのエコカー。 陽の光をうけてきらりと光った車体に、 荷物を詰め込んで、運転席のドアを開いた。 体を滑り込ませて、扉を閉め、 シートベルトをして、エンジンをかけた。 ナビを操作する。] (120) 2020/09/13(Sun) 19:20:11 |
【人】 環 由人───チーズ食いにいかない? [ そう提案するのは、ガイドブックの 付箋の一つ、富良野のチーズ工房。 ピザが美味いというその場所に いくのはどうかと。]* (121) 2020/09/13(Sun) 19:20:25 |
【人】 環 由人[ その地に降り立った瞬間響き渡った となりの男の野太い声に、 眉根を寄せて、それから ふは、と噴き出して笑った。 「声がでけえ」と呟いて、さっさと 受付の方へと向かってしまおうか。 伸ばされた手が繋がれる。 ───こんなふうに誰かと外で手を繋いで 歩いたことなんて、一度たりとも なかったのに、気恥ずかしくも嬉しくて、 振り解いたりはせずそのまま繋いでいた。 外に出ると刺すような寒さが 体を覆うから、思わず小さく 「さむ」と呟いた。 借りた車に体を滑り込ませれば、 温められた車内に、ため息が溢れた。] (160) 2020/09/14(Mon) 13:06:59 |
【人】 環 由人[ このまま二人、乗っていたらきっと 外気との温度差にそのうち車窓は 結露して、曇るんだろう。 提案が受け入れられればほんのり微笑んで ナビに場所を入力する。 ブレーキを踏んで、サイドブレーキを外し、 ギアをドライブに入れれば、 スタッドレスのタイヤを履いた青い車体は 広い大地に敷かれたアスファルトへと 滑り出していくのだった。] (161) 2020/09/14(Mon) 13:07:15 |
【人】 環 由人 ───チーズ工房 [ 銀世界の中にたたずむ建物は、 実際に見ると、男二人でくるには かわいらしすぎるなと思った。 大きな牛のオブジェを横目に、 説明を一通り聞き終われば、 悪戯っぽくされたおねだりに、 眉尻を下げて、困ったように笑った。] ピザは作ったことないな [ くるくる生地を回すイメージはある。 ただそれが自分にできるとは思えない。 絶対プロが作った方がうまいだろ、と 思ってしまうから断ろうとしたのに。 そんなことを言われたら、 うまくいえないじゃないか。] (162) 2020/09/14(Mon) 13:07:45 |
【人】 環 由人[ 「いつも食ってるだろ」と言いそうに なった唇をそっとつぐんで、代わりに] わぁかったよ [ と了承して、申し込んだ。 メニューは3種類あるらしいが、 スタンダードにマルゲリータを選ぶ。 通された工房で教えてもらいながら 作るピッツァは案外たのしくて。 残念ながら回すのは全く出来なかったが、 麺棒で伸ばした生地がうまく 均等になったときは誇らしくもさえあった。 窯から銀が色の大きなヘラで 網ごと取り出されたときは、 思わず「おお」と声を上げたものだ。 香ばしい小麦の匂いと、トマト、バジル、 チーズのいい香りが混ざって、食欲をそそる。 もう一つ、特製のチーズが5種類 乗っているというピッツァも注文して、 席に着いた。] (163) 2020/09/14(Mon) 13:08:17 |
【人】 環 由人[ 大きめに切られた熱々のピッツァを 一切れ皿に移して、そのまま持ち上げて 口に入れると、まずは生地のざらつきと ほんのりとした甘さが広がる。 かぶり付くと、トマトの酸味とバジルの香り、 そしてチーズの旨味がまざって、 香ばしさが鼻から抜けた。] はふ、 あっふぃ、けど、んま、 [ 噛んだまま離すとびよーん、とチーズが伸びる。 はふはふ空気を取り込みながら、咀嚼して 飲み込むと、ふ、と息が漏れた。] (164) 2020/09/14(Mon) 13:08:42 |
【人】 環 由人焼きたて、うンまい [ そうしてもうひとくち、運ぶ。 プロが作ったものとは違うし、 きっとプロが作った方が美味いのだろうけど 自分で作ったものは愛着もわくし、 どこか特別な気がした。 ジンジャーエールがしゅわしゅわと 喉を潤してくれる。 一通り楽しんで、お土産にチーズを 自宅に送ってしまえば、 夜にでも食おう、とワインチェダーチーズを 一箱買って、車に乗り込んだ。] (165) 2020/09/14(Mon) 13:09:00 |
【人】 環 由人[ 次に向かうのは小樽。] わりと離れてるし寝てていいよ [ と断りを入れて、ナビに入れた、 芸術村までの道のりを走り始めた。]* (166) 2020/09/14(Mon) 13:09:18 |
【人】 環 由人なにそれ、バター? [ ピッツァを食べ終わった後、 店員さんに渡されたココットを受け取る 彼の手元をそっと覗き込む。 いつも見るものよりも空気を含んで すこし白い気のするそれと、 彼の顔を交互にみて。] 作ったの? [ と尋ねた。 是が返って来れば、「すげえ」と 小さく落として、口元を緩めた。 どこかでパンでも買うか、そういえば ここにも確か売っていたはず…と 思ったのだけれど、クール便の中に 入れるから、目を眇めてから頷いた。 「帰ってからの楽しみ、増えたな」と わらって、その蓋が閉じられるのを見ていた。] (181) 2020/09/14(Mon) 19:15:23 |
【人】 環 由人[ 次の場所へと向かうまで、 寝てていいよ、と気遣ったつもりなのに、 あっさりと断られて、「それより」と 切り出された話に耳を傾けた。 失礼なあだ名をつけられたといいながらも その表情と声色に滲むのは喜びで。 相槌を打ちながら、なんとなく、 自分まで嬉しくなってしまう。 伝染したのかもしれない。 マリィは子供に好かれると思ってた。 どう接していいかわからない、という 気持ちは己にもわかるけれど、 わからないなりにどうするか、という点で きっと彼と自分ではかなり差が出るだろう。] (182) 2020/09/14(Mon) 19:15:54 |
【人】 環 由人あんたは、面倒見いいから [ まっすぐ前を向いたまま、思い返す。 カウンターの向こう側に立って、 いつも誰かの癒しになっている人。] 楽しかったならよかった、 俺も結構楽しかったよ [ 本音を曝け出すこともできずに、 笑い飛ばそうとしてしまう不器用さ。 夜の公園でぼんやり、ひとりで 悩んでしまうような繊細さも、知ってる。] (183) 2020/09/14(Mon) 19:16:17 |
【人】 環 由人[ だけど家族の話も彼としたことはない。 さすがに、己の実家に住んでいるのだから 己の両親については話しているが、 そう思えば彼についてはなにも 知らないんだな、と思った。 ───あの、茶封筒の話も、結局。 だがそんなことを考えているとは 一切顔に出さないまま、車は走る。] (184) 2020/09/14(Mon) 19:16:33 |
【人】 環 由人[ ちなみに、家族にいいところを見せたい パパたちに混ざって真剣にピッツァを 作っている間そう広くない建物の中に 響き渡った声は、はっきりと、 とはいかずとも届いた。 間違いなく、ドスの効いたそれは 彼の声だったから、思わず ふは、と笑って、そのままくつくつ 肩を震わせて、ツボに入ってしまって 隣にいた参加者のひとに、 「どうしたんですか?」と困惑した 視線を向けられてしまった、 なんて話も続けてしてしまおうか。] (185) 2020/09/14(Mon) 19:17:06 |
【人】 環 由人[ 白銀をひた走る車体。 広くまっすぐな道のりは車通りも少ない。 この寒さだ、人もほとんどいない。 ときどき、前方にも後方にも車が見えず、 対向車も一台も通らない時間がある。 そんなとき、ふと考えるのだ。 もしも、今時が止まったら。 もしも、世界が二人だけなら。 こんな曖昧に乱れた思考は放棄して 今考えてることや感じてること、 曖昧にして気づかないようにしようと していることもすべて、吐き出して しまえたらいいのに、と。] (186) 2020/09/14(Mon) 19:17:38 |
【人】 環 由人[ だけど、時間が止まることはないし、 世界は二人だけではない。 だから結局口をつぐんで、 いえないまま、遠いどこかを見つめて。] (187) 2020/09/14(Mon) 19:18:08 |
【人】 環 由人そうだな、人少ないといいけど [ そう呟いて、走らせた車は、 しばらくあと、青い看板に沿って 小樽芸術村と書かれた施設へと入っていく。 思ったよりも移動に時間がかかってしまって、 そう長居はできそうになかった。 石造りの建物がそびえている。 青々とした芝生があるはずの場所は、 今は白く雪に塗り潰されていた。 昔は小豆を収める倉庫だったという それは、今は美しいステンドグラスを 展示する美術館になっている。 芸術村には三つの建物がある。 全てに入れるチケットも売っていたが、 すこし迷って、それから、 ひとまずステンドグラス美術館を見て、 それから時間がありそうなら他のを、 という話になった。 チケットを購入して、建物に向かう。] (188) 2020/09/14(Mon) 19:18:28 |
【人】 環 由人[ 一歩中に入ると、どこか荘厳な雰囲気で。 暗い室内に、美しいステンドグラスが 浮かび上がるように展示されていた。 実際に教会で展示されていたという それらが、この遠い東の異国にある 北の大地の小さな建物の中で、 美しく光り輝くだなんて、 誰が予想したのだろうか。 見事な芸術に、息を吐く。 そっと、彼の手を取った。] (189) 2020/09/14(Mon) 19:19:21 |
【人】 環 由人───……きれいだな [ 呟いてから、力を込める。 結婚式も行われるらしいこの場所に、 今、ふたりで立っている。 不思議な縁で、名前のない関係。 それに名付けるのが怖い。 踏み込むのが怖い。 失うくらいならば、進まないほうが 触れないほうが、閉じ込めたほうが、 きっと、そのほうがいいと思ってた。 開きかけた唇を、閉じて。 瞬きを数度かさねる。 息を吸った。] (190) 2020/09/14(Mon) 19:19:44 |
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